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【完結】捨てる神あれば拾う神あり~踏み台令息は失恋を得て成長する~  作者: 夢子


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ヒロインの力

マリーことマリアンヌ・アレースの話。

 マリーは幼いころから見目麗しい子供だった。


 平民にしては珍しい桃色の髪、その上瞳はキラキラと輝くような若葉色。

 誰がどう見ても美少女だと言われるマリーは、近所でも評判の可愛い女の子だった。


 そんなマリーが孤児院に預けられたのには理由がある。

 母が病気になり働けなくなってしまい、マリーを育てられなくなったからだ。


 その時もマリーの可愛らしさに、多くの男性が養父になって世話をすると名乗りを上げてくれたが、母は孤児院へ預けることを選んだ。


 ほとんどの者が善意からの申し出だったが、そもそも結婚もしていない一人暮らしの男性の下にマリーを預ける選択肢など母にはなく、血のつながらない男性が『幼い女の子(マリー)をちゃんと育ててみせる』と言っても怪しく映っていたのが正直な話だった。


 それに中には本当に怪しいものもいたのは確かだった。

 お金を払うから娘を預けてくれというものも中には居て、母親は全員を疑ってみるようになった。


「マリー、世の中にはね、可愛い女の子にいたずらしたいと思うものや、どこかに売ってしまおうと思うものもいるのよ、だからあなたが相手を見る目を養わないとダメなの、王子様のような男性をちゃんと見つけるのよ」


「王子様?」


「そうよ、ちゃんとした仕事に就いていて、マリーを誰よりも愛してくれる人、自分の目でそんな人を探し出すの。そうすればあなたは必ず幸せになれるわ、自分を安く売ってはダメよ」


