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ドゥング5

1-022

 

――ドゥング5――

 

「なんだお前らは、私になにか用か?」

 

 物怖じすること無くリリトは3人を睨み返す、実際無敵の竜の嫁である。

 ガウルは何をやっているやっとお前の出番が来たのだぞ。

 なぜかガウルは獅子族の男を見ながらニヤニヤしている……友達なのかな?

 

「いえいえ、竜神様に御用などとは恐れ多い」

 腰を曲げてリリトの上から見下ろす獅子族の男である、間違いなくこの男はリリトに喧嘩を売っている。

 

「それではそこをどいてもらおうか。」

 臆すること無くリリトは答える。この程度の男に負けることはない、無論ブレスや爪を使えばの話では有る。

 もっともそうなれば男が生き残れるかどうかは保証の限りではない。

 

「いえね、そこに突っ立っているロートルさんに用が有るんでさ」

「なんじゃ、ワシの事か?」

 ようやくガウルが前に出る。

 どこか嬉しそうである、コイツもバトルマニアなのか?

 

「こんなロートルじゃ竜神様をお守りするには役不足でやしょう。今でも竜神様の危機だというのに腰が抜けて出て来れやしやせんでしょう」

「貴様の知ったことではない」

 不愉快そうにリリトが睨むが、周囲にはすぐに人だかりが出来始める。

 

『見ろよ竜神様に喧嘩を売っている罰当たりがいるぞ』

 

『いやっ、あんな可愛い竜神様が困っていらっしゃるわ』

 

『何あの男?すごくいやらしそうな顔をしているわ』

 

『きっと彼女に振られて気が立ってるのよ』

 

『モテない男のやっかみよ、いや~ね~』

 

 周囲から女のひそひそ声が聞こえる、なんか散々な言われようである。

 

「いえいえ、こんなロートルより生きの良い護衛のほうが良くは有りやせんか?」

 周囲の声にいささか目が泳いでいる、冷たい視線を感じているのだろう。結構シャイなのかもしれない。

 

「竜神殿、この若者たちは自分たちを売り込みに来ているのですよ。ワシを倒せば名が上げられると思っているのではないですか?」

「爺さん話が早いじゃねえか」

 

「ふむ、ではどうする、ガウルよ手っ取り早くぶん殴るか?それとも私が燃やそうか?」

「いやいやいや、竜神様の手を煩わせちゃいけねえやな」

 若者は背中に有る槍を外すと横の犬耳族の男に渡す。リリトの発言に危機感を感じたらしい。

 

「お前さんは狩人じゃないな」

 その言葉にぎょっとしたような目を向ける。

 

「狩人の格好をしている割には槍の痛みが少なく剣の柄の痛みが激しい。お主対人戦の訓練を受けておる軍人じゃな」

 ガウルは剣を外すと腰紐を使って鞘とツバをくるくるっと結びつける。

 

「いやいや、俺はただの狩人のチンピラでさ」

 鞘を握り刀を返して腰を落としている。男の獲物は反りの有る両手持ちの長剣の様に見える。

 

「居抜きの構えか?それなら貴様に対人戦の何たるかを教えてやろうではないか」

 昔でいう居合の構えである、中身は見えないがおそらく片刃であろう。

 ガウルはその構えの意味を知っているのか刀身を肩に乗せ力を抜いている。

 

「へへへ、そうですかい?俺の名はグレイ、あんたの名前を教えてくれないか?」

「ワシに勝てたら教えてやろう」

「困ったな死んじまったら名前を聞けないのにな」

 腰だめでガウルに近づいて剣を抜こうとする獅子族の若者、こいつ本気で命のやり取りをするつもりか?

 

「やめんか!町中の抜刀はご法度だぞ!」

 

 リリトに怒鳴られた若者はフッと笑って構えを崩し刀を外すとガウルと同じ様に鞘と鍔を縛り付ける。

 どうやらこうなることは予定の行動なのだろう、相手を威嚇して精神的優位を取ろうとしたのである。

 周りの人間が下がって空き地を作る。

 そう言えばここが竜が昼寝をしていた広場だなとリリトは思った。

 

「貴様が勝とうが負けようがガウルの代わりになることはない、その事は良く心得ておけ。」

 リリトがビシッした声で告げる。

 この場を汚すようなこの馬鹿を雇うことなど有りえない、そもそもリリトに護衛など必要ないのだ。

 

