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白夜の都 ~処刑の光でも死ななかった怪人は、世界の境界を書き換える~  作者: もろ
第5章【天岩戸】

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1話【朝焼け】

――救護室――




コト……


外された首枷が、静かにテーブルへ置かれる。


もう役目を終えたそれは、ただの冷たい金属の輪だった。


ベッドに横たわる結月。


窶れた顔。


焦げた衣服の臭いと、消毒液の刺激的な香りが、白い部屋に満ちている。


紡は手際よく処置を続けていた。


まだ震える指で、それでも確実に。




「ありがとう」


結月が、静かに礼を告げる。


力の抜けた声。


だが――どこか穏やかだった。




「朔夜をお願いね」


唐突に落ちた言葉。


紡が手を止める。


「えっ……?」


戸惑いが滲む。


「見えない分……感じることに鋭くなったの」


結月は、わずかに微笑んだ。




「あなた達のことも、ね」


意味深な言葉。


紡の頬が、じわりと赤くなる。


「は、はは……」


視線を逸らし、逃げるように立ち上がる。


そのまま、そそくさと部屋を出ていった。



静かになった救護室。


結月は、ゆっくりと目を閉じる。


シーツを握る指が、まだ、痺れていた。




――監視室――




コト。


一人ひとりの前に、コーヒーが置かれていく。


湯気が立ち上る。


香ばしい香りが、張り詰めた空気を少しだけ緩めた。


配り終えた光統院の若い隊員。


何食わぬ顔で、朔夜たちの輪の中に腰を下ろす。


コーヒーを啜った一鉄が、ふと視線を向ける。




「って。お前は誰だよ!」


思わずツッコミが飛んだ。


「直元です」


格好つけた顔で名乗る。


……


微妙な空気が流れる。


顔を見合わせる雫と紡。


「調子いいな、お前。さっきまで泣き喚いていたのに」


呆れながらも、どこか笑いが混じる一鉄。




直元は、真面目な顔に戻った。


「怪人は魍魎と同じくらい危険だって、教えられてきました」


一度、言葉を区切る。


「でも……」


視線を上げる。


「実際に会って、話して……」


「皆さんは、“教えられた怪人”じゃなかったんです」


沈黙。


重くない。


考えるための間。


「結月さんは……まだ怖いですけど」


正直な言葉。


だが、逃げない目だった。




直元は、雫へ向き直る。


そして――火傷跡の残る手を握った。


「命を救ってくれた、雫さんの力になりたいんです」


真っ直ぐな言葉。


少しだけ、熱がこもっている。


雫の切れ長の目が瞬く。


困惑と、わずかな照れ。




ゴンッ!


軽い拳骨が落ちた。


「調子に乗るな」


一鉄の声。


「いった……!」


頭を押さえる直元。


朔夜と紡が、思わず吹き出す。


張り詰めていた空気が、ふっと緩んだ。




――




「次の行動を決めないとな」


一鉄が口を開く。


「朝になれば、魍魎も闇に隠れるわ」


雫の落ち着いた声。


「それから、天岩戸へ向かいましょう。ここからなら、昼のうちに着くはずよ」


「少しは……休めるね」


紡が、ほっと息を吐く。




だが――


「ただ、人間を良く思わない怪人もいるわ」


雫の言葉に、空気が引き締まる。


「匿ってもらえるかは……正直、分からないわね」




「怪人を迫害してきた、人間のツケか」


一鉄の声が低く漏れる。




ピピッ。

ピピッ。


通信音。


全員の動きが止まる。


空気が、固まる。




直元がゆっくりと受信する。


「こちら、光統院・第9輸送道補給所」




――




「……了解しました」


通信が切れる。


「7時に、資源部隊が来ます」




皆が時計を見る。


4時30分。




「あと……2時間くらいか」


朔夜が呟く。


「燃料の補給は終わってる」


一鉄が立ち上がる。


「ベッドを荷台に移して、すぐ出るぞ」




「待ってください!」


直元が慌てて声を上げる。


「僕がいないと、不審に思われますよ」




「お前は来なくていいんだよ!」


強い口調で睨む一鉄。


だが、その奥にあるのは――気遣い。




「それに……先輩もいないと……」


直元の言葉が詰まる。




沈黙。




「……じゃあ、どうすんだ」


一鉄が荒々しく椅子に腰を落とす。




――屋外――




空が、わずかに白み始めている。


急ぎ、トラックの荷台にベッドを固定する。


結月の身体が、慎重に運ばれる。




「こんな場所で、ごめんなさい」


紡が小さく言う。


「こちらこそ……ごめんなさい」


結月が、静かに返す。




「ほんとに大丈夫か?」


振り返ると、一鉄が光統院の白い制服を着て立っていた。


先輩の代役。


「受け答えは、僕がしますから」


直元が胸を張る。


「ヘルメットを深く被っていれば、問題ありませんよ」




「一鉄さん。トラックを裏側にお願いします」


朔夜が指示を出す。


エンジンが低く唸る。


車体が静かに移動し、シートで覆われる。




進む道を、二つに分けた。


天岩戸へ向かい、交渉を行う班。


朔夜、雫、紡。


補給所に残り、資源部隊をやり過ごす班。


一鉄、直元。


そして、

動けない結月は、トラックと共に隠れる。




一歩間違えれば、どちらも戻れない選択。


一鉄は、壊れた扉と照明を修理している。


無骨な手つき。


だが正確だ。




通信機を手に、直元が紡に操作を教えていた。


「ここを押して……この周波数に」


「うん……こう?」


「そうです」


軽く頷く直元。


「分かったわ。交渉が終わったら、連絡するね」


紡が明るく言う。




空が、さらに明るくなる。


ズズズ……


魍魎たちが、闇へと沈んでいく。


音もなく。


存在を隠すように。


抉られた大地。


濁った川。


削られた山。


そのすべてを――朝日が照らす。


赤く。


逃げ場なく。




「……綺麗」


紡が呟く。


大きな瞳が輝く。


誰も否定しない。


美しい。


嘘ではない。


傷も、現実も、ありのまま照らしている。


朝焼けが、彼らの背を押すように。


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