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27,少年は勉学に励む

 ディオンは、夕食後に1人で自習をすることにしたのだが、寮内の自習室は既に満席だった。寮の扉の鍵が閉まるのは22時。それまでは、演習室や図書室を利用したり、自分の在席している教室で自習したりすることは可能である。図書室で席が空いてたらそこでやろう、だめなら教室だなと思いながら、まずは図書室に向かった。連絡通路から見える中庭の噴水は、夜空で普段とは異なる輝きを放つ。魔石外灯の明かりが水面に反射し、虹色の光を帯びる。セイリンがこういう美しさに興味を示せば、誘いたいと考えてしまう。残念ながら、水の利用方法などを考え始める彼女が容易に想像できた。連絡通路の終わりを曲がると、購買と職員室だ。購買の営業時間は、休日だけは午前中だけとなる。照明もついていない暗い購買に比べ、職員室は扉の隙間から光が漏れている。先生方は大変だなと思いつつ、階段を昇った。


 お目当ての図書室に辿り着き、扉が鳴らないようゆっくりと開く。全学年の男子生徒も女子生徒も使用している。本を棚から探す生徒、席に座って本を読む生徒、自習する生徒、皆がそれぞれのことをやっている。ディオンも、キョロキョロとしながら空いている席を探す。すると、ぎりぎり視界に入るか入らないくらいの右斜め前の遠目の席で、頭より上で手を振っている生徒がいる。鮮やかなブラッドオレンジの髪を一本に結い上げた生徒は、ソラだ。あれ、早めに休まれると言っていたのに…と首を傾げた。他の生徒の勉強の邪魔にならないように、出来るだけ後方を通りながら近づくと、ソラの右隣や、窓側の席がいくつか空いている。

「ソラ、教えてくださりありがとうございます。」

ディオンが椅子に手をかけると、少しだけソラは席をずらし足を入れる隙間を開ける。

「ん。」

目は本に向かったまま、頷くソラ。ディオンから見た感じ、読んでいる本の隣に『魔獣と遭遇したら』『治癒魔術入門』というタイトルの本が積まれている。ディオンも読む予定の本をバッグから数冊取り出し、メモ取り用にノートを開く。互いに言葉をかわすことなく、勉学に励む。このくらいの静かさが心地よいと思いながら、ハルドに言われた魔法と魔術の相違点を理解するために、まず現在の魔法士と魔術士の役割の違いを探す。王国団の仕事や、儀式における役割分担、どのような職業に多く就職しているのかなど、学校にある図書で探したものだ。読み進めれば、まず王国魔法士団より王国魔術士団の人数が格段に多く、魔法士は血筋が、魔術士は実績が物を言う世界のようだ。ディオンの知る限り、どちらにも属していない騎士団は実力主義だ。隊長や副隊長は、団内から推薦が多数あった後に、決闘する形で決まる。その団によってカラーが違う。ページをめくると、魔法士団は、環境に異変が発見された場合に、調査隊を編成して現場に向かい、その調査結果から、どの団を向かわせるか、または合同にするかを判断をすることまでを担うと記載がある。王国団に権力は対等であると言われているのは建前で、実際は魔法士団が1番力を持っているんだと理解する。欲しい情報とは多少ズレていたが、いずれ騎士団に入団するなら知っていても損はない。この仕組みを三角形の図にしてノートに記す。今思ったこともその図の近くに走り書きをした。すると、右から腕が伸びてきて、赤インクで付け足された。『魔法士団は、精霊が見えるという理由で、その種類や量を調査して、適材適所になるように派遣させる役割を担っているため、魔法士団に権力集中しているわけではない。』

「え…」

ぐっと右に振り向けば、コバルトブルーの前髪にヘアピンをつけたカルファス・フェルナードが書き足していたのだ。他の生徒に迷惑をかけないように耳打ちしてくる。

「セイリン姫のところのディオン殿、表面だけなぞっても本当の理解には程遠いよ。まあ、団長の代替わりによって、権力拮抗していることもあれば、1強のこともあるけど。基本的には対等だよ。」