「結構!コイツをやっつけた後でその話はしやしょうぜ」

 この時代に魔獣の狩人は一つの職業として成り立っていた。

 街の近郊に魔獣はかなりの数存在し農業の妨げになっていたからだ。

 そのために領地を預かる者は魔獣の肉や臓器の販路を確立させ狩猟で生活が成り立つようにしていたのだ。

 

 したがって農地を持たない人間の多くは狩人となり彼らはそれなりに生活が成り立っていた。

 そういう理由でほとんどの国では軍隊が成立せず対魔獣戦闘は出来ても対人戦闘を行うものは少なかった。

 なぜかこの若者は狩猟訓練ではなく対人戦闘訓練を行って来た者の様である。

 つまりガウルの言う通り軍人、または軍人崩れである。

 

 この男の言う通りただのチンピラであれば軍人崩れという事になるが。

 しかしこの近辺で軍人を雇える国が有るとすれば……。

 そこまで考えているといきなりグレイがガウルに斬りかかる。

 ガウルはわずかに後退し寸前で刀を交わす。

 

 グレイはそのまま踏み込んでおろした刀を振り上げる、袈裟斬りからの燕返しである。

 これまたわずかに横にずれるだけで刀の軌道をそらす。

 さすがに獅子族の力である普通の人間であればとても躱せるスピードではない。

 ガウルは刀を構えておらずまだ肩に乗せたままである、明らかにガウルはこの動きを見切っている。

 

 一方グレイの方はといえばガウルより小柄とは言え獅子族である。

 周囲を囲んでいる観衆や連れの犬耳族の連中と比べても頭一つ大きい。

 その獣人が鞘に収めて有るとは言え力任せに刀を振り回すのである、当たればやはりただでは済まない。

 

「いかんな?、その様な大ぶりでは動きが丸見えだぞ」

 ガウルは刀を肩から降ろすと右手に持ち直す、コイツ左利きだったかな?

 

「抜かせ!」

 グレイは同じ技を3度仕掛け3回とも外される。

 ガウルは未だに刀を右手に持ったままである。


 4回目に刀を切り下ろした時、それまでとは違い刀を跳ね上げずに横に払う。

 それまでと全く同じ動きであったので普通の人間では見切れなかったであろう。

 もし鞘がなければ両足首が切断されていただろう。否、鞘が有っても足首の骨折は免れない。

 

 ガツッと言う音がして刀が止まる。

 周囲は何が起きたのか全くわからなかっただろう。

 

 しかしガウルは眉一つ動かさず右手にもった刀を地面に突き立ててグレイの刀を止めていた。

 刀が当たったその瞬間にガウルは少し顔を歪めるがそのまま刀の柄をグレイの顎に突き上げる。

「ぐあっ!」

 顎を突き上げられたグレイはそのまま尻もちを付く。

 

「最初に見せ技を3度、それから変形技を出すのは一対一の道場剣術だ。おまえさん実戦経験は無いようだな」

「へっ、だがな手応えは有ったぜ、お前刀が折れただろう」

 グレイはニヤリと笑う。

 

「おや、わかってたか」

 ガウルは今度は刀を左手に持ち直す。

 

「今度は防げないぜ!」

 そう怒鳴るとグレイは刀を大きく振りかぶって突っ込んでくる。

 ガウルは前に出ると袈裟に切りかかってくる刀を防ぐ、グレイはそれを力で押し切って2の剣につなごうとした。

 

「アホか」

 体をすっと入れ替えるとはずみでグレイは前のめりになる。

 

 全くの前動作なしにガウルは踏み込むとグレイの鼻面に岩のような拳骨を打ち込んでいた。

 

「ふげっ!」

 吹っ飛ばされたグレイでは有るがさすがは獅子族である、頭を振りながら立ち上がってくる。

 

「相手が武器を失ったと思って無防備に突っ込んでくる馬鹿がおるか」

「くそっ、じじいと思って油断したぜ。しかし今度はそうはいかねえぞ」

「思ったよりタフのようじゃな」

 

 こう言った剣術に関してはガウルのほうが数段上の様にみえた。

 ガウルもまた人間相手の戦闘訓練を受けた者だと言うことである。

 

 グレイは刀を放り出して両手を体の前で合わせるとその手の間に火花が散り稲妻が走る。

「ほう、お主の魔法は電気を使いよるか」

「いかん、サビーヌ下がれ!」

 リリトが危険を察知して怒鳴る。

 

