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梅雨葵の咲く空の下で

作者:Oto Hajime
 教科書の詰まったランドセルを背負い、一人傘をさし帰る通学路。どこまでも、どこに行っても雨の音だけが街に降り注いでいるはずだったが、その中に微かに別の音が混じっていた。
 雨粒の雑音に紛れて、小さなメロディが聞こえる。


(歌と……、ギターの音?)


 父がたまに休日に鳴らしては、母に怒られているその楽器の音によく似ていた。僕は奏でられているその悲しいようなギターの音色と歌声に誘われて歩く。


 音は、公園から発せられているようだ。その公園は小さな空き地のようなもので、遊具らしい遊具はない。
 人が休めるようにとベンチが置いてあり、後は隅の方にちょうど雨よけになりそうな大きな木が生えているだけだ。
 それ以外に挙げるとしたら、大人でも見上げるような薄ピンク色の巨大な花が咲いていることだろうか。


 吸い寄せられるように、僕は公園に入る。ベンチで、傘もささず、背が高くて髪の長い女の人が座りながらギターを弾いていた。
 儚げで消えてしまいそうな、ガラスのような美しさをまといながらそこにいた。
 その音色になのか、その美貌になのか、ただただ僕は魅入っていた。だが、何か、何かはわからない違和感がある。違和感の正体を探るため、ゆっくり近づく。


(あっ――!)


 違和感の理由に気づくと同時に、彼女も僕の存在に気がついたのか、演奏をやめてこちらを振り向く。
 目が合ってしまう前に、僕は走って逃げ出した。




 彼女は雨の下でギターを弾いていた。それなのに、長い髪も服も全く濡れていない。
 この世のものではない。直感的にそう感じた。


 それからしばらく、僕はあの公園に近づかなかった。



***



 季節はいつの間にか一周し、また梅雨の時期がやってきていた。


 僕は、どちらかといえば雨が好きだった。雨が降ると、体育の時間に外でサッカーをしなくて済むからだ。
 そうなると体育館でドッジボールをするのだが、あれはボールを避けるだけなので、体育が苦手な僕にとってもまだマシなほうだった。


 でも、くもりは嫌いだ。その日は降るかどうか微妙な天気で、結局体育の時間には雨が降らず、嫌な気持ちになりながらグラウンドでサッカーをすることになった。


 そのくせ、いざ帰り出すとこうして降り出す。
 てるてる坊主を逆さまに吊るしてやろうか、なんてことを考えながら傘をさし一人帰り道を歩いていると、どこかで聞いた覚えのある音が聞こえてきた。


 僕は一年前見た、あの女の人の幽霊のことをすっかり忘れていて、つい、また公園の近くを帰り道にしてしまっていた。
 また、あのギターの音と小さな歌声が雨音に混じって耳に入ってくる。


(どうしよう、早く帰りたいのに……)


 今から公園を迂回したのでは、かなり遠回りになってしまう。仕方なく、恐る恐る公園の横を通る。
 例の音が、もうはっきり聞こえる位置まで近づいている。そんなことしなければいいのに、怖いもの見たさで、公園の方を覗いてしまう。


 一年前と同じように、ベンチでギターを弾いている女の人がいた。
 やはり、傘をささずに一人で弾いている。少し近づいてよく見る。やはり、ベンチは濡れている。雨は、彼女をすり抜けているのだ。


「あ! 君は――」


 しまった、見つかった!
 僕は弾き出されたように道路の方を振り返り走り出そうとするが、ぬかるみに足をとられ転びかけてしまう。


「ねぇ、待って!」


 立ち上がった女の人は思った以上の速さで僕の手を掴んだ。小学生の腕では振りほどけない。
 なぜかはわからないが、とにかくごめんなさいを繰り返した。唯一の抵抗がそれだった。とりあえず、食べないでくださいとも言った。


「大丈夫、君を食べたりしないよ」


 優しい口調で言うが、僕の心臓は飛び跳ねたままだった。


「お姉さん、幽霊なの?」
「んー。私もよくわからないんだけど、そうらしいよ」


 女の人は他人事のように言った。


「君、名前は?」


 知らない人に名前を聞かれても教えちゃいけない。幽霊を目の前にしているのに、僕は、そんなことばかり冷静に考えていた。


「あ、先に私が名乗ろうか。私はあまね、あおい。雨の音に、向日葵の字の葵で、雨音葵。て、君の年だと向日葵の字を知らないかな?」


 指摘通り、ヒマワリの字は知らなかった。だが、先に名乗られ少し安心してしまったのか、僕も名前を明かしてしまう。


「――仰日大志」


 自分の名前が嫌いだった。僕は名乗るたびに、名前負けしてるように思う。


「おおひ、たいし……どういう字を書くの?」
「仰げば尊しの仰に、日陰の日。大きな志で仰日大志」


 聞いて、彼女は微笑んだ。人を落ち着かせる、穏やかな笑顔だった。


「大きな志で、大志か……。カッコイイ名前だね」


 それが、僕と雨音の出会いだった。



***



 雨音は、雨の日にしか現れない不思議な幽霊だった。いるのかいないのか微妙な天気でも、ギターを聴けばすぐにいるのがわかった。
 そういう時、雨音はいつもベンチでギターを弾いている。
 エレキギターではなくて、なんというかいわゆる普通の、真ん中に穴の空いた木のギターだ。雨音はそれについて、詳しく教えてくれた。


「これはアコースティックギターっていうの。正しくはフォークギターなんだけど、みんなアコギって言うね」


 アコギについてよく知らない僕が言うのもおかしいが、とても綺麗なギターだと思った。特に、胴の右側に大きく描かれた花の絵が印象的だ。
 それは公園に咲いているあの見上げるほど大きいあの花に、よく似ていた。雨音はそれを僕の方に差し出してくる。


「大志も弾いてみる?」
「いい、弾けないから」
「弾いてもいないのに、なんで分かるのさ」
「分かるよ。僕、何をやってもダメだから」


 僕には、得意なものや、特技と呼べるようなものがなかった。昔から何をやっても下手くそなのだ。
 運動は苦手で、ボールは上手く扱えない。勉強も苦手で、算数はいつもひやひやする点数。歌も絵も上手くなければ、ゲームも下手くそ。漫画以外の本を読むのも嫌いだ。
 普通の人が持ち合わせている自分の好きなものという奴を、僕は持っていない。そう言うと、雨音は悲しいような顔をした。


「挑戦する前から諦めてたら、ろくな大人にならないよ。子供は、なんでもいいから夢を持つべきだ」
「そんなの押し付けだ。だいたい、夢をちゃんと叶えられる人なんて、ほんのひと握りじゃないか。そんなのは無駄な努力だよ」
「この世に無駄な努力なんてないよ。もしもそれが報われないのだとしても、人はすべからくそうすべきだよ」


