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44,少年は謎を知る

 昨夜のように接続通路を歩く。ルナと名乗る少女は一体何だったのか、リティアに伝言を伝えれば分かるのかと期待していた自分がいたし、伝えられたリティアは明らかに困っていた。ソラは、噴水が真横に見える位置に差し掛かったところで、ぐるっと顔を動かして周囲を確認するが、先程来た通路と、帰る通路があるだけだ。それに少ないながらも他の生徒もまだ寮に帰宅途中で、この通路を歩いている。

《夢だったら本当に良かったんだけどね。》

ぼーっとルナの言葉を思い出す。ただの悪夢であってくれれば、起きれば全て元に戻るが、あの出来事は、

《それは現実だと思います。》

リティアの言葉も相まって、夢ではなかったと確信する。本人に詳しくは聞かなかったが、同じような目にあったことがあるのか。リティアには元々色々と聞きたいことがあるのだが、聞きに行くと基本的にテルに首根っこを押さえられるか、リティアがブルブルと子犬のように震えるか…思うように話はできていない。

「ねぇ、聞いた?植物園で男の子が倒れていたらしいよ?」

「そうなの?あんな辺鄙なところじゃなかなか見つからないじゃない。」

「あ、それ知ってる!あのカルファス様がピンク色の髪の子を抱きかかえて医務室に入っていくのを見たよ!」

「本当にお優しくて素敵な方よね。許嫁も居なきゃ、縁談も断っているって。」

ソラの耳に飛び込んできた会話は、上学年の女子たちだ。ピーチクパーチクと話しながら、横を通過する。その中の1人の声に聞き覚えがあり、目だけ動かして顔を確認する。炭のように黒い髪を三編みしている女子生徒が、楽しそうに輪の中で話している。昨夜のことを確認しに行くべきかと、その集団に近づこうとすると、こちらに気がついた彼女の方から向かってくる。ソラの顔がよく見えるところまで近づき、口元を片手で隠してクスクスと笑う。

「君の『お友達』は今回は助かったみたいだけど、次はどうなるか分からないから十二分に気をつけてね…?貴方含めて。」

昨夜のことを聞きたいはずだったのに、それ以外のことに気を取られるような発言をしてきた女子生徒に、ソラは一歩踏み出して捲し立てるような勢いで、

「どういう意味ですか!?ピンクの髪ってアギーですか!?彼は今どこに!何に気をつけれ」

「見かけによらず結構よく喋るんだね。…目をつけられる人間は何度でも追いかけられるんだよ。じゃあね。」

「目をつけられた人間…?」

質問に対する望む答えは返ってこず、更に謎を吹っかけられたソラの思考は忙しく駆け回る。大した返答も出来ず、彼女は集団と共に帰っていった。

「今回…?目をつけられる…?何にだ?」

眼球を忙しなく動かしながら、自分も帰路につく。ピンク色の髪を持つ男子はかなり目立つだけでなく、倒れていた場所が植物園で、あの女子生徒は俺の友人と言った。アギーであることは明らかだ。今回は…?次は助からない可能性があるということで、目をつけられたという発言からも何者かに狙われたと見るべきか。助けてくれたというカルファス様は、ソラ自体は面識のない相手だ。ノートはディオン経由で見させてもらえているが。ならば、ディオンに言って会わせでもらうべきか。昨夜のことを頭の隅に追いやって、今渡された謎を解かねば気がすまない。考えながらも寮の扉に手をかけると、紙袋を抱えたテルがロビーで座って待っていた。そこにはディオンも地図をいくつも開きながら座っている。テルに言いたいことは山のようにあったが、それは少し隅に避けておこう。速歩き大股で2人に急接近する。

