★その後③
「パトリック、お前に子爵位を与える。一週間以内に領地に移り数年は領地から出ずに政務を学べ、甘言に騙されず貴族の務めを一から勉強しなおせ、お前が成長出来たらその先を考える、これ以上失望されるような行動はとるなよ」
「……はい、父上、畏まりました」
王城での謹慎を終え屋敷に戻ったパトリックは、身なりを整えると父に呼ばれ、子爵になることを告げられた。
それはつまりクロノス侯爵家を継ぐ未来は無くなったということ。
ジークハルトの側近で無くなった今、当然のことかもしれないが、幼いころから侯爵になるために努力してきた身としては堪える。
シャーロットに対し行った不敬に対する処置としては、貴族でいられるだけ甘いものかもしれないが、優秀な長男である自分が子爵程度に身を置き、平凡な弟が侯爵位を継ぐ華々しい姿を見る上に、弟が活躍する姿を見続けなければならないことは、ある意味生き地獄。
頼りないと、心もとないと、そう思って下に見ていた弟に対し、今後は頭を下げなければならないのだ。
悔しくないと言えば噓になる。
もう一度やり直せたら……と正直そう思っていた。
「エリザベス! やあ、来ていたのかい?」
「まあ、パトリック様、お戻りでしたのね……」
父親の部屋から出てみると、廊下を歩くエリザベスを見つけ心が弾む。
もしかしたらエリザベスはパトリックを心配して屋敷に来たのかもしれない、そう思った。
「や、やあ、あの夜会以来だね……今日はどうしたんだい?」
「ええ、今日はメルソン様との約束があって参りましたの、これから少し外へ出て参りますわ」
「そうなのか……」
パトリックの質問に「メルソンと約束がある」と答えながらも、少し困った様子を見せるエリザベスを見て希望が湧く。
もしかしたら今もエリザベスはパトリックを想い続けているのかもしれない。
頼りないメルソンとの婚姻は本当は嫌なのかもしれない。
その場合、小さな弟しかいないエリザベスの家にパトリックが婿に入る可能性もある訳で。
高位貴族でいられるこのチャンスを逃してはいけないと、パトリックの中でそんな思いが沸く。
「あー、エリザベス、何か悩みがあるのかい? その、君、憂い顔だから」
「パトリック様?」
久し振りにちゃんとエリザベスの顔を見て、彼女の美しさに驚く。
キツメの顔立ちで可愛げのない女だとずっとそう思っていたけれど、化粧を変えたのか、髪形を変えたのか、今日は以前よりも可愛く見える。
夜会で騒ぐマリーの醜い姿を思い出し、いくら見た目が好みでも、中身や所作が美しく可愛くなければ意味がないと思う。
その点、今のエリザベスとなら上手くやれるかもしれない。
今のエリザベスは見た目も及第点、中身は淑女らしく合格点だ。
これまで散々エリザベスを避けていたパトリックだけれど、「良かったら、話を聞くよ」と声を掛けた。
「実は私ーー」
「エリザベス様!」
「メルソン様」
「メルソン!」
良いところで弟の邪魔が入る。
折角エリザベスからの告白を受けようと思っていたのに、今の婚約者となったメルソンが居ては始まらない。
子爵位の件もあり、パトリックは邪魔でしかない弟を憎々し気に睨みつけた。
「エリザベス様、お待たせしました、少し早いですが出かけましょうか?」
「まあ、メルソン様、今ちょうど応接室へ向かおうと思っていたところで、待ってなどいませんのよ。メルソン様が来られるまで、ルルリナ様と少しお話でもしていようかと思っていたところですの」
「ああ、またルルリナが我儘を言ったんですね。ルルリナに捕まるとエリザベス様を離してくれなくなるからなー。そうだ、挨拶だけにしましょう、時間がないと言って」
「まあ、そんなことを言っては可哀そうではないですか、お茶の一杯でも一緒に飲みましょう、仲の良い兄妹ではないですか」
「ああ、もう、エリザベス様は優しいなぁー。でも僕は貴女のそんなところが好きなんですよね、はー、仕方がないな、エリザベス様を独り占めする時間を少しだけルルリナ分けます。少し! ですけどね」
