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白夜の都 ~処刑の光でも死ななかった怪人は、世界の境界を書き換える~  作者: もろ
第5章【天岩戸】

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15話【執行者】

――補給所――




「……ほ、報告します」


直元の喉が鳴る。


唾を飲み込む音が、自分でも異様に大きく響いた。


叩かれた頬が、じんじんと熱を持つ。


視界の端が、わずかに揺れる。


それでも――目は逸らさない。


逃げない。


不器用な一鉄から学んだ。


信念を貫くということを、

言葉ではなく、生き様で。




「せ……先日より、二人体制で、当直に就いておりました。しかし、深夜に魍魎が補給所に侵入……」


呼吸が浅い直元。


肺がうまく膨らまない。


一瞬、言葉が止まる。


脳裏に浮かぶ。


笑っていた先輩。


何気ない会話。


そして――床に残った血。


胸が締め付けられる。


『先輩……何処に行ったんだろう……』


それでも報告をする。


「隊員1名が、行方不明。私は……彼らに助けられました」


弱々しくも、はっきりと。


言い切った。




俯く一鉄。


拳を床に押し付ける。


『……馬鹿やろう……』


それでも――


綱を前にして、結月の事は報告しなかった直元に、胸が熱くなる。




「助けられた?」


綱の怪訝な声。


低い。


冷たい。


一歩。


直元に近づく。


それだけで、綱の圧が倍になる。


刺すような視線。


直元の表情。


呼吸。


震え。


まるで精密機械のように、すべてを測る。


「怪人と反逆者に、助けられたのか?」


嫌悪感が混じる綱の声。




「……はい」


直元の喉が張り付く。


それでも声を絞り出す。


綱の刺すような視線が痛い。


逃げ場は、ない。




「光統院の教訓は?」


唐突な問を投げる綱。


「ひ……」


直元の声が震える。


それでも、口から出てくる。


「1つ、白夜の管理」


「1つ、人間の保護」


「1つ、怪人の排除」


「1つ、魍魎の殲滅」


「1つ、常闇の主との決着……です」


何千、何万回と発した教訓。


刷り込まれた言葉。


体に刻まれた誓い。




「怪人に助けられたなど、光統院の恥だと思わぬのか?」


綱が再び目の前に立つ。




まるで、

綱の研ぎ澄まされた圧が切先となり、直元の喉元に触れているよう。


返答を間違えれば死ぬと言わんばかりに。




直元の背筋に冷や汗が伝う。


震えが止まらない。


それでも――拳を握る。


「も……申し訳、ありません」


一瞬。


空気が揺らぐ。


だが。


「で……ですが……!」


声が裏返る。


それでも止めない。


「怪人をひと括りに……悪だと定義する教えには……」


息苦しい。


肩で呼吸する。


喉が焼ける。


「今は……疑問を感じております」




沈黙。


空気が重い。


逃げ場のない時間。


全てを暴こうとする白い光。


綱の目が細くなる。


「……偽りのない覚悟の目だ」


やけに静かな言葉。


わずかに空気が緩む。




ゆっくり、綱の手が差し出される。


「名前は?」


「……直元です」


「覚えておこう」


安堵が、直元の胸に広がる。


力が抜ける。


『……よかった……』


分かってもらえたと思った直元。


握手を求められたと勘違いする。


手を伸ばす。


疑いもなく握手を交わそうとする。




だが――腰を落とす綱。


一瞬で構える。




ズドンッ!!


衝撃。


直元の視界が弾ける。


何が起こったか理解できなかった。


空気が一瞬で、肺から消える。


胸骨が軋む鈍い音が、脳に伝わる。


「がっ……!」


握手では、なかった。


代わりに、

冷徹な綱の拳が、直元の胸に捩じ込まれた。




ドガンッ!!


身体が吹き飛ぶ。


棚へ叩きつけられる。


紙が舞う。


置物が割れる。


破片が散る。


直元は、そのまま崩れ落ちた。


白目を剥いたまま、泡を吹き動かない。




「……は?」


一鉄の思考が遅れる。


見えなかった。


理解が追いつかない。


何が起きた?


直元が倒れている。


それだけ、結果だけが突きつけられた。


次の瞬間。


怒りが爆発する。


「ごらぁぁぁ――!!」


立ち上がる。


血が沸騰する。


充血した目で綱を睨む。


腰のライトを抜く。


二本。


一本は直元の。


もう一本は、消えた先輩のもの。




ダッ!!


一鉄が突っ込む。


猪突猛進。


馬鹿の一つ覚え。


だが。


頑固一徹。


己を曲げない信念。




『魍魎専用のライトか。取るに足らん』


綱の視線は冷たい。


ブンッ!!


一鉄がライトを振るう。


だが届かない。


軽く躱される。


最小限の動きで。


完全に見切られている。


何度も。


何度も。


空を切る。


「はっ……はっ……!」


息が荒い一鉄。


それでも止まらない。




ザッ!!


綱の顔面へ左手を突き出す一鉄。


軽く上体を反らす綱。


一鉄の太い腕が伸びきる。


数センチ。


届かない。


――そのはずだった。




カチッ。


飛び出す閃光。


綱の視界が、白に塗り潰される。


生体反射。


綱の瞼が閉じる。


その“一瞬”。




バゴンッ!!


一鉄の右のライトが、綱の顎を捉えた。


衝撃が伝わる。


確かな手応え。


――初めて。


綱に届いた。




ぐらり。


綱の身体が揺れる。


半歩退く。


だが。


倒れない。


コキ。


軽く首を鳴らす。


まるで、何もなかったかのように。




「畜生――!」


一鉄の行き場の無い怒号。


自分の無力さに腹が立つ。




その時。


シュッ――


視界の端から、何かが飛来するのを察知した綱。


バンッ!!


叩き落とす。


破片が砕け散る。


鋭い視線を向ける。


潰れた棚。


崩れた直元。


その前に――

結月が立っていた。


音もなく。


気配もなく。


直元を庇うように。


静かに。


まっすぐに。




空気が変わる。


戦場の温度が、静かに塗り替えられた。


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