表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/35

4話【捕獲者】

――応接室の入口――



コン。コン。


「失礼します」


朔夜は扉を開けた。


後ろには、不安そうに立つ紡。


一瞬だけ振り返る。


「大丈夫だから」


小さく告げて扉を閉めた。


何も言わない紡。


俯く。




――応接室――




室内は静まり返っていた。


壁際に並ぶ光統院の隊員たち。


銃を携え、瞬きひとつしない。


空気が張り詰めている。


逃げ場のない圧。




ソファに腰掛けていた男が、ゆっくりと口を開いた。


「どうも。光統院・対怪人部隊隊長の頼光と申します」


にやり、と笑う。


だが――目だけが笑っていない。


「対魍魎部隊から報告を受けて、しばらく監視させて頂きました」


楽しそうに続ける。


「残念ながら、お仲間は見つかりませんでしたが……」




ガバッ――


身を乗り出す。


俯いた朔夜の顔を覗き込む。


「もしかして、もう死んでます?」


ケタケタと笑う。


軽い。


あまりにも軽い。




朔夜の中で、何かが軋んだ。


虫唾が走る。


拳を握る。


骨が鳴る。




笑い終えると頼光はあっさりと声色を変えた。


「ということで。泳がす意味もなくなりました」


「捕獲します」


パン。


軽い合図。


ガシャ。


無言の隊員が腕を取る。


後ろへ引き上げられる。


手錠がかかる。


金属の冷たさが手首に食い込む。


まるで、逃げ場そのものを締め付けられているようだった。


怪人でも壊せない――そう理解できる重さ。




「あれ? 抵抗しないんですか。残念」


大袈裟に肩をすくめる。


『ここで暴れたら――』


紡と一鉄の顔が浮かぶ。


怒りを奥歯で噛み砕く。


血の味が広がる。




「もしかして、自分より他人の心配ですか?」


見透かした声。


逃げ場を塞ぐ声音。


「では、こうしましょう」


ゆっくり扉に近づく。


勢いよく開ける。




「キャッ!」


外で聞き耳を立てていた紡。


雪崩れ込むように入ってきた。


頼光の目が細くなる。


顎に手を当てる。


じっくりと――値踏みするように。


「連行途中に逃げられても困りますから……」


にやり、と口元が歪む。


「お嬢さんも連れていきなさい」


「彼女は関係ない!」


抑え込んでいた怒りが弾けた。


頼光の口元が満足そうに歪む。




――廊下――




光統院のポスター。


怪人の赤い目が、こちらを見ている。


見逃さないように。




視線が刺さる。


一斉に。


剥き出しのまま。


「怪人だ!」


「騙してたのか!」


「最初から怪しいと思ってた!」


好奇と嫌悪が混ざった目。


容赦なく突きつけられる。




――やっと見つけた居場所が。


音を立てて崩れていく。


「やべぇ……俺、殺されるとこだったわ」


聞き覚えのある声。


つい先日まで隣にいた同僚。


それが――止めだった。


奥歯を強く噛む。


血が滲む。




『今は……紡をどう助けるか』


思考だけが必死に回る。


他は全部捨てる。




――外――




正門。


武装車両が待機している。


窓という窓に人影が張り付いている。


完全な見世物だった。




その時――


ファン!ファーン!


クラクションが空気を引き裂く。


横から、突っ込んでくる影。


大型トラック。


演歌が似合う、飾られた車体。


フロント行灯には――"頑固一徹"。




ブロブロブロブロォー!


エンジンが吠える。


地面が震える。


空気が一瞬だけ逆流した。


車内から怒号が飛ぶ。


聞き慣れた声。




隊員の視線が逸れる。


一瞬だけ。


その隙を――逃さない。


手錠のまま身体を捻る。


隊員の腕を弾く。


金属が皮膚を裂く。


血が滲む。


それでも、止まる理由にはならない。


前を行く紡へ叫ぶ。


「掴まれ!」




紡は迷わなかった。


怖さを振り切るように。


首に腕を回す。


全力でしがみつく。


体温が背中に伝わる。




「絶対に手を離すな!」


地面を蹴る。


加速。


風が裂ける。


紡は目を閉じる。


必死にしがみつく。




「逃がすなっ!」


怒号。


だが――


トラックが壁になる。


ブロブロブロブロォー!


ファン!ファーン!


轟音が全てを塗り潰す。


隊員を遮る。


進路を塞ぐ。


追跡を乱す。


現場は完全に混乱していた。




その後で――


頼光は動かない。


腕を組み。


逃げていく背中を眺めている。


ゆっくりと口元が吊り上がる。


「少しは、楽しめそうですね」


まるで――最初からこうなると分かっていたかのように。


あるいは、そう仕向けたかのように。




パン。


軽く手を叩く。


キュイン――


その瞬間。


背後から、人影が飛び去った。


遅れて、風が巻き起こる。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