狩猟軍2
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――狩猟軍2――
桟橋に降りると船頭はすぐに荷物を降ろし始めた。
すぐに荷役の人間が来て荷物を桟橋から運び出していく。
水運はこういった部分の荷役の効率化が重要なのだろう。
町を目の前に斜面が迫っており建物の間そこいら中が階段で奥に向かって続いていた。
「なんか道は全てが階段の様だな」
「大体こういった町は斜面の途中にある少し平らな部分に家を建てていきますからな残りは全部斜面ですな」
平らな部分は湖のごく近くの場所だけでそこには荷役の為の施設や倉庫が並んでいた。
町の中を用水路が流れており所々にある水汲み場からは水が噴き出していた。
石炭鉱山は山の中腹から坑道に入るようで沢山の獣人がトロッコを押している。
隣にはコークス炉が作られて煙を吐いていた。
炭鉱からコークス炉までが一つの流れの様で同じ敷地に作られている。
ジャマルで作ってもらった紹介状を見せると中に入れてくれた。
リリトもガウルの肩に乗って中に入る。
流石にジャマルでの経験はリリトの心を折ったようで大人しくガウルの肩につかまっている。
「ほう、そちらが竜の嫁御さんでございますか」
犬族の男が出て来る、現場の責任者らしい、紹介状にもリリトの事がしっかり書かれてあるのでトラブルも無い。
案内された炭鉱は意外なほどに整備され安全性なども確保されていた。
「アウグスト家では核戦争以前に使われていた炭鉱跡なので新しい坑道から掘り始めて行ったのですが、まあ設備が整ったのはここ数年でそれまではかなり危険な採掘がなされていましたけどね」
炭鉱はジャマルが出来る以前からアウグスト家の元で掘り続けられていたらしい。
それが高炉の成功で石炭の需要が増えたので整備が一気に進んだそうだ。
確かに街やその周囲の塀に関してはかなり古いものも少なくないように見えた。
「そういえば船も作っているんだよな、何故ジャマルで作らなかったんだろう?」
「ああ、やはり湖に面しているのが一番の要素らしいですよ。小型の船ならどこでも作れますけど大型船はやはりドッグが欲しいと言っていました」
やはり国が大型船を持てるのが誇らしいのか嬉しそうな顔をしていた。
コークス炉の横に出来上がったコークスが山の様に積まれていたがまだ熱を発している。
冷めた物から順に箱に詰めて運ぶらしい、要するにコンテナ積である。
コークスには専用の荷役場所がありそこで積み下ろしが行われる。
小型の人力クレーンが有りコンテナを小舟に降ろせば終わりである。
ジャマルでコークスを降ろしたら帰りはそのコンテナに様々な荷物を入れて戻るそうだ。
こういったシステムはラングが考えサブリが施設を作ったらしい。
実際あの二人は良い組み合わせだ。
逆に言うとマリエンタールのコンテナ船はコンテナに合わせた規格の船なのでニャゲーティアとは規格が違うらしい。
今のところはジャマルとラングだけの運行ではあるがいずれは全航路にこれは普及していくのだろう。
この炭鉱は比較的浅い場所に有るためにさほど技術的な問題は無い。
大きくなれば動力や換気の問題が大きくなってくるのでそれなりの規模が必要になるだろう。
うまく開発できれば国全土のエネルギーを賄う事も出来ると言っていた。
とは言えそれはせいぜいが数十年の話であり無限の寿命を持つ竜に取ってはあまり意味の有る期間ではない。
もちろんその間だけでも便利な生活をすることは悪い事ではない。
しかしその生活に慣れてそれ以外の生活を送れなくなれば人は生きてはいけなくなる。
資源が無くなれば、はいそれまでよである。
