プロローグ
プロローグ
地鳴りのような歓声が空間を震わせ
人々と期待に満ちた目が一人の幼い
男の子に注がれていた。
レイア・リンズベル
その小さな体には到底似合わない大剣
を両手でしっかりと握り、
12歳とは思えない無機質な表情で
目の前の敵を見つめていた。
「さあ、ついに大詰めを迎えました!
しかし、本当に今大会は驚きの連続でしたね」
興奮を隠しきれない様子で実況が続け
られる。
「12歳の子どもが大会の出場資格を得たというだけでも、異例のこと。
しかし、彼は今まさに大会最後の試合に向かおうとしています、
一体誰がこのような展開を予想することが出来たでしょうか」
「はじめ」
レイアは試合開始の合図とともに
相手から距離をとり、様子をうかがっていた。
「懸命な判断だな。」
自信と余裕の表情を浮かべながら
男はレイアの剣をじっくりと観察していた。
過去2回圧倒的な力を見せ大会に優勝してきた、この男からすればいくら
予選を勝ち抜いたとは言え、たかが
子ども
でしかなかった…
男はようやく自らの剣を抜き
「何が革命の子だ。ガキ
お前のようなガキが大会に出たことを
後悔させてやる。」
そう言うと、体内の系圧を高め一気に
レイアとの距離を詰めた。
「………………」
「おかえり。お兄ちゃん!」
満面の笑みでレイアの帰りを迎えた
リアはまるで、レイアが帰ってくる
時間を知っていたのかのように
焼きたてのパンとスープをテーブルいっぱいに並べていた。
「よかったね」
リアの心からの声がレイアを驚かせた。
リアは今まで兄が試合に勝った事を喜んだ事はなかったからだ。
「知っていたの?」
レイアが椅子に腰掛けながらリアを見つめた。
「うん。街中大騒ぎだからね。12歳の子どもが傷ひとつけられずに勝ったって」
レイアはようやくリアの笑顔の意味
を理解した。
「これだけあれば、当分は食べるのに困らないかな?」
試合の賞金をテーブルの上に置いてからスープに口をつけた。
「うん。そうだね…ありがとう…」
一瞬リアの表情が曇った。
リアは死ぬかもしれないという危険を犯して兄が試合に出続けている事を良く思ってはいなかった。
例えそうするしか生きて行く方法がないと頭では分かっていても
何よりそれが自分の為の行為であると
理解していてもだ。
「明日、王宮に行かなくちゃいけないみたいなんだ。」
疲れきった表情で呟いた。
レイア自身ああいう舞台は好きではなかったし、一度も相手の攻撃を受けず
に完勝したのだから身体的なダメージはなかったものの、連戦による疲労と
革命の子として周囲に持ち上げられることへの嫌気からついため息をついた。
本来王宮に一般の民が呼ばれるという事はこの上ない名誉であったのだが、
レイアにとってはどうでもいいことだった。
翌日、王宮に向かうために準備をしていたレイアの後ろに指先で顎を撫でながらリアが立っていた。
「お兄ちゃん、その格好で行くつもり?」
リアが心配そうにまた、少し笑いも混ざっているような声で聞いた。
「ふぅ?」
レイアが寝癖だらけの髪を触りながら
気の抜けた返事を返した。
レイアは戦うこと以外になると頼りなく、年相応の幼さを保っていた。
リアにとってはこちら側がいつも通りの兄なのだが、戦いでの相手が動く事さえ躊躇うほどの威圧感を発する兄の姿をあまり見た事がなかった。
しかし、さすがに穴だらけの服で王宮に上がるのはまずいと気付いたのか
急に焦りだし、タンスの中身をひっくり返し始めた。
「ストッープ!」
リアが少しムッとした顔でレイアを睨んでいた。
「それ、」
リアは床一面に広げられた、布切れのような服を指差していた。
「いつも帰ってきた時には元通りになっているのは、魔法かなんかだと思ってるでしょ?」
リアは足元に投げ捨てられていた服
を摘みあげて言った。
「ごめん…でも、来て行く服がないんだ。」
「はいっ。」
リアから受け取ったボロボロの財布から想像以上の重みを感じた。
「これは…」
レイアは不思議そうにリアと財布を順々に見た。
「服買って来て。」
リアが嬉しそうに微笑んだ。
「ありがとう。」
レイアはそう言うと、一度ほほえみ返してから家を出ていった。




