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狩猟軍1

1-036

 

――狩猟軍1――

 

 次の日に工場に現れたサブリはやたらとツヤツヤになっていた。

 

「お主見かけより若いのではないのか?」

「いや違いますよ日頃の不摂生がたたっているのです。」

 工房の人間にそう言われていたが本人もその結果を見て予想以上の効果が期待できると確信を持ったようだ。

 

 それからサブリは本格的に試作品を作って実験を繰り返す事になった、電気泳動法を理解しているので機械の試作も早い。

 電気泳動法の原理は簡単である溶媒の両端に電気をかけ、中間にフィルターを置くと物質によって浸透速度が違い必要な物だけが集まる場所で液体を集めれば良いのだ。

 魔獣細胞は普通の細胞よりずっと小さくしかもその特性上電気を掛けられるとイオン化するので非常に濃縮しやすい特性が有る。

 

 リリトの作ったものは試作だったので、かなりいい加減な造りのものであった。それにもかかわらず効果がはっきりわかる程に魔獣細胞を分離ができたのだ。

 水槽の中間に蛇腹に折った紙を入れその片側には食塩水を入れ片側にすりつぶした魔獣の肉のスープを入れる。

 両端に電気を掛けると水の側に魔獣細胞が流れ出してくるのだ。

 フィルターとなる紙の種類と電圧を変えいくつかのりの組み合わせを試すと方向性が見えてくる。

 

 この研究所の連中はそういった装置の開発に慣れているらしくいとも簡単にいくつもの装置を作ってしまう。

 その日の実験でで作られた魔獣スープは実験室にいた兎耳族が試飲する、翌日のツヤツヤ具合で効果の判定をする。

 恐ろしく原始的でいい加減な方法だが意外と効果の違いがはっきりする。

 ここの連中はどうも普段から思いっきり不摂生な生活をしているらしい。

 

 中でもサブリは飛び抜けてツヤツヤの具合が良い、普段がよっぽどひどい生活をしているのだろう?

 

 確かに効果は有るようだがやはり次の日には元にもどっている、これでは普通のスープを飲むのと大した差がない事になる。

 如何に濃度を上げて兎耳族が下痢を起こさないかを確認しなくてはならない。

 ドロール同様この爺さんも効果に疑問が無くなった途端に目の色が変わる。

 

 24時間掛けて濃縮した物を爺さんとサビーヌとクリーネの3人で飲んで見る。

 明日を楽しみにしてみんなでホテルに戻る。

 

「どうして魔獣細胞にはあんな効果が有るのでしょうか?」

 夕食の時にクローネがリリトに訪ねる、もっともな質問だが彼らには理解出来ないだろう。

 

 魔獣細胞とはウィルスの性質を持ったミトコンドリアの様な微小細胞である。

 独立した細胞で有りながら獣人の細胞内でのみ活動が出来る細胞なのだ。

 蛋白質と異なり消化されないのでお腹を壊すことも無いはずである。

 

 そして体内に吸収された魔獣細胞は細胞の中だけで活動を行い真空エネルギーを隊内に発生させ新陳代謝を促進する。

 魔獣が何を食っても成長出来るのはこの性質のおかげなのだ。

 その性質を組み込んで作られたのが獣人であり、魔獣を狩って魔獣細胞を求めるように魔獣器官は持たされなかった。

 そして獣人は自らの精神コントロールによって体外での空間の歪みを発生させる、それが魔法力として認識される効果を生み出すのだ。

 

 ニンゲンはこの工程をを人工的に作られた魔獣細胞内で活性化させエネルギーとし取り出している。

 人工的に作られた魔獣細胞は真空から無尽蔵のエネルギーを引き出して動力炉としている。

 生きている魔獣の中ではエネルギー変換だけでなく元素変換まで出来るようになる。

 超超小型の核融合炉の様なものだ。

 

 真空エネルギーと元素変換は実は表裏一体の物でありその原理は空間変異である。

 魔獣や獣人はその空間変異を人工的に生み出して体外にエネルギーとして出現させる。

 この現象によって生み出される空間のひずみが魔法の正体である。

 

 と説明したのだが爺さん以外はニコニコ笑って感心していただけである、絶対に理解していないな。

 爺さんだけは理解はしたかも知れないがそれだけだ本当のところはわからないだろう。

 

