竜神3
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――竜神3――
「よし,わかった!とりあえず飯の用意だ」
食いかけの肉を放り出したリリトは現状の打破を考えていた。
「いいよ~っ、それじゃ魔獣を狩りに行こうか~?」
「その前に調理器具を作るぞ、ついてこい」
リリトは竜神を連れて川の方に飛んで行く。
川をさかのぼっていくと5メートル位の大岩が転がっているのに出会う、洪水の時に流れてきたのだろう。
あまり周囲が削れていないところを見るとまだ新しいのかも知れない。結構固い材質の石である。
岩の状態を見てみるが亀裂は無いように見えるのでこれにした。
亀裂の無い一枚岩でないと火であぶった時に割れてしまうのだ。
「この岩をどうするの?」
「持てるか?」
「うん、持てるよ~。」
エルガラは軽々と岩を持ち上げる。
「それじゃ岩を立てて中をこの位の大きさでくり抜くんだ」
リリトは自分の爪を岩に突き立ててくり抜く大きさを指示する。
「くり抜けばいいんだね~」
竜神は爪を使ってゴリゴリと岩を削り始める。さすがに竜の爪である固い岩をものともせずに削っていく。
それが終わると今度は蓋になる岩を探す、少し小さめの岩を半分に叩き割って薄くする。
両方とも巣に運ばせるとリリトを背中に乗せてふたりで狩りに出かけた。
小型の魔獣程度ではお腹は膨れないので大型魔獣を探す。
「お、いたぞ。あれでどうだ?」
「そうだね、ちょっと静かにしていてね~」
竜神は音もなく大型魔獣に近づくと足で押さえつけて首の骨を折る。
「あっけないな、大型魔獣はもっとしぶといと聞いていたが」
「失敗すると暴れるよ~、一撃で首を折れば静かになるよ~」
さすが竜神である、いとも簡単に大型魔獣をしとめる。
「これをどうするの~?」
獲物を持って巣に戻って来るとまず獲物をあおむけに寝かせて皮を剥ぐ。
首を切り落としなるべく皮を切らないように腹から切れ目を入れてまるっと皮をむく。
まあ刃物ではなく爪でやるからだいぶ汚くむけてしまったけどね。
その後内臓を引きずり出して剥いだ皮の上に乗せる。
「内臓はどうしてる?」
「ああ、いつもそのままかじっているよ、魔獣細胞が多いからね」
この野蛮人め。
「それじゃ先に内臓を料理するか?」
人間の頭ほどの石を先ほど作ってきた石のオーブンの下に敷き詰め上に内臓を置く。
石が赤くなる位ブレスを吹き込みその中に内臓を突っ込むと油がジュウジュウ音を立てて煙を上げる。
流石に大型魔獣の内臓は大きい、それだけでオーブンがいっぱいになる。
岩の蓋をしてその上からゆっくりとブレスを吹き付ける。
蓋の下から油がしたたり落ちてくる。30分程したら蓋を開けると出来上がり。
内臓は部位ごとに分けていないからぐったぐたである。
それでも火が通っているとぐっとおいしくなる。
ふたりで切り取りながらかぶりつく。
「う~ん、この生焼けのとこすごくおいしいね~っ」
内臓の油が流れ落ちて食べやすくなっているこれで塩が有れば上々だな、今度岩塩を探しに行ってみるか?
その時外で獣の吠え声が激しくなり。
「ワンワン!」
「ひえええええ~~~~っ」
ザザザッ
「バウッワウッ!」
「いやああああ~~~っ」
ゴツン!ガツン!
いきなり囲みの上から女の人が降ってきた。
周囲の柵から飛び出していた木の枝に引っかってジタバタしている。
「ありゃりゃ、社の巫女さんだよ」
エルガラが慌てて駆け寄ると巫女さんをそっと枝から降ろしてやる。
変な音がしたと思って外を見るとさっきの熊族のおっさんがにこやかに手を振っていてその横に獣がのびている。
「あんたの事を社の巫女さんに話したら会いたいと言うので連れて来ただで」
愛想良く笑う熊族の男、どうやらあのおっさんの護衛で巫女さんがやってきたようだ。
「それじゃ帰りはよろしく」
帰りは竜人が送っていけと言う事らしい。たしかにこんな場所じゃ兎族は危なくてやって来れないよな。
「こ、これは竜のお嫁様良くいらっしゃいました、私は社の巫女のメユール・アラベルと申します」
特有の巫女服を着た女性がぺこりとリリトに頭を下げる。
「これはご丁寧に竜族のリリトです」
ここの社の巫女らしい、まだ若い兎族の女性だ。
ドゥングの巫女の様にフェロモンを振りまいてはいない、むしろものすごく普通に見える。
いや、娘のサビーヌは良い娘だよ少し変わってはいるが母親に比べればすごくいい娘だよ。
すぐに取り返しに行こうと思ったのだがいきなり大人の竜にかっさらわれてここに連れてこられてしまった。
「竜神様に来ていただいたのになんのお世話も出来なくて恐縮しております、何しろここは貧乏な村なものですから」
「気にしなくていいよ~、こんなに小さい村じゃ何にも出来ないだろうからね~」
「村か……どの位の人間が住んでいるんだ?」
「この麓には30程の村に小さな町がひとつですから全体で3000人くらいかしら?社の有るマーリン村はそれでも300人くらいはおります。この辺じゃ一番大きな村だけど」
それじゃとても竜の世話は出来ないよな~。
そもそも食い残しを周りに放り投げて肉食獣を集めている時点で人なんかやって来れないだろう。
熊族や獅子族であれば獣の方で逃げていくだろうが兎族では一人じゃ危なすぎる。
「アラベルさんはどこの社から派遣されて来たんだ?」
