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戦争編2

「はい」


 呆けているクロム君にもう一度剣を差し出す。


「いや、え?え‼︎」


 まだ状況が分からず目を白黒させています。うーむ、この察しの悪さ、不安になりますね。


「え?ではありませんよ。御飾りとは言え責任者は貴方です。責務を果たして下さい」


 ようやく察したのかこちらを見てくる。


「なに、心配はいりませんよ。剣術の訓練はしていますよね?動かない相手の首を刎ねるだけです。簡単簡単」


 そう言ってやれば目付きが鋭くなり


「何で俺がそんな事を‼︎」


 おやおや反抗的ですね。そりゃ人殺しなんてしたくないですよね。しかも他人に強制されて。


「いや、ですから頭目の責任ですって」


「そんなの俺が望んでなったわけじゃない‼︎アンタが無理矢理押し付けたんじゃないか!」


 うーん、甘い。甘すぎます。

 彼に更に近づき肩を組みます。


「うん、そうですね。その通り。君の意思じゃない。でもね、それって関係無いんだよ」


 クロム君は目を見開きこちらを見てきます。


「いいかい。意思を通すにはね、力が必要なんだ。武力でも知力でもお金でもなんでもいい。兎に角周りを動かす何かが必要なんだ。私は君のお父さんをお金の力で動かした。そして君のお父さんは家長の力で君を動かした」


 優しく、諭す様に、笑顔で


「翻って君はまだ何の力も無い。だからココにいる。力の伴っていない意思は無価値だ。今家に帰っても無駄だ。君のお父さんはお金で縛られている。私の味方だ」


 悔しそうな、怒っている様な、泣き出しそうなそんな顔。


「だからね、言われた通りにするしか無いんだよ君は。君の意思は関係ない。それともあるのかい?私とこの場の傭兵達を倒して意思を通す武力が。私を諭して動かす、そんな知力が。それともこの場から逃げ出して、家も家族も捨てて1人で生きていける財力が。どれか1つでいい、有るならば見せてくれ!」


 真っ直ぐ目を見て、慈悲の心で


「無いならほら、頑張って言われた事をこなさないと。君はまだ自立前、保護されている立場だ。いいかい、勘違いしている様だから言っておくよ?人の愛は無償では無いんだ、それがたとえ家族でも」


 剣を手に持たせ、尻を叩く


「これはいい機会だ。見たまえ、周りの彼等を。君と大差無い年齢なのに、見習いとは言えしっかり自立しているじゃないか。君も大人の階段を登る時だ。だが、その前に先ずは、その剣で、子供でいた責務を果たしたまえ」


 懇願する様にこちらを見てくるが私の返答は変わらない。笑顔でただ彼を見るだけ。

 彼はフラフラと歩いて行く。


 これで彼は学ぶでしょう。自分だと。自分だけが自分を救えると。他人に頼るのではない。努力し自分を高める。そんな当たり前にようやく気付いてくれるでしょう。

 親も先生も皆当たり前すぎて教えてくれない。けど子供が最も気付いていない事。努力は大切だと言う事に。


 前世もそうでしたが大人になってから勉強をする大人って以外と多いんですよ。きっと大人になってからそこら辺の実感が伴ってくるんでしょうね。


 私は隣にいた少女に笑いかけます。


「これで彼も成長してくれるでしょう。私って教師に向いていると思いませんか?」


 少女は無言で目も合わせてくれません。傷ついてしまいそうです。




「頑張れ〜自分に負けるな〜ファイト〜」


 処刑台に立っても覚悟が決まらず震えているクロム君に声援を送ります。と言うか既に3分くらい経ちました。未だに助けを求めて周囲を見ています。

 年の功でしょうか、処刑される側のお爺さんの方が運命を受け入れ落ち着いています。普通逆でしょう。何で処刑する側が悲惨な空気出しているのですか?

 周りの村人もウジウジした彼にイライラしています。

 身内を殺される彼等の気持ちを思えばクロム君の助けを求める視線は寧ろ逆効果でしょう。本来助けて欲しいのは彼等です。


「お若いの、落ち着いてくだされ」


 遂にはお爺さんに嗜められる始末。情けない。


「落ち着いて〜一発で決めないと何発もかけて無駄に苦しめる事になるよ〜いい加減覚悟を決めろ〜早くしろ〜」


 おっと、最後に本音が。

 それよりもクロム君が驚きの表情でこちらを見ています。どうやら死ぬまでに、何発でもやらされるとは思ってなかったのかな?


「うわぁぁぁぁあー‼︎」


 お、誰も助けてくれないと悟ったのでしょう。遂に覚悟を決めた様ですね。剣を大きく振りかぶり、切りつけました。しかし


「うぐっ、かっ!」


「な、なんで‼︎」


 首目掛けて振るわれた剣は首を落とさず、中途半端に切り、お爺さんは苦悶の表情で耐えています。

 クロム君は慌てていて、パニック状態です。


 本来、首を落とすのはとても難しい。幾ら訓練をしているとは言え1発で落とせないのは仕方ないことではある。あるが、今回はそれだけじゃない。


 おっ?


「何をした‼︎」


 隣にいた少女に胸ぐら掴んで問いただされます。その表情は堪えきれない怒りに歪んでいます。


「大した事ではありませんよ?ただ先程肩を組んだ際に、ちょーっと筋力低下の黒魔術をかけただけですよ」


 失敗は人を大きく成長させますからね。

 台の上ではお爺さんが痛みに耐える声と、慌てるクロム君の声が。周りからは家族の叫び声と、台に向かって飛び出して行きそうな者を止める音が聞こえて来ます。うーん、地獄絵図。


「ほら、クロム君、さっさとトドメを刺さないと。いつまで苦しめておくつもりですか」


 胸ぐら掴まれたままクロム君に呼びかけます。

 私の声に反応したクロム君が再度斬りつけますが慌てているせいで狙いを外して肩に当たっています。


 最早村人は暴動寸前のパニック状態。それでも暴動に至っていないのは


「落ち着け!動くな!」


 お爺さんが死にかけながら制止しているからです。うーむ凄い。お爺さんも村人を守ろうと必死です。


 しかしパニック状態のクロム君は早くしないと、と。周囲が見えずその状態で、再度斬りかかろうとします。


「おや⁈」


 スコンッ!という感じの小気味の良い音と共にお爺さんが後ろに倒れます。よく見れば眉間から木の棒が生えています。


 見ればいつの間にか少女が胸ぐらから手を離し、弓を構えています。


「申し訳ありません。手が滑りました。降伏後の殺傷は禁止。契約違反です。罰を受け入れます」


 おや、おやおやおや、おやおよおやおや?

 少女は私を睨みつけながらそう言ってきます。


「いやいや、罰則だなんて、大丈夫ですよ。だって貴女が射抜く前に既にお爺さんは死んでいましたから。ね、そうですよね?」


 私はここまで送ってくれたベテラン傭兵さんに尋ねます。


「あ、ああ。確かに死んでいた」


 私の意図を汲み取ってくれたベテラン傭兵さんは明らかに嘘ですが話を合わせてくれます。

 ここで頭目であるクロム君が責任を果たしたことにしないとややこしくなりますからね。

 傭兵さん達にとっても罰則は避けたいですしね。


「なので、罰則なんてありませんよ」


 私は少女に近づきこっそりと耳うちします。


「それと実は私、ついさっきこっそり人の家のお茶を盗み飲みしましてね、内緒ですよ?」


 そう言って少女の肩を叩きます。


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