 強い口調で言われた。少し、雨音は怒っているようにも見えた。


「難しい。僕にはよくわからないよ」


 僕は小学生という立場を利用して、反則的に話を終わらせる。こういう風に逃げるのは、少し得意だった。


「む、大志はもう小学5年生でしょ? そんなこと言って――」


 雨音はまだ追及したいようだったが、それは急にベンチの上に現れた何かによって遮られた。


「あ、こらノラさん! びっくりさせないでよ」


 雨音のギターのそばに黒い猫がいた。首輪がないところを見ると、野良猫らしい。


「ノラさんて、その猫の名前?」
「そだよ。私がつけたの。野良猫のノラさん。最近この公園に住み着いたの」


 名前のセンスは全くないようだ。雨音はノラさんとベンチの所有権を争っていて、しょっちゅう引っ掻かれているとのこと。
 幽霊でも怪我をすることに、雨音自身も驚いたそうだ。


「ふーん、あんまり可愛くないね」


 ノラさんは悪い意味で野良猫らしい、ふてぶてしい顔をしていた。犬のように折れている片方の耳や少し短いしっぽを見ると、喧嘩っ早い武闘派猫だというのがよくわかる。
 その頭を撫でようとしたら、思いっきり右手を引っ掻かれた。


「ほら、可愛くないとか言うから引っ掻かれるんだよ? ねぇノラさん」


 そうして喉を撫でようとした雨音も、目で負えないほどのノラさんのパンチを食らっていた。
 この生意気な猫め! と、雨音とノラさんは公園で追いかけっこを始める。ノラさんもからかっているだけのようで、公園から逃げたりはしない。


 雨音は説教したかったことも忘れたようで、僕としては好都合だった。その点はノラさんに感謝である。
 気付けば、辺りは暗くなってきていた。雨雲のせいもあって、夜は早めに訪れようとしていた。


「雨音、僕、もう帰るね」
「うん、気を付けてね」


 そういう風にして、僕は決まって雨の日は公園に寄って雨音と話をするようになった。
 結果の悪いテストをどうやって偽装して親に見せるかとか、校長先生の話の時に教頭がいびきをかいて寝てしまって、校長の顔がゆでダコのようになってたとか、そんな他愛のない話ばっかりだったけれど、僕にはそれが新鮮で楽しかった。



***



 ある日を境に、4日ほど雨の降らない日が続いた。それまで毎日なんとなく会っていたが、急に会えなくなると言いようもない気分がこみ上げてくる。
 通学路を帰るが、今日も公園からギターの音は聞こえてこない。だから家にまっすぐ帰ると、母にこんなことを言われた。


「なに大志。雨の日は遊んで帰ってくるのに、晴れの日は寄り道しないで帰ってくるの? おかしな子ね」


 僕は別にいいでしょ、と反抗的な言葉をぶつけて部屋に閉じこもる。雨音に会っていることは、親には内緒にしていたので、あれこれ聞かれるのは避けたかった。
 適当に宿題をしているふりをしてやり過ごそうと机に向かっている姿を確認したためか、母もそれ以上追及することはなかった。


 それから漫画を読んだりしていたが、どうにも落ち着かなかった。
 僕の興味は、明日の天気予報にばかり向いていたが、携帯電話も持っておらず、部屋にテレビもないため確認する術はない。


 やがて夕飯の時間と重なるように父が帰宅し、リビングに呼ばれる。僕は今日の夕飯が何なのかを確認するよりも先に、テレビのリモコンを操作して電源を付けた。
 明日の天気は90%の雨で、それ以降の週間天気もずっと連続して雨マークだった。


「やだ、もしかしてもう梅雨が明けたかと思ったのに、もうずっと雨じゃない。洗濯物が乾かないわ」
「だったら乾燥機を使えばいいだろう?」
「電気代が馬鹿にならないわ。その分、あなたの小遣いから削りましょうか?」


 喜ぶ僕とは反対に、両親にとって雨は憂鬱だったようだ。雨の話から小遣いの減額の話に移って、父はひどくうろたえている。
 さっさとハンバーグを平らげ部屋に引き上げ、明日のことを考えた。僕は遠足も修学旅行も好きな方じゃなかったが、きっとクラスのみんなは、その前日にはこんな気分になるのだろう。


 いつの間にか、雨音に会うのが楽しみになっていることに自分でも驚いた。その日は何度も寝返りを打ち、なかなか寝付けなかった。



***



 翌日。天気予報のとおり、空は薄暗い雨模様をしていたが、逆に僕の心は晴れ晴れとしていた。
 学校の授業は、だいぶ上の空で聞いていたと思う。浮き足立っているうちに放課後となり、僕は雨の中を走りながら公園に向かう。
 途中何度も水たまりを踏み、服が泥で汚れてしまっても気にせずに進む。


 やがて、ずっと聞きたかったあの音色が聞こえてくる。間違いない。今日は雨音に会える。


「雨音!」


 公園に足を踏み入れながら名前を呼ぶ。いつものベンチに腰をかけながら、いつものように雨音はアコギを弾いていた。
 呼ばれたことに気がつくと、雨音はこちらに笑いかけて手を振る。ゆっくりと僕は雨音の元へ向かう。少し見ない間に、公園の大きな花はすこし満開に近づいていた。


「やあ。また今日も来たの? 大志は暇だね」


 雨音の言葉に、僕は少し苛ついた。こちらはずっと会いたがっていたのに、その言い草はないだろう。
 昨日から頭に並べていた話したかったことは、どこかへ行ってしまった。かわりに、ちょっと刺のある言葉が出てしまう。


「なんだよその言い方。ずっと雨降らなくて会えなくて心配していたのに」
「ずっと降らなかった?――あ、そっか、ごめん」


 雨音は引っかかるような言い方をする。


「私、雨が降ってない時は意識がないの。私の中じゃ、君には昨日も一昨日も会っていることになっているから」


 突然のことで、どういうことか分からない。そういう顔をしていたからなのか、彼女はさらに詳しく教えてくれた。


「えっとね、雨の降ってない日は、私の時間は流れないの。私にとっては、君が過ごした晴れの日の分がそのまま飛んでいるから、毎日会ってるように感じるの」


 雨の日は毎日彼女に会っていた。僕にとっては5日ぶりでも、雨音にとっては全て連続していることになる。
 だから、最初の発言は彼女は何も悪くないということになるが、バツが悪くてそのままの態度で話をしてしまう。


「だとしても、暇ってなんだよ。だいたい、雨音だって一日中ギターを弾いてるだけじゃないか。暇なのはそっちだって一緒でしょ?」
「そりゃ暇だよ、だって幽霊だもの。死んでからぐらいゆっくりさせてよ」


 僕は苛立ちながら言うが、雨音にとっては文字通り子供をあやすようなものなのだろう。どこ吹く風という具合にいなされる。


「でも、会いに来てくれたのに暇はなかったね。謝るよ。ごめん」
「……謝ってくれればいいんだけど」


 本当は、こちらも謝らなければならないとは考えていたが、素直に謝れるほど、僕は大人じゃなかった。
 そうしてちょっと空いてしまった会話の間に入るように、ノラさんが現れた。こいつも久しぶりに雨音に会えたのが嬉しかったのか、喉を鳴らしながら彼女の足元に擦り寄っている。


