第九話
いつも読んでくださりありがとうございます!
はい、華川里佳、悩めるピチピチの一七歳。この間の襲撃事件に比べれば取り立ててピンチでも無いけど、日常生活的にはこっちの方が辛いかな、というレベルで本当に悩んでます。
いや、だって狭い部屋にこのボサボサ頭の男と同居? 何だよそのレ〇ィコミで散々見飽きたような設定は。私はしばらく自分のベッドに腰掛けていましたが、カイトさんに直談判することにしました。部屋から出て曲がりくねった通路を抜け、何とか元いた共用のスペースに戻ります。所要時間約十分。ふう。そして私は気づいた。あれ? もしかして私、方向感覚すごくないか? この迷宮のような作りの礼拝堂(しかもマップ機能なし)で、一度行っただけの場所から感覚だけでここまで戻ってこられるなんて。元の世界では文明の利器のナビ機能のお陰で絶対に花開くことのなかった才能だね、これは。
そしてぶらぶらと待つこと小一時間。日が暮れた頃、カイトさんは帰ってきました。手には大きな袋。夕飯の買い出しってところですかね。世話焼きな性格といい、オカンですね完全に。カイトさんは私を見るなりにこやかにのたまいました。
「おお、無事着いてたか。あいつに案内してもらったか?」
「えぇっと、あいつっていうのはあのメガネでボサボサ頭の人のことですか?」
「メガネでボサボサ、か。まあそうだな。何か問題があったか?」
カイトさんは眉を潜めて首をかしげた。そんな表情でも様になるなんてやっぱり本物の美形は違う。麗しきカイトさんにこんな顔させたのは誰だ! いや私か。
でも今回ばかりは絆されませんよ。問題、大有りでしょう。こういう時はできる限り清純な乙女を装って恥ずかしげに訴えるべきだ、ってハウツー本で読んだ気がするんで実践。
少し上目遣いで、顔を赤らめながらボソボソと口にする。
「あの、私、男の人と同室なんて初めてで。ちょっと恥ずかしいので、できれば……」
「ああ、そういうことか。すまないな、気が利かなくて。ちょっと待ってろ」
そう、できる。ヒロインならね!(某CM風に)ヒロイン補正は格が違いますね。上目遣いで男がほいほい動いてくれるなんてさすが乙女ゲーです。いつもこんなんじゃ性格歪むよ。ゲーム内のヒロイン達はきっと私たちが電源落とした瞬間にかぶってた猫を脱ぎ捨ててるんでしょうな。ともあれ、これでひとまず安心。ハンターには女性だっている訳だし、きっとこれで部屋替えをしてくれるはずです。そう思った私が甘かっわけですが。
「あったあった。これだろ? 人間ってのは大変なんだな」
手渡されたものを見て、硬直。これは明らかに良い子に見せてはあかんやつですね。
「恥ずかしさを吹き飛ばすためにはこれをぐいっと飲んでから行くといい。効果は三時間だ。頑張れよ」
あ、うん。こういう人だって知ってた。知ってたけど。
「あのですね、そうじゃなくて! 男女同室じゃなくて、女性と相部屋にしてくださ……」
「そうか。君はそちら側だったんだな。なら今すぐに手配しよう。ちょうど趣向の合う女がいるから」
「やっぱりいいです! すみませんでした!」
ダメだ、趣向のあう女ハンターって誰? そっちの方が明らかに身が危ういです。乙女ゲーでそんなキャラ有りなの? そして私はすごすごと(もちろん迷わずに)自室に戻った。ボサボサ頭は未だぐっすり眠っている。名前聞くの忘れましたがまあいいことにしましょう。これなら取りあえずは安全そう。私はカイトさんにもらった薬の瓶をベッドの下に隠し、自分の周りに結界を張って万全に準備を整え、夜の仕事に備えて夕食まで仮眠をとることにしたのでした。