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31話 絶対やり遂げる


「セレス、何も心配することはないからな。ちょっと指がチクッとするけど、それだけだから。あ、でも痛かったらすぐ言うんだぞ」

「旦那様、少し落ち着いてくださいませ」


 魔力測定当日。

 お父様がお姉さまに心配そうに声を掛けているけど、お姉さまは不思議そうに首を傾げていた。うん、多分、お姉さまは何がそんなに心配なのか分かってないんだろうな。


 でもお父様の気持ちが分かるよ、私! ちょっとでも痛い思いしてほしくないですよね! 分かる! 本当に分かる! それに痛くてもお姉さま、我慢しそうだから余計に心配になる!


「侯爵は心配性だなぁ。ただ少し指先を切るだけなのに。すぐ治るよ」

「……」


 私の横でちょっと呆れつつもおかしそうに笑っている殿下をジトーッと見つめてしまった。なんでいるの?


 クスクスとやっぱりおかしそうに笑っている殿下が楽しそうに私を見下ろしてくる。


「いやあ、フィリアにそうやって見つめられると照れちゃうよ」

「いや、いる意味が分からないんですけど?」

「僕だってセレスのことが心配でさ。無理やり来ちゃった」


 全然可愛くない、その舌を出すの。


 何故かさっき来たんだよね。教会の人たちもびっくりしてたけど、お父様がそれはもう構うのも面倒臭そうに『お好きにどうぞ』とか言ってた。


 殿下のことより、今日の魔力測定でお姉さまが嫌な思いをしないのか心配みたい。教会の人たちも事務的に動くから、対応が冷たく感じるしね。分かる。


『王子様って暇なんだね』


 スクル。その呆れつつもちゃっかり殿下からリンゴ受け取るの何? 喜んでるの? 呆れてるの? どっち? っていうか、肩でそれ食べないでね。


「これで今日は全員?」

「そうですよ」

「ふーん」


 スクルからリンゴを取り上げていると、殿下が周りを見渡しながら呟いた。ああ、王宮での魔力測定とは違うって思ってるのかな? そりゃ違うでしょ。王子様の魔力測定と貴族令嬢のじゃ規模が違うって。


 まだ周りを見ながら「へえ」とか呟いている殿下のことは放っておく。前の時間軸ではこの場所にいなかったんだけど、今回は本当に暇潰しに来たみたいだし。って、何故か護衛の人に呼ばれて行っちゃったよ。何しに来たんだか。


 ――そんなことよりも。


『フィリア、緊張してる?』


 リンゴを取り上げられて少しむくれていたスクルが顔を覗き込んできた。


 ……してる。ものすごくしている。今日は絶対失敗できない。


 ふーっと静かに息を吐いて、測定の説明をお父様と聞いているお姉さまに視線を向けた。


 今から、私はお姉さまの魔力に干渉する。


 練習はしてきた。スクルが周りにいるチビッ子精霊さんたちに協力してもらうように呼び掛けて、魔力への干渉をする練習。


 小さくても精霊は精霊みたいで、魔力の反発が半端なかった。私の中にあるのはスクルの魔力なのに、それでもだ。何度倒れかけたかは分からない。


 精霊さんの魔力にスクルに教えてもらった魔法をかけようとすると、それはもうなんというか、頭も体もグワングワンと激痛が走ったし、それに比例するかのように気持ち悪さも駆け巡った。人間と精霊の魔力の性質の違いをはっきりと突き付けられたよ。


 ものすごく具合悪そうにしている私に気づいて、お姉さまに何度心配されたことか。そのたびにヨシヨシしてもらって元気になったけども。


 そのお姉さまは今もチラチラとこっちを見てくる。うう。心配かけてる。昨日もギリギリまで練習して、ベッドから出られなかったもんなぁ。大丈夫ですよ、お姉さま! 今の体調はバッチリですからね!


 安心させるためにニコリと笑って手を振ると、ちょっとだけ安心したのかすぐにお父様たちの方に顔を向けていた。よしよし、あまり不安そうな顔だと、お父様もさらに心配しちゃいますよ。


 ……でも、これは絶対やり遂げる。お姉さまの未来の為に。


『心配ならやめてもいいんだけど?』


 フルフルとスクルのその気遣いに首を振った。今は皆が近くにいるから答えられないけど、大丈夫だよ、スクル。私は絶対失敗しない。


 ううん。失敗しちゃいけない。

 お姉さまの為にできることを、私はやっていきたいんだから。


 心配してくるスクルに視線だけ向けて、笑顔を作る。ハアと困ったように息をついているスクルに、ちょっとだけ申し訳なくなってくる。ずっとこの魔法の練習をしている時、不安そうだったもんね。


『一応、こっちでもあんたに魔力は渡すから。それでちょっとは反発も和らぐと思う』


 うん。前もって言ってたスクルの魔力の受け渡し。私の中のスクルの魔力に、周りにいるチビ精霊さんたちの魔力を上乗せするらしい。


 私からの魔法は何故か反発するんだけど、一回スクルを通した精霊の魔力はちゃんと私に渡せるみたい。試したら出来たんだけど、今でも疑問。スクルもそこまではよく分からないらしいし。さすがにお姉さまに対して、純粋に力の差で魔法はかけられないみたいだけどね。


