17・すべてが終わって……
なんとなく、ここはただの座敷牢ではないような気がしているのだ。
あなたがここに連れてこられたのには、きっとなにか理由があるに違いない。
システムに干渉できるのも、向こうのミスというより最初から想定範囲内なのではないだろうか。
「どうせなら、逃げる前にもっと現状を確認しておこう」
オンラインで一緒に惑星を研究するゲームをしているのは一郎達だ。
直接座敷牢に来ることはないが、一日に一回はチャットで会話している。
システムを遡れば、彼らの情報も手に入る。これまでは犬と遊ぶのに忙しくて、そこまでする気が起こらなかったのである。
「まずは今日のノルマを……」
あなたがゲームに向かったとき、一郎が入ってきた。
「休暇は終わりですよ、博士」
「え?」
「まだ記憶戻してないんですか? 緊急の仕事はしてもらっていましたけど、それでもあなたの仕事が溜まってるんです。座敷牢モードで暮らしてても構いませんので、仕事量だけは戻させてもらいますよ」
助手の一郎の言葉で、あなたは思い出した。
あなたはこの惑星を研究に来た、べつの惑星の人間だ。
ゲームだと思っていたのは、緊急の案件の処理だったのである。
あなたの専門は電気によるつながりの制作で、博士号を持っている。
近ごろは多忙で疲れが溜まっていたので、有休を取って部屋を流行の因習村座敷牢モードにして楽しんでいたのだ。
記憶を喪失していたのはわざとで、仕事のことを考えずに休暇を楽しむためだった。
「あー……そうだね」
「僕も手伝いますから」
「うん。ありがとう、一郎君。……花婿役として、もっと訪ねて来てくれても良かったのに」
「僕と直接会ってたら、せっかく封じた記憶がすぐに戻っちゃいますよ」
一郎はあなたの助手で、婚約者だ。
彼と同じ顔をしていた五人は、本当は違う顔をしている。
鉄格子越しだと外にいる知的生命体がすべて一郎に見える機能を作動させていたのである。
せっかく因習村の座敷牢に閉じ込められた気分で過ごそうとしていたのに、見るからに世界観の違う植物生命体や鉱物生命体がいたのではのめり込めない。
名乗った名前も座敷牢を訪ねるのに相応しいものにしてもらっていた。
ただしなにかあったときにその名前で呼べば、連絡はつくシステムだ。彼らは同じ宇宙船で仕事をしている、それぞれの分野の専門家である。
一郎は本名である。
彼と会ったら記憶が戻るというのは事実だった。
もっとも理由は愛だけではない。
「きゃふきゃふ!」
あなたの愛犬は、あなたよりも一郎のほうに懐いているのだ。今も鉄格子から飛び出して、彼に纏わりついている。
嫉妬を飲み込んで、あなたはゲームだと思っていた操作パネルにパスワードを入力して仕事モードに変える。
山のように溜まっている案件に頭を抱えたくなるものの、休暇は楽しかったので仕方がない。
「お茶を淹れましょうか、博士。お部屋のモードはどうします?」
「このままで良い。この惑星で言うところの缶詰モードで急ぎの仕事だけやっちゃう」
あなたは宇宙船内オンラインだったシステムを外部のネットにつなぐ。
この惑星の情報を集め、ときにはどんなものか実際に体験し、自分達の社会で利用できるかどうかを確認するのが、あなた達の仕事だ。
2.5次元舞台や都市伝説なども対象である。
情報をネコババしているわけではない。
これはこの惑星――地球を銀河連邦に迎え入れて良いのかどうかを確認するための、大切な調査の一環なのだ。
地球の上空に浮かぶ宇宙船の中で、あなたの仕事が再開した。
【地球エンド】