「おーノラさん。どうした? 今日はデレデレだねー」


 今なら触れるかと思い、手を出したらすぐさま引っ掻かれた。やはりかわいげのない猫だ。


「ノラさん人見知り激しいからね。諦めないで接していたらそのうち触らせてくれるよ」


 喉を撫でくりまわされ満足したのか、あるいは嫌がってなのか、ノラさんはすぐにどこかへ行ってしまった。
 去っていった方に手を振っていた雨音はこちらに向き直って言う。


「でも、私が毎日会ってるってことは、雨の日はいつもここに来てるんだよね? 晴れてる時は何してるの?」
「別に何も。そのまま家にまっすぐ帰って部屋で漫画読んだりしてる」
「友達と遊ばないの? この公園とかでさ」


 ああ、やはり雨音もそう言うのか。子供は友達と遊ぶのが、世界共通の常識だという風に。


「僕、友達いないから。一人の方が気楽」


 昔からそうだった。僕は特に同世代の子と会話するのが苦手で、いつも一人でいた。
 ああいった無邪気さが、僕には無いのだ。クラスに居ると、ザーザーとしたラジオのノイズのような雑音がずっと胸の中から聞こえてくる。


 そして、そういう事を言って、親や先生を困らせていることは十分承知していた。雨音も僕のことをおかしな子だと思うのだろうか。


「そうなの? じゃあ私が友達になってあげる」


 意外な言葉が帰ってきた。顔が熱くなる。どうしてだろう? また素直になれず、否定的な言葉をつい出してしまう。


「いい、一人が好きだから」
「む。素直じゃないな。本当は嬉しいくせに」


 顔に出てるぞ、と頬をつつかれる。子供扱いされ――いや、子供なのだけど、むっとして反論しようとする前に、雨音はある提案をした。


「友達になった記念に、アコギを教えてあげるよ。ギター、弾いてみない?」
「友達になるなんて言ってない。それに、そういうのは全然ダメだって前にも言ったじゃないか」


 勉強や運動のように、僕は楽器もよくできない。音楽の授業のリコーダーのテストの時、盛大に間違えてクラスメイトから大笑いされたのがトラウマになっている。


「食わず嫌いは良くないぞ。ほら、いいからこっち来なさい」


 逃げる僕の手は掴まれ、ベンチに無理やり座らせられた。太ももの上に、僕の身の丈には大きいアコギが乗っかる。


「左手でこっちを掴んで、右腕は肘を曲げてここに当てるの」


 ベンチの後ろに回り込んだ雨音から両手を操られて、いつの間にかギターを演奏する構えを教え込まれる。


「雨音、僕、興味ないって――」
「黙らっしゃい! まずは弾く、話はそれから!」


 怒られてしまった。こうなった雨音はいつも以上に頑固で折れないと知っていたので、されるがままにすることにした。


「で、次にコードね。まず親指は六弦に軽く触れる。握りこむように持って、薬指が2弦のここ、中指が3弦のここ。人差し指と小指は他の弦に当たらないようにして……そう。そんな感じ」


 指に、弦の金属の冷たさが伝わる。
 その硬さで指先が切れてしまわないか不安になっていると、右手の手のひらにプラスチックの白い小さな板のようなものが渡された。形は雨粒のようだった。


「それがピックね。人差し指と親指が交差するように握るの。こんな感じで」


 見様見真似で、小さなそれを持つ。持ち方が当たっているのか分からないが、雨音はうんうんと頷いているのでいいのだと思う。


「さ、それで鳴らしてみて」


 恐る恐る6本の弦全てに当たるようにぎこちなく右手を振ると、綺麗な響きがあたりになった。
 悲しいような、明るいような、それでいてそのどちらでもないような不思議な音だった。


「怖がらないで、どんどん弾いてみなよ。こういう風に手首を振るの」


 真似するようにピックを往復させると、それらしく音が連続する。リズムをつけることで、音は音楽になっていく。


「そのまま、薬指と中指を一緒に上の弦のここに移して」


 言われるがままに、指をゆっくり移して音を鳴らす。先ほどとは明らかに違うが、でも同じような不思議な雰囲気の音が出る。
 そしてその雰囲気は、聞いたことのあるものだった。


「これって、いつも雨音が弾いてる曲?」
「そ。それの最初のところ」


 今しがた教わったその二つの形を繰り返すだけで、一つの曲の一部になっていた。小さな達成感に動かされたように、僕はずっと弾き続けた。


「ほら、できたじゃん。面白いでしょ?」
「――うん」


 どうだと言わんばかりの誇らしげな顔で、雨音は笑っていた。できたのは僕の方なのに、自分のことのように喜んでいる雨音のことがおかしくて、僕も笑った。



***



 それをきっかけにして、半ば無理やりに雨音に弟子入りさせられ、練習することになった。幸いアコギは父も持っていたので、こっそり公園に持ち出す。
 バレないか不安だったが、父のアコギは埃をかぶるほどずっと使っていないもののようだったので、心配はなさそうだ。


 雨に濡れないように、大きな木の下でアコギをケースから出し雨音に見せる。お、持ってきたねと、状態を確認するようにギターの具合を見ている。


「……これ、お父さんから借りたの?」
「うん、使ってないからいいってさ」


 雨音はそんな小さな嘘を見透かしたように、意地悪な笑顔を浮かべて僕に続けて聞いた。


「うそつき。勝手に借りてきたでしょ」
「なんで分かったの?」
「これ、すっごい高いアコギだよ。子供になんて怖くて持たせられないよ」


 それを聞いて青ざめた僕の顔を見たのか、なだめるように雨音は言った。


「でも埃かぶるほど使ってないっていうのもギターにとっては可哀想だからね。そう思って弾いてあげよう?」


 それにしても初心者がオーディトリアムの28なんて超贅沢だねと、一言ぼやいてから雨音の指導が始まった。
 まずはコードから、ということで先日の最初の2つのコードを弾き始める。2本の指を移動させるだけなのに、ぎこちない動きにしかならず、二つのコードはなかなか綺麗に繋がらない。
 しかも、まだ慣れていないせいなのか、すぐに指先が赤くなり痛くなってしまった。


 仕方なくギターをケースにしまい二人で休憩していると、また何処からともなくノラさんがやってきて父のギターのケースの上に乗っかった。
 乗っちゃダメと雨音が抱き抱えると、ノラさんは珍しく彼女の腕の中でおとなしくしていた。


「最初は、痛くなって大変なんだよ。ちょっとずつ指の皮が厚くなってくから、それまで我慢だね」


 そうアドバイスをくれた雨音の指に触れると、指先だけが少し硬いような、不思議な質感になっていた。


「どれくらい我慢すればいいの? 二日? 三日?」
「せっかちだなぁ。大志はまだ子供なんだから、ゆっくりやればいいじゃないか」


 また子供扱いだ。前から思っていた腑に落ちないところを僕は雨音にぶつける。


「また子供扱いするけど雨音だって子供じゃん。高校生か大学生じゃないの?」
「まぁ、私も当時は大学生に成り立てだったから子供かな。死んだのはもう結構前だけど。やっぱ幽霊は年を取らないんだね」