 けど今は助かる。なんてったって、お姉さまの魔力の半分は精霊王さんの魔力でもある。きっと今までの練習とは比較にならないほどの激痛が返ってくること間違いなし。


「では、こちらへ」


 教会の魔道具をホールの中央に置き、教会の人がお姉さまに近くに来るように促した。


 お父様はハラハラしているように背中が丸くなって両手を握っている。バールはそのお父様を呆れたように見つめ、アネッサとカンナはちょっと心配そうにお姉さまを見ていた。


 さすがに緊張感が半端ない。

 ゴクッと生唾を飲み込んでしまう。


 チャンスは一瞬。

 お姉さまの血が、魔道具に入る瞬間。


 フーっとまた静かに気合を入れて息を吸って吐いた。魔法が発動するのも、スクルとその周りにいるチビ精霊さんたちの魔法で、殿下たちから気づかれないようにしてくれるはず。だから自分は自分の今の魔法に集中するだけ。


 集中。集中。集中。


 瞬きもせず、ジッとお姉さまが差し出した手を見続ける。ここ最近スクルと練習していた魔法を発動するイメージをする。


 かける魔法は、隠蔽。

 お姉さまの魔力自体を隠蔽する。


 魔道具が計測するのは、血に刻まれたその人の魔力量。そこから年齢を反映させれば、その人の持つ魔力量を把握できる仕組みらしい。多分。バールがそんなことを教えてくれたことがある。


 だから、今のお姉さまの魔力量を刻んでいるその血を隠蔽すればいい。


 でも反発は魔法をかけられた対象から術者にくる。お姉さまのその魔力が刻まれた血が対象だから、反発は絶対来る。


 それでも、少しでいい。

 ほんの少し、お姉さまの魔力量を減らすイメージ。


 それが出来れば、私はどんな激痛にでも耐えられる。


「少し痛みますが、我慢してください」


 教会の人が小さいナイフをお姉さまの指に当てた。あまり痛くないのか、お姉さまは顔色を変えずに、されるがままその手を魔道具に翳している。


 ゆっくりと指から血が出てくる。

 その血が魔道具にかかる瞬間。


 ――今!


 自分とスクルにしか見えない魔法陣が、私の足元と魔道具の下に広がった。


「っ――!!!!」


 予想通り、いや、予想以上の痛みと気持ち悪さがグワッと一気に体中に駆け巡った。服の中で体から汗が一気に吹き出るのが分かる。


 痛い! 気持ち悪い! 痛い! 気持ち悪い!

 二つの感情と激痛と吐き気が頭も体も支配していく。


 歯を食い縛って、拳をギュッと握って、ジッとそれでもお姉さまの血が入った魔道具を見たけど、痛みと気持ち悪さで目が霞むからよく見えない。


 ちゃんとかかった? 

 気持ち悪い! 痛い!

 どうなった? 

 痛い痛い! 気持ち悪い!


 気になるのに、やっぱり痛みと気持ち悪さで心も体もいっぱいで。もうぐちゃぐちゃで。今まで練習していたチビ精霊さんたちの魔力の反発が可愛く感じる。何これ、やばい!


『フィリア! ゆっくりゆっくり深呼吸だよ!』


 視界が霞む中、肩にいるスクルが声を掛けてくるけど、返事なんてできない。少しでも気を抜くと吐きそうで、すぐにでもここに転げ回りたいほどの激痛が体の中を走っている。


 握った拳の内側は汗でいっぱいで、体も気持ち悪いくらいべたついていた。ハッハッと自分の息が荒くなっていたけど、またすぐに激痛でギュッと口を引き結んだ。


 ――スクルが無理だって言ってたの、やっと分かった!

 これ、本当にきつい! きつすぎる‼


『もう座りなよ! 立ってる必要ないって!』


 スクルが心配そうに肩から声をかけてくる。そんなの無理だよ! ここで倒れたら、お姉さまが心配する! そう答えたいけど、答える余裕なんてない。


 倒れないように手をまた強く握って、足に力を入れる。まだ倒れちゃ駄目。絶対駄目。


 汗なのか、涙なのか、視界はぼやけている。

 激痛と吐き気の中、それでも気になるのは、魔道具がどう変化したか。でも周りの声がそこまで聞き取れない。


 ねえ、スクル。ちゃんと教えてよ。どうなった? 成功した?


 霞む視界で、だけどお姉さまがさっきいた方向を見続ける。あの銀髪の色だけ分かって、それ以外は分からない。


『フィリア!』


 スクル、お願い。もう見えないよ。だから、教えてよ。皆、なんて言ってる?


 ガンガン響いて頭の中を痛みが走る。体の中を走っていく。

 気持ち悪さで息がし辛い。


『ああ、もう! やっぱり止めさせればよかったよ!』


 苦しい。

 苦しい苦しい。

 痛い苦しい気持ち悪い。


 どんどん、力が抜けていく。

 視界がどんどん暗くなっていく。


 だけど、


 銀の色だけが、何故か大きくなっていく気がした。


 あの、大好きなサファイアの色が、近い気がした。



「フィリア!」



 お姉さまの声が、聞こえた気がした。


 あ、れ?

 幻?


 ……初めて……名前……呼んで、くれた、かも。



 真っ暗になった。



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