8話【反撃】
――天岩戸周辺――
光統院が、山を攻め上がる。
追い込んだ怪人を仕留めるために。
「日が落ちる前に任務を完了させろ!」
「一匹も逃がすな!」
「周りに潜んでいないか確認して包囲を縮めろ!」
「どこかに隠れ場所があるはずだ!」
怒号が飛び交う。
周囲を探索しながら登る光統院。
姿を現す頼光と綱。
「貞光は……遅れているのか」
登って来ない南の部隊を見る。
「ついて来れない者など、気にかける必要はありません」
頼光の冷たい眼差し。
「今日で終わらせますよ」
「巨大な一枚岩を発見」
「内部に空洞らしき反応があります」
部下から報告が入る。
「行きましょう」
向かう頼光と綱。
――隠れ里――
怪人たちは、完全に追い詰められていた。
最後の砦。
逃げ場は、もうない。
美鬼と華が抱き合う。
負傷者は家に搬送される。
紡は介抱するため雫を支え家に向かった。
剛鬼は片腕を失いながらも天岩戸の前に立っていた。
「美鬼を守ってくれたそうだな……礼を言う」
まだ、わだかまりは溶けない。
それでも、天岩戸を見つめたまま朧に感謝を伝える。
朧は小さく目を伏せた。
何も答えなかった。
それだけで十分だった。
その横で朔夜は血に塗れた木刀を握る。
剛鬼と朧を見て少し顔が綻ぶ。
朧は傷だらけの身体に忍装束を再び羽織る。
『少しでも時間を稼がなければ……』
クナイを握り締める。
「私は……行く」
剛鬼は何も言わない。
ただ、視線を向ける。
「待て! 奴らが近くまで来ているのじゃ!」
「今出れば犬死にじゃぞ!」
朽木が慌てて止める。
「今、天岩戸を動かすのは危険です」
朔夜も一緒に止める。
その時。
ズド――ン!
隠れ里が激しく揺れた。
「きゃっ――!」
華が美鬼の身体を覆う。
「天岩戸が攻撃された――!」
天岩戸を睨む剛鬼。
「くそっ!」
落ちてくる石を払う朔夜。
「見つかったのか……?」
「どうしたら……」
里に不安が広がる。
「他に出口はないのか?」
朧が朽木に尋ねる。
「……天井の吹き抜け穴じゃ」
「だが、あそこは飛べる者しか行けぬぞ」
「ホバーブーツでは……無理か」
悔しそうに見上げる朧。
「……私たちが送るわ」
鳥の怪人姉妹。
「僕も送ってください。お願いします」
朔夜も頼む。
「俺も行く! 天岩戸は壊させねぇ!」
剛鬼も前に出る。
「私たちは非力だから...…」
困惑する姉妹。
互いの顔を見合わせる。
「三人同時には運べないの……」
「一人ずつ行きますね」
籠に入る朧。
籠に結ばれた紐を両手で掴む姉妹。
バサッ!
息を揃え羽ばたく。
吹き抜け穴へ一気に飛び立った。
――頂上口――
順番に送り届ける姉妹。
剛鬼を運ぶ時は、ふらつきながらも懸命に飛んだ。
息の上がった姉妹。
最後に朔夜が運ばれる。
「ありがとうございます」
礼を言う朔夜。
「少しでも、お役に立ちたかったから」
「……頑張ってくださいね」
疲れを隠し、微笑む姉妹。
身を潜め眼下を探る三人。
天岩戸に群がる光統院。
爆薬が次々と岩戸へ固定される。
導火線が一本に束ねられていく。
「破壊する気か」
剛鬼が歯を食いしばる。
「全員退避!」
爆薬を仕掛け終えた隊員が頼光へ敬礼する。
隊員たちが一斉に天岩戸から距離をとる。
頼光が静かに右手を上げた。
――隠れ里――
「華! 家の神棚から木箱を持って来るのじゃ!」
何かを思い出した朽木。
「はい!」
駆け出す華。
その時――
ズドン――!
