竜神7
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――竜神7――
魔獣は皮を剥ぎ解体されると肉をブロックごとに切り分け消化器部分は子供たちが川に洗に行く。
それ以外の部位は塩を擦り込んで干す。
肉は細かく切られ塩水に漬けられる。その間に別の子供たちは燻蒸用のテントを用意を始める。
「燻製を作っておられるのか?」
「はい、これだけの肉をそう長くは置いては置けませんので」
「街に売ればそれなりの値段になるであろう」
「はい、加工して売れば生肉よりも高く買っていただけますから、これで子供たちの服を買ってあげられます」
周囲の村もあまり豊かでは無さそうだ。
「塩はずいぶん潤沢に有るようだな。」
「はい、クロアーンは海に面しておりますので製塩が盛んでしてこの国では塩に困ることはございません」
リリトは考える、クロアーンは農業国でしかも海を持つ、マリエンタールは鉄を持ち石炭が産出する。ニャゲーティアは川の水運に力を持ちドゥングは温泉と花街をもっている。
結局エルドレッドには軍隊しか無いのだ。この国が一つにまとまれば非常に豊かな国になりうる。
おそらくエルドレッドの国王自身もその事には気がついているのだろう。
問題はその手段に関してだが獅子族だけに力による統一と言う概念しか無いのかもしれない。
結局国民の幸せよりも政府の都合を優先したため竜に愛想をつかされる事になったのだろう。
因果応報とは良く言ったものだ。竜は皆孤独なのだ、愛想を振りまいて近づいてきても死ぬことの無い竜の前ではいずれメッキは剥がれるのである。
竜は決して特別を望んではいない、普通の人間との普通の会話と生活を求めるのだ。
社はその間を取り持つのが役目であったものがエルドレッドの宮司長は自らの利権の為にそれを利用していたのである。
竜はみんな子供のまま送り出され人の愛に恵まれた育ち方はしていない、そこがリリト達竜の嫁と異なるところである。
あくまでもニンゲンの都合で誕生させられ世界に放たれた竜なのである。
彼らは自分の無限の命を持て余しその強力な力故に孤独な生活を余儀なくされたのである。
「心配するな、私が貴様の魂を救ってやるわ」
リリトの周囲から見えない炎が吹き出していた。
それを感じた巫女と竜は少し引いていた様である。
((多分リリトは少し勘違している様な気がする))
きっとそう思っていたに違いない。
リリト達がお茶を飲んでいる時に子供達が駆け込んできた。
「大変だ、大変だ、山賊みたいな男がやってきて巫女さんに合わせろと言ってるよ」
「山賊?なんじゃそりゃ?」
「怪しい奴が来ているだか?そんじゃオラがちっとみてまいりますでのう」
解体をしていた熊族の男が血まみれのまま外に出ていく。
「ちょ、ちょっと待て。そのまま行くつもりか?」
「ああ、竜神様大丈夫だで、そのままお茶を飲んでてくだせえ」
男はそのまま行ってしまう。
「あれで大丈夫なのか?」
「ああ、ゲンタさんならどんな方で大丈夫ですよ」
巫女さんはニコニコ笑ってお茶を飲んでいる。
しばらくすると「がはははは」とどこかで聞いたような笑い声と共にゲンタが戻ってきた。
「リリト様~~~っ!」
その後ろから小さな兎族の娘がこちらに向かってポンポンと跳ねて来る。
「ご無事でしたか~~っ」
リリトに飛びつくとぎゅっと抱きしめる。
「サビーヌか~、お主も無事で良かった」
「黙って行かれてしまうのでもうお戻りにはならないかと思っておりました」
「すまなかった、お主を助けに行く途中でコイツに拉致されてな」
「ちわっ」
エルガラが片手を上げてニッコリと挨拶する。
「この竜神様は……エルドレッドの竜神様ではありませんね」
