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白夜の都 ~処刑の光でも死ななかった怪人は、世界の境界を書き換える~  作者: もろ
第5章【天岩戸】

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19話【黄昏】

ブロブロブロブロ――


荒野を裂くように、トラックが走る。


ひび割れた大地が、夕焼けに染まり始めていた。


赤い。


まるで、まだ乾ききっていない血のように広がる。


巻き上がる砂塵。


唸るエンジン。


軋む車体。


その振動が、荷台の床を通じて、鼓動のように全身へ伝わる。




荷台の中――


直元と一鉄が、横たえられていた。


動かない。


だが、まだ――死んではいない。


かすかに上下する胸だけが、命の証だった。




ハンドルを握る朧は、前だけを見ている。


端末をナビ代わりに最短ルートを走る。


一瞬たりとも判断を止めない。


振動が足裏から脳へと伝わる。


それでも――速度は落とさない。


助手席を横目で確認する。


結月が擦り切れる前に……




「はっ…… はっ……」


結月の呼吸が、荒い。


肩が大きく上下する。


指先が震える。


割れるような頭痛。


意識の奥で、何かが削られ続けている。


――月下。


何百体もの“自分”。


斬られ、散り、消えていった幻。


その一つ一つが、自分だった。


散るたびに、精神が削られる。


削られ、削られ、削られ――


それでも。


結月の手は、まだ痣丸を握っていた。


――綱を、そこに止めるために。




サイドミラー越し。


補給所が遠ざかる。


霞み、滲み、やがて消える。


「……ここまで来ればいいだろう」


朧が低く、祈るように言う。


その声は落ち着いているが、わずかに速い。


「結月さん! もう大丈夫だ! 十分に離れた」


強く呼びかける。




その声が――結月に届く。


ぼやけた意識の奥に。


温度を持って。


……ぷつり、と。


張り詰めていたものが切れた。


カランッ。


痣丸が、手から滑り落ちた。


同時に、意識が深く沈む。


身体から力が抜ける。




「結月さん!!」


朧の声が大きくなる。


シートから倒れ込む結月。


髪が汗で貼り付いている。


キキィ――ッ!!


トラックが急停止する。


砂塵が舞い上がる。


朧はすぐに結月を抱き起こした。


脈はある。


呼吸もある。


だが――荒い。


熱が異常だ。


肌が焼けるように熱い。


「……くそ」


秘薬は、もう無い。


結月を荷台へ運ぶ。


直元の隣。


慎重に横たえる。


呼吸を整えさせる。


救急箱をひっくり返す。


解熱剤を飲ませる。


「……頼む、持ってくれ」


返事はない。


だが――まだ、生きている。




――補給所――




「――……っ!?」


綱の視界が切り替わる。


前触れもなく。


脈絡もなく。


一瞬で。


まるでスイッチのように。


あるいはモニターの画面が切り替わるように。




――月下。


何もない空間。


静寂。


幻。


そこから――


現実へ。


瓦礫と砂塵の補給所。




「……」


綱は、その中心に立っていた。


ただ一人。


取り残されたように。


理解が追いつかない。


風が吹く。


砂を巻き上げる。


焦げたにおいと、血のにおいが混ざる。




「……どうなっておる」


ゆっくりと、周囲を見る。


気配が、ない。


「奴らは……逃げたのか……」


その声は、わずかに遅れていた。


額に汗が滲む。


だが――呼吸は乱れていない。


身体は完全に制御されている。


しかし、

地面は抉れ。


柱は砕け。


壁には大穴が空いている。


綱は電子刀を下ろす。


刃先から熱気が揺らぐ。


散らばる残骸。


そのいくつかが焼け焦げている。




「……私が……やったのか」


静かに呟く。


事実を照合するように。


刀を収める。


端末を開く。




――ガガ……


「綱だ」


「おぉ――綱か!」


野太い声の貞光。


「今そっちに戻っているところだが……」


一拍。


わずかな間。


「採掘中に怪人数名に襲われた。資源部隊はほぼ壊滅だ。季武と金時もやられた」


沈む貞光の声。


「……そうか」


綱の眉が僅かに動く。


「そっちはどうだ? 武人の感は当たったか?」


貞光の問い。


「あぁ……」


一瞬、言葉が詰まる。


「……いろいろあった。詳しい話は、合流してからにしよう」


自分でも整理がつかない。


通信を切る綱。




補給所に風が吹く。


綱の汗を冷やす。


……その時。


腹に痛みが走った。


「……っ」


押さえる。


血に濡れた腹部。


生温かい。


「……傷か」


何年ぶりだろうか。


自分が傷を負うのは。




――枯れた森林――




昼と夜の境界。


曖昧な時間。


逢魔が時。




グギギ……


大地の裂け目。


抉られた影の奥から――

魍魎が這い出す。


一体。


また一体。


まるで、

人間に掘り起こされた亡者のように。


腐臭が溢れる。


湿った空気が波のように広がる。




その気配に――怪人達が固まる。


朧を待つ朽木達。


互いに身を寄せ合う。




その輪から少し離れた場所。


紡は一人で身を潜めていた。


端末を握る。


震える指。


「……皆……早く……」


声が、かすれる。


人間は自分だけ。


怪人に拒まれる人間。


魍魎に狙われる人間。




紡は足元の枝を拾う。


頼りない。


それでも――握る。


「……守らなきゃ……」


自分で。


自分を。




ザッ。


足音。


背筋が凍る紡。


ゆっくりと振り向く。


怪人達だった。


一人。


また一人。


無言で紡の周りへ集まる。


囲むように。


だが――敵意はない。


驚く紡。




「怪人は恩を忘れぬ……」


朽木の声が、静かに落ちる。


「魍魎から守ろう」


言葉は短い。


だが――重い。




紡の目に涙が滲む。


「……ありがとうございます」


深く頭を下げる。


その時。


小さな手が、紡の手を握った。


顔を上げる。


前頭に小さな一本角を生やす子供の怪人。


まっすぐな目。


「ありがとう」


紡は怪人の子供に微笑む。


柔らかい手。


温かい。


その温もりが胸の奥に広がる。


恐怖が少しだけほどけた。




滲む視界。


暗がりの彼方。


多彩な色を纏った"光の弾丸"が見えた。


ここまで読んでいただき、ありがとうございました!


「続きが気になる」「面白かった」と感じていただけましたら、感想・レビュー・評価・ブックマークで応援していただけると、とても励みになります。


これからも『白夜の都』をよろしくお願いいたします!

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