天岩戸が、大地が激しく揺れた。
「きゃ――!」
混乱と悲鳴。
怪人たちは頭を抱え地面に伏せる。
泣き叫ぶ子供。
――天岩戸周辺――
振り下ろされた頼光の右手。
天岩戸が爆破された。
白煙が天岩戸を覆う。
徐々に晴れる煙。
「なんて頑丈なんだ」
天岩戸はひびが入り、表面が砕けたが耐えた。
「……」
冷たい空気が綱の頬を撫でた。
背筋を這うような視線。
『覗かれている……!?』
綱は、ふと空を見上げた。
頼光も異変に気付き見上げる。
いつの間にか暗雲が広がる空。
霞んだ太陽を隠す。
影が消える。
急に夜のようになる。
「来る」
綱が柄に手を掛けた。
グギギ……
岩影から這い出す魍魎。
影のような塊。
地面と溶け合う黒。
輪郭は定まらない。
だが――確かに、“そこに在る”。
「天候が急変!闇に覆われました!」
「魍魎が発生!」
騒然とする隊員たち。
「対魍魎部隊前に」
頼光が冷静に指示を出す。
ビカッ!
ビカッ!
真っ白い照明が魍魎の足を止める。
ビュンッ!
ライトサーベルを構える対魍魎部隊。
――頂上口――
頼光と綱が顔を上げる瞬間に身を隠した三人。
「感付かれたかと思ったぜ……」
息を殺す剛鬼。
「魍魎……」
朧が呟く。
「光統院や私は魍魎に襲われるが……剛鬼と朔夜は襲われない」
「……今がチャンスだ」
頷く剛鬼。
「どうした?」
空を見上げたままの朔夜に尋ねる朧。
「……なんでもない……です」
一気に滑り降りる三人。
――天岩戸周辺――
突如、魍魎と戦うことになる光統院。
ザジュ!
電子刀で切り捨てる綱。
だが、魍魎は死なない。
「光で消滅させないと駄目か」
電子刀を収めると、ライトサーベルを構え直す。
その背後に襲いかかる影。
一気にライトサーベルを振り抜く。
光が影の首を斬った――
はずだった。
光が影の首を抵抗なく通り抜ける。
影は霧散しなかった。
『魍魎ではない!?』
バゴン!
同時に木刀が綱の脇腹を捉えた。
結月に斬られた傷と同じ場所に、叩き込まれた木刀。
思わず後ずさる。
わずかに歪む綱の顔。
「貴様……!」
綱の鋭い眼差しの先――
木刀を構え指を立てる朔夜がいた。
「光では僕は斬れないぞ」
「未熟者が」
ライトサーベルを消し、電子刀へ持ち替える綱。
ホバーブーツと電子刀が赤く光る。
「今度は……負けない!」
朔夜の青い目が光る。
――もう一方。
「怪人! 怪人だ――!」
怒号。
キュイ――ン。
滑るホバーブーツ。
魍魎と光統院を巧みに掻い潜る朧。
混乱に乗じ、切り落とされた腕が入ったバッグを奪う。
「金剛力」
「決着をつけようか!」
金棒を頼光に向ける剛鬼。
「そんな状態で私に勝てるとでも?」
ライトサーベルで魍魎を斬り伏せながら、頼光が聞く。
失った左腕をわざとらしく見る。
その時。
キュイン!
剛鬼の横に着く朧。
「腕を回収した」
バッグを剛鬼の腰に結んだ。
頼光に向き直る。
「すまねぇ」
短く答える剛鬼。
「貴方は……?」
一瞬眉を潜める頼光。
だが、直ぐに笑う。
「誰か知りませんが……」
「二人がかりで良いですよ」
「魍魎も、貴方たちも、まとめて相手します」
「結果は変わりませんから」
片手で童子切を抜いた。
「二刀流です」
「もっと楽しませてください!」