 開発期間中リリト達は近くのホテルに寝泊まりし毎日研究所での開発のアドバイスを行う事にした。

 アドバイスと言うのはあまり適格ではない、実際に原理を理解しているのは研究所の連中だからだ。

 むしろサビーヌとクリーネは国に戻ってからこの装置の再現が出来るようにと逐一実験の様子を観察していたのが実態である。

 

 ところが2,3日すると突然サブリの具合が悪くなった。聞いてみるとこの数日間まともに食事を取っていないらしい。

 スープがあれば食事はイランとか言っていたらしくスタッフ達に怒られて強制的に入院させられてしまった。

 

 ドゥングでは獣人の魔力の電気を使って作っていたがここには機械で作った電気が有る。

 無論電池の作り方もわかってはいるがこの世界ではそれが必要な状況はあまり無かったのである。

 むしろここのように専門の研究機関が存在する事のほうが異常だと言っても良い。

 

 おそらく鉄製品の販売で相当な収入が上げられるのだろう、それを使っての研究機関という事らしい。

 その点で領主であるラングの文明の復興と知識の保存に対する意欲は凄まじいものが有り、サブリという人間と巡り合ったことによりそれが現実のものとなったらしい。

 

 リリト達はこの後領主であるラングとの会見の予定が有る、ここでの成果を元に報酬の相談もしなくてはならないが案外意見は会うのではないだろうか?

 そうリリトは思っていたが会見の予定まではまだしばらくの余裕がある。

 

「ガングの石炭鉱山の様子も見てみたいな」

 そんな訳で高炉のエネルギー減となるガングの見学をしておこうと考えたのだ。

 

「ほう、何か面白いものでも見つけましたかな?」

「ああ、石炭と鉄鉱石がこのマリエンタールの経済の源泉だ、それに興味が出ない訳がなかろう」

「面白そうですな、石炭は水運にて運び込まれていると言う話ですからな、そちらにも興味が有るのでしょうな?」

 

「無論だ、民が豊かになれば我ら竜の暮らし向きも良くなると言うものだ」

「はいはい、それでは出かけますかな?」

 なんだか最近ガウルがリリトと出かけるのが楽しそうにしている様に見えるのは気のせいか?

 

「リリト様、私もご一緒させて下さいまし。」

 サビーヌがリリトに嘆願する、クリーネは自分が行くのは当然だとばかりに胸を突き出す。

 

「お二人にはここでの研究をしっかり学んで欲しい、成果をドゥングにそれを持ち帰らなくてはならないのだ、さもなければこのマリエンタールに研究成果を独占されることになるからな」

 サビーヌはすごく悲しそうな顔をしていたがクリーネは何も言わなかった。

 

 ガウルと二人でジャマルの港に来てみるとそこは河にはしけを取り付けた様なものではなく水路を整備した立派な港になっていた。

 河の名前はシュトラード河と言うそうで、川上にあるヨング湖ほとりに鉱山都市ガングは有ると言う。

 ただ河を上下する船は貨物船が主体なので外洋船の様な大きなものではなく大きめのヨット程度の船ばかりであった。

 

 たくさんの船が朝早くから荷物を満載にしてガングに向かって出発していく。

 なんでもガングは山の中なので畑が作れず食料はすべてジャマルから運び込んでいるらしい。

 石炭を運んで来て帰りには食料や日用品を運ぶそうだ。

 

 桟橋では麻袋に入れた石炭の袋を倉庫に運び込んでいて、空になった船に運搬用の麻袋の他に穀物や野菜を積んでいる。

 確かに石炭を片道通行で運ぶのでは効率が悪すぎる。

 

「午前中はガング向かって風が吹いてな、午後はジャマルに向かって風が吹くのでそれに乗って行くんだよ。」

 リリト達が乗り込んだ船の船頭が教えてくれる。

 小さな船はでも漕げるが石炭船はやはり重いので帆を使っているのだそうだ。

 

 川の水深は2~3メートル程あるそうだがこの水深では小型船と言う事になる。

 それでも数トンの運搬は可能だそうで陸路に比べれば格段の運搬能力がある、この船一隻でも荷馬車数台分の運搬量が有ると言う事だ。

 

