ドゥング6
1-023
――ドゥング6――
「なに?コイツがこの男の黒幕なのか?野次馬の後ろにしゃがんで隠れたつもりでいたのか?」
リリトの言葉に一瞬ひるむ獅子族の男。
「我が隠遁の技術恐れ入っていただけただろうか竜神様?」
「いや、とっくにガウルに見切られていたであろうが。それに飛び上がったときにお前の尻尾が見えていたぞ」
「まあ、見破られてしまっては致し方がない。某はレランドと申します、お見知りおきを」
リリトの言葉全くを気にする事もなく挨拶を行うレランド、なかなかの大物ぶりである。
「いや名前を知ってもどうということもないが、それでどうしてこの連中を私に差し向けたのだ?」
「あのなあレランド、おまえうちを飛び出していたと思ったらどこかに就職していたのか」
ガウルがすごくいやな物を見たような顔をした。
「なんだ?お主の知り合いか。」
「いやあ、知り合いと言うか以前ワシの所で修行をしておりましてな、そこそこ腕は立つがいささかうぬぼれが強くて、結局転職すると言って出ていった奴だ」
「うぬぼれでは有りませんよ、私の実力がなかなか皆さんに伝わらないのでしてね、私の力をわかってくださる方を探して就職しただけですよ」
「ふん、どうやらエルドレッドに就職がかなったようだな」
「エルドレッド?いえ、私には関係なのい国ですが?」
ガウルの引っかけにも動揺することもなく答える、その事が逆にこの男の雇い主が誰であるか雄弁に示していた。
それにしても昔ガウルの元で修行をしていただと?ガウルは道場か何かでも経営をしていたのかな?
「エルドレッドと言えば失踪した竜の巣が有った所ではないか」
「おやよくご存知で、私も噂には聞いておりますが最近姿を見せないようですね」
「当たり前だ、その竜の嫁になりに来てやったら肝心の竜が失踪しておるではないか」
「やはり、振られたのでしょうか?」
リリトは上を向くといきなり炎を空高く吹き上げる。
炎から発せられる熱が人々の顔を焼き周りにいた人々は一斉に後ずさった。
中には腰を抜かして動けない人間もいる。
「今度言ったら燃やすぞ」
リリトは額にビキビキと音を立てながらレランドを睨みつける。
「ああああはは………も、申し訳有りません、つい軽口を申し上げました」
レランドの顔がかなり引きつっていた。
「貴様は失踪の原因をなにか知っておるのか?」
「残念ながらその事に関しましては情報が有りませんで、私もエルドレッドの人間ではありませんから……」
コイツの話し方を聞いているとまともに嘘だとわかるなー。
とにかくこいつらはリリトに対して喧嘩を売ってきたのだから当然その理由が何か有った筈である。
「それで?無意味にワシに喧嘩を売ったわけでもあるまい。どんな目論見だったんだ?」
「いえいえ、実はガウル殿が竜神様の護衛に付いているなどとは露知らずに」
「喧嘩ふっかけて竜神様をさらおうとでも思ったか?」
「いえいえ、とんでもない。ただ護衛の方の不甲斐なさを見れば愛想をつかして我が国に来られるかと思いまして、護衛を伸した後に説得するつもりでおりましたから」
我が国言うのはエルドレッドの事か?どうせ認めはしまい、こんな事が表ざたになればエルドレッドの立場が悪くなる。
「思いっきりの浅知恵だな」
フンッとリリトが鼻を鳴らす、ついでに余っていた炎が鼻からぶわっと漏れる。
「するとそこの3人はお前が鍛えたのか?」
「はあ、それなりの腕だったんですがねえ」
レランドが残念そうな顔をする。
「素材は悪くないがあんな対人訓練だけでは魔獣に会った時に死ぬぞ、ちゃんと鍛え直しておけ」
「そういたしましょう、それでは失礼いたします」
男が後ろを向いて立ち去ろうとする。
「ああ、ちょっと待て、そいつのおかげで剣が折れてしまった、借り物の剣なので弁償させられるのでな」
「そうだな、私の服も弁償させなければならんな」
レランドは少し困ったような顔をする。
「そちらに伸びている男が折ったのでしょうその男から巻き上げなさい」
「景気の悪い物言いだな」
「そうでも有りませんが、竜神様がいなくなって人心が揺れて経済が乱れております。是非とも早く竜神様に戻ってきていただかなくては」
「こいつらがどうなっても師匠のお前には関係が無いと言う事か?」
「不肖の弟子ですから、煮るなと焼くなと御随意にどうぞ」
そう言い残してレランドは去って行ってしまった。
残された犬耳族のふたりが情けなさそうな顔で手を差し伸べるものの見事に無視をされた。
飼い主に見捨てられた犬はみじめだなとリリトは思う。
「なんかこいつらに同情したくなったぞ」
「まあ昔からあんな男でしたから……」
ガウルは結構苦労した様なであった。
グレイがうめき声を上げて目を覚ます。
「く、くそっ、なんだあのちっこいのは?頭にガーンと……」
いきなりのことであまり状況を掴んでいないみたいだ。
「おまえなあ、そのちっこい竜神様に手を出して電流を浴びせかけたんだぞ」
「げ?そ、そうなのか?」
ふたりの犬耳族がグレイに向かってうなずいてみせる。
「竜神様に手を上げるとは不埒千万、社全組織に回状を回して差し上げましょうか?」
サビーヌが無い胸をズンと突き出しててグレイに宣告する、この辺は母親の影響だろうか?
