「純粋なマダムキラーって感じだなあ」
椅子の座高を上げたら驚くほど書きやすくなってびっくりしています。環境って大切ですね。
今出せそうなチラ裏設定が中々無く停滞してます(笑)
では第16回投稿です。
貸宿程度の大きさで自分の部屋がほしい、と思春期に入ったばかりの子供の用な事を考えながら露店を見て回る。
当然、といえばそうなのだがやはり武器防具装飾品に各種回復品。と戦闘の道具が大半でアマノ、というのは先程の陶芸売りの女主人の名前だが、彼女のように生活品を売っている店は少ない。
ポーション1つ取っても独自の味をつけたり、炭酸水を使用していたり、はたまた効果や定量減額での差別化が盛んに行われている。活気に満ちているのは個々に特色のある市場だからだろう。
ここ西大広場では装備が多く売られる特徴があるらしい。アネサンからの話だと北大広場は娯楽品といった所か。
「コルタクさん、今宜しいですか」
蜂蜜レモン、と銘打たれた解毒ポーションをちびちびと煽りながら休憩用に開けられている場所の木椅子、椅子だけが無造作に置かれて机の類いはない、に座っていると通信が飛んできた。
先のギルド職員からの連絡だったので通話に応じる。
「はいはい、もしもしコルタクです。大丈夫ですよ」
「ありがとうございます。依頼主の方と連絡が取れたので、面会わせは今からでも大丈夫ですか?」
「ええ、用もすんで暇になってた所ですし。場所はギルド館ですか?」
「いいえ、町の宿屋です。食堂でお願いしたいとのことで。いまから地図お送りします。近隣に宿屋や酒場が多くある地域なので迷わないよう気を付けてくださいね」
と、同時に標が付けられた地図が送られてきた。
赤い印の回りにも宿の名前やら店の名前が大量に表示されている。言われた通り小路地も多く迷いやすそうだ。気を付けなければ、とコルタクはすこし気を引き締める。
「閉店って札が出てるけど気にせず入ってきていいよ、との事です」
「ありがとうございます。なんとか行ってみます」
通話を切り、武器も買ったことだ、とそそくさと市場を去る。
ここに気になる匂いでも漂っていると、二、三度は振り返りつつ、惜しみ惜しみ立ち去るのだが、特にそんな事もなく、未練なく提示された場所まで早足で歩いていく。
「なるほどなるほど、ほうほう」
コルタクが意味もなく感心したような、どこか上の空な言葉を繰り返しながら路地を歩いている。たまにふらり、とどこかの店に吸い寄せられるようによろけるのは、周りが宿と飯の店に囲まれているからで、何も体調が悪くなっているわけではない。
むしろ良い事が原因、ともいえるかもしれない。
提示された場所は言われていた通り、そして地図にも描かれている通り、宿が密集している土地、つまり激戦区であり、周りが自分の店にお客を入れようと、厨房の匂いを煙突を通し路地に流している店が多い。
狭いわけでも無く人が七、八人は横に並べそうな路地で匂いが混じり溜まる事は無いので悪臭にはならないが、歩くたび変わっていく香ばしい匂いに釣られそうになってしまうのだ。
待ち合わせがある、という一点でコルタクは只管、店を目指してはいるが、匂いにへっこんだ腹を意識せずにはいられず、思わずさすり、魔物型の鯛焼きを店先で焼いている前に通りがかるや否や、たまらず走り出した。
「何があってそんな疲れ切ってんだい、あんた。」
食堂閉店中と掛けられた看板にも気づかぬ勢いで扉を押し開けたコルタクは倒れそうになりながら、膝に手を付き息を整える。
「いえ、ちょっと…その、煩悩と…」
「はぁ、あんた、アレかい。ウチの坊主どもの依頼受けてくれたって奴か」
ぶっきら棒に白い腰エプロンを付けた熊のような髭親父が見降ろしながら問うた事に、どうにか答えたコルタクは、漸く閉店と書かれていた看板があった事に気づき、体を起こす。
