第1章。始まりは神様のいたずら。第1話。境内の小さな婚約者
思い出を、物語にしようと、あらすじや設定を伝え、Aiに物語にして書いてもらいました。
私も読者の一人として、楽しめる物語だと思いました…。
もし、よかったら読んでみてください。
50年目の恋文 〜神様の決めた許嫁と歩む、半世紀のカルテ
〜第1章。始まりは神様のいたずら~
第1話。境内のちいさな婚約者
私の実家は、街外れのなだらかな山の上にある、少し古びた神社だ。
急な石階段をのぼりきると、目の前には緑豊かな木々に囲まれた境内が広がっている。
夏になると、降るような蝉の声と、風が通り抜けるたびにカラカラと鳴る風鈴の音が、優しく世界を包み込む。
五歳の夏休み。
私は、境内の真ん中にどっしりと佇む大きな楠の木陰で、地面に低くしゃがみ込んでいた。
「うんとこしょ、どっこいしょ。ありさん、がんばれぇ……」
麦わら帽子の隙間から汗で額に張り付いた前髪を、小さな手で何度も払いながら、私はアリの行列を熱心に眺めていた。
自分たちの体よりも何倍も大きなお菓子のクズを、力を合わせて運ぶアリたちを、私は一生懸命に応援していたのだ。
おっとりしていて、一度何かに夢中になると周りが見えなくなってしまう私は、こうして小さな生き物を眺めているだけで、あっという間に時間が過ぎてしまう。
「おい、ちび。退屈そうだな」
突然、頭の上から、鈴が転がるような涼やかで、どこかお茶目な声が降ってきた。
びっくりして、しゃがんだ拍子に後ろへペたんとしりもちをつく。
痛むお尻を小さな手でさすりながら見上げると、神社の本殿の、反り返った立派な屋根の上に誰かが腰掛けていた。
それは、今までに見たこともないほど綺麗な男の人だった。
着物のような真っ白な服を着ていて、風もないのにさらさらとした不思議な銀色の髪が揺れている。
そして何より、その背中には、パタパタと静かに羽ばたく、白く大きな一対の羽が生えていた。
(あ……神様だ)
子供ならではの無邪気な直感で、私はすぐにその存在を理解した。
不思議と恐怖はまったくなかった。
むしろ、絵本の世界から飛び出してきたような美しい姿に、目を奪われてしまった。
神様は屋根の上からふわりと、重力を感じさせない軽やかさで地面に飛び降りると、砂利の音も立てずに私の目の前まで歩み寄ってきた。
そして、私の頭をぽんぽんと優しく叩いた。
「お前に、一生モノの最高のお土産をくれてやろう。……ほら、あそこを見てみろ」
神様が細く長い指で指差したのは、古い石の鳥居だった。
ちょうど今、その鳥居をくぐって、一人の男の人が境内に入ってきたところだった。
白いシャツの袖を不器用そうにまくり、手には難しそうな分厚い本を何冊も抱えている。少し肩を落としていて、なんだかとても疲れているみたいに見えた。
けれど、私の大好きな少女漫画に出てくる王子様のように、とても端整で知的な顔立ちをした人だった。
「あの男は千秋という。お前の運命の男だ。神である私が、お前の未来のために直感で決めてやったぞ」
神様が意地悪そうににやりと笑ってそう言った瞬間。
私の小さな小指と、こちらへ向かって歩いてくるその人の小指の間に、きらきらとした金色の光の糸が、一瞬だけ結ばれたように見えた。
「うんめいの……ひと?」
私が首を傾げて呟くと、神様は満足そうに腕を組んで頷いた。
「そうだ。将来のお前の旦那様だ。……おっと、本人が来るな。私は隠れるから、うまくやれよ、ちびっこ」
神様がパチンと指を鳴らすと、さっと一陣の心地よい風が吹き抜け、彼の姿はかき消えるようにいなくなってしまった。
それと同時に、ザッ、ザッ、と砂利を踏む規則正しい足音が近づいてきて、私の目の前でぴたりと止まった。
見上げると、さっきの綺麗な男の人――千秋さんが、困ったような、でもとても温かい笑顔で私を見下ろしていた。
「こんにちは。お嬢ちゃん、ここのお家の子?」
千秋さんは、抱えていた分厚い医学書を近くの木製ベンチに置くと、私の目の前で大人の体を小さく折り曲げて、目線を同じ高さに合わせようと屈み込んでくれた。
近くで見ると、その瞳は吸い込まれそうなほど優しくて、ほんのりと大人の落ち着いた良い匂いがした。