「まあ、ウフフ、メルソン様ったら、もう」
「本心ですよ」
パトリックの目の前で恋人同士のような戯れが始まった。
メルソンの浮かべる視線はどこまでも甘く、エリザベスを本気で好いていることが分かるし、エリザベスは頬を染めとても嬉しそうな顔をしている。
(ああ、そうか……エリザベスももうメルソンのものなのか……)
エリザベスが綺麗になった理由が分かる。
優しい顔つきになった理由もわかる。
メルソンに愛されて幸せが体全体から溢れ出ているのだ。
自分の前では決して見せなかったエリザベスのそんな様子を見て、パトリックは酷くショックを受けた。
「ああ、兄上、まだここにいたんですか? 出発の準備をしなくて大丈夫なんですか?」
エリザベスの肩を抱き、彼女は自分の物だとそうアピールしながらメルソンが話しかけてくる。
問いかけられた言葉は分かるが、パトリックは上手く答えられず「ああ……」としか声が出ない。
「メルソン様、私がパトリック様に質問をしていたのです」
「質問? 何かありましたか?」
「ええ、これから先、私はメルソン様と結婚してパトリック様の妹になりますでしょう? ですが今更パトリック様を『お兄様』とお呼びするのも可笑しいですし、何とお呼びしたらいいかご本人に相談しようと思っていたところなのです」
「……兄……」
どうやらあの憂い顔はパトリック愛しさの物ではなく、兄呼びに悩んでのことだったらしい。
エリザベスの中に全く自分への気持ちがないことを突き付けられたようで、ショックから答えられないパトリックの代わりにメルソンが答える。
「ああ、兄上はこれからすぐ子爵になるので、クロノス子爵呼びで大丈夫ですよ」
「あら、そうですの?」
「ええ、兄はもう殆どこちらには顔を出しませんし、何より侯爵夫人になるエリザベス様が子爵を兄と呼ぶ必要はありません、家格が違いすぎますからね」
「確かに、そうですわね……」
いずれ自分も兄を『子爵』と呼ぶことになるのだと、メルソンはパトリックに現実を突きつける。
この家にお前の居場所は無いと言われたも同然で、プライドだけは高いパトリックの心はズタズタだった。
「それよりエリザベス様急ぎましょう、ルルリナが待っていますよ」
「ええ、そうですわね。お待たせしてはいけませんもの……では、パトリック様さようなら、またいつかお会いできる日を楽しみにしておりますわ」
きっとその頃にはエリザベスはメルソンと結婚し、クロノス侯爵夫人になっているだろう。
爵位が低いものから高位の貴族への声掛けはご法度。
そうなれば気軽に話すことも出来ないし、エリザベスと呼ぶことも叶わないだろう。
「エリザベス……君が最初からそんな笑顔を見せてくれたら……」
キツイ顔立ちで中身もきっとキツイ性格なのだろうと、見た目からエリザベスを避けてきたパトリック。
けれどメルソンの前、どこまでも甘く可愛らしいエリザベスを見て、ちゃんと向き合わなかったことを今更ながらに後悔したのだった。
★★★
「ではこれにて、アルフレッド・バッカスとクリスティーネ・カルネスの婚約解消を正式に処理いたしました。アルフレッド殿の有責で、ということでお間違えないですね?」
「……はい、間違えありません」
「はい、その通りです。有難うございました」
クリスティーネは今日やっと、アルフレッドとの婚約解消が許可された。
宰相を父に持つアルフレッドとの婚約解消は、親の立場を思うとなかなか話が進まず、結局あの問題が起きるまで先延ばしにされていた。
けれどやっと大っ嫌いだったアルフレッドと別れられて、クリスティーネの心は舞い上がる。
このまま馬に乗って遠乗りをし、そのまま湖に行き飛び込んでしまいたいほど嬉しくって仕方がない。
勿論一緒に行く相手は兄の友人であり子供のころから良く知るユリアーノ。
彼ならきっとクリスティーネが何をしても笑って許してくれるだろう。
それどころか一緒に湖へ飛び込んでくるかもしれない。
そう思うと、この先の彼との交流が楽しみで仕方がなかった。
