「へへ、毎度あり」
9月です。ちょっと涼しくなってきましたね。
思うように筆が進まなく更新ができませんでしたが、15回投稿です。
「それは、まあ、なんとも…」
そして数日後、コルタクは再び苦笑いを浮かべていた。
「笑えないんですよー」
目の前の彼は、女性恐怖症になったらあいつのせいだ。と疲労状態を和らげるという飲み物の入ったジョッキをテーブルに叩きつける。比較的小さな体躯で、澄んだ橙色の飲料をもう一度煽ると、ちぐはぐな感覚を受ける。
アルコールの類いではないのだが、酔ったように上体をテーブルに張り付かせ、力を抜ききっている。
「でもハーレム、じゃないの?」
「ハーレムなんて2次元でももう沢山ですよ。女性達はそんな甘いもんじゃないんです。甘いもんが好きって訳でもないんですよ」
なぁ、と最近流行りの襦袢に羽織りを重ねただけの軽和装の少年は、隣の全身鎧に身を包んだ同じく少年に同意を求める。
こちらの少年は全面の兜を脱いでいないと少年とは分からないほど体が大きい。 顔も幼さが抜けてきている。
「お肉のための奴隷、だよね」
声をかけられた男の子はテーブルに伏している頭を宥め撫でながら苦笑する。
コルタクは呟きながら目の前の二人を見る。名前を打ちひしがれているのがソルト、鎧の慰めているのがオビトという、彼らも当然プレイヤーだ。
ーーーーー
コルタクはダイク達と別れたあと、カンセドの冒険者ギルドに訪れていた。
一先ず以来を受けてお金を稼ごうという腹積もりで、コルタクはギルド館に足を運んだのだが、カンセドのギルド館はビルギンスにあるものとは違い、目を引くようなものはない。
ただ円状の玄関ホールの壁にはびっしりと依頼書が貼り付けられていた。
ホールを抜けた向こうには鍛練場が見える。基本的な構造はあまり変わらないようだ。
壁の前にたちメニューを開き手頃な依頼を確認する。
広い町だからか、外に出る依頼よりも町中の依頼が多いようだ。猫の捜索やら引っ越し手伝いやら、があると思えば次の町サディアへの護衛や届け物、外に出ていくイライモ十分に多い。小鬼の情報提供願いなんて物もある。学士ギルドからの依頼だ。
他にも他ギルドからの依頼やプレイヤーの依頼も多い。
兎も角依頼の量が莫大なのだ。
「食料調達…?報酬が料理の振舞い…?」
報酬が不確かで、恐らくあまり受注しようとする人はいないだろうその依頼にコルタクはふと目を留めた。特に期間一週間、という拘束時間だ。食糧調達の手伝い、とあるが、ゲームにいる時間は出来るだけ手伝ってほしい。とも書いている。
ほぼ一週間自分の行動が制限されるという事だろう。物好きでもない限り、受けようと思わない。
突然であるが、コルタクの食べ歩きは勘頼りだ。
ふらり、と出掛けては気になった路地に入り、適当な店を見つけて入る。
当たり外れが多い様な探し方だが、それでも好みの味に行き付くことが殆どだ。コルタク自身不思議に思っているのだが、何も考えない方が美味しい店にたどり着くのだ。
ふと目に留まっただけではあるが、留まった事自体がコルタクにとっては重要でそれも食べ物関連、という事ならば無視できるものではない。
「あの、この依頼任務受けたいんですが」
ビルギンスでは一人だった受付も人が多いと自然増えて5人もが受付で作業している。その一人に声を掛けて依頼を受諾する。
「ああ、この子達ね」
「知ってるんですか?」
受付の小太りのおばさんがコルタクが提示した依頼を確認すると、知っている風に声を漏らす。
「知ってるわよ、可愛い子だったものねえ将来有望だわあ」
頬を綻ばせてどこか夢見がちに言う女性に、コルタクは苦笑する。美女美男なら老若男女プレイヤー自身が設定して溢れかえっているのがネットゲームの常だ。
それでも褒めるという事は相当洗練されているという事か、顔形を気にしないコルタクにも興味がわく。
「まあ、なんだか切羽詰ってたみたいだから、ちゃんと手伝ってあげてね?」
「それは、もちろん」
受けるならきちんと遣り遂げなければいけない。
「互いの時間が合う時にこちらから連絡するから、それまで待っててね。今はコッチに来てないみたいだから」
依頼受諾の報告はギルド側が行い仲立ちもするらしく、しばらく自由時間ということだ。
それなら武器屋でも覗こうか、とコルタクはギルド前に出て伸びをしながら考える。ちびちびと、ではあるが上がる身体能力に初めに買ったきりの装備も心許なくなってきている時分だ。
「市でも見に行こうっかな。大広場で毎日やってるみたいだし」
アネサンからの情報を頼りに武器の露店もあるだろうと推測し、足を向かわせる。大通りに沿って行けば四ついずれかの広場につくだろう。と気ままに歩き始めた。
ーーーーー