 しまった、と思った。あまりに雨音と自然に話しすぎて、彼女がすでに亡くなっているのを忘れて聞いてしまった。慌てて僕は話題を変えようとする。


「なんで雨音はアコギを弾き始めたの?」
「うーん。よく覚えてないな。あんまりちゃんとした理由はないかも」


 意外だと思った。大抵、親がやっているのを見てとか、憧れのミュージシャンがいてとか、それらしい理由がみんなあるのだと思っていた。
 あるいは僕のように、習い事か何かで強制的に弾かされたとか。


「ただね、私は歌いたかったんだよ。そしたら、伴奏があったほうがいいじゃない? なら弾き語りでしょ、みたいな」


 雨音の目は、どこか遠くを見るような風になっていた。誰に話すわけでもないように、ノラさんの背中を撫でながら彼女は思い出を語る。


「私の取り柄は歌うことぐらいしかなかったから、歌もアコギもすごい練習したんだよね。中学も高校も文化祭で歌ったし、よく大きな駅の前で弾き語りもした。大学に入ってからオーディションに出て、やっとプロへの切符を掴みかけた。……そんな頃、いつもみたいに駅前で弾き語りをしようとした時に、大きな事故に巻き込まれたの」


 即死だったらしい。最後に覚えているのは、全身を襲った一瞬の鋭い激痛だけ。
 後は意識が暗転し、気付いたらギターと一緒に雨の降るこの公園にいたとのことだった。


「――本当は、世界中の人達に、私の歌を聴いて欲しかった。……この子には、申し訳ないことをしてるね」


 ノラさんの背中から愛用のアコギへ手を移し、優しく撫でている。
 その身一つに一本のギターを持って、世界中を旅するのが雨音の夢だった。小学生の僕でもわかる、雲をつかむような、無謀な話だ。
 それを大真面目に話す彼女に、僕は意地の悪いことを聞いてしまう。


「……雨音は、そうなるって分かっていても、ギターを弾いていた?」
「もちろん」
「がんばっても、死んじゃうのに?」
「うん。だって――」


 雨音は花の描かれた自分のギターを見つめながら言う。


「好き、だからね。結果が欲しいんじゃなくて、成果が欲しいんじゃなくて、ただ好きだからやる。その積み重ねでたどり着ける場所があるなら、ちょっとそこまで行ってみよう、って感じ」


 《ちょっとそこまで》が世界になるのが、僕のような凡人には理解できない。僕と雨音の間には、埋められない隔たりがあるのを感じた。


「まぁ、好きなことをやるだけのことを努力とは呼ばないかもね」


 そう後付して雨音の語りは終わる。いつしか指の痛みは引いていた。


「さ、指はもう大丈夫でしょ? 練習練習!」
「えーもうちょっと休もうよ」
「ダメ。日が暮れる前にもう100回コードの切り替え!」


 雨音はノラさんを地面に下ろして指導を再開し、僕は厳しい練習をまた続けることになった。



***



 ギターを弾き始めて1週間は経った。
 本当は家でも練習したかったが、ギターの音もなかなか大きく近所迷惑になるので、何度も公園へギターを持ち出して雨音と練習を繰り返した。
 時々ノラさんが現れては練習の邪魔をされたけど、それでもいつのまにか覚えたコードは5つを越えている。


「やれば出来るじゃん」


 雨音は、ギターのことでは滅多に褒めてくれない。だからそんな言葉をかけてくれるのが珍しく、照れくさく返事をしてしまう。


「それほどでもないよ。ちょっと本気を出しただけ」
「でもBメロと、サビのC♯メジャーは苦手なのかな?」


 舞い上がったのも一瞬。指摘のとおり、中盤とサビの一部のコードだけは、一向に上手くならなかった。


「まぁセーハは難しいよね。焦らなくていいよ、まだ指も短いから力も入らないでしょ?」


 悔しいが、雨音の言うとおり僕の指の長さと力では難しいコードのようだった。


「梅雨が明ける前になんとかならないかな?」
「うーん、厳しいね。無理無理。1ヶ月もやればできるかもしれないけど」


 今は7月も中頃に入ろうかという時期。晴れの日は確実に多くなっていている。
 天気予報は、明日からずっと晴れだと言っていた。それまでに最初のサビまで通して弾けるようになりたかったが、結局克服することはできそうになかった。


「もう一度、僕にお手本を見せてよ」
「仕方ないな、一番だけだよ?」


 せめてお手本となる演奏を記憶に焼き付けておこうと、雨音に演奏をせがむ。お願いされた雨音は、快く自分のギターを構えて立つ。
 すらりと背の高いその姿は、それだけで様になっていた。雨に濡れない艶のある髪をまとめて、音を爪弾き始める。雨粒の音とアコギを伴奏にして、静かにあの歌を歌い始める。




雨は遠く 街を濡らす
声は細く 何を漏らす

雲は厚く 嘘もつけず
手は届かず 日も仰げず


叫んだ君の枯れた声を聴いて
凪いだ雲の隙間から
木漏れ日を真似るようにして
光が差しこむ


こぼれた空の海の青を思い出して
雲がそれを遮ったとしても
その向こうに目もくらむ世界があるんだ
臆病な君に寄り添う 雨明けの歌




 儚げで消えてしまいそうで、それなのにどこまでも綺麗で逞しい歌声だった。何度となく聞いた歌なのに、僕は思わず拍手をしてしまう。


「すごい――。僕も、雨音みたいにもっと上手になりたい。もっと雨音にギターを教わりたい。……梅雨が終わらなければいいのに」


 だがそれは許されない。雨が上がり梅雨が終われば、雨音にはしばらく会えなくなる。これは仕方のないことだった。


「ありがと。でも梅雨が明けなかったら、全国の洗濯物を干している主婦さん達が困っちゃうよ」 


 苦笑しながら、雨音はギターケースの元へ向かう。


「それに大丈夫。実はね、こんなものを用意してました」


 雨音は中からノートを出し、僕に渡す。見てみるとそれは五線譜ノートで、中にはびっしりと音符が書かれたいた。
 ただ教科書に載っているものとは違い、コードも一緒に載っている。そしてノートの間には、コードの押さえ方がかかれた表も入っていた。


「これって、あの歌の楽譜?」
「そ。がんばってこの間書いたの。メロディとコードが書いてあるから、私がいなくなったらこれで練習してね」


 コードはともかく、メロディは何に使うんだろう。ずっと雨音が歌っているのを聞いていたから少しは覚えているが、使い道はないと思う。


「そんなの、弾き語りをするために決まってるじゃん。コードだけだとつまらないでしょ?」
「え、やだよ。僕歌上手くないし。コードだけでいい」
「大志は本当に食わず嫌いだね」