ニンゲンはごく狭い範囲で閉鎖した世界を実現したので絶滅を免れているが、実際の所後数千年たった後ではそれも確実ではない。
事実出生率は落ちていき人口の維持のために人口出産を余儀なくされているのである。
太陽と水と空気だけで生きていけなければこの後獣人たちの世界にも未来は無いだろう。
一部のニンゲンが宇宙に逃れたと言う。
彼らもまた地上に残ったニンゲンと同じ状況にいる事には変わりないだろうと思う。
頑張って子孫を残して欲しいと思うし文明と知識の火を灯し続けて欲しいとも思う。
幸い人間による文明の一部は獣人にも引き継がれ意味のない迷信は発生していない。
技術的には中世位まで退化してしまっている世界でも魔女狩りは行われてはいないのだ。
やはり竜の存在は大きいのだろう。
「神と呼ばれる程の存在が自分たちを守ってくれているという状況はそう言った迷信を払拭してくれているのだ」
そうガウルは言っていた。
炭鉱には季節労働者の宿が有りコークス炉の余熱を利用した風呂も常時は入れるそうである、混浴だけど。
早速行ってみると素晴らしいお風呂である。
ガウルがリリトに一緒に入ろうという。
私はメスだぞと抗議すると、まあまあと言いながら尻尾を持ってズルズルと風呂場に引きずり込まれた。
時間が早かったせいだろう風呂には人が入っていない。
入口の横にはシャワーが設けられ必ずここでシャワーを浴びる様にと書かれてあった。
まあ炭鉱から出てきた連中は真っ黒だからな。
ガウルが頭にタオルを乗せてぐったりとお湯の中に伸びている。
手足を伸ばしてお湯につかるのはとても気持ちが良いらしい。
リリトも同じ様に湯船のヘリに頭を乗せて体を伸ばしてみた。
残念ながらリリトにはそう言った感覚はだいぶ薄れてきている。
不死身の竜であるが故にその様な外部の状況の変化には鈍感なのである。
何しろ燃え盛る炎の中からパイロットを引きずり出せる程丈夫な竜の体を持っているのだ。
ガウルの体には至る所に古い傷跡が残っている。
それはこの男の半生がそれなりに過酷な物であった事を証明している。
今は孝行爺のような顔をしているが少し前までは鬼神のごとく思われていたのかもしれない。
「いや~~~っ、のびのび出来ますな~~~っ」
思いっきりくつろいで瓶から酒を飲んでいる。
お前いつの間に持ち込んだんだ?
脱衣所の方からがやがやと声がしてシャワーを浴びる音が聞こえる。
どうやら早上がりの者達が来たようである。
風呂に入ってきたのは獅子族と熊族の女衆であった。
「お、おいっ。ガウル!女が入ってきたぞ」
「何を言っとる混浴だからあたりまえではないか、第一お主も女の子ではないか」
そういわれると返す言葉も無い。
それにしてもなんだこの女衆は、全員180センチ以上の身長にムッチムチでボインボインのムッキムキではないか!
背中から見たらゼッタイ男と区別がつかないだろう!
女衆は先に入っていたガウルを見ても全く気にもしていない。
「よお、お仕事ご苦労さん。一杯やるかね?」
おいっ!悪目立ちするな!
女衆の目がガウルの横で風呂に浸かっているリリトの方を向く。
ザザザザッと女達がリリトを取り囲んだ、リリトの目に恐怖の色が浮かぶ。
スッポンポンだぞ。
爆乳の大女だぞ。
「おじさんこの子な~に?」
「おお、竜の子供だ可愛いじゃろう。」
………………………………
この裏切りものオオォォーーーッ!
男並みの大女にパッフンパッフン、モッフンモッフンされまくったリリトは吐き出された魂を浮かばせながら湯船に浮いていた。
その横ではガウルが女衆と一緒に酒を回し飲みしている。
以外とこの爺いモテるのだろうか?
この不良壮年が!!!