街通りは人の往来が多く、ビルギンスのように路上に店を開いている人はいない。露店はすべて広場で開かれているらしい。
通りであればそこかしこで露店があったビルギンスとは違い土地が多いのが要因だろう。黒大鹿の件で初期の街であるにも関わらず人が多いの原因の一つかもしれない。
通りを抜けて大広場に着くと、正円の空間に露店が所狭しと並んでいる。それでも自然と列を為して並んでいるのは、プレイヤー同士の協調性が表に出ているのだろうか、もしくは誰か整理を担っている人物がいるのかもしれない。
露天の種類も様々で薄い皮絨毯を敷いただけの簡易的なものから背に釜戸や金床に置かれたテント付きの露店まである。
「なにか、合いそうな武器あるかな」
コルタクは呟きつつ露店を冷かしていく。
特に剣に拘るわけでも無い。ビルギンスの店の主人が言っていたように、その武器をずっと使い続ける必要もないのだ。現にダイクは剣から戦鎚へと持ち替えている。それに、コルタクのようにまだ能力もあまり成長していない時期の方が武器の取り換えが効く。
ふと冷かしていた足を止め、露店の前で立ち止まる。
「お、おっちゃんいらっしゃい?」
立ち止まったコルタクへ気さくに話しかけてきた店の主人が、こういうの好き?と聞いてきた。
その敷物を引いた上に商品を置き、余った場所に胡坐をかいているフリーマーケットのような型の露店に並べられているのは、カップやらお皿、と言った陶芸品だ。
「うん、まあ好きかなあ」
と、コルタクは気になったカップを手に取る。
くすんだ水色に口のあたりに二本鮮やかな黄檗色の線が入れられただけのシンプルな装いだが、その二色の対比がかわいらしく、綺麗だ。
「でも、家持ってないからねえ、なかなか手が出せないんだよね」
「ああ、そうだね。飲食店やってるとかそんなんじゃないと食器なんてそうそう使わないわな」
おかげさまで閑古鳥が鳴きやまないよ。と肩を竦める女主人。しかしそれでも満足している、と言った口調だ。倉庫にコレクションするって手もあるけどね。と彼女が言う。
「というか、凄い大胆な格好だね」
コルタクが堪らず、という風に言う。
彼女は褐色の肌にボサボサの赤毛を頭の上で纏めただけ。その無精ぶりに良く似合っているサラシを巻いただけの上身に短パンに腰布を巻いた。という露出の高さだ。それ以外腰布と短パンの上からベルトに革のポシェットを提げているだけ。腰布のせいでミニスカで穿いているのか、という錯覚まで覚えそうだ。
「いやあ、上半身裸で闊歩するのも珍しくないからね、私もこれくらいってね」
「露出狂みたいな言い分だね」
「何言ってんの、かっこいいでしょ?」
そう言い自慢げに胸を張る、少し衰えは見せるといっても働き盛りの男としては目のやり場に困る、女主人の姿は確かに様になっている。そうであるのが自然に映る。
「でも、見てる方が恥ずかしいよ?」
「さっき目逸らしてたもんね」
からかう様に笑う彼女にコルタクはため息を吐く。目を合わせて少し声を低くして小さく言う。
「あんまりからかうと後が怖いよ?」
「そりゃないよ、優しい顔してるもん」
膝に肘ついて笑う。やっぱり駄目だったかと、苦い顔をする。それにそのカップ欲しそうに見つめるアンタが怖いとは思えない。と補足する。
「ま、でも確かにもしかしたら、怖いかもね。仕方ない、詫びで、どれか負けてあげよう。」
「お、いいの?」
「いいよいいよ、ついでに名前も教えてほしいかな。あんたとは仲良くしたいからね」
恥ずかしげも無く言う彼女の申し出を断る理由もなく頷いて、商品を眺める。
「じゃあ、これを」
コルタクは初めに目に留まった薄青のカップと同じ模様の茜色に白磁色の線の入ったカップを手に取った。
「あと僕はコルタク、申請送ればいいのかな」
「ハイよ。うん了承、おっけーだよ」
商品を受け取りコルタクは支払いを済ませる。
泥棒防止、として組み込まれているはずの商品の受け取りと支払いの一体化がされていないこのゲームでは商品を手に取ってお金の支払いをしなければいけない。
現実味を持たせたいからという理由らしいが、置き引き等も可能なシステムは賛否両論だ。被害届を出せば「警察」というレベル上限突破NPC集団による捜査が始まるので、不要と言えば不要なのかもしれないが。
「んん」
「どうかした?」
「最初買う気なかったのに、上手い事買わされたなあ、と」
ウィンドウのアイテムボックスに入った二つの食器を眺めてコルタクは呆れる。
「へへ、毎度あり」
してやったり、と聞こえそうな調子でウィンクを投げられた。
ーーーチラ裏設定9ーーー
設定というか、色の補足を、
黄檗色:淡い黄色 #fef263
茜色 :赤に灰色を混ぜたような色 #b7282e
白磁色:白に近い灰色、極めて薄い青とも #f8fbf8




