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81,教師は共闘をする

 旧校舎に入れば、光体を各自で浮遊させる。リファラルを先頭とし、後ろへ控える2人は武器をいつでも扱えるようにと構えながら、音を立てずに歩く。今夜は廊下での戦闘にならなければ、魂喰いセイレーンの捜索をする予定だ。アギーもリティアも痣がまだ残っていて、今のところは異常行動を起こしていないが、だからといって油断はできない。階段を昇らず、中庭を中心に直線で四角形に結ばれている1階の通路を歩く。3人はここで分担しながら教室を一つ一つ確認して、教室の下方にある檻の向こうも覗いていく。檻の中身は出てこなければ、今すぐ脅威になるわけではないので、人数の少ない状態では戦闘を仕掛けることを抑えている。

「この通路には見当たりませんね、その角を曲がりますか。」

リファラルの提案に2人は静かに頷き、リファラルに止まってもらい、ラドが先に進むと壁に精霊文字が浮かび上がる。

「生贄にはより精霊に近しい者を」

「また書いてあるのですか…。これでは下手に進めませんね、下がられてください。」

「承知。」

文字を読み上げたラドは、リファラルの指示で定位置に戻る。

「さて、如何しましょうか。」

ふむと瞼を閉じるリファラルの後ろで、ラドは暗闇の奥を凝視する。ここ数回の調査で分かったことの中に、文字が浮かび上がった場所を進むと、大型魔獣の亜種に遭遇し、引き返すと遭遇しないということがある。どこに浮かび上がるか分からず、全て避けて動くと何も収穫がない。去年の調査ではなかった仕掛けで、リティアの入学と同時期に出現したものだ。

「私の推測ですけれども…」

ポツポツとリファラルが話し始める。2人は周囲の警戒に神経を尖らせながら、耳を傾ける。

「この仕掛けを解く鍵は、リティア嬢ちゃんなのではないでしょうか。」

「何故、そう思うのですか?」

ハルドより先にラドが聞き返すと、

「以前報告書にありましたルナ様のお言葉ですよ。」

リファラルは『今度こそ私の元へたどり着いてね』と言ったルナがやっていると言う。これに関してハルドの心がざわつき、今にも内なる飛龍が飛び出てきそうな衝動を感じ、声を抑えながら反論をする。

「リティは、ルナと名前の人とすら会ったことないとのことですし、その推測には違和感を感じます。」

「それだけならそうですが、リティア嬢ちゃんは赤ん坊のころ、こちらが見えていないものに笑いかけていたと聞いております。もしそれが、我々ですら感知できないような弱小で意志を持たない精霊を見えていたとするならば、如何でしょう?」

記憶を辿るようにまぶたを閉じながら話すリファラルに、ハルドは牙を剥きかけて、ずっと静かにしていたラドに頭を叩かれる。

「リティア様を生贄に捧げろと言うのですか?」

「これは老人の推測に過ぎません。それに本当に生贄として求められているのかは分かりませんよ。言葉の綾かもしれません。」

ラドの冷静な質問に、リファラルは顔を横に振り、少し落ち着いたハルドは深呼吸してからリファラルを見据える。

「もし、そうだったとしても。彼女をこんな危険な場所に連れてこられません。」

「他の可能性としては、リティア様を消したい魔法士の仕業かもしれませんね。」

心の荒波が静まったハルドに、わざわざラドが爆弾を投下してくる。ハルドが疾風の如く飛龍牙を振り下ろせば、ラドは涼し気な顔をして焔龍号で弾いて、ハルドと目を合わす。

「俺達が気がつかないような…3年前、騎士団と揉めていた時にでもやられたら分からない。」

勿論、ラドの言いたいことは分かる。以前は魔術士団がこの学校の調査をしていたが、たった1人、行方不明になった生徒を見つけられなかったため、ここを手中に収めて魔術騎士を育成したかった騎士団からこの調査を降りるように圧力をかけられ、劣勢になった魔術士団が泣きついてきて魔法士団が力尽くで騎士団を退けた。確かにその時に細工をされたら、俺達も分からないだろう。それでも、

