26話 妹のお悩み事情
26話 妹のお悩み事情
ぐつぐつぐつぐつ............
桜「............」
朝峰宅、豪邸にて、拓人の妹桜はフライパンで野菜を炒めていた。
もちろん、これは今日の拓人たちの晩御飯となるものだ。
基本家事などは桜などがやるので、料理の腕はかなりのものだ。
拓人曰く、”桜の料理にまずいものなど存在しない!”なのだとか......
そんな桜は、普段鼻歌をしながらノリノリで料理をしているのだが、
今日はどうやらそんな気分じゃないのか、そんな気分にさせている何かがあるのかは分からないが、
とにかく今日の桜はムスッとした顔で面白くなさげに料理をしていた。
そして、ふっとその桜が目線を移した先には............
美雪「ご主人様~! えいっ!」
拓人「うわっ!?/// 急に抱き着くのやめろ!」
桜の目線の先には、拓人に密着している美雪の姿があった。
美雪「ご主人様~、最近ご主人様のセキュリティ高くないですか?」
拓人「当たり前だ! ポンポン抱き着かれてたまるか!///」
美雪「むぅ~......私はもっとご主人様にかまってもらいたいのに......!」
拓人「今でも十分かまってやってるだろうが......」
桜「はぁ~......」
桜は拓人と美雪のやり取りと姿を見て、一度深いため息をついた。
というのも、最近桜には、拓人に思い当たる節があって......
桜「(最近、美雪さんと兄さんイチャつきすぎじゃない!? それに、前にお父さんが
来ていた時も、拓人のお友達だからと言ってたから会ってみれば全員かわいい人たちばかりだったし、
それにそれに、前兄さんが何も言わずどっか出かけて行ったと思えば、
いきなり帰って来て”楽しかった~!””またアリスと会いたいな~”なんて言ってるし!
なんで最近兄さんは女の人とイチャイチャしてるの......!)」
桜は心の中でそう叫ぶと、さらに拓人たちの様子を見て続けた。
桜「(しかも、最近異常に美雪さんと兄さんの距離が縮まってるし!
昔はもうちょっとメイドっぽかったけど、今となってはただのメイド服を着た居住人の一人じゃない!
もう、なんで兄さんはいつもいつも......)」
桜は料理のことそっちのけでそんなことを胸のなかで吐き出すと、
少し「スッキリした~」というような顔つきになった。
しかし次の瞬間、拓人がある異変に気付いた。
拓人「......ん? この臭い......さ、桜! 焦げてる、焦げてるよ!」
桜「へ?......え、ちょっ! あちっ!」
桜は拓人の言葉を聞き、自分の手が握っていたフライパンの方を見た。
すると、そのフライパンの中の野菜は真っ黒に焦げており、焦げ臭いにおいと煙が上がっていた。
拓人「桜っ!」
その様子を見た拓人は、瞬時に座っていたソファから立ち上がると、真っ先に桜の方に向かった。
すると、拓人は瞬時に桜からフライパンを離させた。
その衝動で、フライパンの中の真っ黒けになった野菜たちは、宙を舞った後ドバっと床に落ちた。
しかし、そんなこと拓人はそっちのけで桜に険相を変えて言った。
拓人「桜! 大丈夫か? どこかケガとかしてないか?!」
必死にそう言ってくる拓人に少し驚きながらも、桜は申し訳なさそうに拓人に返事した。
桜「う、うん......ごめん、せっかくの晩御飯が台無しになちゃって......」
拓人「何言ってんだ! 今は晩御飯より桜の方が心配に決まってるだろ!
でも......大丈夫でよかった~......!」
桜の返事に、拓人は強く言うと、桜にケガがなかったことに桜以上に安堵するのだった。
美雪「ど、どどどどうしましたか!?」
拓人「あぁ美雪、ちょっとな......そこに落ちてある野菜、掃除しておいてくれないか?」
美雪「わ、分かりました! 桜様にお怪我はないのですか!?」
拓人「ああ、たぶんな」
美雪「よ、よかった~......」
拓人が桜のもとに向かってから数秒後に、展開が飲み込めていない美雪がやって来た。
とりあえず桜に何かないのかだけ聞くと、美雪は拓人と同様に「ほっ」と安堵した。
美雪「では、今モップを持ってきます!」
拓人「わかった、わるいな美雪、後で俺も手伝うよ」
美雪「ご主人様は何もすることはありませんよ」
美雪は少し嬉しそうにそう言うと、モップがしまってある2階の倉庫に向かった。
拓人「それで、桜、もう大丈夫か?」
美雪がモップを取りに行ってからすぐに、拓人は桜に優しくそう言った。
桜「うん......ごめんね、こんなことになっちゃって」
拓人「桜のせいじゃないよ、大体、こうなったのも俺のせいだしな」
そう言うと、拓人は「はははは」と情けなさ気に笑った。
その拓人の様子を見て、桜は少し俯き加減でボソっとこう呟いた。
桜「......兄さんはいつもそう......そうやって私をかばってくれて、自分のせいにして、
いつも守ってくれて......私も......兄さんを守りたいのに......!」
最初はボソボソっと言っていた言葉も、最後には拓人にも聞こえる声で話していた。
そして、そう言い終わった桜の頬には、瞳から涙の滴が流れていた。
拓人「桜? 俺はお前の......兄ちゃんなんだぞ? 妹を守る兄なんて当然だろ?」
桜の様子を察したのか、拓人はしゃがみこんで桜の背中をさすりながら優しく言った。
拓人「いつも桜に頼りっきりだし、俺は十分桜に守ってもらってるよ」
桜「......うん」
拓人「よし! じゃあこの話はもうこれで終わりな!」
桜の返事を聞くと、拓人は勢いよく立ち上がりそう言った。
拓人「桜、今日は一日休んでいていいぞ!」
桜「え?」
拓人「今日は俺が!......いや、俺と美雪が晩御飯とか家事をやる!」
桜「そんなっ! いいよ、私やるから!」
拓人「ダメだ、今日はいつも桜がやってくれてる少しもの恩返しも兼ねてさ......