「ダルトゥースの町の社からです。ここから500キロ位離れています。20年前商人からの情報でこちらの村に竜神様が降臨されたとの話を伺いまして」
「社の人間は?」
「2人です、ホムスの町に本拠を置いてこちらは今の所出張所の様な形です。地元の檀家の方々の協力で何とかしたいのですがまだまだ……」
「わかるだろ~?あんまり無理を言っちゃ可哀そうなんだよ~」
「あ、あの竜のお嫁様、エルドレッドの方からの使いが来られまして、竜のお嫁様が降臨されたが竜神様が失踪してしまったのでとても寂しがっておられるとの連絡が有りました」
ふむ、だいぶ脚色されているようだ。
「わ、私どもは規模小さく十分に竜神様のお世話も出来ませんが竜のお嫁さんと共にエルドレッドの方に行かれてしまうのでしょうか?」
アラベルは必死の表情で尋ねて来る。
もしここで竜に去られてしまっては社は無論のこと村そのものの存続にもかかわるからだろう。
狩人が十分に育ってきていない今やはり魔獣による農業被害はかなり大きいらしい、農家が罠を仕掛けたり柵で囲ったりしてはいるが被害は後を絶たない。
「お主はエルドレッドに行ってあいつの後釜に収まるつもりなのか?」
「う~ん、今の所そんな考えは無いけど~。ここはな~んにも無いけどトラブルも無いからすごく住みやすいよ~」
コイツも結構獣人たちの権力争いの道具にされてうんざりしていたのかもしれないな、こんな何もない村の方が過ごしやすいと言うのもうなずけなくはない。
「さ、左様でございますか?それではお嫁さんと一緒にこちらに住んでいただけるのでしょうか?」
「私はエルドレッドの竜の所に嫁いできた竜なのだ。だからここにいるつもりはない」
リリトは冷たいと思いつつもそこははっきりさせておいた。
「左様で御座いますか~?」
巫女はものすごくがっかりした顔をしていた。
無理もない竜がいなければ社の存在価値も無いに等しいのだから。
「しかし数年の内に竜の嫁は必ず来るから心配するな、だからそれまでに嫁の受け入れ準備をするんだ」
「ほ、本当でございますか?」
ぱっと嬉しそうな笑みに変わる。この巫女はあまりにも感情が表面に現れすぎるとリリトは思った。
「そのためにはこの巣も多少は整備しないとならんな。あまり過大な要求をしても現実的では無いから出来るところからやってみよう」
「わ、わかりました村人たちに相談して見ます」
希望が見えるとかなり行動的になるみたいだ、結構素直な感じに好感が持てる。
「そういえばアラベルさんの社には通信機が有るのか?」
「ああ?はい。小さい社ですが竜神様がおられますので本山から送られてきました」
「つまりその本山もエルガラの存在を20年前から知っていると言う事だな?」
「さ、左様で御座いますが…それが何か?」
「それなら間違いなくここにも竜の嫁がやってくるよ。私の後輩に当たるから私は彼女に譲らなくてはならないだろう」
巫女の表情がぱっと明るくなる。
「あ、ありがとうございます、ありがとうごさいます。早速本山に報告いたします」
よほど嬉しいのだろう何度も頭を下げる。
ふとリリトは思い当たって続ける。
「いや待て、しばらくは私がここにいることは伏せておいて欲しい」
「は?何故で御座いましょう?」
「エルドレッドでは私を巡って今は揉め事が発生しているのだ、むしろ私がしばらくいないほうが事態が沈静化するかもしれない」
巫女にこの後のプランを説明してから社に送り届けると、とりあえず残りの肉を焼いて食ってしまう。
テコテコと巣の周囲を見て回ると社から巣に繋がる踏み分け道が見える。
こいつをベースに作ってみるか。
巣は社から50メートル位の高台にある。麓を回り込むように細い道が出来ていた。
「この道の斜面を削って道幅を広げる事にしよう」
幸いあまり斜面はきつくないので少し削ればすぐに道幅は広くなる。
「なんでそんな事をするの~?」
「あらゆる工事を行うのには道が不可欠なのだ」
「飛んでくれば簡単だよ~」
「空を飛べる獣人がいるとでも思っているのか?」
空を飛べる竜が一柱で仕事を行うのと馬が100頭で仕事を行うのとでどちらが効率的か言うまでもない。
とは言うものの竜の持つ仕事量は馬鹿に出来ない、大きな部分だけはコイツを使ってやったほうが効率的だろう。
そう考えて下地は我々で作り仕上げは農民達に任せることにした。
流石に大人の竜の爪は威力が有って簡単に斜面の土は削れていく、出た土は斜面の下に落とし邪魔な木は引っこ抜く。
それでもその日だけでで100メートル以上道が出来上がる。
「あ~っ疲れたね~っ」
巣に戻ってぐてっと横になる。今朝の残りの魔獣を温めて二人で夕食にする。
「しかしこんな事やってていいのかな、サビーヌは無事だろうか?」
「大丈夫だとおもうよ~っ、竜神にまつわる人間を害したらどうなるかみんな知っているし~」
獣人の中で500年生活してきた竜の言葉である、いささか怪しいと思いつつそれもそうだと思い直す。
多分今頃はニャゲーティアから戻っている筈だと思うことにした。
あの娘は儚そうにも見えるが親に似てかなりしたたかで強い所がある。
それよりは今は乗りかかった船である、後輩の竜の嫁の為に頑張ることにした。
登場人物
メユール・アラベル マーリン村の社の巫女 兎族
ゴンゾウ 社の下働き 熊族
マーリン村 成竜エルガラの住む村。




