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蒼眼の反逆者 〜ウィル〜  作者: そにお
第3章 鮮血の巫女と蒼眼と緋眼
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92話 言の葉の真実

僕はうまくやれているだろうか。

それにしてもアイリが僕をかばうなんて予想外でした。

僕はともかくアイリを失うことはよくわかりませんが想像したくないですね。


だから


「納得してくれなくても信じてくれなくても、僕は僕自身が敵かどうかは分かりません。ただ敵ではなく味方でありたいと思います。ウィルさんが信じてくれている僕を信じたいし信じたい。はっきりと言えれば良いのですが嘘はつきたくありません。これが今の僕に言える最大限の言葉です」


 ユーリは腰を曲げ頭を下げる。


「そんな曖昧な返事で……」


 ラプタは納得しなかった。

 だがそれでもナイフを再び握ることはなく、頭を下げたままのユーリにどうしていいかわからなくなっていた。

 敵だと言えば当然、でも味方だと言われても信じることなんてできなかった。

 ラプタはその曖昧な言葉こそがユーリの最大限の気持ちだと伝わってしまったために、何も言うことができずただ押し黙ってしまった。


「ウォルト」


 フィドルは瞼を長く閉じる。


「はい。若のご判断にお任せします」


「ありがとな。……ウィルはユーリを信じてるんだな」


 フィドルは瞼を上げ、ユーリを見つめたままのウィルに問いかける。

 それこそが今の唯一の判断要素だった。


「もちろん」


 ウィルの表情はどこか安心しており背もたれに背中を預ける。


「わかった。ユーリ。俺はお前を信じることはできない。でもお前を信じるものがいる。それを俺は信じることにした」


 その言葉にユーリはゆっくりと頭を上げフィドルを見据える。


「だから、次はお前自身を信じさせてくれよ」


 フィドルの言葉にユーリは目を見開いた。

 納得しているわけがないのはユーリも分かっていた。

 だがそれでも信頼の要素が他者にあるということ、それだけで自身を信じると言ったフィドルに驚き、何か鍵がこじ開けられるような感覚が一瞬ユーリを停止させた。


「……ありがとうございます」


 それしか言葉が出なかった。

 それ以外にふさわしい言葉などない。

 選んだ言葉ではなく自然と出た言葉にユーリは自分自身に驚いた。



「若が言うなら何も言わない、でも監視はさせてもらうから」


 一方でラプタは主であるフィドルを信じた。

 それは自分では判断できなかったラプタにとっては助けでもあり素直に受け入れられた。

 ナイフを机から引き抜き、鞘に納める。


「ごめん」


 頭を下げるわけではなかったが、アイリに言った。

 返事は期待しておらずラプタは部屋を後にする。


「ありがとう」


 扉を閉める直前に聞こえた返事はラプタを扉の外で涙となってあふれ出させた。

 迷いはまだある。が前に進むしかない。

 失ってしまった者は戻らない。

 ラプタは迷いを涙に流し、ぬぐい去った後、仲間達の元へと歩いていった。



「これで終わりと行きたいですがまだ確認事項があります」


 ウォルトはラプタの出て行った扉を見やったあと、再び、ユーリに視線を戻す。

 その瞳には厳しさはなく、緩んではいないものの先を見据えていた。


「ファーリについてですね」


 予測していたユーリは先に聞きたいであろうことを口にすると、ウォルトは頷いた。


「……彼そのものと絡んだ記憶はありませんが、知識としては残っています。reシリーズ、ファーリ」


 ユーリはいつものように淡々としていた。

 

「そのreシリーズとは? あやつの話からするとあなた達お二方もそうだという口振りでしたが」


 ファーリがクロム遺跡で言った、reシリーズを確認という言葉は明らかにユーリに向けられていた事をウォルトは覚えていた。


 ユーリはそれに対し言うべきか悩むそぶりを見せ、やがて顔を上げる。

 演技がかった素振りにも映ったが、いつものユーリではあったので特に気にしなかった。


「……僕も、アイリもreシリーズだということは間違いありません。ただ先ほども言ったとおり僕たちは逃亡者です。ファーリに敵対行動を示した事をできれば信じる根拠として欲しいです」


「おかげで助かったよ。だから心配しないで」


 正確にはその場はということだが、無理矢理にでも誘拐される危険を防いだのは事実でニーアはユーリに微笑む。


「ありがとうございます」


「それでreシリーズとは?」

 

 ウォルトはそのやり取りを見送った後、そのものについて確認する。


「reシリーズとは正直、僕の残った知識が完全ではないことを前提としていただいたいです。それでも言えることとしては、僕たちはある意味造られた存在だということ、僕たちだけなのかまだいるのかもわかりません」