 仕方ないなぁと、呆れたように雨音は笑う。今日の雨も中途半端で元気がなく、雲にはところどころ切れ目が入っている。顔をのぞかせた青空に目を向けながら、雨音は言った。


「もう梅雨明けだね」
「――うん。天気予報はずっとこれから晴れだって」


 それを言ってしまうと、もう1年は会えないということがようやく現実のことに思えてきた。


「もう、そんな深刻そうな顔しないでよ。来年になったら会えるから」
「そんな顔してない」
「してるよ。大丈夫、私の代わりにノラさんがついていてくれるから」


 そうして彼女はノラさんを抱える。名残惜しそうに背中を撫でるが、かなり嫌がられている。威嚇する声音で脅し始めたので、雨音は引っ掻かれる前にノラさんを解放した。


「ギター、がんばってね」
「うん、来年にはもっと上手くなったとこ、雨音に見せるから」
「楽しみにしてる。でも学校の勉強サボったりしゃちゃダメだよ?」


 もう雨は完全に止んでいる。雨音が立ち上がると、すでに向こう側の景色が透けて見え始めていた。僕は何か言わなくちゃと思ったが、なにを言えばいいか思いつかない。


「――約束だよ? 今度は、君の歌を聞かせてね」
「約束する。雨音もずっと、僕に教えてくれるよね?」
「うん。約束する」


 雨音が頷いた時に雲の切れ間から強い日差しが差して、僕は思わず目をつむってしまう。




 目を開けた時には、雨音の姿はどこにもなかった。




 足元にいたノラさんが不思議そうに辺りを見渡していたが、探すのを諦めたのか、どこかへ行ってしまう。
 公園に残ったのは、背の高い木と、その木の下で一人ギターを抱える僕と、誇らしげに隅で咲いている大きな花だけになった。


 天気予報のとおり、今日が最後の雨の日だった。梅雨は明けてしまい、僕は雨音に会えなくなった。



***



 梅雨が明けたことで、公園にはクラスメイトがよく足を運ぶようになっていた。よって、今までのように公園にアコギを持ち出して練習することはできない。
 もちろん家でもうるさいからできないし、そもそも父が高いギターを弾くのを許してくれるとは思えない。
 さしあたり、僕が最初にしなくちゃいけないことは、練習場所探しだった。


 ダメもとでギター教室に通えないか母に相談したが、どうせすぐに飽きるでしょ、と一蹴されてしまった。ギター教室もダメとなると、残りは学校ぐらいだ。僕の頭で思いつくのはそんなものだ。


 放課後、ほとんど人が残っていない校舎の中で弾けそうな場所を探す。一番最初に思いついたのはやはり音楽室だった。
 いつも放課後は鍵がかけられているはずだが、たまたま、今日はなぜか開いていた。


(先生に頼んだら、いつも開けてもらえるかな?)


 理由を聞かれたらどうしよう。ギターを弾きたいと言ったら、笑われるかもしれない。
 それ以前にギターに詳しい先生が父のギターを見たら、あれこれ質問されて親に連絡が行くのは間違いない。
 ダメだ、鍵がかかってない部屋を探さないといけない。振り返り音楽室の入口へ戻ろうとすると、誰かが扉を開けて音楽室に入ってきた。


「あら、大志くん? どうしたのこんなところで」


 担任の布川先生だ。部屋の施錠チェックに来たのだろうか。


「あ、えっと……、ギターを弾ける場所を探してました」


 つい、素直にギターの話をしてしまった。もしかしたら、勝手に持ち出していることがバレてしまうんじゃないのかと不安になる。


「へぇーすごい! 大志くんはギターが弾けるのね!」
「いや、弾けないです」


 褒められるのに慣れていなくて、素っ気ない返しをしてしまう。こういう不器用な返事が、親や先生を心配にさせてしまうと思うと、胸が苦しくなった。
 そんな僕の言葉を聞いていないのか、布川先生はロッカーに小走りし、中から黒いケースを引っ張り出してくる。


「これ、学校のギターだけど、弾いてみる?」


 現れたのは、いつも雨音との練習に使っていたようなアコースティックギターだった。
 まさか、学校にアコギが置いてあるとは思わなかった。全員分は揃わないから授業で使ってないのだろうか。


「いいんですか?」
「もちろん。先生に言えば、放課後も練習していいよ」


 こうして僕は、先生お墨付きの新たな練習場所とアコギを確保することができた。それから毎日放課後は音楽室へ行き、指先が動かなくなるまで練習を繰り返した。


 あんまり遅くまでいると、布川先生に下校を促されるようになったので、親に連絡されたら面倒になるかもしれないと思い、早めに練習を切り上げることにする。
 その分、休憩しないで真剣に弾こうとすると、少しづつセーハというコードも押さえられるようになってきた。全部弾けるようになるまで、もう少しだ。



***



 指先の皮が裂けている。まだだ、まだ頑張れる。夏休みに入っても僕はほとんど毎日学校に通い、ずっとアコギを借りて弾いていた。そしてこの日、僕は初めて成功する。


「やった! 全部通して弾けた!」


 初めてもう1ヶ月半。ついに難しいのを含めた全てのコードを最初から最後まで間違えずに弾くことができた。
 その達成感に、思わず声が出てしまう。恥ずかしくなって、一応誰もいないことを確認する。


(早く、雨音に聞かせたいな)


 しかし、残念ながら雨音に会えるのは来年だ。それまでには、もっと完璧に仕上げておきたい。
 むしろそのための時間がたくさんあると考えたら、前向きになれた。同時に、最後の日に雨音に言われた言葉を思い出す。




『そんなの、弾き語りをするために決まってるじゃん。コードだけだとつまらないでしょ?』




 不思議なことに、一つのことをやり遂げると、別のこともできるんじゃないかと錯覚してくる。
 アコギが弾けたなら、歌も歌えるんじゃないかと、ほんの少しの好奇心が湧いてくる。


 楽譜の歌詞を見ながら、恐る恐る雨音が口ずさんでいたあの歌を歌ってみる。
 声変わりもしていない僕の声は不安定に震えていたが、アコギの伴奏に支えられてなんとか音の体裁を保ってはいる。


 それでも多分、きっと、間違いなく、みんなが口を揃えて音痴だと笑うだろうけど、僕にとってはそれが、何かのきっかけになった気がした。
 なにかが噛み合ったような、何とも言えない気持ちが溢れてくる。


 呼吸を整えて、もう一度歌う。まだ震えている。僕が臆病者だからなのか。
 雨音が最初に歌った時はどうだったんだろう? 雨音が聞いたらなんて言うだろう。褒めてくれるだろうか?