伝え終えたカルファスは、伝えた内容を赤インクで更に書き足した。中級貴族様に耳打ちするわけにもいかないディオンは、小さく会釈しながら小声でお礼を言いながら、自分の考えを記した箇所にバツを入れる。

「カルファス様、ご丁寧にご教授ありがとうございます。」

「こんな内容の薄い本を読み漁るよりももう少し実用的なことやった方がいいよ。1年生の最初の期末テストは、生徒の半数は消えるほどに難しいからね。」

ほら、これ貸してあげるよと、1年生の時に使っていたであろうノートを1冊渡された。お礼を言いながらパラパラと開かせてもらうと、魔術士の歴史が、魔法士と庶民の軋轢からの魔術士体系確立、そして近年の魔法士と魔術士による魔術陣研究の進捗についてが、ぎっしりと書かれている。こんなに授業で詳しくやらないだろうと思えるほど細かくメモが取られている。相当勉強なさっているのだなと、ディオンは感動してノートを持っていた手が震えた。

「そ、そうなんですか…?」

「こんなことで嘘をついても仕方ないよ。2年生は入学当初は7組編成だったけど、今や4組まで減ったからね。今の君はこの学校で生き残る方が優先事項だよ。」

他のはまた今度貸すねと、言われれば断れないし、断りたくなかった。相手の目をしっかりと見つめて頷く。

「あ、ありがとうございます。こちらのノートは、友人達に見せても大丈夫でしょうか?」

「ああ、大切に扱ってくれるなら良いよ。自分も上学年に在席していた従兄弟からこうしてもらったからね。活用するといい。」

改めて、ノートを眺めさせてもらう。確かに歴史を勉強すれば、魔法と魔術の相違は分かりやすいかもしれない。早めに読ませて頂いて、他のメンバーにも伝えなくてはと考えた。読んでいた本を閉じて、早速読ませて頂き、気になる箇所は、自分のノートに書いていく。ディオンも軋轢に関する歴史は何となく知ってはいるが、詳しく知っているわけではない。


魔法士は、民に広く認知されるまでは、『神の力』とされていた。彼らは神の使者として崇められ、時の権力者になった。良き指導者といれば、勿論悪しき指導者もいて、幾つもの集団が対立していた。血を血で洗う戦場で幾度となく、森の深淵や、海底で眠っていた魔獣が人間を食い物にするようになる。対立どころではなくなった集団は、魔獣対策に追われた。魔獣と対峙する神の使者ばかりではなく、魔獣に力無き民を生贄として捧げる者も存在した。捧げモノが少なくなると、他の集団を侵略、略奪が横行するようになる。そこに現れたのが聖者リセ。隔たりなく民に彼が考案した魔術を伝授し、使うことのできた者を連れて、民を害する使者達を圧えて、忠誠を誓わせる。そうして、魔獣へと対抗していったのだ。この国の始まりでもある。リセが王になることはなく、他の者を玉座に座らせ、その右腕として使命を全うしたという。その一族は、現在でも必ず魔法士団の団長を務める。その魔法士一族は『サンニィール』という。


子ども用聖者リセの絵本はよく出回っているが、他の使者のことは描かれず、民が魔獣に怯えながら暮らしているところに天から降りてきた存在として扱われていた。この説明を読む限り、彼もまた使者と呼ばれ、集団内の権力者であり、混乱に乗じて他の集団を制圧したってことだ。これに関して、授業では、数行で説明が終わるほど簡単にしかやらなかった。隣のソラにも、読ませてあげようと思い、肩を叩こうと彼を見上げる。しかし、ソラの視線は本には向かっておらず、席が埋まるほどの生徒でごった返す中、扉の前で立ち尽くしていたリティアを見ていた。


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