「うん、分かった」


 母の教えはマリーの考えの元となった。

 自分は幸せになるために沢山の男の人から一番いい相手を選ぼう。

 そんな考えを持つようになっていた。


「でも孤児院にそんな素敵な王子様なんていないのよねー」


 母の『孤児院に預ける』という選択は間違っていないかったのだが、マリーは孤児院での質素でつまらない生活に嫌気がさしていた。


 そんなある日、母親が亡くなった。

 マリーは七歳。

 まだ母親が恋しい年頃だった。


 けれど葬儀の時、ある記憶を取り戻す。

 ハッキリとではないけれど、マリーは前世の記憶を取り戻し、自分が『ヒロイン』ではないかとそう気づいた。


「えー、あたしすっごい美少女じゃない? これって絶対ヒロインだよね?」


 鏡が無い孤児院で窓ガラスや水に映るマリーはとても可愛らしく。

 その上ピンク色の髪は珍しくてこの世界ではマリー以外に見たことが無く、若葉色に輝く瞳も綺麗で彼女の思い込みを強くした。


 そしてそんな思い込みを持つようになったある日、一人の少年が慰問だと言って孤児院にやって来た。

 大きな商会を営む家の子息らしく、着ているものはマリーの物とはまったく違い質が良く整っていて、汚れなどどこにもなく美しかった。


 見た目は可愛い系男子で、マリーは弟ポジの攻略対象者の様だなと思った。

 なのでヒロインの自覚があるマリーは、自分の可愛い容姿を最大限に使い、その少年に近付いた。


「こんにちは、あたし、マリー、良かったら少しお話しない?」


 彼に母が亡くなったことや、誘拐されそうになったことなど、自分の可哀そうな生い立ちを話せば、その少年はマリーを心から心配してくれるようになった。


「マリー、良かったらこれを使ってみて」


「えっ?」


 男の子からの初めてのプレゼントは、マリーの瞳のような薄緑色のリボンだった。

 正直リボンなんかより甘いものが欲しいと思ったけれど、顔には出さず喜んで見せた。


「ありがとう……でもダメよ、受け取れないわ、だってこれはエリックのものだもの、お友達からの施しは受け取れないの」


「マリー……」


 すぐに受け取っては、物が目当てで彼に近付いたと思われる可能性もある。

 マリーはプレゼントされたものを何度か断り、ヒロインらしく心が清らかな良い子を演じた。


 それにマリーの欲しいものは気軽に買えるリボンなどではなく、出来ればお金、それか孤児院を出る理由か、ヒロインとしての恵まれた地位が欲しかった。


 だからエリックが何かを持ってきても断ることが出来た。

 全部ではないけれど、お腹が空いていたとしても我慢して断った。


「ねえ、マリー、あのさ、僕の恋人になってくれないかな?」


「恋人? 恋人ってなぁに? お友達と同じ感じのもの?」


「ううん、それより特別、マリーには僕の特別になって欲しいんだ」


「エリック……」


 十歳を過ぎるとエリックに恋人になって欲しいと願われた。

 この世界では十代で婚約者がいるのは当然で、早ければ十五歳で結婚する平民もいるため、エリックの申し出は特別可笑しいことではなかった。


 けれどマリーの目標は学園に入学して攻略対象者たちと出会うこと。

 もしエリックが攻略対象者であれば今ここで交際を受け入れることは良策ではない。


 マリーは「まだ恋人とか分からないわ?」 といったピュアな少女を演じエリックをじらした。

 その後もエリックとは仲のいい友達止まりにして、でもちょっとだけ貴方は特別という意味を込めて、お土産だけはなるべく受け取るようにした。


(街を歩いても他の攻略対象者に会わないのよねぇ……もしかしてこの物語はエリックの申し出を受け入れないと始まらないのかしら? うーん、取り敢えず恋人なら別れられるし、エリックにオッケーを出してみて様子を見てみるべきかな?)


 マリーは前世、ゲームというものを殆どしたことがなかった。

 異世界転生も乙女ゲームもヒロインや悪役令嬢も何となく知っている程度、その上前世の記憶が曖昧なのに、自分がヒロインであることだけは自信があった。



「私の名はジークだ、今日は皆の生活を見せてもらいたいと思う」


 エリックと付き合いだしてすぐ、いかにも王子様ですという少年たちがやって来た。

 変装はしているようだが、その辺にいるモブ男子とは全然違い、皆キラキラと輝くようにカッコいい。


(来た来た来た! やっと王子様との出会いイベントがやって来たわよ!)


 特にジークハルトはマリーの好みそのままで、ちょっと俺様なところや、仲良くなるとどこまでも甘いところ。それに自分に自信がありながらもコンプレックスを持っていたりもして、マリーの好みドストライクそのものだった。


「もっとジーク様と仲良くなりたいけれど……孤児になった私では傍にいる資格はありません……」


「マリー……」


 この世界の男の子たち、とくに育ちにいい男の子たちは、か弱い女性というものに甘く、目を潤ませるだけで何でも願いを叶えてくれた。


 だからマリーは出来るだけか弱い女の子を演じ、自分はジークハルトに相応しくないと身を引く演技をした。


 するとある日、手ごたえがあった。

 ジークハルトに古めかしい装飾品を渡され、「これを母親の形見だと院長に伝えるように」とそう言われたのだ。


「マリー、これできっと私たちはずっと一緒にいられるようになるぞ……」


「本当ですか、ジーク様? 私、嬉しいです!」


 その言葉は本当で、孤児院の院長先生に母親の形見を見せれば、マリーは貴族の子供かもしれないと驚かれた。


 マリーの言うことを何でも聞いてくれるエリックに頼み、会ったことのない父親を捜してもらった。


 ジークハルトの下準備のお陰で、当然すぐにその父親は見つかった。


 年齢的にはおじいちゃん。

 妻も亡くし、子供もおらず、マリーのことを自分の娘だと父親はすぐに認めてくれた。

 お陰で孤児院からも抜け出せることが決まり、マリーは踏み台だったエリックとの別れを決意する。


(結局エリックって攻略対象者じゃなくってヒロインのお助けキャラだったのかしら? ジーク様達とも仲がいい訳じゃないから、きっとそうよねー)