(いや、絶対褒めない。雨音は気休めの嘘をつくような人じゃない。でも、きっとバカにしたりはしない。きっと、雨音は――、)


 そうして何度も歌う。記憶とギターの伴奏を頼りにして、何度も歌う。
 雨音のようになりたくて、一歩ずつでも近づきたくて。そうやって、上達して、雨音を驚かせてやりたい。


 僕の夏休みの最後の日まで、学校に通い弾き語りを続けた。



***



 2学期も始まり、蒸し暑い中教室での授業が再開した。
 雨音にちゃんと勉強もしなさいと言われたので、仕方なく黒板をノートに写していたが、やはり頭の中は歌とギターのことでいっぱいだった。
 放課後になり、クラスのみんながざわつき始めたのと同時に、布川先生に断ってこっそり音楽室を開けてもらう。


 楽器棚からアコギを取りだしいつものようにチューニングする。夏休みの間に使い込んだアコギは、ピックの傷がたくさん出来ていた。
 一方で、いつしか左手の指先は硬くなり、皮膚も厚くなってきている。コードを押さえても、指が痛むことはなくなった。


 入口に背を向け、黒板の方を見て椅子に座り、アコギを抱え、ピックを持つ。もうノートを見なくても、コードも歌詞も覚えきっていた。
 それでもまだまだ歌が上達しないので、今日も僕は歌う。自分が思うより少し大きな声で。
 積み重ねた小さな経験から、大きな声を出そうとするほど音が安定するのをなんとなく感じていたのだ。


 歌詞は1番を歌い終わり、間奏をまたいで2番を歌おうと息を吸い込む。その時だった――、


「大志くん?」


 急に声を掛けられ、演奏の手と歌は止まる。振り向くと、入口にクラスメイトが何人か立っていた。


 冷や汗が滝のように流れる。見られた。あのリコーダーのテストの時のようにバカにされる。
 どうし――、


「すげぇ! ギター弾けんの?」
「もう一回弾いて!」


 予想もしなかった声援がクラスのみんなから聞こえてきた。僕は言葉を返す代わりにこくりと頷き、またギターを構える。
 僕は合唱も苦手で、歌のテストも緊張してうまく歌えないのに、不思議とギターを持つ今はそういったものを感じないようだった。
 息を吸い、途中停止した2番からもう一度歌い始める。


***


 季節は秋。いつしか僕は学校の有名人になっていた。
 クラスの子達とも緊張せずに自然に話せるようになり、一緒に遊ぶ機会も少しだけ増え、クラスにいても、ずっと胸で反響していた雑音は聞こえなくなった。


 そうなっても、雨が降ったときは一人であの公園に通っていた。秋の長雨が降っても、やはりあの歌もアコギの音も聞こえない。
 今日も一応公園を覗くが、誰もいないようだ。梅雨入りから夏にかけてのものとは景色が違う。どこか、寂しい雰囲気だ。
 多分、公園に咲いていた大きなあの花が枯れてしまい、色どりが失われているからだろう。


 ベンチまで進み、右寄りの位置に座る。たった数ヶ月前のことなのに、ずいぶん遠くのことに思えた。
 ギターがないので練習はできない。だからかわりに思い出に浸っていると、すっ――と、隣に何かが現れた。


「ノラさん!」


 久しぶりの再会だった。武闘派猫らしく、相変わらず喧嘩が絶えなかったのか、体中泥だらけではあるが大きな傷は見当たらない。


「元気にしてた?」


 そう言って優しく背中を撫でようとしたら、思いっきり手を引っ掻かれた。相変わらず可愛くない猫だ。
 そんなノラさんは、どこに行くわけでもなくすっと僕のとなりに座っていた。時々、何かを探すように辺りを見渡すが、すぐになんでもなかったかのように無表情になる。


「ノラさんも、雨音に会いたい?」


 そう声をかけるとちらりとこちらを見て、これまた可愛げのない声で鳴いて、またすぐに視線を落とした。
 猫の言葉はわからなかったが、きっとノラさんも結構雨音のことを気に入っていたのだと思う。そうだといいなと、勝手に解釈した。


 あと8ヶ月と少し。雨音に会えるまで、どれだけ上達できるだろう?
 もっとうまくなりたい。雨音を驚かせるほどうまくなりたい。でもこの時、僕の中にはもう別の、それ以上の強い思いが小さく芽生えていた。



***


 季節はあっという間に一周し、また梅雨の時期がやってきていた。ただ、いつもの梅雨とは決定的に違う点があった。


「見てあなた、来週までずっと晴れマーク! 乾燥機使わなくてよさそうね」
「今年は空梅雨か。農家の人は大変だろうな。こりゃ電気代は浮いても、レタスとかキャベツとか値段は上がるぞ」


 家族で朝食を取りながらニュースを見ていた。我が家は家計の心配をしているようだが、僕の心配は全く別のところにあった。
 もう七月。夏休みが近づき浮かれ出す時期がいよいよ近づいているというのに、まるで雨が降らない。
 多少曇る日はあっても、雨は降らない。てるてる坊主を逆さまにして吊るしているが、効果は全くない。


 これじゃ雨音に会えない。一応毎日公園に寄ったが、あの歌もギターの音も聞こえてくることはなかった。


「どうしたの大志? そんな顔して」
「何か、嫌なことでもあったのか」


 何でもないと言って食器を片付け、身支度をして玄関を出る。今日も天気予報のとおり、一点の曇りもない青空だった。
 晴れ渡る空とは逆に、僕の心は暗く沈むばかり。とぼとぼと学校へ通い、上の空で授業を受けている。


 このために1年間ずっとアコギを弾いてきたのに、なぜこんな天気が続くのか。
 こうなると分かっていたなら、一生懸命アコギを弾いていたのがバカみたいじゃないか。


「大志くん、今日は元気がないね。どうしたの?」


 ろくに授業を聞いていなかった僕を心配してか、放課後、布川先生が声をかけてくる。僕はもう六年生だというのに、半ばダダをこねるように先生に聞く。


「布川先生、どうやったら雨って降りますか?」
「雨? 人工的に雨を降らせる機械は聞いたことあるけど」


 何バカなことを聞いているのだ。そんなこと、出来るはずがないとわかっているのに。


「天気予報って、どのぐらい外れるんですか?」
「うーん、先生もちょっとわからないわ。ただ、空の上から地球を見るカメラがパワーアップしてから、天気予報は正確になっているらしいわ。どうしてそんなに天気のことを?」


 天気予報は正確になっている。つまり、来週一週間はずっと晴れというのはほとんど当たるということだ。
 先生の言葉は気休めになるどころか、さらに僕を落胆させることになった。


 そうですか、と生返事をして僕は教室を後にする。クラスの友達に遊んでいこうぜと誘われたが、具合が悪いからと断り僕は家まで帰る。
 照りつける太陽が、憎らしくて仕方なかった。



***



 土曜日。憂鬱な気分で僕は目を覚ます。時計を見るとまだ5時、薄暗さが部屋を包んでいた。
 夏休みのラジオ体操の時間より早く起きてしまったようなので、まだ重いまぶたはそのままに、再びベッドに潜り込もうとする。
 だが、すこしだけ目を覚ました脳が、いつもと違う違和感を訴えている。そうだ、この季節、5時だったらもうとっくに明るく――、


(――まさか!)