「それじゃ皆さんごゆっくり」
湯船に浮いていたリリトを肩に担ぐとガウルは風呂から上がって行った。
「あ~っ、死ぬかと思った」
「不死身の竜じゃぞ、めったに出来ん臨死体験が出来て良かったじゃろう」
「しかし獅子族と熊族の女は本当にすごいな~」
ぐったりとなったリリトはガウルのタオルで体を拭かれながらそう思う。
おいガウル、雑巾で体を拭くな。
「ワシがいつも顔を拭いた後洗っておるタオルなんじゃがな…」
ひっぱたく元気も無かった。
次の日帰ろうと支度をしていると変な噂を聞いた。
竜がこの近くに降りていた事があったらしい。
宿の女将に聞くとなんでも壁の外に少し平らな所が有ってそこに竜が降りて来ていたと言う事だ。
場所を聞いて行ってみる事にする。
街の一番高い場所に行ってみると5メートル位の壁に段が刻んである。
これは別にここだけではなくあちこちに作られている。
大型魔獣に襲われた時にここから登って町の中に逃げ込むのだ。
戦争から町を守る城壁ではないので出入りがしやすい様に出来ているのだ。
そこを登ってみると人が歩いた踏み分け道が残っている。
それに沿って歩いて行くと山の斜面にトウモロコシが植えてあった。
まだ実は生っていないが付近には蹄の後が散見される。
そこに熊族の女の子ふたりが登ってきた。
ガウル達を見て驚いた様子だったがすぐにリリトが竜であることに気が付いた様子である。
ふたりはこの町の生まれらしいが数年前に父親を炭鉱の事故で亡くしたらしい。
無論見舞金は出たが生まれたばかりの弟が小さくて母親は働くことが出来なかったそうだ。
そこでよく遊んでいたこの場所でトウモロコシを作って家計の足しにしようと思ったらしい。
雑草を刈ってトウモロコシを蒔くと順調に育っていく。
それを町で売ると小遣い程度の金にはなった。
ところが2年目からは実がなると魔獣に食べられるようになってしまったと言う。
それでも柵を作ったり罠を仕掛けたりして畑を続けていたらしい。
ところがある日突然頭の上から声が聞こえてきた。
「何をやっているのだ?」
ふたりの頭上から巨大な竜が二人を見下ろしていたのだ。
ここに畑を作った事が竜神様の怒りに触れたのかと思ったそうだ。
ふたりは平伏してここに畑を作らしてくださいと懇願したそうである。
竜は別に怒っていた訳では無くこんな場所に子供がふたりだけでいたので心配になって見に来たらしい。
この辺でもごくまれに大型魔獣を見かける場所だそうだ。
ふたりは少しでも家計の助けにしたいと話をしたらそれなら手伝おうと言ってくれた。
畑の近くに穴を掘りそこにウンコをして行った。
流石に女の子の前なので少し離れている様に言われたそうだ。
見にいったらものすごい臭いのウンコがこんもりと盛り上がっていた。
パッパッパッと土を掛けたらすぐに臭いは少なくなった。
それからは時々来てウンコをして回ってくれた。
土が盛り上がっているが人が落ちないように周囲に小枝で柵を作っておいたそうだ。
半年ほどしたらいつの間にかウンコをした辺りが平らになっている。
考えてみればあれだけ掘り返したんだから当然だろう。
そこにトウモロコシを植えたらびっくりするほど成長が早い。
雑草の生育も良いのでとにかく草刈りが大変だった。
でも心配なことが有った、実がなったら魔獣が来るだろう。
でも収穫前に竜が来て畑の周囲にオシッコをしていった。
すると魔獣は竜の臭いを恐れてやってこなかったそうだ。
おかげでその年は豊作になって家計もずいぶん助かったとの事である。
また来年も来ると言って竜は飛び去って行ったがそれを最後に来ることは無かった。
「あいつこんな所まで出張してきていたのか?」
「意外とマメな竜神ですな」
「そんな言い方しないで下さい、私達にはとても素晴らしい竜神様なのですから」
ふたりに怒られてしまった。
その竜はリリトの失踪した亭主なので探して引きずってくると言っておいた。
まあ弟も少し大きくなったので来年は母も炭鉱で働き始めるそうである。
じっとガウルがリリトの方を見ている。
「おい、ガウル!お前何を私の方を見ているのだ」
「いや別に、ただこのままではせっかくの実りが魔獣に食われてしまうと思ってな」
「わ、私に何をしろと言うのだ?」
「いや別に。さ、お前たち少し向こうに行っていような」
「ちょっと待て!何を考えている!」
ガウルはふたりを連れて行ってしまった。
後に残されたリリトは仕方なく畑の周りにオシッコをして回る羽目になった。
「くっそ~~~~っ、この恨み晴らさでおくべきか~~~っ!!!」
ガングにリリトの怨嗟の声が響いた。




