第1話 モブは不憫と相場が決まっている
なろう初連載です。お楽しみいただけるとうれしいです!
(2026.08.25)
冒頭を少し手直ししました。物語の大筋やその後の展開に変更はありません。
すでに読んでくださっている方には、大きな影響はないかと思いますが、もしお時間あれば覗いてみていただけると嬉しいです。引き続き、後列モブの巻き込まれライフをよろしくお願いします!
(あ〜あ、まただ。早く終わらないかな〜)
今日もまた、やや前方で令嬢たちが小競り合いを繰り広げている。
「なんでそんなひどいこと言うんですか!」
「自分の非を認めなさいよ!」
「ヴァレッタ様に謝りなさい!」
甲高い声の応酬を右から左へ聞き流しながら、殿を務める私は次の教室まであと何分で着けるかをぼんやり計算していた。
私、エルナ・マリエンベルク。
伯爵令嬢という肩書きだけは立派だけれど、中身はしがない最後列要員――後に「モブ」と呼ぶことになるとは、この時はまだ知らなかった。
この学園は、貴族としての矜持や社交性、マナー、知識を身につけるための王立教育機関。
身分も家柄もバラバラな子女が集まる中、成績順のクラス分けのせいで、なんの間違いか私は上級クラスに振り分けられている。
次は専門科目の授業だ。――たどり着ければ、の話だけれど。
なにせ先ほどからピーピーピーピー、貴族令嬢ともあろうものたちが今にも掴みかからん勢いでいがみ合っているのだ。
「いい加減、殿下につきまとうのはおやめになったら?」
「私がなにをしようと勝手でしょ!」
今日も今日とて、ヴァレッタ様の取り巻き令嬢たちの騒ぎだ。
きっとヴァレッタ様は口を閉ざして、苦々しげに静観しているのだろう。
後列からじゃ見えないけど。
上級クラスは、公爵令嬢ヴァレッタ様を中心とした大所帯の派閥だ。
王子の婚約者で、令嬢の鑑と呼ばれる完璧なお方。
取り巻きのご令嬢たちは、そこに甘い汁が湧き出ていると嗅ぎつけているってわけ。
もちろん、私もその派閥の一員だ。ただし、最後列だけど。
南洋の漁業領地を治める、貧乏伯爵家の娘。それが私だ。
王都の華やかさより、領民たちと大口あけて笑い合う田舎の暮らしの方がずっと好き。
何事もなく平穏に貴族の義務を果たして、早く卒業して帰りたい。
今の時期は何が釣れるかなあ――なんて考えていたのが悪かった。
「殿下のご婚約者はヴァレッタ様なのよ!あなたがつきまとっていいお方じゃないの!」
「そんなの関係ないって言ってるじゃない!私が王子様大好きなのの何が!いけないのよッ!」
「あ、ちょっと!」
「危ないじゃない!」
前方からそんな声が聞こえたと思ったら、令嬢たちが一歩、また一歩と後退りしてきた。その波に押されて私も下がった――が、そこに地面はなかった。
一歩ずつ下がってきた令嬢たちに押し出されるように、私は階段の踊り場から転げ落ちていた。
「アッ」
その瞬間、胸の奥がざわりと震えた。
まるで、どこかで同じ落下を経験したことがあるような――
そんな、ありえない既視感。
(この感じ、どこかで……)
永遠にも似た浮遊感。
世界から音がすっと引いていき、すべてが薄いヴェール越しのように遠ざかる。
その静けさの中で、赤いドレスの揺れが視界の端に引っかかった。
(ヴァレッタ様……?)
ほんの一瞬だけ、赤がこちらを向いたような、目が合った――ような気がした。
何か大切なことを忘れていたような、もう少しで思い出せそうな・・・
だが、直後に全身へ走った激痛が、
その記憶の断片ごと世界を真っ白に塗りつぶした。
ピーピーではない、もっと鋭い悲鳴が遠くで響く中、私は意識を手放した。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます!
次のお話もぜひ、お楽しみください♪