 飛び上がってカーテンを乱暴に開く。


「うそ……!」


 窓の向こうは雨模様一色に染まっている。雨足は弱いが、確かに雨粒が道路の水たまりに波紋を作っていた。
 一割以下の降水確率を越えて、待ち望んだ雨がやっと降ったのだ。


 雨音に会いに行かなくちゃ。僕は大急ぎで服を着替える。焦りすぎて何度もボタンを掛け違える。
 左右で違う靴下を履いてしまう。開け慣れた部屋の開き戸を逆に開こうとして、頭をぶつける。
 ドタバタと騒がしい音を立てながら階段を降りて玄関へ行き、慌てて引き返す。肝心のギターを持っていなきゃ意味がない。


 練習は学校のギターでやっていたが、土曜日なので学校は閉まっている。先生に頼み込もうとしても、こんな早くにはいないはずだ。


 そうだ。雨音に教えてもらっていたときみたいに、お父さんのを使おう。僕は父の書斎に忍び込み、ギターを探す。
 が、おかしい。見つからない。久しぶりだから、置場所を間違えて探しているのだろうか。


「お父さん! 起きてお父さん!」


 時間が惜しい。この際、直接聞いた方が早いと考え、両親の寝室のドアを開け、お父さんを叩き起こす。


「うーん、なんだ大志? お父さんはまだ……」
「お父さんのアコギはどこ? ちょっと貸してほしいんだ! 壊さないから、絶対」
「アコギ? ああ、マーチンのか。あれなら先月売ってしまったよ」


 そんな――。家にある唯一のアコギはもう失われていた。僕がよほど悲痛な顔をしていたのか、心配そうに何か声をかけてくれるが全く耳に入らない。
 学校になんとか忍び込んでアコギを持ち出そうかと思ったが、僕の足では往復で一時間程かかる。
 この弱い雨では、それまでに止んでしまうかもしれない。恐らく、きっと、今日を逃せば、雨音に会えるのはさらに一年後だ。


 ダメだ、それじゃダメだ。でも、それでも、ギターがなくても、雨音に会いに行かなくちゃいけないことは分かった。
 僕は弾き出されたように、玄関まで3段飛ばしで階段を駆け下りる。


「ちょっと大志! こんな朝早くからどこいくの?」


 騒がしさに目を覚ました母が尋ねた。


「友達のとこ!」
「朝御飯は?」
「いらない!」
「外は雨よ、傘は?」
「傘もいらない!」
「あ、こら――」


 その短い会話すら時間が惜しく感じられた。僕は傘もささずに、雨空に飛び込む。
 強さのピークは未明だったようで、すでにあちらこちらで雲の切れ間から光が差している。雨が止むのは時間の問題だった。


 僕は走る。運動会の百メートル走だって、こんなに速く走ったことはない。ぬかるみも気にせずに踏み抜く。
 途中すれ違ったトラックに泥水をかけられる。もう体中が、泥だらけの真っ黒だった。
 雨音に笑われるだろうか。それでもいい。一秒でも速く会いたい。心臓が破れそうだ。それでもいい。全力で、ただ全力で僕は走った。


 公園の通りまで来る。だが、いつもの歌は聞こえない。信じたくない。雨音が休んでるだけだ。
 そう思い込まないと、今にも足を止めてしまいそうで怖かった。もう雨空と呼ぶには明るすぎる空、水たまりにもうほとんど雨粒の波紋はできていなかった。
 そんな不安をかき消すように、一歩でも早く前に進むために、水たまりを踏んでいく。
 お願いだ、まだ止まないでくれ――!






 公園にたどり着いた頃には息も絶え絶えで、立っているのがやっとの状態たった。
 脳みそに酸素が行き渡っていない。視界と意識はぼやけてしまう。公園に誰かいるのか、さっぱりわからない。


「あま……ね……!」


 声を搾り出すが、返事はない。でも、ゆっくりと、呼吸が落ち着くにつれて景色がはっきりしてくる。


 その公園は小さな空き地のようなもので、遊具らしい遊具はない。
 隅の方に大人でも見上げるような薄ピンク色の美しい花と、ちょうど雨よけになりそうな大きな木が生えていて、人が休めるようにとベンチが置いてあるだけだ。




「やあ、大志。――久しぶりかな? 背、伸びたね」




 ベンチで、傘もささず、背が高くて髪の長い女の人が座りながらギターを抱えていた。
 儚げで消えてしまいそうな、それでいて咲き誇る傍らの花のように、高貴な美しさをまといながら。



***



「ていうか、どしたのその格好? 泥だらけだよ」


 会うなり、雨音は指をさして笑った。何を話すか昨年からたくさん頭に並べていたあったのに、ここに来るうちに全てこぼれ落ちてしまった。
 かわりに口をついて出たのは、謝罪の言葉だった。


「天気予報……ずっと、来週も、晴れだったから。あと、ごめんなさい……。ギター、持ってこられなかった」
「え?」


 息はまだ整っていない。少しづつ、雨音のそばに寄っていく。


「ギター、すごく上手くなったんだ。学校で練習して、すごい上手くなって、それで友達も出来た」


 うまくしゃべれない。浮かんだ言葉をそのまま垂れ流すように再生した。


「弾き語りも、出来るようになったんだ。本当だよ? だから、それ、雨音に聞かせたかったんだけど」


 倒れこむように、雨音の横に座る。肩でしていた呼吸が、少しづつ楽になっていく。


「お父さんのギター、売っちゃたって、それで、持ってこれなかった。ごめんなさい――!」
「謝ることないよ。もう、そんなに息切れしてたら、歌えるものも歌えないよ」


 雨音は傍らのハードケースから、久しぶりに目にするそれを取り出した。


「ギターなら貸してあげる。この子を使って歌って。チューニングなら済んでるから」


 言って大花が描かれた綺麗なアコギを、汚れるのも構わないというふうに渡してくる。それは一年前に初めて持ったときよりも、妙に手に馴染む気がした。


「いいの? 大事なギターでしょ?」
「うん、もちろん。それにしても、大志、本当に背伸びたね。少しはギターを持つ格好が様になってきたんじゃない?」


 いわゆる成長期というやつなのか、この1年で10センチは背が伸びている。声変わりも始まって、日に日に高い音を出すのが辛くなってきていた。
 そんなことも話したかったのに、突然ふたりの間にあいつが割って入ってきた。


「――あ、こらノラさん! びっくりさせないでよ。元気にしてた?」


 やはり会いたくて仕方なかったのか、ノラさんは野良猫であることを疑わせるような甘えた声を出して寝転んでいる。触ると引っ掻かれるので、手は出さないようにしよう。


「ほら、観客は揃ったよ。成長したのは、身長だけじゃないんでしょ?」


 促されて、左手をネックに添え、右の肘を軽く曲げてボディにあてがう。
 次にコード。まず親指が六弦に軽く触れる。握りこむように持って、薬指が2弦の2フレット、中指が3弦の2フレット。人差し指と小指は他の弦に当たらないようにする。
 指に、プレーン弦の柔らかさが伝わる。弦を切ってしまわないか不安になる。力むとすぐに弦を切ってしまうのが、僕の悪い癖だ。