 ジークハルトの周りにいる男の子たちは皆幼馴染だ。

 けれどエリックだけは違い、マリーとの出会いも彼らとは別だった。


 つまりエリックはマリーのお手伝いキャラ、踏み台になってくれるキャラなのだろう。


 エリックのお陰でこの世界の男の子たちを夢中にさせる練習も出来たし、どんな言葉が喜ばれるのかも学ぶことが出来た。


 実際、攻略対象者は皆、マリーがちょっと触れるだけで顔を真っ赤にして恥ずかしがったし、「頼りになる」「優しい」「信頼してる」なんて言葉を伝えれば、もうマリーに夢中。

 マリーの騎士か何かになったようになり、みんなでマリーを守ろうだなんてそんな言葉を吐く始末。


(この乙女ゲームイージーモードなのかな? 攻略めっちゃ簡単だったけどー)


 学園に入る時点でもう攻略は終わってしまった。

 マリーの未来は安泰、王妃確定だろう。


 けれど学園に入り、ジークハルトの婚約者を見て驚く。

 絶世の美女。

 その言葉がぴったりな相手だったからだ。


(なにあの人! 学生なのにあんな見た目とかチート過ぎるじゃない! 悪役令嬢は美女が多いけど、ちょっとズル過ぎる設定よね? ジーク様がコンプレックス抱えるのも当然よ! あの見た目で頭までいいなんてズル過ぎる!)


 その上ジークハルトの婚約者は生まれがジークハルトよりも上らしく、婚約解消は簡単には出来ないらしい。


 なのでマリーは良くて側室、普通に考えれば愛人止まり。


 そんなの乙女ゲームだとは言えない。


 ヒロインは自分なのにと、マリーは納得できなかった。


(何なのあの女! ジーク様との仲を見せつけたのに余裕顔で笑顔を向けてきたわ! 生まれも良くて顔も良くて頭もいいとかマジであり得ないんだけど! ヒロインは私なのに一体何様なのよ!)


 それでもジークハルトがシャーロットを毛嫌いしているのが救いだった。

 だから彼を上手く使いシャーロットを貶めようとしたが、何故か上手くいかない。

 ヒロインの力が足りないのか。

 それともジークハルトたちの攻略が早すぎたのが原因か。

 乙女ゲームが分からないマリーは、一人鬱々と悩むしかなかった。

 

(うーん、やっぱりエリックを捨てたことがダメだったのかしら? エリックも攻略対象者だったのかなぁ?)


 お助けキャラからの好感度が下がればヒロインの影響力は下がるのかもしれない。

 なのでジークハルトにエリックを紹介し、エリックの実家の商会が喜ぶだろう仕事を与えてみた。


 ついでに「ドレスが無い」とジークハルトに強請れば、エリックの商会で男爵令嬢では着られないようなドレスを用意してもらえた。


 ヒロインとして勉強も頑張り、成績も上げた。

 前世からあまり勉強は得意ではなかったけれど、この世界ではどうにか通用出来た。

 

 シャーロットは当然顔で一位という順位を取っていたけれど、それが却ってジークハルトのプライドを傷つけ、二人の仲はますます悪くなったようだった。


 そして遂に「王妃になって欲しい」とジークハルトに言わせることが出来た。

 これで攻略が完全に完了した。

 マリーは告白よりももっと違う意味で嬉しくって涙が出そうだった。


「ジーク様……嬉しいです」


 何度か自分ではダメだと断り、エリックの時と同じようにジークハルトをじらした。


 そのおかげなのか、ジークハルトはシャーロットよりもマリーの方が王妃に向いているとそうも言ってくれた。


(勝ったわ、勝ったのよ! あの恵まれた悪役令嬢に平民出身の(ヒロイン)が勝ったのよ!)


