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90,教師は感謝する

祝90話!ハルドとラドが多めになり、ソラの影が薄くて心配になってます。

 テルを寮まで送り届けてから、ハルドは調合室で髪を梳かす。その近くにはリファラルから貰ったリンゴが2つだけ置いてある。その時、テルも果物をいくつか貰ってはしゃいでいたなとボーッと思い出す。

「演技とはいえ、わざわざ髪をボサボサにするのはやりすぎだぞ。」

「テルはあのくらいやらないと、すぐ不安になってしまうからね。リファラルさんの機転の良さに感謝しないと。」

ラドが装備品を身に着けながら肩をすくめると、ハルドの持っていた櫛がラドの顔に投げられて、サッと避ける。

「餌付けされて帰ってきたようだが、今後どうするんだ?手に余る生徒ではリティア様の護衛は向かない。」

「んー?テルは良い子だよ。リティと環境が似ているってだけ。本人から直接は聞いてないけど、行動を見ていれば何となく分かる。」

ハルドも少し遅れて着替えていく。先に終わったラドは、机に腰掛けてリンゴを掴んで手の中でこんがり焼いてからかぶりつく。

「あの生徒の手綱を握れるのか?」

「君の馬じゃないんだからその例えはやめろ。10年前のラドに似てるって言ったら…」

屈んで膝当てをつけながら話していると、ラドのリンゴが燃えながら落下してきて、

「まあ、怒るよね。」

クスッとハルドが笑うと、燃え上がるリンゴは暴風でラドの顔へと飛ばされ、ラドが慌てて鎮火させれば、黒い炭が砕けて床を汚した。

「掃除しておけよ。明日、テルが来て汚れていたら質問してくるだろうから、面倒事は避けてくれ。」

「喜ばせてやればいいのに。」

ハルドが指を動かせば、掃除用具入れが独りでに開き、箒とチリトリがラドの顔面めがけて飛ばされる。

「言い方が悪い!テルは愛情を求めてるだけ。まだあの子の心は幼いまま止まっているんだ。それに比べてリティは、祖父母と兄から愛情を受けて育ってきているから、その段階には留まっていない。」

更にラドの頭上にバケツと雑巾を落とせば、ラドは怪我をしないように全て手でキャッチしてから、軽く掃き掃除を始め、着替えが終わったハルドは生のリンゴを皮ごと齧る。

「人をよく見てる。それだから貴族令嬢達の見合い話が飛び込んでくるんだ。」

「…また、長老自らその話を持ってきたからね。本当に迷惑。」

灰をゴミ箱行きにしたラドは、掃除用具を戻し終わると焔龍号を何もない空間から取り出した。ハルドが二口食べたリンゴを投げれば、焔龍号を持っていない左手で受け取って焼いて食べつつ、

「適当に誰かと番いになれば良いだろ。」

「…お前は俺に再起不能にされたいのか?」

残った芯をゴミ箱へ捨てながら、ハルドの魔法で飛んできた飛龍牙を屈んで躱す。

「それは勘弁。久々の殴り合いで全く勝ち目がなかったからな。」

戻ってきた飛龍牙を構え直すハルドにため息をつきつつ、ラドが額に左手を当てて顔を横に振ると、

「お2人とも、お待たせしました。」

扉が静かに開いて、トレンチコートを羽織ったリファラルが入ってくる。ハルドはパッと飛龍牙を後ろに下げてから、笑顔で礼を言う。

「リファラルさん、先程はありがとうございました。手紙を頂けて助かりました。」

「いえいえ、テルさんにポケットに紙を仕舞うところを見られてしまいましたが、まあ紙がこちらに移動していたなんて分からないでしょう。こちらも忙しかったので助かりましたよ。」

目尻にシワを寄せるリファラルに、ハルドは再び頭を下げる。

「また逃げ出した時はよろしくお願い致します。」

「大丈夫だと思いますがね、その時はまた引き受けましょう。」

ハルドが窓ガラスを開けて誰よりも先に夜空へ飛び出し、

「では、今夜もよろしくお願い致します。」

白い歯をこぼして、噴水から旧校舎へと空間を移動した。


 日の光を全身に浴びながらうたた寝をするハルドの顔を覗き込む影。朦朧とした意識の中、ハルドはうっすらと瞳を開きたくても昨夜の傷が深かった為、自己治癒魔法をかけていて瞼は開かないようになっていた。

「無理するのは悪い癖だよ?よく直したほうが良いって言ったじゃない。」

女の声が耳に届くが聞き覚えはなかった。だが、相手はこちらを知っている?