「おお、リリト殿はさっそく前の男に見切りを付けて新しい夫と世帯を持つことにしたようですな」
またこの馬鹿は余分な事を。
「誤解を招く発言をするな、コイツに拉致されて巣作りを手伝わされておったわ」
「おお、早速愛の巣作りですか、行動が早いですな」
ますます誤解を加速させるような事を言いおって。
「リリトさま嫌で御座います、サビーヌを捨てて他の竜と所帯を持つなんて」
サビーヌがリリトをぎゅっと抱きしめてくる。
……いかんな、どうも昼メロ的展開になっている。
「まあまあ、皆さんお茶でもどうぞ、積もるお話もございますでしょう」
巫女さんがにこやかに場を取り繕う。
………………………………
「成程、そう言った状況なのですか?」
何故か説明をしている間サビーヌがリリトにピッタリくっついて離れない、私らこんな関係だったかな?第一私はメスの竜なんだがな。
「是非セレン殿にはニャゲーティア領主を説得していただきたい」
ガウルが巫女にニャゲーティアの領主の和平会談出席の説得を依頼している。
どうやらリリトがいなくなった間に各地の巫女達が行動を起こしたらしい。
「ここは中央からかなり外れた町ですからニュースが遠くて状況はわかりませんでした」
ガウルもサビーヌも社と言う組織を知っている身としてはこれ程没落した社を見るのは初めでであった。
社としての本堂は痛みがひどく境内は孤児院の庭として使われていた。
元より人口流出により檀家が減ってきているこの町で孤児院を開いているのであるから社が貧しいのは当然で有ろう。
「はい、子供たちを食べさせていくだけで大変なので本堂を修理するお金が出ないのですよ、近所の農家の方たちのお手伝いだけが頼りでして、野菜やお芋の差し入れがとてもありがたい物なのです」
「領主は社に金を出さないのか?」
「いえ、多少の経費は出していますがやはり社は独立採算が原則なので孤児院の経費までは……」
「本山からのお布施は来ないのでしょうか?」
「以前は有りましたが様々な理由が御座いましてね、エルドレッドの竜神様の事も有りましてね、今は見捨てられております」
「成程な、既に社は腐っているのがわかって竜はこの国を見捨てたのか」
「リリト様その様な悲しいお言葉を賜れるとは」
「そうじゃリリト殿、社とて理想に生きておる宮司は数多くおる、決して絶望してはならん」
ウルウルとリリトを見上げるサビーヌ、と言うかサビーヌの方が背か高いので見降ろされている。
「いずれにせよ今は一触即発、ここはセレン殿のお力にすがるほかはありません、他の者はそれぞれ全力を尽くしておる事でありますれば」
戦争は多数決ではない4か国が戦争に反対していても一か国がやる気であれば戦争は起きる。
要は利害の調整である、お互いが許容できる範囲で妥協する線を探るのが外交である。
今回の騒動を利用してエルドレッドは支配権を確立したまま5か国を統一させようとしている。
しかし今回それに成功したとしても今の体制のが温存される訳で数年後必ず同じ危機が訪れるのは目に見えていた。
体制そのものを変えなくてはならん。
ニンゲンの中で知識を得てきたリリトがたどり着いた結論である。
それは単に今回の戦争を回避する事だけを考えた巫女達の思いとは異なっているかもしれない。
それでもまず5か国が和平のテーブルに着くことは画期的な事であると言えた。
「セレン殿、いかなる譲歩をしていただいてもかまわぬ、とにかくニャゲーティアを交渉のテーブルに乗せていただきたい。あとはドゥング領主であるリリト殿が何とか致します故」
ガウルの発言を聞いてリリトはびっくりする。
「おいっガウル!全部私に振るつもりか?」
「左様、この騒動は全てリリト殿がこの国に舞い降りたが所以の事態、最後の始末をつけるのもリリト殿の仕事でしょう」