 帆船の半分ははニャゲーティア製だそうで、ここの水運は思っていた以上に盛んなようである。

「最近ではマリエンタールでも造船に力を入れ始めてな、ガングに造船所を作っている。」

 石炭の輸送の為にジャマルとガングの水路を開いたのであるからマリエンタールも水運に乗り出すつもりらしい。

 

「ワシらはジャマルとガングの間の水運を行っているがニャゲーティアではクロアーンからジャマルまでの水運航路に力を入れていてなジャマルの食料の大半はクロアーンから来ているんだ。」

 ガングに行こうとするリリト達の船とは形の違う船が次々と川下からやってくる、あれがニャゲーティアの船だそうである。

 

 この川は川上にあるガングからジャマルを通りニャゲーティア、マリエンタール、そしてエルドレッドを通ってクロアーンにつながっているそうだ。

 まさにこの国を縦断する物流の大動脈である。

 ニャゲーティアは早くから帆船の研究を行い手漕ぎの船の市場を制圧して物流の主導権を握ったのである。

 

「なるほどな、それぞれの国がそれぞれの産業で一生懸命生きている訳だ」

 クロアーンは海にもつながっており水産と農業と製塩で成り立っている国らしい。

 

「製塩だと?」

「まあ塩は山から取るのが普通だがこの国は海が近いのでな、使われている塩はすべてクロアーン製なのだ」

 ジャマルからガングまでは思いの他近かった。

 馬車で行くと山道を半日かけて行くことになるが船であれば2時間ほどで着いてしまう。

 水路の開拓が無ければ石炭の運搬は出来なかっただろう。

 

 川の流れは緩やかで結構幅も広く多くの船が浮かんでいた。

 やがて川は周囲が山に囲まれているヨング湖に出る。

 周囲の山から流れ込む水が湖を作っているそうでこの先の川は狭く流れが急で水運には使えないらしい。

 

 穏やかな湖を進んでいくと遠くの方に大きな煙突が煙を吐くのが見える。

 なんでも石炭をコークス化する工場らしい。

 ここでも桟橋は大きく作られていて盛んに荷物を載せ替えていた、その隣にはかなり広い広場が作られている。

 

「年に何回かは大雨になるんでな、大雨の時は岸に船を引き上げて置くんだ。」

 そう言えばジャマルの港にも同じ様な施設があったな。

 

 鉱山と人の住む街は湖のほとりの斜面に作られていた。

 石を積んだ壁に囲まれたなだらかな斜面にへばりつくように家が並んでいる。

 ここは本当の城塞都市になっており、壁に囲まれた街は狭くてごちゃごちゃしていた。

 

「あれはなんだ?ずいぶん大きな船だな」

 湖の中ほどに煙を吐く大きな船が浮かんでいた、デッキが二階建てになり2階部分に操縦室が有る。

 あれは新造の蒸気船だと船頭が教えてくれる。

 

 小型船ではニャゲーティアに後れを取っているので大型船を作りたいらしい。

 既に出来上がった船が試験航行を行っているのだそうだが蒸気機関を装備し船尾に水車を付けた外輪船である。

 これもサブリのアイデアなのか?

 

「蒸気船か、水深が浅いのでスクリューを付けられないのだな」

 ジャバジャバと外輪が水を掻いてゆっくり進んでいく。

 

「スクリューとはなんじゃ?」

「水中で使用する推進用の羽だ既に失われてはいる技術だがそれ程難しいものではない」

 

 確かに大きいがリリトはふと違和感を覚える、この様な大きな船を作って物流にメリットが有るのだろうか?

 平床式の船体であるがここは川なので水深が浅い、見かけほどの積載量が取れるかどうか疑問である。

 

 桟橋に近付いていくとその横に石積みに囲まれた大きな場所が見える。

「あいつはなんだ?もしかしてあれが船のドッグか?」

「ああ、あそこが新たに作られた造船所だよ、あそこを走っている大型の運搬船を作ったん」


登場人物

 

マリエンタール エルドレッドの北側の国 犬耳族が多い

 

キャニス  マリエンタールの首都

 

ジャマル  マリエンタールの工業都市

 

カング  石炭鉱山

 


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