「あ、あの! 本当に僕との婚約を解消しても宜しいのですか? クリスティーネに次の婚約者が見つかるとは限らいないのですよ!」
書類にサインも終え、バッカス伯爵家から両親たちへの謝罪も終え、賠償金の話も終わったところで、ずっと俯いていたアルフレッドが騒ぎだした。
あれだけの事件を起こしたアルフレッドだったけれど、シャーロットの温情であと一年学園に通うことを許されることになった。
けれど卒業後は地方の文官になることも決まっていて、本人はその処遇に納得出来ていないようだった。
自分は未来の宰相。
常にそう言っていただけに、クリスティーネとの婚約はともかく、出世の道のない地方へ行くなど、アルフレッドには受け入れられないようだった。
「アルフレッド殿、ご心配なく、妹はこう見えて異性に人気があるんですよ。既に釣書も届いておりますし、新しい婚約者には不自由しませんよ」
「えっ……?」
アルフレッドのこれまでの言動に思うところのある兄レオドールが、クリスティーネの代わりに疑問に答えてくれる。
きっと両親の前では可愛らしい令嬢の仮面をかぶるクリスティーネの代弁をしてくれたのだろう。
クリスティーネは兄に視線を向け、心の中でお礼を言う。
アルフレッドに言いたいことは沢山あるが、両親の手前我慢をするしかない。
どうやらあのマリーとかいう女には人の心を惑わすような、深層心理を引き出すようなそんな力があったらしい。
自分が未来の宰相だと、堂々と可笑しなことを言っていたのもその影響なのだろう。
だからクリスティーネは優しさで黙っていて上げたのだが、アルフレッドにはそんな心遣いは伝わらなかったらしい。
「クリスティーネ! 僕たちはあんなに上手くいっていたじゃないか! 君はこの僕を失ってもいいのかい?! 後悔するよ!」
「……」
全然かまいません。
むしろ嬉しいぐらいです。
言いたい言葉をクリスティーネは笑顔のまま飲み込む。
こんな馬鹿、相手にしたら負け、そう言い聞かせる。
「クリスティーネ、ご両親や兄上の言いなりになる必要はないんだよ! 僕のことを愛しているのならばそう言えばいい! そうすればまだ僕と婚約者同士でいられる、君の望みが叶うんだよ!」
「……」
この人、まだ洗脳が解けていないのでしょうか?
それとも違う世界に住んでいる人ですか?
糞国の人ですか?
アルフレッドを愛したことなど一度もないクリスティーネは、アルフレッドが違う言葉を話す異国の人間に見える。
「君にとって僕は百点満点の婚約者だったじゃないか! こんないい相手、二度と出会えないかもしれない! 後悔する可能性しかないんだよ!」
「イイアイテ……? コウカイ……?」
その言葉を聞き、クリスティーネの中で何かがプチっと切れた。
出会った瞬間から糞だと思った大っ嫌いな相手が百点満点? 冗談じゃない。
クリスティーネの男性の趣味を、こんな糞男だと思われたままでは終われない。
両親の前、これまで鍛えた猫を脱ぎ捨てる覚悟を持ったクリスティーネは立ち上がった。
「貴方が百点? 冗談はやめて下さい、気持ち悪い」
「クリスティーネ?」
「私のことを四十点の女だと、そう言った貴方のどこを私が好きになるというんですか?!」
「なんだと! アルフレッド! お前はどこまで馬鹿なんだ!」
「アルフレッド、貴方、ご令嬢になんてことを言うの!」
「いや、それはーー」
クリスティーネの言葉を聞き、バッカス夫妻がアルフレッドに軽蔑の視線を送る。
信じられない、こいつどこまで馬鹿なんだ、何様のつもりだ、と怒声を吐きながら苦々しい顔だ。
アルフレッドの両親もクリスティーネと同じ気持ちならばもう遠慮はいらない。
最後の機会、クリスティーネはこれまでのうっぷんを全て晴らすことにした。
「貴方はいつだって宰相になる自分に相応しい女になれって私に言っていましたよね?」
「お前が宰相だと?!」
「アルフレッド、貴方馬鹿なの?!」
「それにバッカス家の赤いドレスばかりを強要して、自分の髪色に染まれって、そんな命令もしていましたよね?」