「造られたとは? どこかの組織なのですか?」


「記憶が欠如しているので何故かはわかりませんが、僕は戦闘能力、アイリは支援能力、そしてファーリが隠密能力という風に得意分野がそれぞれあります。それでもファーリについて思い出したのは直接会ってからですが。まるで初めからそうできているように思えたので造られたと表現しました。そして、どこの組織かとの質問ですが、施設の位置からしてアストレムリ、ないしエヴィヒカイトの組織、またはそれに準ずる組織と推測します。孤児養護施設だったので本当にそうかもしれませんが僕たちのいわば普通じゃない能力から表向きはといったところでしょうか」


 ユーリはつまることなくすらすらと解説するよう述べる。


「ダーナス様は元ミュトスと伺っていましたがその心当たりはありますか?」

 ウォルトは奥で黙りこくっているダーナスに話をふる。

 ダーナスは聞かれる前に自分でも考えていたようでやがて手を軽くあげる。


「む、ミュトス以外にエヴィヒカイトに属する組織は聞いたことがない。仮にも銀章の最高位だ。別組織があるなら私も知っているはずだが……ただ完全には否定できないのも事実だ、ガーライルか私にウィル達の連行を命じた皇帝ならばあるいは知っていようが……」

 

 銀章の最高位がどの位置かはわからないがミュトス組織内においてはダーナスの口振りからするとガーライルの下ほどの位置のようだった。

 知っているかもしれない人物についても完全に敵側でましては当時の皇帝は崩御し新たな聖皇帝グレイなどもってのほかだ。


 ダーナスは力不足を申し訳なさそうに所在なさげに俯く。


「いえ、それでも充分ですよ。ここにきてエファンジュリアと蒼眼を目標としていたのは明らかでした。少なくともアストレムリ側のそれも中枢の思惑が働いていることは推測できました。ただまったく別の組織である事も念頭には入れときましょう」


 推測する情報にはなったことをウォルトは労うとダーナスは少しはほっとしたようで表情に力が戻る。


「アイリ様は思い出せることはありませんか?」


 ウォルトはそこでもう一人のreシリーズであるアイリへとそれなりに優しい口調で問いかけた。


「ない」


 たった一言で断言されたため、それ以上確認することはないようだとウォルトはアイリから緯線を外す。

 一回りも二周りも下の少女にぶっきらぼうに言われたことが多少ショックだったのも伺えた。


「すみません。アイリと僕は同じレベルの知識しか持ち合わせていません。()()が何であれ敵対することに迷いはありません。ファーリは特性上不可視迷彩を持っていますが特有の匂いがありますのでそれを視覚リンクすることで位置の把握は可能です。あ、なんだそれはとは聞かないでください。そういう機能があったとしか答えようがありません」


 ユーリはしつこいくらいにファーリが敵であり裏切りの意志はないことを訴えた。

 ファーリとの対抗も自分なら可能だとは言うがそれの理由はわからないと先に答えられそう言う以上聞くことはできなかった。


「……若、これ以上の情報はなさそうです。次の話に」

 まだ腹づもりがあったようなウォルトだったが、記憶がないと言っている以上、更なる情報を引き出すのは不可能だった。

 話を切り上げ次の話へとフィドルへ促す。


「そうみたいだな。その時はお前に頼るしかない、くれぐれも……頼むぞ」


 フィドルは言葉を強める。

 裏切ればそれなりの対応はするとの意志が伝わるほどだった。


「もちろんです」


 ユーリはそう言うと解放感からか椅子にもたれ掛かる。

 やり切ったような反応はウィルに違和感と共に映った。 


 助かったというのは当然の反応だが、どこか乗り切ったという具合が大きく映ったからだ。

 だが、ウィルは信じると決めていた。

 共に過ごした時間が疑うことを憚っていた。


「それじゃ、次の行動についてだがユグドラウスのーー」


「若!!」


 フィドルが次の目的地について話そうとした瞬間、走る足音と共に扉が勢いよく開け放たれる。

 相当、全力で走ってきたようで、ラプタは肩で息をして膝に手をつく。


「若、若ーー!」


 息を整えることもせず、汗がにじみ出てきたラプタは声も絶え絶えに緊急事態を伝えた。



 一同は、特にミリアン側のフィドルとウォルトは凍り付く。


 ミリアン王国がアストレムリ聖帝国と講和条約を結んだと。

 それは実質、アストレムリの傀儡、属国となることを示していた。


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