それに、桜も今日は俺の言う通りにゆっくり休んでおけ」
拓人はそう言うと、腕を伸ばして親指をぐっと立てた。
桜「......もう、分かったよ、じゃあ今日は休んどくね?」
拓人「あぁ! 心配しないでじっくり休めよ!」
その拓人の言葉を聞いて、桜は少し肩の荷を下ろしてから、ゆっくりと自分の部屋へと向かっていった。
桜「......はぁ~~~~......」
自分の部屋に着くと早々、深すぎるため息をつきながらベッドへと倒れていく桜。
まあその理由も、無理はないのだが............
桜「私も少し、頭を冷やさないと......これじゃあ兄さんたちに迷惑かけちゃう......」
桜はそう呟くと、ベッドに置いてある”くまさんの抱き枕”を抱きながら顔を埋めさせた。
顔を埋めさせると、少しまだざわついてた心臓の動悸も収まったようで、桜は落ち着きを戻した。
桜「(そういえば......お母さんが亡くなったときも、こんな感じだったな......)」
くまさんの抱き枕を抱きかかえる形で、桜が天井を見上げながらふとそんなことを思い出した。
桜「(私がまだ5歳だった時、お母さんが買い物に行ってくるって私と兄さんを置いて出ていってから、
3時間経っても帰ってこないお母さんを不審がって兄さんが色々メイドさんたちに調べさせたところ、
交通事故に遭っていたってことが判明して、病院に着いた頃にはもう亡くなってたっけ......
その頃お父さんは仕事で海外にいて、急には帰ってこれないって言って帰ってこなくて、
私泣きじゃくったんだ......でも、兄さんはいつもそんな私を慰めてくれた。
兄さんだけはいつも、私の前では一回も泣かずに、ずっと気丈に振舞ってくれて......
本当は兄さんだって泣きたかったに決まってるし、泣いてないはずもなかった......
兄さんはいつだって、私の知らないところでつらい思いをして、私の知ってるところで守ってくれる。
だから次は......私が守るんだ、次は、私が兄さんを守ってあげるんだって決めたんだ)」
桜は、天井を見上げながら少し表情が緩んでいた。
そして、くまさんの抱き枕を置いてむっと起き上がると、桜は机に立てかけてあった木刀を手にして、
机に並んであった剣道大会優勝の時の写真の数々を眺めていた。
そして桜は、その写真を眺めながら、歯をギュッと噛み締めながら呟いた。
桜「欲しいのは......こんなのじゃない......」
その声は、か細いが凛々しく、この部屋に響き渡った。
桜「これ、全部兄さんが作ったの?」
拓人「ま、まあな......少し美雪の手伝いも借りたけど」
美雪「いいえ、桜さん? 私はほんのちょっとしか手伝ってませんよ?
”桜の疲れをとれるようにがんばるんだ”って作ってる間ずっと言ってましたよね~?」
拓人「よ、余計なこと言うな!/// 美雪も食事の下準備頑張ってたじゃねーか!」
美雪「それはもちろんです! 桜様のためですから!」
拓人と美雪が言い合っている様子を見て、桜は「クスクス」と笑い始めた。
桜「ありがとうございます、美雪さん、兄さん」
美雪「こちらこそ、いつもありがとうございます!」
拓人「今日はゆっくり休んでいってくれ!」
桜「うん、それじゃあいただきます」
そう言うと、桜は一番手前に置いてあった肉じゃがに手をつけた。
桜「(......このジャガイモ、形はいびつだし、大きすぎるよ......
お母さんが亡くなってから、しばらく兄さんが料理してた時があったっけ?
その時も肉じゃが作ってくれたな......本当、兄さんは何も変わってない......)」
ジャガイモを見つめながらそう思うと、次の瞬間パクリと口の中に入れた。
モグモグモグモグ............
拓人「ど、どうだ? おいしいか?」
拓人は桜が肉じゃがを食べるのを確認すると、恐る恐る聞いてきた。
その拓人が聞いてきたのを見て、桜は満面の笑みでこう答えた。
桜「とっても美味しいよ、兄さん!」
その桜の満ち足りた笑みい、拓人と美雪も笑みがこぼれるのであった。
今回は桜回でしたね。
普段はこのくらいの分量や字数を目指しているのですが、
なかなかうまくいかない時の方が多いです(笑)
これからも応援よろしくお願いします!