「うん! みこと、五歳!」
私はしりもちをついたまま、胸を張って元気に答えた。
天然で、思ったことがすぐ口に出てしまう私は、たった今、神様から聞いたばかりの言葉を、なんの疑いもなく目の前の王子様に伝えてしまった。
「お兄ちゃん、みことの旦那様になる人なんだって! いま、神様がお告げしてくれたの!」
普通の大人なら、きっと「ははは、可愛いお医者さんごっこだね」と笑い飛ばすか、子供の迷信だとあしらうところだろう。
だけど、千秋さんは少しだけ驚いたように丸い目を見張ったあと、ふにゃりと困ったように眉を下げて、包み込むような優しい声で笑った。
「そっかぁ。神様のお告げか。それじゃあ、僕も逆らえないなぁ……」
千秋さんはちっとも怒らず、むしろ私の突拍子もない言葉に真面目に付き合ってくれた。
彼は深く息を吐き出すと、少しだけ遠い目をして、ベンチに置いた本に視線を落とした。
「僕は千秋。今はね、立派なお医者さんになるために、毎日この難しい本と格闘しているんだ。『医大生』って言うんだけどね。でも、最近は試験の勉強が本当に大変で、もう頭が爆発しそうだったんだよ。だから、ちょっと神様に助けてもらおうと思って、この神社に散歩にきたんだ。まさか、こんな可愛いお嫁さんが待ってくれているなんて思わなかったな」
「おいしゃさん?」
「そう。病気や怪我で泣いている子供たちを助けて、笑顔にするお仕事さ。……ねえ、美琴ちゃん。僕がもっとたくさん勉強して、誰もが元気になる最高の先生になって、そして美琴ちゃんが大人になったら……本当に、僕のお嫁さんになってくれる?」
千秋さんはそう言って、白いシャツの胸ポケットから、ゴソゴソと何かを取り出した。
彼の大きな手のひらの上に載っていたのは、プラスチックでできた、小さくてピンク色のおもちゃの指輪だった。
将来、小児科医を目指す彼は、泣いている子供をいつでもあやせるように、おもちゃをポケットに忍ばせるのが癖だったのだ。
「わあ……! きらきら!」
私が目を輝かせると、千秋さんは私の小さな右手の薬指に、そのおもちゃの指輪をそっとはめてくれた。
当時の私の指には、サイズがぶかぶかで今にも落ちそうだったけれど、私にとってはどんな宝石よりも輝いて見えた。
さらに、どこからともなく、さっきの神様の声が耳元で小さく聞こえた気がした。
『ほら、これもお前にやろう』
気がつくと、私のワンピースのポケットの中に、コロンと冷たいものが入り込んでいた。手を入れて取り出してみると、それは透き通った美しい水晶が中に入った、小さな布製のお守りだった。
「あ、それ、綺麗な水晶だね。美琴ちゃんのお守り?」
千秋さんが私の手元を見て、不思議そうに、でも愛おしそうに目を細める。
「うん! これ、神様がくれたの!」
「あはは、本当の神様は大盤振る舞いだね。指輪とお守り、両方とも大切にするんだよ」
千秋さんは私の頭を、大きな、温かい手でぽんぽんと撫でてくれた。
私はうれしくて、ぶかぶかの指輪とお守りをぎゅっと握りしめながら、生まれつき涙もろい性格のせいで、なぜだかじんわりと目頭が熱くなってしまった。
悲しくないのに、胸の奥がぽかぽかと温かくなって、嬉しくて涙が出てしまう。
そんな私の様子を見て、千秋さんは慌ててポケットからアイロンのきいた清潔なハンカチを取り出した。
「おっと、泣かせちゃったかな? ごめんね。大丈夫だよ。僕が必ず、美琴ちゃんをいつも笑顔にする、優しくて強いお医者さんになるからね」
千秋さんのその優しい言葉と、頭を撫でてくれる手の温かさが、五歳の私の心の一番深い場所に、決して消えない小さな恋の火を灯した瞬間だった。
「また、お参りに来るね。バイバイ、僕の小さなお嫁さん」
千秋さんはそう言って、最後にまた優しく微笑むと、ノートの切れ端にさらさらと可愛い動物のイラストを描いて私に手渡し、鳥居の向こうへと帰っていった。
私は、彼が見えなくなるまで、何度も指輪をはめた手を振り続けた。
これが、神様が私たちにくれた、すべての始まりの処方箋。 この日から、私の心の中には、いつもあの優しい医大生のお兄さんが住み続けることになったのだった。
(第1話・了。第2話へつづく)




