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46,少年は目を細める

 テルのみが、もぐもぐと食べながら聞いていた。カルファスの話を中断させるわけにはいかなかったソラは、拳に力を入れながら耐えていた。ディオンは、双子の様子を気にしつつも、カルファスの話が終わったところで質問をする。

「お話してくださりありがとうございました。質問させて頂きたいのですが、カルファス様達は、魔獣の歌に惑わされなかったのですか?また、意識を失っているアギーさんを先に押さえ、そして何故彼が動き始めようとしたのかということ、お話を聞いているとマーキングを見つけたり、炎の魔術のみを使用したりと、倒し慣れているように感じましたし、魔獣が倒れた時点でアギーさんの生存確認をしたのは何故ですか?」

ずらずらと質問事項を並べていくディオンに、カルファスは相槌を打ってから、

「ディオン殿は、流石だね。魔獣から逃げ切れただけのことはある。話を1回聞いただけでそれだけの疑問が浮かぶんだ。」

「あ、あの、それは…!」

カルファスがディオンを褒めると、ディオンにソラとテルの視線が突き刺さる。ディオンも慌てるように両手を前に突き出して、その話をやめてもらうよう頼んだ。

「ああ、ごめんね。けれど、王国団やその身内達の間でも結構有名な話だからね。では、質問に答えようか。」

顔色が悪くなるディオンを横目に、カルファスはキッシュを口に運び、確実に飲み込んでから改めて話し始めた。

「まず、このタイミングで魂喰いセイレーンは歌わない。理由は、捕食する寸前だったからだ。食べ物を食べるときに話しながらは行儀が悪い、ではなく、一瞬で飲み込む為に準備しているからだ。ああ、テル君、残っている料理もお食べよ。」

まだ取り分けられずに皿に盛ってあるバケットや唐揚げを勧めると、

「わぁ!いいんですか!ありがとうございます!ディッ君のご飯は絶品ですよね!!」

テルが喜んで口いっぱいに頬張ると、カルファスもディオンも優しい眼差しを彼に向ける。

「そうだね、これはセイリン姫が好まれるのも頷ける。無理にアクセントをつけていないし、味もしつこくなくて食べやすい。ああ、それで、アギー君って言ったね。彼を押さえた理由は、魂喰いセイレーンが身体を操って自分の食べやすい位置まで移動させられるからだよ。」

チキンをまた一口と口に運んでは、説明をしてくれるため、ソラもディオンをフォークを置いて話に耳を傾けている。

「魔獣によるけど、基本的にマーキングされるとまた狙われやすいし、魔獣の罠にかかりやすくなる。それが見える場合と見えない場合があるけど、魂喰いセイレーンは見える場合だった。額に痣が、目を凝らして見ないとわからないくらいにうっすらと浮かび上がるんだ。」

こういう感じの痣が…と、紙に書いて3人に見せる。それは魂喰いセイレーンの花弁の形をしていた。ソラもディオンも眉をひそめ、記憶を辿っていると、口の中身をなくしたテルが、

