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 吉田がGGを作ったのだと聞いて、加藤はあらゆることに合点がいった。先ほどから妙な質問をしていたが、学校を変えるなどといったことがいわゆるこの組織の理念なのだ。それに思えば、吉田や大塚に似た体格のやつが鬼の仮面をかぶって活動していた気もする。

 そしてそれはつまり加藤が今、敵の内部に侵入していることを意味している。期せずしてそんなことになってしまって加藤はおののく。自分はただ文芸部に入り、吉田の顔を見たいだけのつもりだったのに。

「そこで加藤君もさ、わたしの組織で活動しない? 一緒に学校を変えようよ」

 そんなことができるはずもない。加藤はたぬき仮面なのである。それが敵対組織に入団するなど、ありえない。

 さりとて断れるわけもない。もし断ったりすれば加藤個人に報復だったり恐喝がなされることだろう。少なくとも無事にここを出られると考えてはいけない。

 加藤が考えることができたのはここまでだった。もとよりバカの加藤である。機略縦横に動き回り、あらゆる人間をだまして正体を隠すなどできない。加藤にスパイの役はこなせない。

 加藤にとって幸いなのは、あまりにもバカだったので早くも頭がショートし、思考が停止したことである。そのおかげですぐに(なんか難しいことは知らん。とりあえず吉田さんのほうがあのたぬきジジイよりかわいいからそっちにつこう)と考えられたことである。おかげで加藤は下手な策を弄することをせず、策士策に溺れるといったことにならなかったのである。

「うん、入団するよ」

「よし、じゃあ今日から加藤はわたしの仲間だ!」

 吉田は言った。

「でも今日はまだ活動できないな。だってお面がないし。明日家から持ってきてあげるからそれつけてくれ。家に買いだめしてあるやつがあるから」

 加藤はうなずいた。

「あ、言うまでもないと思うがこの組織のことはだれにも言うなよ。わたしたちだけの秘密だ。万が一にも情報が流れたらまずいからな。特にあの、くそだぬき二匹にだけは情報流さないで」

「くそだぬき?」

「一人は校長」

 校長は確かに納得だ。あの丸いおなかはまさにたぬきのそれである。加藤はそれで笑いそうになる。

「もう一匹は間抜けなたぬきの仮面をかぶったたぬき仮面って呼ばれてるやつ」

 その言葉で加藤の顔が少しひきつる。

「あいつまじできしょい。なんでか知らねーけど毎回うちらの邪魔ばっかしやがって。なんなのあいつほんとに」

 吉田はプリプリしながら言う。

「そういうわけだから絶対誰にも言うなよ。わかった?」

 加藤はうなずく。

「じゃあ次はうちらの自己紹介するね。まずわたしから。わたしの名前は吉田美穂、GGの総帥やってる。じゃあ次大塚」

 そう呼ばれて太っていて眼鏡をかけた男が話始める。

「大塚圭太って言うんだ。一応言っておくけど、パンツ一丁になってたのはわけがあってやってただけで、露出趣味とかじゃないからね。誤解しないでね」

「大塚はパンツ一丁でいるときだけ、めっちゃ運がよくなる能力(?)みたいなのがあって、あとパンツ一丁のときだけ啓示みたいなのが聞こえるらしい」

 吉田が付け加える。

 パンツ一丁になると運がよくなるなど、ほかの人なら信じそうにもない話だが、加藤は疑うことをしない。自身、そういう能力があるからだ。むしろほかにも自分のようなヘンテコな能力をもつやつがいたのかと驚いている。

「ここにいる全員、大塚みたいに特殊な能力を持ってる。だからその、誰か一人が変とかそういうんじゃないから。加藤も含めてね。じゃ次、大塚から時計回りに紹介してって」

 大塚の左斜め前に座っている女子、ショートヘアで眼鏡をかけている人、が口を開く。

「川島裕子です、よろしくお願いします」

 川島というその女子は聞こえるかどうかといった小さな声でそうつぶやく。それっきり黙り込む。

 川島の隣にいる、ボブカットで丸顔の女子がもじもじしている。川島が何かいうと思って様子を見ているのだ。やがて川島が何も言わないのを見て取ってその女子は口を開く。

「あ、じゃあわたし、上村聡子です。よろしくお願いします」

 そう言って上村は頭を下げる。それに続いて、上村の隣にいる、ロングヘアで身長の高い女子が話し始める。

「泉田有希です。よろしくお願いします」

 泉田は小首をかしげるように頭を下げる。彼女のしぐさの一つ一つがかわいらしく、さぞ男からモテるのだろうと思わせる。

「よし、自己紹介終わったな。それじゃ加藤、もう帰っていいぞ。うちらは活動にいくからな」

「そういえば活動って何するの?」

 加藤は思い出したように尋ねる。

「あ、そういえば肝心なこと言ってなかった。あのね、今うちらあるでかい案件のために動いてるんだよね」

 加藤はでかい案件、という言葉を聞いて興味を持つ。それが校長に関係あることだということは、これまでのいたずらを見て知っている。しかし校長が何を抱えているのか。

「あいつ、学校中の生徒を盗撮してるんだよ」

「ええ!」

「びっくりしたでしょ? この学校に入った初めのころからなんか変だなーって思って、みんなで調べたんだけど、そしたらどうも生徒の盗撮写真みたいなのが学校中に出回ってるらしくて。で、その写真の売買を取り仕切ってるのが校長らしいのね」

「それ、犯罪じゃん」

「犯罪だよ。だから逮捕してもらおうと思ったんだけどさ、いくら調べても証拠が見つからなくて。ほら、写真を買った側も結局そういうのばれたくないからって何も言わないしさ」

 加藤もそこまで聞いてようやく話が見えてきた。

「で、警察に逮捕してもらうのは無理だからあいつを転勤させることにしたの、うちらは。嫌がらせとかしたり、評判下げたりして学校にいられなくするっていう。そしたら盗撮写真は出回らなくなるでしょ」

 その話が本当ならとんでもないことになる。加藤は犯罪者の片棒をかついでいたわけだ。十万円もらえるうえにどういうことが起こっているのかも知らなかったとはいえ。

 だが待てよ、証拠がないということは今聞かされていることはすべて憶測であるともいえるのではないか、と加藤は思う。調査の結果、間違った真相にいきついたということもありえなくはない。

 もっとも加藤にとって真相などどうでもいい。大事なのは吉田を支持すること、そして吉田を喜ばせることである。いたずらの末に校長が転勤しようが、加藤は痛くもかゆくもない。少し校長を哀れに思わないではないが、仕方ない。運が悪かったのだ。

「だからさ加藤、一緒に頑張って校長を追い出そうね!」

 加藤は勢いよくうなずいた。



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