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戦争編6

 私がこの術を見つけたのは不老の研究の最中でした。

 初めて他人の身体を奪った時の様に適当に捉えた賊や、捨て値で売られていた奴隷相手に実験をしていた時でした。


 とある奴隷に記憶や人格の削除をしていた時でした。

 どうやっても消せない記憶?感情?があるではないですか。それこそ魔力を回復する薬を飲んで全力で術を発動してもビクともしないのです。

 最初私は有り得ないと思いました。だってそうでしょう?私が消した情報の中には心臓の機能や呼吸の仕方など、最早DNAに刻まれたレベルの物もあったのです。

 自身の生命維持以上に重要な情報が存在する事が信じられなかったのです。

 死んでも忘れない、命より大事な気持ち、脈々と受け継がれた遺伝情報より重要な感情、それが目の前に実在することに驚きが隠せませんでした。


 困惑する私を他所に事態は進んで行きました。

 その感情は瞬く間に私が消した情報の隙間を埋め尽くしていきました。透明な水が瞬く間に黒く染まっていく様に、透明な魂が何かに染まっていきました。

 数瞬後、その魂は最早生物の物ではありませんでした。唯、一つの方向性を持った強力なエネルギー体がありました。





「術式解放 サラ アップル」


 私は眼下の適当な兵士に向かって魔術を放ちました。


「今から10年くらい前ですか?ああ、ちょうどボーア公国でしたね。運命を感じますね。

 兎も角、ボーア公国にサラ アップルという少女がいました。」


 目の色は違いましたが私と同じ赤い髪だったのでよく覚えています。


「平凡な容姿、平凡な能力、平凡な家庭、あえて長所をあげるなら感情豊かで表情に愛嬌があるところでしょうか?そんな女の子でした」


 まぁ、私はその時代を直接見た事はありませんが。


「そんな彼女には将来を誓った恋人がいました。相手は裕福な商家の息子で家族も応援してくれていました。幸せでした」


 まさに絵に描いたような幸福でした。


「しかし、それも長くは続きませんでした。彼には別に好きな人がいたからです。その相手は彼女の妹でした」


 それは


「妹は姉と違い容姿にとても優れ、それでいてとても計算高い人間でした」


 そう、それは


「男は初めから妹に近寄る為に姉を利用し、また妹もそれを知りながら優越感に浸りたいが為に黙っていたのです」


 絵に描いたような不幸


「そうして男と妹は密かに逢瀬を重ね、そして密かに姉を貶める準備をしていきました」


 何と趣味の悪い


「そして2人は何も知らない姉を弾劾しました。2人が付き合っているのを知りながら嫉妬心で無理矢理妹から男を奪おうと嘘をついていたのだと」


 自らの優越感を満たす為だけに


「周囲の人間もそれを信じました。家族も友人も皆んな皆んな。中には真実を知りながら我が身可愛さに妹達に味方した者もいました」


 人なんてそんなものです


「そうして彼女は誰にも信じてもらえず、家から放逐されました。

 何の後ろ盾も無い唯の少女が生きていけるほどこの世界は甘くありません。彼女は直ぐに奴隷の身分まで落とされました」


 ああ、本当に


「見ていますか!サラさん!貴女を裏切った国の人間が惨めに死んでいく様を!もしかしたらあの中に貴女を弾劾した人がいるかも知れませんよ‼︎」


 なんて素晴らしい!


 今、下では4万人の人間が互いに殺し合っています。


 完了系術式 サラ アップル

 彼女の人生に由来するその能力は対象の親しい人間に強い殺意を抱かせます。家族、恋人は勿論、それこそ唯の友人にすら。

 下では肩を組んだ戦友が今や怨敵に見えていることでしょう。

 更にこの術式は対象の魔力を使い自己を複製し、周囲の人間にも感染し、ねずみ算的に増殖していきます。

 感情とは、善かれ悪かれ伝わるものです。


 騙され、裏切られ、見捨てられた彼女は最後の瞬間まで自分が愛していた男性を、家族を、親しい友人を許せませんでした。


 私が彼女と出会った時、彼女の瞳は憎悪に濡れていました。

 何も秀でたところが無いと思われていた彼女には一つ誰にも負けない才能がありました。


 誰よりも裏切りを許せない正義の心が!


「今、貴女から抽出した力で貴女の正義がなされています!」


 そう、これが1人の人間が人生の終わりに残した1つの形。

 故に完了系術式。


 ああ、本当に、本当に


「なんて無様!あはははハハハハハハハハハ」


 笑いが止まりません



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