コイツ、絶対に後でシバキ倒してやる。
「わかりました、モニクこちらにいらっしゃい。」
肉を処理している子供たちに呼び掛けると10歳くらいの兎族の女の子がオズオズと前に出て来た。
セレンはその少女を抱き寄せる。
「この娘は私の後を継いでこの社を続けてくれるそうです、この娘が少しでも孤児たちの面倒を見ていけるように私は力を尽くしたいと思っているのですよ」
「巫女様よろしくお願い致します」
サビーヌに向かって頭を下げるモニク。
「こちらこそよろしくお願いいたします」
サビーヌはリリトの頭を抱えて絶対に渡さないと言う顔をしながらにこやかに答える。
「なあサビーヌ,頭を撫でるのはやめてくれないか?」と言うリリトの訴えは無視された。
うん、女の戦いはかくも熾烈なものが有るのだ。
「私に出来るかどうかはわかりませんが力を尽くして領主を説得してみます」
セレンは今回の事を引き受けてくれる事になった。
実際の会議に向けては各社による様々な調整などの雑務が必要になるだろう。
ガウルには巫女セレンをニャンガの領主の所に送り届けた後にサビーヌをドゥングの社に届けてさせる事にした。ドロールが心配しているだろう。
「わかりました。それでリリト殿はどうされるので?」
「私はドゥングの領主だぞ、先にクロアーンに行ってクローネと合流することにしよう」
「うむ、それがよろしいでしょう。」
「それとガウル、お前は和平会議に必ず出ろよ、ドゥングの閣僚としてだ」
「ワシは閣僚になった覚えは無いのだが」
「今、私が任命した、逃げるなよ」
いささかガウルの目が泳ぐ、やっぱりコイツ逃げる気だったな。
「も、もちろん。リリト殿の為に全力を尽くそうではないか」
ふん、白々しい。
「サビーヌ殿、会議までガウル殿の面倒をお願いいたします」
「竜神様のお心のままに」
ガウルが逃げ出さないようにサビーヌに対して監視を命じておいた。
「リリト~、これからクロアーンに行くの~?」
「ああ、そうだうまく行けば私の秘書と合流出来るかもしれないからな」
「それじゃ巫女殿、よろしくお願いいたします、サビーヌ殿はくれぐれもガウルの面倒をよろしくたのむな」
「おまかせください」
優雅に頭を下げるサビーヌ、言うに言われぬ顔をするガウル。
竜が立ち上がると子供たちが寄ってくる。
「竜神様もう行っちゃうのですか?」
「また来てくれる?」
「うんまた来るよ、それまでみんな元気にしているんだよ~」
子供たちが手を振って見送ってくれる、良い子達であるそして良い竜である。
リリトはエルガラの背中に乗ってクロアーンを目指す。
「お主クロアーンに行ったことは有るのか?」
「まだ無いよ~、でも上空を飛んだことは有るからわかるよ~」
クロアーンはニャゲーティアの隣である竜の飛翔力をもってすればすぐである。
「海が見えてきたよ~」
海を見るのはリリトも初めてであった。
「大きな湾になっているようだな。」
街の上を一周してもらうと全体の様子がわかる。
港もかなり整備されており大きな帆船も何隻か見える。外洋航路を開いているのだろうか?
飛びながら社の有る場所を探す。
「あれが巣だね~」
街外れの小高い丘の上にそれらしい広場があったのでそこに降りて見る。
「これからどうするの~」
「上空を一周したからな、向こうも気がついているだろうからそのうち誰かが迎えに来るさ。」
竜の巣で寝転がっていると近所の人たちがやってきてリリト達を遠巻きにして手を合わせている。
「結構ボク達人気有るのかな~?」
「まあ元々は崇拝の対象だからな。マーリン村にも昼寝をする台を作ってもらう事になっているからきっと人が集まってくるさ」
「そうか~、たのしみだな~」
「子供にひげを引っ張られない様にな、寝がえり打って潰すんじゃないぞ」