 肝心のものがないと雨音の方を見ると、右手の手のひらに、セルロイドの白いピックが渡された。形はティアドロップだ。


「それがピックね。人差し指と親指が交差するように握るの。こんな感じで」


 いつかのやり取りを覚えていたのか、からかうように雨音は言った。


「知ってるよ。最初に、雨音に教わった」


 かつて見様見真似で持ったそれを、慣れたように持つ。もう、呼吸は落ち着いた。




「さ、君の歌を聴かせて――」




 6本の弦を全てかき鳴らすようにピックを振ると、綺麗な響きがあたりになった。
 悲しいような、明るいような、それでいてそのどちらでもない開放弦で構成された不思議な和音が、振った右手に合わせて流れるように鳴っている。
 握った左手の指の形が変わるたびに、音は意味を変えて響く。息を吸った。


 僕は、消え入りそうな雨粒の音とアコギを伴奏にして、静かにあの歌を歌い始める。


 歌詞は完全に覚えていた。言葉をたどるその都度に、公園での思い出がいくつも浮かんで、溢れてくる。
 指が赤くなるまでやったコードの切り替え、拍をきちんと取れるように練習したストローク、アルペジオ。
 日が暮れるまで話したこと、そのせいで怒られたこと、宿題を手伝ってもらったこと、一緒にノラさんのノミ取りをしたこと、そのノラさんに練習を邪魔されたこと。


 Bメロのセーハも難なくこなす。どうだと言わんばかりに誇らしげに、雨音を見ると「おー!」と手を合わせて、驚いたように笑っていた。
 できたのは僕の方なのに、自分のことのように喜んでいる雨音のことがおかしくて、僕も笑いそうになる。


 サビ。高くなる音程に、喉は不安定に揺れる。でもそれを押し返すように張り上げる。
 裏声も混ぜて、無理のない範囲で力強く音を伸ばす。間奏を挟んで、2番を始める。
 ここから先は、ギターの伴奏でさえ雨音も聴いたことがないはずだ。少し力を緩めて、優しく歌う。もう何も不安じゃなくなっていた。雨音は見守るように、歌を聴いている。


 2番のサビが終わると転調し、コードの種類がガラリと変わる。雨音が僕に意地悪してるんじゃないかというほどに、次々と新しいコードが現れた。
 その一つ一つを解釈して、飲み下して、自分のものにするのは大変だった。セーハのときよりも、驚いているようだ。
 その表情は、僕の歌を聞いてくれたクラスメイト達に少し似ていると思った。


 曲は、最後へ向けて静まるように、同時にこらえきれない思いを表現していく。
 詞に沿うように、風のない穏やかな空をしていた。こぼれないように一旦上を向いて、大きく息を吸った。
 恐る恐る、僕は最後の歌詞を歌い上げる。




こぼれた空の海の青を忘れないで
雲がそれを遮ったとしても
その向こうに君なら手が届くはずだ
もう大丈夫だね だから行くよ


葵花咲く 快晴の青空の下




 顔を上げて天を仰いだときには、街に降り注ぐ雨粒の音は消えていた。雨音は立ち上がって拍手をする。
 それに驚いて、ノラさんが毛を逆立てながら飛び上がった。ごめんよと、なだめようとしてもそっぽを向かれていた。


「――すごいよ大志。たった一年で、こんなに上手くなってるなんて」


 その言葉が聞けて良かった。信じて、弾き続けて良かった。好きになって良かった。
 そして僕は、ギターをベンチに置く。ピックを握り締めながら、強く芽生えていた夢を初めて打ち明ける。


「ありがとう、雨音。でも、もっとうまくなりたい。――世界中の人達に、僕の歌を聴いて欲しいんだ。だから、もっと雨音に教わりたい」


 雨音は何かに驚いた顔になる。と思うと、すぐに笑顔が浮かぶ。しかし今度は、どこか悲しい表情へと目まぐるしく変化していく。
 いろいろな表情が混ざった、悲しいような、嬉しいような、不思議な顔で雨音は言う。








「ごめんね。それは、無理っぽいかな」


 雨音の頬を伝った雫は、地面に落ちて吸い込まれていった。


「どうして!?」
「私、幽霊だから。この世に思い残したことがなくなると消えちゃうんだよ」


 そんな――。せっかくこんなに上手くなったのに。なんで、どうして。
 言いようもない悔しさと憤りがこみ上げる。また1年経てば会えると思っていた。そうして毎年少しづつ教えてもらって、そんな風にずっと会えるものだと思っていた。
 手からこぼれ落ちてしまったピックも気にせずに、僕は立ち上がって雨音に聞く。


「僕に友達ができたから?」
「ううん。大志に友達ができて私は嬉しいよ」
「雨音の未練って何?」
「教えてあげない。ほら、そんな泣きそうな顔しない」
「そんな顔、してない――!」


 ついに堪えきれずに、ボロボロと涙が落ち始める。袖で拭っても止まらない。ちぎれてしまった雨雲のかわりのように泣く僕を、雨音は抱きしめてくれた。


「背だって、もうすぐ追い付く!」
「うん」
「ずっと教えてくれるって、約束したじゃん!」
「ごめんね。大志が大勢の人から拍手されるところ、私も見たかった」
「ノラさんだってさみしいよ!」
「うん」


 名前を呼ばれたノラさんが、雨音の足元に擦り寄る。普段はほとんど寄り付きもしないくせに、今日は甘えてばかりだ。
 僕を放してしゃがみ、その小さな頭を撫でようとした彼女の右手は虚しくすり抜ける。あの日のように、雨音の向こうの景色が透けて見え始めた。


「――もう、お別れみたいだね」


 立ち上がりこちらを向く。涙の跡は乾いて、もう分からなかった。


「雨音に会えて良かった」
「私も、大志に会えて良かった。君に会えて、私の人生は意味を得て最後に輝いた」


 透けた向こうの花に重なって、もう表情はほとんど見えない。それでも、笑っているのはわかった。


「雨音、ギター忘れてるよ」


 僕はベンチに置いてある、美しい花の描かれたアコギを抱え渡そうとするが、雨音は首をゆっくり横に振った。


「大志にあげる」
「いいの? 大事なギターでしょ?」
「大志に使って欲しいの。その子のためにも。きっと、君をいつまでも支えてくれる」
「――ありがとう。大切にする」
「約束だよ? その子と一緒に、世界中に歌を歌って」
「約束する。雨音に聞こえるように、大きな声で歌う!」
「うん、待ってる――!」


 雨音がそう言うと、雲で遮られていた快晴の日差しが降り注ぎ、僕は思わず目をつむってしまう。




 目を開けた時には、雨音の姿はどこにもなかった。




 足元にいたノラさんが不思議そうに辺りを見渡していたが、探すのを諦めたのか、今度は僕の足元にまとわりついてくる。
 ふてぶてしい顔は、すこしだけ寂しそうだった。しゃがんで背中をなでると、ゴロゴロと気持ちよさそうに鳴き始めた。


 公園に残ったのは、快晴の青空の下で一人ギターを抱える僕と、雨宿りができそうな背の高い木と、かわいげのない猫と、隅で咲いている大きな花だけになった。
 梅雨明けを知らせるその花の名前を、僕は去年調べていた。


 見上げるような梅雨葵の花は、その頂点まで全て、日を仰ぐように咲き誇っていた。

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