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たぬき仮面

 体格の大きな男子高生が学校カバンを持って神社に入ってくる。加藤修一郎は学校の近所にある神社の裏に隠れると、ジャージに着替え、縁日で買ったたぬきのお面をかぶる。そして学校カバンを神社の建物の床下に隠す。

 それから加藤は自分の学校へと戻っていく。学校の生徒たちは部活にいそしむ時間であり、若干人が少なくなっているものの、それでも人の目にはつく。つい今もランニングをしている女子たちがヘンテコなものを見る目で彼を見つめる。そんなこんなで彼も今では学校中で「たぬき仮面」と呼ばれて恐れられ、面白がられている。

 加藤はテストでは0点をとり、バカゆえに彼女もいないやつだがこの行動にはちゃんと意味がある。たぬきの仮面は、彼の素顔を隠すためにかぶっているのだ。そして素顔を隠してやることは、校内の見回りである。素顔を知られれば、相手からの報復を受ける恐れがあるのだ。

 加藤は早くもトラブルを発見する。節分で使うような鬼の仮面をかぶった集団が、学校で使う灯油を管理する建物の壁にポスターをべたべた貼っている。

 彼らが貼っているポスターには、制服を着た太ったおじさんが板の上で阿波踊りをしていて、その板を大勢の高校生が支えている図が書いてある。そしてポスターの右上に太文字で「校長は生徒の上に立ってバカ踊りしている」と書かれている。

 そんなバカみたいなことをしている集団こそ、自称秘密結社、GG(グッドな学校生活実現委員会)である。加藤は彼らの活動を阻止するため、見回りをしていたのだ。

 そのうち、鬼の仮面をかぶっているうちの一人が加藤に気が付く。

「あ、来たぞ!」

 女子の声で鬼の仮面をかぶったやつが言う。その声でほかの鬼も慌てふためく。

「今日はやられないぞ! こっちだって秘密兵器を用意してるんだからな!」

 彼らのなかで一番ちっこいやつが女子の声で言う。高校生というより、小中学生と言ったほうが通るくらいの身長なので、声にいまいち迫力がない。

 太った鬼が筒状の入れ物から取り出したのは、竹刀だった。あんなもので防具なしでたたかれたら、もちろん痛いだろう。

 しかし加藤にも武器がある。加藤は懐からCDケースを取り出し、それを大きく掲げて見せる。それを見た鬼たちは全員動揺し始める。

「まさかそれを壊すつもりなのか?」

 太った鬼が男の声でそう言う。加藤はうなずく。CDにはエド。シーランの歌集”ディバイド”のタイトルが描かれている。エド・シーランは加藤の好きな歌手であり、その歌集が大切なものであることは言うまでもない。

 太った鬼が後ろを振り向く。いつのまにか、仲間の鬼は五メートルくらい後ろに下がっている。

「ちょ、なんで下がってんの?」

「危ないから」

「いやぼくだって怖いんだからさ」

 太った鬼がこちらに視線を戻す。加藤はCDケースを下に投げつけるそぶりを見せる。それを見て鬼たちは飛び上がって悲鳴あげ、脱兎のごとく逃げ出していく。あっという間に彼らは姿を消す。

 幸い、このケースの中にCDは入っていない。だから壊してもなんの意味もないのだが、彼らはうまいこと逃げてくれた。加藤はそれから学校中に貼られたポスターをはがしてまわり、全部はがし終えたと思ったところで神社に戻る。そこでまた制服に着替えて、帰る。

 加藤がこういうことを始めたのは、校長に頼まれたからだ。校長はGGが校長を困らせるようないろいろなことをしてくるので困っていた。そこで校長は加藤の才能に目を付け、加藤にこういう依頼をした。

「GGの活動を妨害してくれ。そうしたら、毎月十万円あげよう」

 十万円といえば、普通にバイトして稼ぐ額よりもはるかに高い。加藤はもちろん了承した。

 さてなぜ加藤に十万円を出してまで、そんな依頼をしたのかであるが、それは加藤の身体能力の高さにある。彼の身体能力はある条件下において、新体力テストで満点をとれるほど高まるのだ。

 そのある条件とは、自分の大切なものが失われたときである。その悲しみと怒りによって、加藤の隠された身体能力が引き出されるのである。

 ちなみに平常時は、生まれ持った怠惰な心とミジンコほどの小ささしかない自信のせいでピーク時の半分以下の力しか出ない。ピーク時の握力が八十キロなら、平常時は三十キロである。

 そんな彼だが、自分のこんな性質をかなり憎んでいる。どうして大切なものを壊さなければ力が出ないのか。理不尽である。バカみたいだ。そう思って何度もピーク時の力を何も壊さずに出そうとしたが無理だった。加藤は無益な努力を繰り返し、結果挫折した。

 確かに加藤には高い身体能力がある。しかしそれは大切なものを壊さないと手に入らない。大切なものを壊したくないから壊さない。ゆえに加藤は凡人のままだった。

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