 ところが後ろを振り向くと既にサビーヌは遠くまで下がっていた。

 サビーヌだけでなく周囲にいた兎族は全て飛び上がってぴょんぴょんと逃げていく。

 

 噂には聞いていたが見事な逃げっぷりだ。

 

 グレイは両手を前に突き出し手のひらからガウルに向かって稲妻を放った。

「ほいっ!」

 ガウルが無造作に刀を前に放り出すと稲妻が刀に向かって吸い込まれていった。

 稲妻を浴びた刀が真っ黒焦げになって地面に落ちる。

 周囲にいた野次馬がそれを見てざざっと後退する。

 

「今度は逃がしゃしねえぞ」

 グレイが両手を上に掲げると一段と激しい稲妻が天に向かって吹き上がる。

 

「このアホが」

 そうつぶやくとガウルは大きく口を開ける。

 口の中が輝き光粒が吸い込まれていく、それを見たリリトは本能的な危機感を覚えた。

 

「この馬鹿、やめろ!」

「やめろ!それはいかん!」

 リリトが叫ぶと同時に誰かが叫んだ。

 

 しかし両者にその声は届いていないようだ。

 

 構わずリリトは行動に出る。

 ガウルの後ろから飛び上がるぐるっと一回転して頭に尻尾を叩きつける。

 ガウルがひっくり返ると今度はグレイに向かって飛びかかる。

 上空に吹き出していた稲妻が全てリリトに集中してリリトが炎に包まれた。

 

 炎の塊となったリリトはそのまま空中で向きを変えると垂直に回転してグレイの頭を捉える。

 モロに頭に当たった尻尾はグレイの意識を完全に刈り取ったようだ。

 

「ガウル!貴様何をやろうとした?」ガウルを振り返って怒鳴る。

 リリトはグレイの稲妻よりガウルの魔法の方に強い危険性を感じたのだ、それで先にガウルを殴る事にした。

 

「い、いや…その…」

 口ごもるガウル、相当ヤバイ物を撃とうとしたな。

 

「竜神様!大丈夫で御座いますか?」

 さすが兎族の巫女、相手が戦闘不能と判断したらすぐに駆けつける。

 まだリリト服は燃えており炎をまとった竜になっていた。

 物語の中の焔龍號えんりゅうはこんな感じかな?などと余分なことを考える。

 

「ええいくそっ!買ったばかりの服だぞ!」

 リリトは燃えている服をベリベリと剥がして脱ぎ捨てる。

 炎に包まれながらも体のことよりも燃えた服のことを気にする竜の嫁である。

 

「大丈夫じゃ、竜神様はこの程度は何でも無いんじゃ」

 ガウルが立ち上がると結構余裕でサビーヌに笑いかける。

 

『おお、流石は竜神様だ』

 

『炎の中でも全く意に介さない。真の竜神様じゃ』

 

 周囲から驚愕の声が聞こえる。

 リリトはまた伝説を作ってしまったようである。

 

 もっとも燃え盛るヘリの中からパイロットを引きずり出した竜の子である、この位はどうと言う事もない。

 しかしそんな話が広まったら竜神の神格が更に上がってしまうかもしれない。

 ガウルに口止めをしておかなくてはならんな、そう思うリリトである。

 

「貴様らはどうする?」

 ガウルが連れの犬耳族の方を向くとふたりは気圧された様に下がる。

 どうやら戦う気は無いようである。

 リリトの力で頭を撃ち抜かれたグレイは完全に白目をむいていた。

 

「死んでないかな?」

 いや普通は「生きているかな?」と聞くでしょう。

 

「どうですかな?」

 ガウルがグレイを蹴っ飛ばして仰向けにするとかろうじて息をしているのがわかった。

 犬耳族の二人が雑に扱われるグレイを見てすごく悲しそうな目をしていた。

 

「どうやら死んではいないようだな」

「まあ今のところはですがね。ときにそこの男、姿を表したらどうだ?」

 ガウルが怒鳴ると観衆の後から一人の男が姿を表す。やはり獅子族で周囲の獣人より頭一つ大きい。

 

「ふふふ、気づいておったか」

「あのなあレランド、獅子族が群衆の後ろに隠れるのは無理が有るぞ。」

 

 なぜか知らないがガウルが大きなため息をついていた。

 


登場人物

 

グレイ 獅子族の若者 エルドレッドの傭兵

 

レランド  獅子族ガウルの昔の知り合い 獅子族 42歳

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