エンゼル 黒龍
第45話 記憶の塔 エンゼル 黒龍
ソフィアは、記憶の塔を探し、さまよっていた。
塔のそばまでくると、
吹き抜けの回廊に、子供の姿がぽつんと立っていた。
短い金髪に、真っ白なローブ。
小さな背中に、まるでオモチャのような羽が生えている。
ソフィアは思わず足を止めた。
「こんなところに……子供?」
その子供は、くすっと笑った。
「いいや、大人だよ。ほんとだよー。
かれこれ三千年は生きてるんだ。
別名は、エンゼルと言いまーす。」
ソフィアは息を呑む。
ただの子供じゃない――そう直感した。
「君は、なんでこのノエールの塔に登ろうとしてるんだい?」
エンゼルが、まるで遊び相手を探すような調子で問いかけてきた。
ソフィアは胸を張って答える。
「カールの過去を知るために」
エンゼルは、あからさまに顔をしかめた。
「行かせないー。」
塔の空気が、ひやりと変わる。
エンゼルの瞳が深い闇のように沈んだ。
「そんなものがあるから、人間は怠惰になるんだ。
コロセウム、奴隷ポルノ、
人身売買……人間の欲望と言ったらキリがない。
人間の本質は悪!!」
ソフィアは拳を握りしめ、一歩踏み出した。
「いいえ、人間の本質は善よ!
欲望があっても、それでもなお誰かを思いやる力がある。
だから、廃人になった、カールの心を知る必要があるの!」
エンゼルは、少しだけ目を細めた。
「ふーん……言うじゃないか。でも、生きて証明できるかな?」
「行っていいよ」
「あんたは、悪い人じゃなさそうだから」
ソフィア「ありがとう、エンゼルくん。
先を急がせてもらうわ」
エンゼル「メビウスの輪が収束する所に、
彼の方が待っているよ」
うなずく、ソフィア
「黒龍」
足早に、その場を去るソフィア。
さらに進む。
ノエールの中枢。そのさらに奥。
光のない空間に、それは浮かんでいた。
メビウスの輪。
途切れない輪。内と外のない構造。
セントラルコンピューター。
脈打つ光。
ソフィアが一歩踏み出す。
その瞬間。
世界が反転する。
足元が消える。
光が裏返る。
人間の姿の、黒龍が、姿を現す。
目は人間のそのものではなかった。
「この輪は、必ず“ここ”に戻る。
だから、お前が来ることも決まっていた」
ソフィア=ゴールドバーグ
ソホンの、初代、女王陛下。
ええ。
黒龍。
カールに一体、何を見せたの?
「“なぜ壊れたのか”を、見せて」
そう言うだろうと。
カールは、今、廃人。
——そして。
エスオゴは、すでに火の中にある。
各国では、
国庫の崩壊による反動で、
パイパーインフレが始まっている。
貨幣は、価値を失い、
人は、奪い始めた。
戦争の足音は、
もう“遠く”ではない。
そうよ。
私が、彼の過去を知らないと、
エスオゴもダメになるわ。
ソフィア
「彼は、“何に負けたの”…?」
黒龍
「世界だ」
果たして、
終焉に向かいつつある、この世界を、
二人、いや、三人で
止められるかな?
倫を忘れて、冒険に勤しみ。
国王になるところまでは良いが、
至福は、冷静を呼び戻す。
よかろう、ソフィア。
カールの意識は、
セントラルコンピューターの
記憶の塔に、封印してある。
見せてやろう。
無数の電子音声とアルゴリズムが、
空中に浮かぶ立体画面で応答を繰り返し始める。
順路。ツリー構造。イエス/ノー分岐。フローチャート。ランダム生成。ソート。サーチ。
リスト。データ。カウント。ロジック。ワードバブル。マップ。デジョン。
無数の記憶の、
思考パネルが、重なり、交差し、再構築される。
電子音。
ソフィア=ゴールドバーグ
インストールヴィジョン。
ソフィアの脳裏に、
ヴィジョンが目まぐるしく、
入ってくる。
ARVRゴーグルを装着する、ソフィア。
ああ、
何か見える。
‥カール?
あれは、
幼い頃の、カール?




