剣術について
エアリーに置いて行かれ、忘れ去られた僕はこれからは一人で稼いでいくことに決めた。
もうエアリーを追いかけるといったバイタリティーは湧いてこないので。
それに元々一人でやっていくつもりだったからね。
さて、剣術レベルなのだが、どうやって上げていこう?
素振りや稽古、実戦等、方法はいろいろあると思うけど、何が一番効率がいいのかわからない。執事さんに教えてもらうつもりだったのに、当てが外れてしまった。
なんだかめんどくさい気持ちになってきた僕は今日はもうだらだらしようかなと思い、宿へ向かうことにした。
すると、宿の入り口で見知った顔に出会った。くすんだ金髪に老け顔の冒険者をやっている青年。この世界で初めて会った人間だ。
「お、トモミ、久しぶりだな。どこか遠くまで狩りにでも行っていたのか?」
そういえば、なんていう名前だったっけ?
「ええっと……クラーク?」
「全然違うわ! アーサーだよ! 忘れたのか」
「ああ、そうだった。アーサーだ! ごめんごめん、名前だけすぐに出て来なかったの。アーサーは元気だった?」
「ああ、俺は元気なやってるよ。依頼もしっかりこなせたからな」
「あ、そういえば、もう一人のひょろっとした人はどうしたの?」
「マーズか? マーズならしばらく実家の手伝いに行っていて1月は帰ってこないんだ。だから、しばらくは一人でボチボチやっていくつもりなんだ」
そうだ! ちょうどよかった。アーサーに剣術レベルの上げ方を教えてもらおう。
「何? 俺に剣術を教わりたいのか? そのぐらいお安い御用だぜ。だけど、教えるからにはビシバシ鍛えるからな。途中で弱音を吐くんじゃねーぞ」
「いえいえ、スパルタとかいらないので、楽してレベル上げる方法教えてよ」
「え……いや、そう言われても……剣術って体いじめてなんぼだし……」
「そう……楽してレベル上げる方法が無いんじゃ仕方ないわね。別をあたるわ。それじゃあバイバイ」
「え! ちょ、ちょっと待って。じゃあ基本系だけでも聞いていかないか?
基本を覚えるだけならしんどくないし」
「そうね、どうしてもって言うのなら聞いてもいいわ」
「ああ、ぜひ聞いていってくれ」
やっぱりアーサーはくみし易いなぁ
というわけでアーサーから必要なことだけを聞き出すことができた。
剣術はこの世界では割とメジャーなスキルらしい。いくつもの流派があり、素振りや稽古でレベルを上げるのが一般的なようだ。ただ、高レベル者になってくると魔獣狩りのほうがレベルが上がり易すかったりするそうだ。スキルの使用回数を稼ぐなら素振りや稽古の方が効率がいいのだろう。だけど、回数以外の要素もありそうだ。
この世界で剣術を習う場合、まず型を覚えてからひたすら素振りを行う。それが剣術スキルを覚える近道だと教えられているのだ。レベルを5まで上げるよりスキルを覚えるまでの方が大変なのだとか。
剣術の型は流派によって様々だが、自己流で鍛えるより型を覚えた方がレベルが上がり易いとのこと。
他にも、素振りよりも稽古で人に打ち込む方が上がり易いとか、レベルが近いもの同士で実践形式の稽古をすると効果があるとか様々な方法がある。
これらはすべてその流派の開祖の経験則に元づいているので本当かどうかは不明であるが、ある程度は信用できそうだ。
ただ、高レベル者は魔獣狩りで効率よくレベルが上がるってのが気になる。この世界ではレベルはスキルにしか付いていない。そのため魔物を倒してレベルアップという仕組みにはなっていないはずである。魔獣狩りでスキルレベルが上がるっていうのはどういうことだろう。
まあ今度試してみればいいか。
そんなわけで僕は今アーサーに剣術の型を教わっている。
ある程度型を覚えたら稽古にもしばらく付き合ってくれるらしい。あいかわらずお人よしだなぁ。
ちなみにアーサーの剣術レベルは3だ。長いこと訓練は続けてきたがレベルは思うように上がらなかったらしい。向き不向きもあるのだろう。
アーサーが学んだのは風神流というこの国で最もメジャーな流派で基本となる型は3つしかない。打ち下ろし、突き、薙ぎ払いの3つの型は覚えるだけならすぐにできた。
ただし、この型を素早く十分な威力で繰り出すためには体が覚えるまで素振りを繰り返す必要だある。
「アーサーはレベル2になるまでどの位かかったの?」
「そうだな、俺の場合、才能が無かったからなあ。他の人より倍ぐらいかかった。スキルを習得するのに4年、レベル3まで上がるのに1年ってところだな」
じゃあ普通は習得に2年、レベル3まで上がるのに半年ってところか。半年は長いな~。
「結構かかるのね。それって毎日鍛えててそんなにかかるの?」
「ああ、毎日素振り1000回は欠かさなかった。最近はちょっとサボってしまっているけどな」
僕は自慢じゃないが一つのことを1か月以上続けれた試しがない。半年も毎日素振り1000回を続ける自信がない。
「う~ん、何かもうちょっと短期間で鍛える方法はないかな?」
「そんな都合のいい方法、俺が知りたいよ。まあ、剣術は地道に鍛えるのが一番の近道だ」
しかたがない、しばらくはしんどい修行を続けてみよう。そのうち、効率のいい方法を研究していこう。
その後、僕は素振り100回(軽めの木刀で)でバテテしまった。やっぱり剣術向いてないかも。