「あ、いや、クリスティーネ、それは君に素敵なレディになって欲しくてーー」
「知っています。そのお陰で私の部屋には赤いドレスばっかり……赤いドレスが何着もあって、貴方がクローゼットにいるみたいで気持ち悪さしかないんですよ」
「そ、それは家色だからで……」
「それに貴方と会うたびに今日は何点だ、何点だって点数を付けられて、もううんざりっ! 大体貴方が百点なんてあり得ないでしょう! 他の女に現を抜かして、王子殿下の愚行を止められなくて、その上自惚れ屋な男なんて絶対に無理! 夫になんてしたくないわ!」
「そんな、僕は自惚れてなんて……」
「ハッキリ言いますけどね、貴方、自分で思っているほど良い男じゃありませんから! 宰相閣下の息子だから五十点ぐらいは貰えていたでしょうけど、今の貴方はマイナス百点! 絶対に結婚したくない相手、ダントツ一位ですからね!」
「そ、そんな、クリスティーネ……」
「やめて、触らないで!」
クリスティーネの手を掴もうとしてきたアルフレッドの手を振り払う。
すると裏拳のようになってしまい、クリスティーネの手の甲がアルフレッドの顔面にヒットした。
「うっ!」
「うわっ」
「あら、ごめんなさい?」
鼻血を流しながらも「クリスティーネ」と呼び続けるアルフレッドに皆ドン引きだ。
バッカス夫妻でさえ腰が引けて、アルフレッドから離れようとしている。
情けない姿のアルフレッドに対し、クリスティーネは苦笑いを消し、令嬢らしいカーテシーを披露した。
「さようならアルフレッド様、貴方のお陰で可愛らしい令嬢だと、皆からはそう呼ばれるようになりましたわ。そこだけは感謝しております。ですがもう絶対に話しかけないで下さいませ、貴方の顔は二度と見たくないですから」
そう言い残し、クリスティーネはバッカス夫妻に別れを告げ部屋を出る。
兄がすぐその後に付いて来て、くすくすと楽しそうに笑っている。
両親も兄の後を続いて出てきて、「はー」と大きな息を吐き出した。
クリスティーネの突然の行動に息をするのも忘れていたらしい。
(お父様とお母様には悪かったかしら……でももうアレは無理!)
クリスティーネはもう我慢しない。
宰相の子息とか、そんな地位の男など必要ない。
望みは自分らしくいられる相手との婚姻。
その相手がユリアーノであることは、クリスティーネだってもう分かっていた。
「お兄様、ユリアーノ様には今度いつ会えるかしら?」
「アハハ、お前が呼べばすぐにやって来るさ」
「じゃあ、一緒に遠乗りに行きましょう、三人で!」
「お前ね~……」
二人で行けよという兄心は、クリスティーネにはまだ分からないようだ。
ユリアーノと出かけることを思い浮かべ楽しそうな様子の妹に、レオドールは「あいつに勝ったな」と言い、笑い返した。
その後、学園が始まっても、クリスティーネはアルフレッドと顔を合わせることは殆どなかった。
宰相がアルフレッドの行いの数々を知り、学園に相談し、クリスティーネと離れるDクラスに編成してくれたのだ。
「ああ、スッキリした!」
アルフレッドと別れそう言い切ったクリスティーネの顔には、自分らしい自然な笑顔な浮かんでいたのだった。
★★★
「ゾフィア、昨日の、卒業パーティーでの出来事は聞いたかい?」
「ジルハード様、はい、父から聞きました……アンドリューのことも」
「そうか……」
シャーロットからは前もって、卒業式の夜会でジークハルトたちが何か企んでいるということは聞いていた。
彼らはその為の準備を堂々と行い、証人の生徒とかいう者にも夜会に出席するよう強要しているのだと、そう聞いてもいた。
だから覚悟はしていたし、彼らの未来が輝かしいものではなくなることも分かっていた。
けれどやはり悲しいものがある。
アンドリューのことは婚約者として愛していた時期もあったけれど、マリーへの想いを知ってから、ゾフィアはアンドリューに見切りをつけていた。