「えっと、ここ宿エルブラン、であってます?」
「ああ、あっとるよ。おーい!皿洗いとか、もういいぞ!」
テーブルの上に椅子が上げられている少し暗い食堂の奥、厨房で発っていた陶器のこすれる音がやんで、はいー、と間伸びした声が返ってきた。
似合わぬエプロンを付けた筋肉隆々の髭親父が手に持ったモップを適当に壁にもたれかけさせると、近くの上げていた椅子を下ろし始める。慌ててコルタクもそれを手伝う。
「すみません、お待たせしました。」
エプロンで手を拭きながら小走りで厨房から出てきたのは小、中学生くらいの男の子だった。
「それはこっちのセリフだよ。ごめんね、随分待たせちゃって」
「・・・?いえ、早かったですし、それにエルさんの手伝いしてましたから」
微妙に話がかみ合っていない様な微妙な空気が漂う二人だが、コルタクが苦行の末ここにたどり着いた、という事で時間感覚がずれてしまっているだけで、実際は走ってきているのでそんなに時間がかかっているわけではない。
「まいいだろ、お前がこいつの依頼受けてくれたんだろ?」
髭親父が腰に手を当ててコルタクに向き合う。
「はい、えっと、ソルトさんであってますか?」
「はいっ僕です!」
「んじゃ、俺は夜の仕込みするから、あとはお前らで話つけろよ」
「はい、エルさん、ありがとう」
一礼したソルトはコルタクに向き直る。
「じゃあ、その、座ってください」
語尾が少し上がりながらの催促に、じゃあ失礼します、と従い、椅子に座る。君も、とコルタクも促すと、少し安心したように表情を和らげる。
椅子に座ったソルトは、喉を潤す様につばを飲み込む。
「えっと、これ実はあんまり知られたくないんですけど…」
ソルトが慣れない様に視線をうろつかせながら、依頼の詳細を放し始めた。
「僕、“お肉食べたい女子だもの会”で、料理人やってて、…ほとんど無理やりなんですけど、えと、それで、依頼にも書いてた通り、やってもらいたいのは食料の調達、なんですけど、お肉だけじゃなくて香草とか調味料とか、あと野菜とか、そういった物を…その、一緒にじゃなくていいんで採って渡してもらえたら、と」
「うーん、どれくらいの量とか、これは出来るだけ多くとか、逆に少ししか要らないもの、とか細かく分かればやりやすいんだけど…」
「え、あ、そうですね。…えっと、出来るだけ多く?」
と、やりにくい返答が返ってきた。
顔には出さず心中で苦笑いを漏らす。どうも人馴れをしていないというか人見知りなのだろう、もしかしたら見た目通りの年齢なのかもしれない。
「んー、じゃあ、やっぱり出来るだけ一緒に行動した方がいいのかな。」
どうだろう?と問いかけようとした時、天井で大きな物音がした。階上で人が転んだような音が連続して起こり、暫く、食堂の扉が荒々しく押し開けられた。
「オ、オビト?どしたの…?」
思わず、と言ったように席を立ったソルトが息を切らしているその少年に駆け寄る。
鎧に身を包んだ姿だが兜は外している。あれで転んだのだと思うと、顔を顰めてしまうが、それでも乱入者に意識を向ける。
「いや、依頼受けてもらえたって…」
「うん、ほらえっとコルタクさん」
と指で差そうとして、指を開いて向けたソルトの手を辿ってオビトと呼ばれた少年はコルタクを見つける。
慌てた様子を見られたのが恥ずかしいのか、少し顔を赤らめながら後ろ頭を掻くと、すみません、と謝ってきた。ソルトよりしっかりしていそうな印象を受ける。
「いやいや、えっと、それで依頼の話なんだけど」
「はい、ひとまず、食料が大量に必要になっちゃったので採取を手伝ってほしいんです。出来れば今から外に出て必要な物を、その、教えるので、一週間の間に集めてほしいです。特にノルマとか決めてないですから片手間でもいいのでお願いします。ひとまず量があればあるだけ良い、って奴だけ教えますんで」