「ああ、もう!リティだと決めつけたら事は簡単に思えるかもしれないけれど、それが真実かなんて分からないだろ!」

ハルドは大股でドカドカと、リファラルよりも前へと進み出ると、当たり前のようにラドもハルドの隣に並ぶ。

「何であっても一番隊にできることはたった1つ。」

ラドが珍しく口角を上げているように思える。焔龍号を振り上げると、ハルドがそれより先に飛龍牙を投げた。

「魔獣討伐だねー。」

長い付き合いだ。ラドに良いように煽られたことはハルドも理解した。

「死に急いではなりませんよ、リルド坊ちゃんもリティア嬢ちゃんも悲しまれます。」

避けるはずだった魔獣との戦闘に巻き込まれたリファラルは、ため息まじりにトレンチコートの共布のベルトを外し、内ポケットからスローイングナイフを取り出す。


アアアアア!!!


聞き覚えのある歌が響いて飛龍牙も手元に返ってくると、ラドの焔龍号が振り下ろされて膨張した火炎玉が飛ばされる。

《ビンゴだと嬉しいねー?》

ラドの返答を待たずに、まだ見えぬ魔獣へと火炎玉と共に並走しながら助走し、飛龍牙をもう一度繰り出すと、ハルドの背後から2本のナイフが緩やかな弧を描きながら飛龍牙の横をすり抜けて、火炎玉で照らされた通過の先にぼんやりと浮かび上がる白い物に突き刺さる。

「老いているからと言って、若者に遅れを取るつもりはございませんので、ご了承下さい。」

走ることなく、後ろから歩いてきていたリファラルの手には既にナイフが構えられていた。火炎玉の背後を飛んでいた飛龍牙が少し遅れて手元に戻ってくると、燃え上がって灰になりつつある白い蔓も引き連れてくる。

「いくぞ。」

ハルドの隣に並んできたラドが、再び発射した火炎玉に合わせて大風を纏った飛龍牙が飛ばされ、火炎玉を巻き込む炎の竜巻が発生する。ラドは竜巻に火炎玉をもう2つほど投げ、火力が増すとともにハルドの追い風が吹くと、移動していく炎の渦の明かりで竜巻と通路の隙間から相手を目視することができる。それは白い蔓が何重にも蜘蛛の巣を編むように絡み、通路を塞いでいて魂喰いセイレーンの向こう側を確認することが出来なかった。

「ああ…呼吸のあったあの2人と共に戦うことは面白いかもしれませんね。」

リファラルは後ろで呟きながら後方を警戒しつつ、ナイフを竜巻の中に投げ込んで、風の力で自在に空中を泳がせる。竜巻は徐々に速度を上げて、天井、壁、床に貼り付いた蔓をバリバリと剥がしながら火の粉を飛ばすと、竜巻に巻き込まれる前に蔓は燃え上がり、灰となった蔓は竜巻に飲まれていく。


アアァアアァア!!


歌に変化があった。剥がれなかった蔓の群れに竜巻がぶつかると、辺り一帯が勢いよく燃えがり、炎の奥から、口を結んだままの花弁の黒い影が苦しそうに首を振っていたが、竜巻の中で泳いでいたナイフによってその首を斬られて、黒い灰へと変わった。慎重に炎に近づくハルドの手に竜巻を起こしていた飛龍牙が戻ってくると大風が止み、ラドが炎に向けて左手を翳すと、一瞬で鎮火した。天井が黒く焦げて落ちるかと考えていたが、何事もなかったかのように綺麗な状態を保っている。魔獣の姿は見当たらず、通路に落ちたリファラルのナイフの傍に、真っ白な楕円の物が落ちている。

《魔石か?それにしては力を感じない…》

ハルドはそこへ屈んで拾い上げると、


赤ん坊の右手だった


ゾワッとして落としそうになったところを斜め後ろから差し出されたラドの手によって掬い上げられる。ハルドより少し大きい手の中で、コロンと赤ん坊の握り拳が転がった。

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