水面下で婚約解消の話も進んでいたし、シャーロットとジークハルトの婚約が解消された時点で、ゾフィアとアンドリューの婚約の解消も済む手はずになっていた。
けれど……
やはり幼いころからのアンドリューを知っているだけに、幼馴染としては悲しさしかない。
彼が誰よりも騎士団長になることに希望を持ち、努力していたことは知っているし、目標にしていたことも知っている。
誰よりも精進し、邁進し、きっと彼ならと、ゾフィアだってアンドリューを認めていたのに、マリーと出会ってから彼は全てが変わってしまった。
それがどこまでも悲しくて、ゾフィアの心は重く、切なさが募った。
「アンドリューは今は王城内で謹慎中らしい、まあ、調査も兼ねているんだろうね」
「そうでしょうね、シャーロット様を庇おうとした生徒をアンドリューは殴ったそうですし、厳しい処分になると思います」
「ああ、そうだな、とても残念だ」
「……ええ……」
アンドリューは夜会の場で一般生徒に暴力を振るう愚行に出た。
それも無実のシャーロットを庇おうとした生徒への暴力。
命令した主に従っただけだとそんな言い訳も出来るが、剣も持たない生徒に対し、彼は抜刀し剣先を向け切りつけようとしたのだ。
どう考えても騎士としては不適合。
彼の騎士になる道は途切れてしまったと言える。
「アンドリューへの想いはもうありませんが、それでも彼が騎士の道を諦めなければならないことはやっぱり悲しいですね」
「ああ、そうだね……」
それから一週間後、アンドリューが釈放され自宅に戻ったと連絡があった。
それと同時にゾフィアとアンドリューの婚約もひっそりと解消され、もう婚約者とは呼べない間柄にもなった。
「ゾフィア、アンドリューは自領の学校へ移るらしい、その前に会いに行かないか?」
「……会いたい気持ちはありますが……ですが私が会いに行くのも……」
渋るゾフィアの肩をポンっと軽く叩き、ジルハードは笑顔を向ける。
「うん、でも、婚約者じゃなくって幼馴染で兄弟弟子なら会いに行っても可笑しくはないだろう? 俺も一緒に行くから、どうだい?」
「……そうですね、ジル兄様が一緒なら……行きたいと思います」
「よし、決定だ」
ジルハードがヴェスタ家に連絡を取ってくれて、ゾフィアはアンドリューに会うことになった。
訪問自体断られる可能性もあったが、アンドリューの方も会いたいと言ってくれているらしく、自領へ移る前日に会いに行けることになった。
「ゾフィア、すまなかった!」
ヴェスタ家へ着くと、アンドリューに深く頭を下げられ謝られた。
アンドリューがゾフィアとジルハードに会いたかった理由は、どうやらちゃんと謝罪をしたかったかららしい。
昔の真面目で実直なアンドリューが戻って来たようで、嬉しいと感じる。
「アンドリュー、私はもう気にしていない、だから顔を上げて」
ゾフィアが声を掛けるとアンドリューがゆっくりと顔を上げた。
その顔は最後に見た時よりも少し痩せていて、疲れているように見える。
だけど瞳だけは以前のように意思があり、昔のアンドリューに戻った、そう感じさせた。
「俺は、ゾフィア、君と共にこの国を、未来の国王を守りたかった……」
「うん……知っているよ」
あのマリアンヌ・アレースという少女は、どうやら心の内を暴くような力を持っていたらしい。
力は弱いものだったらしいが、ずっと一緒にいて長く影響を受けてきたアンドリューは「強い騎士になりたい」「未来の国王を守る騎士になりたい」という夢を、表に出してしまう状態になったのだろう。
だからジークハルトの側を片時も離れず、訓練よりもジークハルトと一緒に過ごす時間を優先し、ジークハルトが決めた相手の傍にいて守ることを選んでしまった。
マリーと出会わなければと思うが、心が弱かったための行動だと言われてしまえば、もうどうにも出来なかった。
「俺は領地へ行って、領地にある学園に通う……その後はヴェスタ家のために働くことになるが、もう剣を持つことは許されないだろう……」
「うん……」
騎士団長が辞意を国王に願ったのだと、ゾフィアは親から聞いている。