 これで遂にマリーはこの世界一の女性だ。


 マリーは誰からも敬まれ尊敬される女性になれたのだ。


(私が未来の王妃、何でも私の自由に動かせるのねー)


 そう喜んだのに、周りからの視線は何故か以前のまま。

 ジークハルトとの仲の良さを強調しても、マリーが王妃になるとは誰も思っていない。


 所詮愛人程度の女。


 同級生たちの視線がマリーを嘲り、笑っている。


 一体何が悪いのか分からない。


 攻略対象者たちはちゃんと全員攻略した。


 だからもうこの世界はマリーの物。


 それなのに、シャーロットを悪役令嬢だというものは殆どいなかった。




「エリックー、久しぶりぃー、元気だったー?」


「……マリー……」


 廊下で待ち構えお助けキャラのエリックに声を掛けた。


 エリックにシャーロットの悪い噂を聞かせればきっとそれは広がっていく。

 そう思いジークハルトたちがいつも話しているシャーロットの噂をエリックに伝えてみた。


「ジェイのお姉さんって、美人だけど性格が悪いんですって、ジーク様も呆れてたんだから。だからね、ジェイは今遊ぶ時間がないの、自由がないだなんてジェイが可哀そうよねー」


「は……?」


 学年が違うシャーロットのことが分からないのか、エリックの反応は余り良くはない。

 お助けキャラと言っても所詮モブなのか、攻略対象者たちに会ってからはマリーが構っていなかったからか、エリックはもう役に立ちそうになくて正直がっかりした。


(これは何か事件が起きないとダメなのかも……)


 ヒロインは悪役令嬢から虐められる立場だ。

 だけどマリーは既に攻略対象者たちに守られているので虐める機会がない。


 早すぎる出会いがダメだったのかなぁと思い、自分で工夫をすることにした。

 そのお陰でクラスの皆も心配してくれるようになり、ジークハルトたちはシャーロットを警戒するようになった。


 これできっと上手くいく。

 自分は皆に愛された王妃になる。


 そう信じて疑わないマリーは、ある日ある人物に呼び出された。


 そして気づけばその人物に階段から突き落とされ、目が覚めると自室のベッドの上だった。


「マリー、良かった、目を覚ましたんだな」


「ジーク様……私……」


「マリー、君は階段から落ちたんだよ、覚えているかい?」


「階段……?」


 目を開ければ心配そうなジークハルトの美しい顔があった。


 その中にマリーを呼び出した人物であるジェイドもいて、真っ青な顔になっていた。


 ジェイドの告白を断ったからきっと階段から落とされたのだろうけれど、マリーはこの事件をチャンスに変えることにする。


「……ジェイ……もしかしてお姉さんに、私を呼び出すように頼まれたの?」


「えっ……?」


「私を階段から突き落とすようにって、お姉さんにお願いされた?」


「ジェイド、そうなのか?!」


「……」


 ジークハルトを始め、驚いた攻略対象者たちがジェイドへと視線を向ける。

 ジェイドは顔色を悪くしたまま、何も答えることなくこくんと頷いた。


(ああ、やっと勝てた……やっぱりヒロインへのイジメが足りなかったのね……)


 マリーは心の中で悪役令嬢に勝ったとほくそ笑みながら、ジェイドのことが心配だから大げさにしないでと皆の前でいい子ぶる。


 こんなこと、王妃になることを考えれば大したことじゃない。


「ジークハルト様、私は大丈夫ですから……」


 健気にそう言って見せれば、ジークハルトは決意の籠った表情となっていた。


(遂に私だけの王子様が悪役令嬢を倒すのね!)


 マリーはヒロインである自分を、どこまで行っても疑わないのだった。

こんにちは、夢子です。

いつも読んでいただきありがとうございます。

ブクマ、良いね、評価など、応援も感謝しております。


やっとマリーのお話が書けました。

もう少し頑張ります!

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