19・犬が飼いたい。
あなたは、自分がずっと犬を飼いたかったことを思い出した。
箪笥と壁の隙間に見える黒い影が犬に見えたからだ。
ううん? と首を傾げる。
犬を飼いたかったという気持ちを思い出したときに、頭の中にさまざまな犬の映像が流れ込んできたからだ。
詳細は思い出せないものの、かつての自分の瞳に映った映像なのは間違いない。
だが、おかしい。
自分が飼った犬の記憶なら、あまりに多過ぎる。
子どものころ、親の代から飼っていた犬と寿命で別れたとしても、十代後半から二十代前半と思しき自分が飼い始めた犬ならまだ健在なのではなかろうか。
保護施設で老犬を引き取ったのだとしても、子犬の記憶があるのは妙だ。
飼いたかった気持ち、だから流れ込んできた犬の映像は動画で見ただけかもしれない、とあなたは思う。
あるいは犬の保護施設で働いていたのか。
そこまでの記憶は戻ってこない。
「きゃふ!」
ぼんやり考えていたら、黒い影が隙間から飛び出てきた。
犬だ。まごうことなき犬だ。
両手を合わせたら包み込めるほど小さい、ふわふわのモコモコだ。あなたは無意識にその犬を抱き上げていた。
「犬? どうして座敷牢の中に?」
青年の怪訝そうな声が聞こえる。
あなたは彼を見つめ――
「この犬、飼っても良いですか?」→20へ
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