第1話 社畜は仕事を断れない
世界最高峰のVRゲーム『Universal Job Online (ユニバーサル・ジョブ・オンライン)』
通称UJO (ユジョ)。
選べる職業は100種類以上。
戦士、魔法使い、鍛冶屋、商人、暗殺者、王様……なんでもアリ。
そして今日が──
その“公式リリース初日”だ。
「よっしゃあああああ!!」
俺、タクミ。
ゲームはやり込むタイプだが、強さとか効率とかはどうでもいい。
システムの隅から隅まで体験したい。
そういうコレクター系のやり込み勢だ。
だからこそ、職業選択画面を見た瞬間、俺の目は吸い寄せられた。
──【社畜】。
「なんだこれ面白っ」
王道ファンタジーの世界観に、突然の“社畜”。
意味が分からない。
でも、こういう意味不明な職業こそ触りたい。
「よし、これで行こう」
決定ボタンを押した瞬間、
周囲のプレイヤーから一斉に声が飛んできた。
「お前、何選んだ!?」
「社畜ってなんだよ。草はえるわ」
「普通そういうのはサブキャラとかで選ぶだろ」
「いや、だって面白そうじゃん」
「いや面白いかもしれんけど初日からそれはないだろ……」
「大体他の職業は他の人が選ぶっしょ」
そう言いながら初期ビルドを完成させる。
そして──
視界が白く染まり、世界が切り替わった。
****
「おおおおお……!」
目の前に広がるのは、異世界風の街並み。
CMで見た映像よりも遥かにリアルに……
リアルに……
いや、これリアルすぎねぇか?
石畳の道の感触。
ザワザワと聞こえる街の喧騒。
そして──
「……風も感じるんだけど?」
肌を撫でる風。
いや、これVRの域超えてない?
まさかな、いやまさかな。
よくあるファンタジー小説みたいなゲームの世界に転移なんて、そんなありきたりな展開。
さすがにないだろうと、とりあえずシステムメニューを開いた。
そもそもこうやってシステムメニューが開くぐらいだしな。
ログアウト……
ログアウト……
ログアウト……
「……ない」
上から下までスクロールする。
「いやいやいやいや、なんで?」
しかし、まぁ。
もしかして本当に?
考えてみるも、思考がまとまらない。
……とは言え、だ。
「まあ、考えてもしゃーないか」
街の風景も、感触も、風も全てがリアル。
しかもログアウトはない。
とはいえ考えたところで、どうしようもない。
と、なるとやることは一つ。
「とりあえず、ゲームを楽しむか」
システムの中から職業を確認する。
【職業:社畜】
「ほんとに社畜じゃん」
笑いながらスキル欄を開く。
【スキル《残業》:帰りたいのに帰れない。時間が経過する毎にいつ帰れるのかとうんざりするアレ】
「は?なんだこの説明」
自分のステータスに視線を移す。
【HP:99%】
「ダメージも喰らってねぇのに減ってるうううう!!
ってか何もしてねぇのに残業扱いかよ!!」
叫んだところで、後ろから声が飛んできた。
「兄ちゃん!」
「ん?」
振り返ると、運送屋っぽいNPC、
いやNPCだよな?
とにかくおっさんが手を振っていた。
「ちょっとこの荷物、あそこの倉庫まで運んでくれや!」
「え?この量を?一人で? 無理じゃね?」
「新人のくせに文句言ってんじゃねぇ!!」
【システムメッセージ:スキル《承諾》を獲得しました】
「は?」
スキル説明を見る。
【スキル《承諾》:上司から無理やり仕事を振られるが、有無を言わさず押し付けられるアレ】
「なんっだそりゃ!!」
「おい兄ちゃん、さっさと運べや!」
「……やるしかねぇんだよな。
まあいっか。やりますよ」
荷物を持ち上げる。
「おっも……」
それは明らかに一人で持つ重さではなかった。
いや、持つこと自体は出来たが運ぶのは無理だ。
「ちょっとおっさん、二人で運んだほうが……」
「ああん?それは俺の仕事じゃねぇ!」
「んな横暴な……いや、それより重すぎる。
もう、限界……」
【システムメッセージ:スキル《覚醒》を獲得しました】
「またかよ!」
すぐさまスキルを確認する。
【スキル《覚醒》:普通に無理な作業量をこなしていく時にふと、
“なんかどこまでも仕事できるんじゃね?”と思う瞬間のアレ】
「いや意味分かんねえし!!」
と思った瞬間、荷物が少し軽くなった。
「……お、これなら行けるか?」
運びながらHPを見る。
【HP:82%】
「減ってるぅぅぅ!!」
そう、叫びながら荷物を運ぶ。
とにかく指定された場所へ。
【HP:64%】
運び終わる。
「終わった……」
と思ったら別のNPC(?)が声をかけてきた。
「兄ちゃん! 次これ頼む!」
【システムメッセージ:スキル《承諾》が発動します】
「パッシブかよ!!」
依頼、こなす。
依頼、こなす。
依頼、こなす。
「俺ゲームなのに何やってんだ?」
【HP:11%】
「……流石に、キツイ。
というか、これ0%になったらどうなるんだ?
死ぬのか?
強制ログアウトならいいけど……
風とか疲労とか、これ……なんかヤバい気がするんだよな……」
と、さすがの俺も少し焦り始めたその時。
「兄ちゃん! 次の荷物──」
【システムメッセージ:スキル《承諾》が発動しま──】
「だああああやってられっか!!!」
【システムメッセージ:スキル《退職》を獲得しました】
「え??」
【スキル《退職》:現実を見始め、
“なんでこんな会社で命削って仕事してんだ?”と急に冷め、
勢いで退社届を叩きつけるアレ】
「社畜って辞めれんの?」
【システムメッセージ:スキル《残業》《覚醒》《退職》を獲得したことで条件が満たされました】
【システムメッセージ:スキル《転職》を獲得しました】
「……はい?」
俺はスキル欄を見て、思わず笑った。
「転職……?
いや、これ絶対面白いやつじゃん」
ここまでお読みいただきありがとうございます。
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