「昨晩もお疲れ様。貴方達が魔獣を倒してくれるおかげで、私の行動範囲が広がるの。」

温度の感じない細い指のようなもので、髪の毛を触られ、

「お礼ぐらいはしないと…ね?」

目を閉じていても頭の後ろから眩しさを感じるほどの精霊の光を感じ、傷の箇所が熱を持ち始めた。その熱さから逃げようにも身体が自由に動かない。

「シャーヌの死期が近づいてきているからできるだけ早く」


コンコン


女の囁きを掻き消すノック音が耳に届き、

「ハルドせんせーい!こんにちは!」

元気なテルの声が聞こえてくる。起きなくては…しかし、魔法の効果はまだ続いているから瞼を開け…開いた。先程感じた身体の熱さもなく、傷口に触れても血が滲む感触も蝕まれる激痛も走らない。寝ぼけ眼を擦りながら辺りを見渡せば、テルがニコニコと笑顔を向けているだけで、女は居ない。

「おはよー、テル君。君が入ってきた時に誰か居た?」

「ううん、ハルド先生が寝てただけ!昼寝なんて羨ましい!」

テルは隣の椅子に腰を下ろし、頬杖をつきながら目をしょぼしょぼさせているハルドを眺めている。ハルドが、んーと背筋を伸ばせば欠伸を誘発して慌てて両手で口を押さえた。

「そうか、ありがとう。ちょっと疲れちゃってね。そうだ、ソラ君怒ってなかったかい?」

「怒っていたというより…心配したんだぞって泣かれた。」

欠伸が終わって目を合わせると、テルがニィと白い歯を見せてきた。

「とにかく無事で良かったよ…。」

ポンポンと頭に触れてやると、嬉しそうにテルの口元が緩んだが、

「そう、ソラがね。テルが変な空間で魔獣にでも襲われたんじゃないかって思ったって言われたんだけど、先生、どういうこと?」

「…え」

テルが急に真剣な眼差しを向けてきて、ハルドの瞳が揺れた。

「ソラって絵空事は言わない性格なんだ。だからさ、多分遭遇したことがあるんだろうなって。アギー君、セイリンさん、リティちゃんも遭遇したよね。」

口がぽかんと開くハルドを他所に、テルはどんどん思っていることを話し出し、

「教えてください、この学校内に何で魔獣が闊歩しているの?リティちゃんを助けたハルド先生とラド先生は、他の先生と違って戦闘出来るってことは、それも関係しているの?あと聖女ル」

「結構な質問攻めをするね!?」

なかなか止まらず、ハルドは何度も瞬きをしながらテルの話を遮ると、テルの口がきつく締まって目が泳ぐ。

「ゔ。」

「確かに学校に魔獣はいるけど、何故かと問われてもそれは分からない。そしてそれを倒してるのは俺達。元々は魔獣討伐で生計を立てていたから、他の教師よりは強いと思うよ。これで良い?」

「生徒達に被害が出ているってことは、先生が倒しきれないほど魔獣は居るんだよね?」

パッと話せそうな事を話して終わりにしようとしたハルドを追撃してくるテル。

「残念ながら。日々、君達が安心して授業を受けられるように努力しているよ。」

「先生の為に俺に出来ることは?囮とか?」

こめかみを掻いて軽く笑って見せて安心させようとすれば、テルは身を乗り出して迫ってくるが、

「テル君を囮にしません。まあ、でも気になることがあれば些細なことでも教えてくれると嬉しいよ。例えば、玄関の扉から覗く影が見えた気がするとか。」

そこはきっぱり断らせてもらう。その後に彼がやっても支障のない代替え案を出して、心に傷を負わないように注意を払うと、

「こわっ…」

「例えが悪かったか、ごめんね。それでわざわざ昼休みに何用で来たんだい?」

ブルッと身震いしたテルの顔が若干青ざめた。軽く謝りつつ、軽い口調で他の話題に変えてあげると、

「あ、その!昨日は探しに来てくれてありがとうございました。」

テルは頬を赤らめながら笑窪を作った。

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