「ああ!確かにアギー君にありました!それ、どうしたの?ぶつけたの?って聞いたら、キョトンとされたんで、あれー?って思ったんです。」

ここらへんに!と自分の額をトントンと、指差すと、一瞬だけカルファスの目が大きく開かれ、

「凄い…、事前知識なくても違和感に気がつくなんて。」

「違和感て程でもないですよー!よく小さい頃にソラが指にマメができたり、手を切ってたりしているに隠していたから、何となく気がつくだけです!」

あはは!と豪快に笑いながら頭を軽く掻くテルに、ソラが指摘する。

「俺の怪我より、お前の怪我が凄かったじゃないか。もう少し自分の事を大事にしろよ。」

「ああ、俺は…ほら。」

笑っていたテルから突然に笑みが消え、

「大人達に殴られていただけだから。」

何かを諦めたかのような表情で、ソラと目を合わせた。その2人のやり取りを聞きながら、カルファスとディオンは静かにアイコンタクトを取る。

「素晴らしい洞察力を持っているテル君には是非、王国魔術士団への入団を検討してほしいよ!」

カルファスは、テーブルを挟んで座っているテルのフォークを持ったままの手を両手で包んだ。

「え!そんな!カルファス様、俺なんて!」

驚いたテルの声は裏返り、肩が上がる。

「いえいえ、是非騎士団に!今からでも一緒に鍛錬しましょうよ!」

「ふぇ!?ディッ君まで!なになに!?」

ディオンがその上がった肩に手を添えると、テルは口を開けたまま身体に触れている2人を交互に見る。カルファスは、自らに視線が戻ってきたことを確認してから話を戻す。

「こんな将来有望なテル君に更に勉強してもらうためにも説明を続けようかな。魂喰いセイレーンが植物と間違われやすいのは、元は植物からの派生であったからと言われている。それは他の植物から栄養を奪うから葉緑体を持っておらず白い蔦で絡みつき寄生する、ネナシカズラと言うんだよ。」

「そうなんですね。」

今度は食べることをやめて、しっかりと話を聞くテル。その姿にカルファスは目を細め、

「これは余談だけれど、魂喰いセイレーンの蔦から抽出される成分で惚れ薬が作れるらしい。」

立ち上がり、棚から小瓶を1つ取り出すとそこには、白い蔦が入っている。ガタンとテルが立ち上がり、目を輝かせた。

「お、俺も欲しいです!!」

「授業で使うものだからごめんね。」

カルファスは見せるだけ見せて棚に戻す。

「戦い慣れているからこそ、炎を選択したと言うべきかな。森の深部ではそれなりに遭遇しやすい魔獣なんだよ。魂喰いセイレーンに一度操られると、魔獣本体が倒れるときに捕食対象の魂は全て喰われるんだ。今までちびちびとやってきたのにね。だから、次は助からないかもしれない。」

その発言に、ソラとテルは、明らかに動揺を示し、ディオンも下唇を血が出るほど噛んだ。

「カルファス様、本当にありがとうございました。」

口に血を感じながらも、深く頭を下げるディオンに、カルファスは大丈夫だよーと軽く手を振る。

「事情は全てラド先生に伝えたし、後始末は先生達がやっただろうと思うよ。」

「そうか、ラド先生がハルド先生を呼びに来たのってそれだったのか…。」

ソラがそう呟いて1人納得すると、テルの顔も険しくなる。

「ほらほら、終わったことだ。今夜は医務室で休んでいるだろうから、明日にでも会いに行くと良い。」

カルファスは、思案の海に落ちかけたソラ達に声をかける。

「あ、すみません。…。」

「テル?」

ハッと顔を上げて謝ったテルの視線が壁の1点に釘付けになり、怪訝そうな顔のソラ。他の2人とそのテルの視線の先を見ると、そこには銀髪の少女の肖像画がかけてあった。フフッと笑みを溢すカルファスは、肖像画を壁から下ろしてテーブルに立てて3人が見やすいように配慮する。

「その子ってリティちゃんですか?」

テルは、身を乗り出してまじまじと少女の絵を眺め、ソラとディオンは、絵画として眺める。

「テル君、ご明察。これは5歳の誕生日に描かれたリティだよ。お人形みたいで可愛いでしょう。」

「失礼とは存じますが、何故カルファス様がお持ちなのですか?」

愛おしそうに絵を眺めるカルファスに、ディオンは慎重に探りを入れる。

「彼女の実家がこれを捨てる時に、頭を下げて頂戴したのさ。」

「生きている娘の肖像画を捨てるなんて…嘘だろっ?」

ソラの口から抱いた感情が溢れ、身を乗り出していたテルは何かを悟ったように瞼を閉じた。

「恋人のディオン殿は流石に気がついているでしょうよ?彼女はとても人の目を気にするし、視界に入らないように隅を通ることも多い。それは、幼少期の家庭環境にあるんだよ。」

カルファスは、目を細めながら額縁を優しく撫でて、押し殺した声で悲痛とも取れる言葉を続けた。

「幼い頃の私からしたら、心を奪った唯一の女性なのだけども…。」


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