「ディオン、テル、アギーを知らないか?」

今は学友を1人救うために。


 コンコンと上級生の寮室の扉を叩くディオン。

「夜分遅くに失礼します。ルーシェ家の従者ディオンと申します。カルファス様はご在宅でしょうか?」

扉も開かれず、扉の向こうにいるカルファスの従者に叱責を受けることになる。

「カルファス様は、もう休まれるお時間だ。このような時間に迷惑だと思わないのか!」

「申し訳ございません。しかし、本日私達の学友を助けてくださったようでどうしてもお礼がしたく…。」

ディオンはそれでもと食い下がる。故意的にテルに持たせたお礼として作った夜食は、とても良い香りを漂わせて辺り一面に充満しているため、部屋の中まで香りが入るとディオンは理解している。育ち盛りでもあるこの年齢の男子なら心が揺らいでもおかしくない。彼のような方がそれに乗ってくれるかはディオンでも分からないが。

「いいよ、ディオン殿。入っておいで。」

「しかし!」

カルファスからの許可に反対する従者の声。ソラとテルは扉を開けようとしたが、ディオンからの制止を受ける。

「マドン、セセリはもうおやすみ。彼とは個人的に交友があるから心配しないでくれ。」

カルファスの声で室内から扉が開き、カルファスへ頭を下げる従者達。他の貴族と異なり、魔術士貴族は、従えている相手も昔からの関係であることが多く、忠誠心も強い為、主の命令を素直に受け取る。ディオンは、ソラとテルに下がるよう促して従者2人に頭を下げた。釣られて双子も頭を下げる。

「どうぞ、ディオン殿とお二方。」

「失礼します。」

3人が部屋に入ると、通路に出た従者が扉を音を立てずに閉めた。カルファス専用の一人部屋は、備え付けの机以外に、部屋のサイズに合ったテーブルと椅子がセットされていて、棚もきっちりと壁にはまっている。ベッド側の壁には小さな女の子の肖像画が飾ってあった。今から出掛けるのかと思うほどにきっちりとした服を身にまとっているカルファスに、ディオンはテルから籠を貰い、前に差し出す。

「本日、私達の学友を助けてくださりありがとうございました。こちらは」

「ディオン殿の手作りかい?」

「え、はい。」

「あの、偏食なセイリン姫が嫌がらず召し上がるっていうディオン殿の料理が食べられるなんて滅多にないことだね。お皿はあの棚から出して。ああ、ここにいる人数分ね。」

失礼しますと、手近な取皿とカトラリーをテーブルの上に置いていくと、カルファスがテーブルの上のガラスポットを指さした。

「飲み物は水でいいかい?」

恐らくカルファスが持参した魔石台の上にガラスポットがあった。ディオンは、更にコップを拝借してテーブルに置いていく。一通り準備が終わったところで、ディオンが口を開いた。

「セイリン様の偏食がそんなに有名になってるとは思いませんでした…。」

「君の知らないところでやっているからね。2月くらいにフェリーナ姫が催したパーティーでも、勧められたものを一口のみ食べて断ったんだ。フェリーナ姫がかなり傷ついていたよ、セイリン姫に好意を向けているって噂は本当だったようで。」

カルファスは、立っている3人に椅子に腰掛けるよう促し、並べられた料理を眺める。ガーリックオイル漬けのグリルチキン、オニオンソースかけのサイコロステーキ、チキンとレタスを挟んだバケット、トマトとレンコンのキッシュ、骨付きチキン、タコの唐揚げとところ狭しに並べられた。ディオンの気遣いにより、全て一口サイズに切られている。

「…セイリン様とフェリーナ様は、元々味の好みが異なるので会食は難しいかと思ってはおりました。次にお会いしたときにでも謝罪します。」

「あ、あと、お2人は普通に仲良しなだけですので変な噂はご遠慮願います。」

何度も頭を下げるディオンを見て、カルファスは、口を隠しながらクスクスと笑う。

「今も校内で、セイリン姫とリティの関係が噂されるくらいには、他人との距離が近いからね。」

「そちらも」

「分かっているよ。リティもそういうの疎い子だからね。…ディオン殿、適当で良いから全員に取り分けてくれる?」

はい、今すぐに。と手際よく更に盛っていき、それが終わるともう一度座った。

「では、本題に入ろうか。」

そう言うとカルファスは、紙を取り出した。


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