ネクサスの街
「あいつら、もう攻撃してきたのか!」
「うわー、ほんと懲りないねー」
軽い口調とは裏腹に、部屋の空気は張りつめていた。
俺は今すぐクローゼットに飛び込みたい衝動を必死に抑える。
「な、何が起きてるんだよ!? なんで俺の家が狙われてるんだ!」
叫ぶ俺をよそに、五人組は妙に落ち着いていた。
「落ち着いて、北松」
「ボス。外の連中、片付けますか」
低い声が飛ぶ。
見ると、さっきまで黙っていた男が、俺の椅子にもたれたまま黒羽を見ていた。
「ああ、頼む、田沼」
「了解」
次の瞬間、田沼が立ち上がる。
迷いなく俺の横を通り過ぎ、そのままドアへ。
バンッ! と勢いよく扉が開き、男は外へ消えた。
「よし、みんな戻る準備!」
黒羽の声で空気が一気に動く。
座っていた連中が次々に立ち上がり、俺の横を通過していく。
速い。誰一人ためらわない。
まるで最初から全部決まっていたみたいに。
「君も来るんだよ」
最後に残った黒羽が、振り返って俺を見る。
「……っ」
――どうする。
逃げるか?
いや、無理だ。
田沼の動き見ただけで分かる。逃げ切れる相手じゃない。
でも、少なくともまだ俺は殺されてない。
なら今は従うしかない。
俺は唾を飲み込み、黒羽の後を追った。
「そうだ、まだ名乗ってなかったね。私は黒羽」
家の外へ出た瞬間、熱気が肌を打った。
見ると、田沼が立っている。
その周囲だけ空気が揺らいでいた。
「あの二人は?」
「片付けた」
短い返答。
けど、その一言だけで十分だった。
「なら急ごうか」
黒羽が言う。
なのに、誰も走り出さない。
全員、その場に立ったまま。
――は?
なんで動かないんだよ。
そう思った次の瞬間だった。下がる。
「……っ」
足元が、突然光った。
いや、俺だけじゃない。周りにいた五人全員の足元にも、同じような魔法陣みたいな光が浮かび上がっている。
「またか――」
言い終わる前に、視界がぐにゃりと歪んだ。
次の瞬間。
目の前の景色が一変していた。
さっきまでの部屋の空気とは真逆の、冷たく湿った風が肌を撫でる。
――どこだ、ここ。
地下……か?
そう思った瞬間、胃の中のものが逆流してきた。
「うっ……!」
耐えきれず、その場で吐き出す。
「あはは! 吐いた、吐いた!」
帽子の女が腹を抱えて笑った。
――こいつ、一回殴っていいか?
「大丈夫か」
低い声と一緒に、黒羽がティッシュを差し出してくる。
「転送すると平衡感覚がおかしくなるんだよ。慣れてないと大体みんな吐く」
――また普通に魔法の話してるよ、この人たち。
口元を拭きながら立ち上がる。
その時だった。
床に吐いたはずのものが、綺麗さっぱり消えていた。
さらに、手に持っていたティッシュまで砂みたいに消滅する。
「転送魔法って、結構便利なんだよねー」
黒羽は俺の反応を見て面白そうに笑う。
俺が立てるのを確認すると、そのまま近くの電話ボックスへ向かっていった。
周囲を見回す。古びたベンチ,薄暗い照明,冷たいコンクリートの床。冷たい風が吹いてる。
そして――線路。
他の四人はベンチに座って、まるで普通に電車待ちでもしてるみたいにくつろいでいた。
――ここ、地下鉄か?
いや待て。
なんで俺はこんな場所に連れて来られてるんだ。
魔法だの転送だのは一旦置いといて、そこが一番おかしい。
恐る恐る歩いて確認すると、ちゃんと線路が続いている。
その時、背後で電話ボックスの扉が開いた。
黒羽が出てくる。
「もうすぐ電車が来るから、線路には近寄らないで」
「いや、落ちるわけ――」
そう言いかけた瞬間。
ゴォォォォォン――ッ!!
地下空間に、重低音の警笛が響き渡った。
反射的に一歩後ろへ下がる。
暗いトンネルの奥。
そこから、何か巨大なものがこちらへ近づいてきていた。一昔前の3両編成の電車が目の前に止まった。どう見てもどこにあるような電車だった。電車の中に入るとピッカピカに綺麗だった。自分の顔が反射して写ってた。席に座ると黒羽が隣りに座り、その隣りに田沼が座った。他の三人は目の前に座った。それから電車のドア閉じて出発した。
——今からどこに行くんだ
「科学院の受け渡しだからすぐ着くよ」
「え?」
「ああ…そう言えば何も言ってなかったな。まあ気にするなよ、後で上の人たちが説明してくれると思うから」
と黒羽は言ってその後田沼に何かを話しかけた。
俺は窓の外を見た。そこには誰か知らない顔が写ってた。たけどそれが自分の顔だと気づいた。まるで死人を見たような顔をしてた。まるで今起きてることが信じられないようだった。
——さっきまで普通だった生活が変わったのにも関わらず説明がないから当たり前かー
そう思ってたらトンネルの向こうが明るくなってきた。そして電車がトンネルの外に出ると地下にある街が広がっていた。ここがまだ地下だと分かったのは白い天井が見てたから。
「次の駅は終点ネクサス、外部の人ならばパスポートを準備して降りる準備をしてください」
と電車内の放送が言った。
「ここからは違う人についてもらうからね」と黒羽が俺を見て言った
そして電車を降りるて階段を下った。そして改札口にあるはずの場所についた。この改札口には顔認証機能があった。俺以外の他五人は順番に通っていった。俺の番になった。
「北松 陽夜 を黒羽組が確保、黒羽組に得点をつける」
と機械音声が鳴った。
改札口を出ると黒羽が知らない二人と話をしてた。
「……い、彼はそこにいました」
「報告ありがとうね」
俺が近ずくとこっちを見て黒羽と話してた女性が俺に向いて話しかけてきた。
「あなたが北松くんだね、ここからは黒羽の上司であるライラ・ヴェスパーと助手であるエリアス・ヴォスが本部に送るからね」
艶やかな黒髪の間から虎の耳がのぞき、琥珀色の瞳は宝石のように輝いていた。
俺は頭を頷く。獣人だと言うことを誰も何言わないから驚きを心の奥にしまった。中本部と聞いてやっと何かを教えてくれると分かった。




