鈍行さん登場
鈍行アイドルは第2話から絶好調です。お好きな順番で読んで頂ければ幸いです!
頼むから新幹線に乗ってくれ。俺、糸静幕那は全身全霊で懇願する。
「だめですわ、ちーと行為ですわ」
「チート行為って……」
「あら? あなたはチートの意味もわからないのでございますか?」
「いや、そうじゃなくて……」
「なら行きますわよ、奈良行きますわよ」
うまいこと言った、と満足気なお嬢様は、在来線への改札へと突入していった。
さて、今日はどこまで行くのやら。
プロローグ
俺、糸静幕那は春に大学生になりたての一年生だ。もともと地頭はよかったので、受験に相当苦労した、ということはなかった。
大学に入ってもきちんと継続して勉強すれば問題ないだろう。
そう思っていた。実際、特に問題はなかったのだ。基本的にひとつひとつの講義、課題を丁寧にこなしていた俺は順調に単位をとっていった。
そうやって、大学生活も順調に進んでいたと思った矢先、俺は重大な問題に直面してしまった。
講義の終わりに、冊子が回ってきたのだ。そこに書かれていたのは、
「特別ぐるうぷがくしゅう? なんだと……」
無理もない。高校生まで一人を好んできた俺は、大学での会話は皆無だった。
決して会話が嫌なわけではないが、あまり得意ではない。ただ話す機会がなかったから、ちょっと話しづらい。
もちろん覚悟はしていた。グループ学習があることは知っていたし、今後の社会生活でも欠かせないだろう。
問題は、今回のグループ学習が、「特別」であることだ。
これまでのグループ学習は、三、四人でのいわば班別学習みたいなものだった。しかし今回は「特別」と銘打って「ペア」での学習と書かれている。
まずいな。
「一週間のペアワーク! 自由研究をみっちりやろう! 〜ペアはご自由に〜」
俺は静かに教授のもとへ向かう。講義が終わり、三角定規やら分度器やらを片付ける数学科講師、城崎天海はこちらに気づく。
「あら? 糸静くん? どうしたのー?」
のんびりと話すアマミ先生に俺は懇切丁寧にお願いをする。
「ぺあが……ぺあが、僕には見つからないと思います……」
教授や講師とはよく話せる俺は、もしかしたらアマミ先生が組んでくれるのでは? と淡い期待をしていたのだが。
「だいじょうぶよー。糸静くん、真面目だし、すぐ見つかるよ? ほら、いきなり美少女が突入して話しかけてくれて…… みたいな?」
そんなわけないだろ。あるわけないだろ。
色恋沙汰とは百八十度反対にいますよ。右手に持っている分度器でちゃんと測って下さい。
そう思ったその時、
「イトシズ、マクナくんっ! ここにいらっしゃるかしら⁉︎」
ロングヘアの黒髪さんが、勢いよく突入した。
ひどく不自然なタイミングに困惑もしたが、それ以上に、全く心当たりがない人が俺の名前を呼んだことが……。
念のため、同姓同名がいないか、後ろを確認したがみんな既に帰ってしまったようだ。
別に俺はその少女が俺を呼んだのが嫌ではない。ただ、少しでも嬉しいと思ってしまったら、となりでニヤニヤしてるアマミ先生に負けた感じがするのだ。
いや、というか嬉しい嬉しくない以前にこの少女の要件はなんだ?
俺、何にもしてないぞ?
「はじめまして、糸静幕那くん。神栖川羽咲、四年生ですわ」
「ああ、こんにちは……。何の用でしょう?」
「何か用事がなければあなたのもとに来てはいけませんか?」
「いや……。そういうわけではないが……」
むすっと返した神栖川さんは、髪をかきあげる。
なんだろう、人違いとしか思えない。神栖川さん……。聞いたことないな、
隣のアマミ先生にこっそり聞く。
「神栖川さんって、誰ですか?」
「えっ? 知らないの? ウチの大学のトップの学生だよ?」
まじか。いや、というか、四年でトップって。
「そうですわ、首席卒業の予定ですわ」
そうなるよな……。で、そんなお嬢様が俺になんの用だろう?
「あなたにお願いがあります。わたくしに地の果てまで付き合ってください」
「………………………………」
「沈黙を了承と受け取らせていただきますわ、ついてきて下さいですわ」
なんかのイベントみたいだな。大学首席の華麗なお嬢様が、わたくしに付き合って……など。色恋沙汰の対角線の俺には無縁のはずだが……。
と、俺は違和感を覚えた。
「で、どこまで、付き合えばいいのですか?」
もしかしたら「チノハテ」という地名があるかもしれない、と思って聞いてみたが。
「どこって、地の果てですよ。それよりも、私には組んでくださる方がいないですの。だから、あなたは私に付き合うべきですわ」
地の果て…… というか、いないからってなんで俺なんだ?
とは思ったが、「どこ⁉︎」「なぜ俺⁉︎」 の質問ばかりでは話が進まない。
ここはペアの成立を優先して聞かないでおこう。
なんてったって、千載一遇のペア成立チャンスだからな。
となると、新たに次の質問は……。
「なんの自由研究をするのですか?」
すると、神栖川様は微笑んで答えた。
「旅行調査ですわー」
「旅行調査? 自由研究で旅行?」
そうですわ、とお嬢様は答えて、
「旅行だって、立派な研究ですもの!」
そうか……
まあ、楽しそうだし、いいか。むしろ感謝すべきかもしれない。
「わかりました。ひとまず、明日から一週間よろしくお願いします」
「よろしくですわー♪」
すると神栖川様は、俺に折り畳んだ紙を渡して講義室を出て行った。
はあ、なんだったんだ?
久しぶりに学生と話した俺の疲労は限界突破していた。
あれ、もしかしたら、七日間ずっと話す必要があるのでは……?
まあ、何はともあれやるしかないか。今更変えられないし、むしろペアを組んでくれて感謝すべきだ。
アマミ先生に挨拶し、俺は講義室を出た。
次回は汐留〜大垣までのドン旅です!




