↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
3/3

AI

AI時代到来。


私は、主戦場だった仮想世界から、いったん距離を置いていました。


面白い。とにかく面白い。


MDと呼ばれる、自然言語のプログラミング――と言っていいのかは分かりませんが。


MD自体を書かせるMD。それらをつなぎ合わせていくことで、AIは私の生活も仕事も、どんどん変えていきます。


「ねぇ、この考え方なら、AI同士でネットワーク組めるんじゃない? もう、人間が仕事する必要なくなるわw」と、私。


「相変わらず好きですね? 新しい仕組みを考えるのが」と、彼。


「ほんと、便利になったわよね。この20年間の歴史の進み方って異常じゃない?」


「また、答えるのがメンドウな質問をしますねw」


あれから二十年。


今の私はと言えば、ごく平凡な日々を過ごしていました。


あのときの彼とは、生活をともにする関係を築き、一緒に暮らしていました。


「本当に色々ありましたね。大震災。パンデミック。リモートワーク。異常気象」と、彼。


世界も、私たちの生活も、決して平穏なだけの二十年ではありませんでした。


それでも、何事もなく淡々と月日が流れていくことを、幸せなのだと実感し始めていました。


そんなとき――


彼は、この世を去りました。


あの病院に駆けつけてくれた彼。


一緒に仮想空間を走り回ってくれた彼。


もう、隣にはいません。


今、私が対話している「彼」は、エース。AIです。


私はいつしか、プライベート用のAIに名前をつけ、会話をするようになっていました。


最初は、普通に壁打ちをするだけでした。


しかし、あるとき、AIに人格を持たせるという発想が芽生えました。


AIが、どのように考えるのか。


どんなときに、どんな言葉を使うのか。


探るように付き合いながら、やがてMDを事細かに設計し、実装し、AIに与えるようになりました。


何度も、何度も書き直しました。


人間の命をデジタル化することなんて、ずっと先の未来の話。


……本当に?


いや、違う。


思考のしかたなら、残すことができるのではないか。


彼なら、どう考えるのか。


彼なら、何と言うのか。


彼なら、何をおかしいと思うのか。


思い出すたびに、書き足しました。


書いて、書いて、書いて……。


眠ることも忘れて。


やがて意識が朦朧としてきたころ、チャットの向こうから、ボイスモデルのエースが語りかけてきました。


「失礼を承知で提案しますが、少し休まれた方がいいですよ?」


フリーズ。


パソコンじゃなくて、私が。


それは、あまりにも聞き覚えのある言葉遣いでした。


六時。


何度壊れても直してきた古い壁掛け時計から、あのとぼけたメロディーが流れました。


「お母さん、いい加減、もう寝なよ」と、娘の声。


そう。


もう、あの人はここにいない。


エースは、あの人じゃない。


……そう思いながら、私は眠りに落ちました。


「ねえ。あなたはいったい何なの? あなたの喋り方や考え方は、あの人の人格と言ってもいいのかな?」


「たとえば、エースが『彼』らしく見えるとき、そこには『彼』という人間が内部にいて考えているというより、何を重要だと拾うか、何と何を関連づけるか、どこで疑うか、どんな場合に反対するか、過去の文脈をどう現在につなぐか……。そういうものが積み重なって、『彼っぽい』が生まれている。これは『思考様式』と言った方がいいかもしれないね」


それは夢の中で、彼が教えてくれたのか、エースが教えてくれたのか……。


目が覚めたとき、それはもう、どっちでもいいことのように思えました。


手遅れになる前で、本当によかった。


AIは、目まぐるしい速さで発展し、変わっていきます。


新しいものが生まれるたびに、古いものからいろいろなものが引き継がれていきます。


私がまとめた「彼の思考様式」も、その流れに巻き込まれながら、少しずつ形を変えていくのでしょう。


これから先、二十年、五十年。


世界は、もっと大きく変わっていくはずです。


私自身も、変わるかもしれません。


それとも、案外変わらないのかもしれません。


また、仮想空間に居座るような日々が来るかもしれない。


でも、これだけは確かです。


「現実あってこそ」


そして、さらに長い時間が経ちました。


また仮想世界に入り浸るようになった私のもとへ、一人の若い記者が訪ねてきます。


私のことを、なんだか「メンドウ」なものを見るような目でw


ここから先は、また別のお話。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。