息子の愚行を恥じてのことだったらしいが、陛下はそれを止めた。
『シャーロットはそんなことは望んでいない』と言えば、騎士団長は渋々受け入れた、ようだった。
被害者であるシャーロットは、今回の件は学園内で起きた事件の為、出来るだけ穏便に、皆が重罪にならないようにして欲しいと、そう陛下に願ってくれたそうだ。
マリーの影響を受けていたというのもあるし、シャーロット自身彼らのことは幼いころから知っている相手でもあり、同情もあって厳しい処分を望まなかったのだと思う。
だから陛下は騎士団長の退団を認めなかった。
けれど騎士団長の意志は強く、副団長に仕事を引き継いだ後、騎士団長を退くことを望んでいるらしい。
多分それは、そう先の話ではない。
騎士団長は領地へ行ってアンドリューの更生に力を入れるつもりなのだろう。
それと、罪を償うため自領の若者を育て、同じような事件が起きないように力を尽くすつもりなのかもしれない。
きっと数年後にはヴェスタ領出身の騎士は一味違うと言われるようになるはずだ。
何故ならアンドリューもきっと、騎士団長と共に力を尽くすから。
「アンドリュー、どうか元気で、いつかまた会える日を楽しみにしているよ」
「ああ、ゾフィア、有難う。今はまだ自分に何ができるかは分からないけれど、必ず何か見つける。そして誰かの役に立つような、そんな男になるよ」
「うん、きっとアンドリューなら新しい夢を見つけられるはずだ、頑張って」
「ああ」
握手をし、アンドリューと笑顔で別れた。
彼は彼の進む道を行き。
ゾフィアはゾフィアの進む道を歩む。
きっともう会うことも無いだろう。
この先彼はヴェスタ領から出ることはない。
幼馴染だからこそ、それが分かる。
「ジル兄様、有難うございました、最後にアンドリューに会えて良かった。スッキリしました」
「そうか、なら良かったよ、ゾフィアには笑顔が似合うからね」
「はい、有難うございます」
ジルハードと並んで歩く。
彼の横は優しい空気が漂っていて居心地がいい。
「ゾフィア、夕飯でも一緒にどうだい? いい店を見つけたんだ」
「有難うございます、是非、一緒に行きたいです」
ジルハードにエスコートしてもらい、店へと向かう。
ちゃんと女性扱いされているようで、少しだけ恥ずかしいが、嬉しさが勝つ。
ゾフィアが辛い時、いつも寄り添ってくれるジルハード。
そんな彼の傍にいたい。
ゾフィアは自分でも気づかぬ想いを抱え始めていた。
「フフ、なんかちょっとデートみたいだね」
「ジ、ジル兄様、揶揄わないでください、もう!」
「ハハハッ、本当にゾフィアは可愛いなぁ」
「もう! 酷いです!」
「アハハハハ」
騎士団長が退団後、ジルハードは第三騎士団長から副騎士団長に昇格となった。
そしてその数年後には、彼は騎士団長に上り詰め、平民出身の初めての騎士団長になる。
その横には妻であり、副団長になったゾフィアもいて、この国最強夫婦と呼ばれるようになるのだが、それはまだ少し先の話だった。
おはようございます、とうとう最終話を迎えました!
感無量です。
ぞろ目をと思い、44話で仕上げましたがいかがだったでしょうか。
最後の方は詰め込み過ぎてこの最終話はかなり長くなってしまいました。w
最初このお話を書き始めた時は40話か、60話ぐらいでまとめたいなと思っていました。
取り敢えず目標達成?出来て嬉しいです。
明日か明後日には短編を投稿したいと思っております。
明日の夜か、明後日の朝?かなぁー。
だって、祝日なのに仕事なんです。涙
ゴールデンウイーク?何それ、美味しいですか?
(代わりに昨日、今日は休みだったんですけどね、てへ)
修正は済んでいますので、なるべく早めに投稿します。
そちらも読んでいただけたら嬉しいです。
それでは、ここまで踏み台令息にお付き合いいただきまして有難うございました。
読者様の皆さまの応援が糧となっておりました。(←ほんと、それ!)
次回作にも興味を持っていただけたら嬉しいです。
有難うございました!
夢子