5年後なら様になるかもしれない。
途端にグレイが真っ青になる。
「そ、それだけはご勘弁を、社の仕事が一生できなくなりますから」
完全に腰が引けている、エルドレッドの軍隊だけでは先行きに不安があるのだろう。
「それならワシの剣の弁償にお前の剣を置いていけ」
ガウルは稲妻にあって真っ黒になった剣をグレイに見せる。
どう見ても値段の釣り合いそうにない高そうな剣を慌てて押さえるグレイ。
「ガウルやめんか?」
「いけませんか?」
「そこまで行くと恫喝だぞ」
リリトがすごく嫌な顔をする。
しかしその時リリトの頭にすばらしいインスピレーションがひらめいた。
「そうだな、私に協力すれば今回のこと不問にしてやるぞ。」
グレイはキョトンとした顔をしていたがすぐにニヤリと笑う。
「良うござんすよ、殺しですか?それとも暗殺とか?」
リリトはクルッと回るとグレイの頭を尻尾でひっぱたく。
今度はだいぶ手加減をした。
「アホウ、平和的な仕事だ。いいから黙って社までついてこい」
「いてててっ、俺は荒事しか出来ませんぜ」
グレイが頭を抱える、コイツら物騒な仕事しかして来なかったのか?
「サビーヌ殿、4,5日コイツらの宿の面倒を見てほしいのだが、ああ宿泊代は取っていいぞ」
「4,5日?強制労働ですか?」
「まあそんなところだ、仕事が終わったらコイツの回状を回すのは勘弁してやってくれ」
「竜神様のご意思のままに」
サビーヌは丁寧に頭を下げた。
「あっしらもご一緒してよろしいでしょうか?」
犬耳族のふたりが頭を下げてリリトに願い出る。
リリトはじっとふたりを見つめた。
「いいだろう、その代わり雑魚寝で酒は無しだ」
「へい、わかりやした」
見かけより結構素直な感じを受ける二人であった。
「良いのですか?あの様な者達を社に連れて行って」
「あの獅子族ではかなり不器用そうなのでな、連れの方が使えそうだ」
「確かに逃げ出したり暴れたりすれば回状を回されますからな」
「まあ、あまり心配はいらんだろう、それよりあいつらの師匠は冷たい奴だのう。さっさと帰りよった」
「ふん、まあ何を企んでいるかは丸わかりですがな」
かなりガウルは根に持っている様である。
「そもそもあいつ一体何の目的が有ってこんな事をしたんだ?」
「まあ、多分竜神殿の意志を探りたかったのでは無いかと」
「意志だと?」
「竜神様に失踪されてエルドレッドも非常に困った状態に有るわけですよ。竜の巣が自国内に有ることで取っていた税金が入らなくなるわけですから、なんとしても竜に戻ってきてもらいたいわけでして」
「だが私にはまだ当分魔獣を狩るだけの能力は無いぞ」
「いずれは成長してその能力を得るわけでして、その間竜がいれば税の徴収も可能なわけですからな、それで自国の狩猟部隊を強化できま」
「何を言ってる自国の狩猟部隊を強化できても竜の穴埋めにはなるまい」
「5カ国全部を魔獣から守るためにはね。しかし自分一カ国だけならどうでしょうか?幸いエルドレッドはドゥング、ニャゲーティア、マリエンタール、クロアーン。の4カ国に囲まれた位置にあります」
「周囲の国から金を集め自国だけを守るつもりなのか?」
「そういうことですな、しばらくすれば周囲の国は疲弊していきますから武力で無理やり徴税することも可能になるでしょうしな」
「碌でもない奴らだな」
「だからこそドゥングの巫女もあなたを取り込みたがっているのですよ」
「お前らはエルドレッドの軍隊に所属しているのか?」
リリトはグレイ達に向かって聞いてみる。
「いやいや、俺たちはただの傭兵でしていつでもどこでも誰の元でも働きますので」
後ろで犬耳族の二人がうんうんとうなずいて見せる。
思いっきり胡散臭い。
「まあいい、社に戻るぞ」
「しばらくお待ちの程を」
帰ろうとするリリトを呼び止めるガウルである。
ガウルは先ほどグレイの魔法を受けて黒焦げになっている剣を道端に置くと手を合わせしばらく黙とうをした。
「何をしているのだ?」
「武器というものは消耗品ではあります、しかし…」
この傭兵と武器に対する考え方をガウルは説明する。
武器とは持ち主に代わって敵を討ち敵の攻撃を受けるものであり、持ち主を守り武勲を与えるために自らの体を削っていくものなのでだそうだ。
なまくらとして作られたこの剣も以前の持ち主の為に一生懸命尽したのだとガウルは言う。
新しい武器を購入しその代わりに売られ最後は潰されて新しい武具の一部になるところであった。
しかし最後にガウルの元で持ち主を守って自らの寿命を終えた、このまま潰される刀が最後にその花道を飾れたのだ。
ワシは命を守ってくれた刀に感謝をしこの次はもっと良い刀に生まれ変わることを願っているとガウルは言っていた。
「お主顔に似合わず思いやりのある男なのだな」
「戦いに生きるものはその武器に絶対の信頼が欲しいものなのですよ。ですからどんな武器でも自分が生き残った場合は感謝の気持ちを持つものなのです」
やはりガウルは長い間様々な者と戦ってきた人間なのだろう。その命を守ってくれた剣にしっかり感謝をして弔ってやることを忘れてはいない。
「サビーヌ」
「何で御座いましょう、竜神様」
「この剣の供養に鍛冶屋に剣の代金を支払ってやってくれ、ガウルの必要経費だ」
「竜神様のお心のままに」
サビーヌが頭を下げる。
「その前に竜神様の新しい服を買いに行きましょう」
ルンルンという感じでリリトをブティックに誘うサビーヌ。
4人の男は再び買い物に付き合わされることになった。