事前から決めていた様な語りに、おお、まとまっている。とコルタクは感心する。少し驚いたように顔を止めているコルタクをオビトは訝しげに見る。
「…なんで、この依頼受け取ったんですか?一週間もかかる上、報酬料理なんてふざけた内容なのに」
「あー、僕食べるの大好きなんだよね。美味しそうなもの食べれそうな予感がしたから。ってのが理由かな」
何故か少し敵意を見せるオビトに首を傾げながら笑って返す。ふざけたって何だよ、とソルトがオビトを睨んだが頭を押さえられて唸っている。
コルタクの答えを聴いても少しの間、睨みつけてきていたオビトに、どうしたの?と訊こうとしたところで、ソルトと話していた時のように、大きな音に遮られた。
ただ、物音とは違いその音はコルタクから、コルタクの体から、さらに言うとその胃が萎みきって出した音だった。
いわゆる、腹の虫である。
「…。」
額に手を当ててため息をついたオビトは、しかし、顔を上げた時には温和な笑みを浮かべていた。
安心した様に厨房へ向かっていき、何か食べられるものだして、と頼みに行ってくれた。
いきなり嫌われていた、と感じたのは何故だったのか、ソルトに訊こうとしても目が合うと困った様に首を傾げたので、彼にも分からない、という事だろう。
そういえば、とギルドの職員が言っていた事を思い出す。「かわいい子」だった。と言っていた。
成程、確かにかわいい、整っているし、弄ったような不自然さもない。黒目黒髪なのに顔立ちが西洋的、しかし違和感はない。全体的に軟らかい印象。丸い目に癖に浮いた髪。
しかし、何かちぐはぐな感じがする。
「純粋なマダムキラーって感じだなあ」
「何がですか?」
自分に言われた、とは気づいているのだろうが、自覚がないのか、そもそもマダムキラーという言葉自体死語になっていたりするのかもしれない。
「なんでもないよ」
手を振り、幼稚園児や登校した手の小学生に似たちぐはぐ感を探って、気づく。
「そのエプロン長くない?」
腰に巻いているエプロンが明らかに大きいのだ。
前掛け部分が身体の後ろまで回ってしまっているし、紐も長く垂れ、下端を踏みそうになるのだろう、縛っている部分から前掛け布を引っ張り上げ腹とエプロンの間に挟み込み、尺を合わせてる。
「これ、ですか?エルさんに貰ったんですけど。あ、エルさん、エルブランさん、てのはさっきの髭が凄いここのご主人で、僕たちを雇ってもらってるんです。」
ああ、と宿屋エルブランの名を思い出して納得する。この宿は彼の名前をそのまま付けたのだろう。
「たまにお店の手伝いして、部屋を貸してもらってるんです。ちょっとだけ給料もくれたりするんです。」
エルブラン、ここの主人はNPCだった。特に根拠はないが、分かる様に設定してあるらしくプレイヤーとNPCの見分けがつくのだ。この宿屋もNPCとプレイヤー、いい関係を持てている一例なのだろう。
「でも、オビトにはちゃんとしたサイズあげてるんですよね。」
「それは…、…大変だね」
困ったように言うソルトに、そういう趣味を持っているんじゃないか?と言ってしまいそうになる口を抑え込み、ごまかす。
「たまに給仕服作らないか、とかも言われるんですけど、そんな迷惑かけられないですよね、」
経営厳しいって話なのに、とつづけられた言葉にコルタクはため息を吐く。
「…オビト君も大変だ。」
どうしたんですか?と問う声にひとまず、至った考えを放棄して保護者に同情する。
もしかして、それがらみで睨まれていたのかもしれない。とばっちりじゃないか、とコルタクは静かにエルブランの髭面に恨みを込めた。




