0264・お話し合い その2
Side:ハトホル
まだあの獅子は諦めていないようです。
私は一度寝室に赴き、ベンヌ用の乳を水筒に入れてきましたが、その際にもついてきましたね。
私が気にせずにやっている事を見てビックリしていましたが、途中で顔を赤くして出て行きました。
そうなるなら最初から見なければいいものを。
そう思いますが、本人からすれば真剣なのでしょう。
イシスが軽く蹴散らしてしまったのでアレですが、おそらくは真面目な人物なのだと思います。
ただし頑固な真面目さと言うべき性格ですが。
私が戻ってイシスに水筒を渡すと、何故か第三王女だというナズトーラが話し掛けてきました。
「何をなさってきたのですか?」
「ベンヌが飲む為の乳を入れてきただけですよ。ほら、あそこに居るでしょう? あの鳥です」
「ああ……。あれ? 乳を? ここには家畜が居るのですか?」
「違いますよ。あの水筒に入っているのは、私の乳です」
「「「「ええっ!?」」」」
何故かリリエ達も驚いているようですが、いったいどういう事でしょう?
何を驚いているのか分かりません。
「あの、お子さんは何処に居るの? 今まで一度も見た事が無いけれど、居たなら紹介してくれても良かったんじゃありません?」
「子供なら、前の星でアンデ「くそ! どこに出口があるのだ!!」ッドに殺されました」
「え?」
「私の子は、アンデッドに殺されました。イシス達に会う直前ですけどね。そしてアンデッド相手に戦っていた私を助けてくれたのがイシス達です」
「アンデッド……? とはなんですか?」
まさかアンデッドが通じないとは思いませんでしたので、一つ一つ説明していきます。
するとダンジョン内には居るらしく、納得してもらえました。
どうやらこの星ではアンデッドではなくリビングデッドと呼ぶようですね。
私の子がリビングデッドに殺されたという事で色々と察したのか、それ以上は何も聞いてきませんでした。
ただ、それと今でも乳が出るのは一切関わりが無いのですが……。
面倒ですから、このままにしておきましょう。
「ところで、そこのドタドタ五月蝿いのは理解したか? それともまだ諦められないか? どっちでもいいが、無駄に頑固だな。まるでカビ汚れみたいだ」
「カビ……」
「貴様! 黙って聞いていれば、言うに事欠いてカビだと!?」
「無駄に頑固であり、しかも汚れでしかない。こびりついた油汚れか、カビとしか表現できないだろう。お前の真面目さは良い意味じゃなく、悪い意味での真面目さだ。現状を正しく理解しようとしないで目を背けているだけだろうが」
「うぐっ!?」
「しかも第三王女を待たせるという、自分の事しか考えていない態度と行動。色々な意味でお前は駄目じゃないか。それでよく俺に文句を言えたもんだな? 呆れてくるぞ」
「………」
「ま、俺はちょっと移動してくるんで、好きなだけ駄々を捏ねるといい。今のお前さんは大人じゃなく、気に入らないと喚いて暴れる子供に過ぎん」
そう言ってイシスは<解放調整室>を出て行きました。
本当に容赦がないなと思いますけど、両国の王族を待たせてまでする事か? と問われたら、答える事は出来ないでしょうね。
彼女は貴族家の者でしかないようですし。
「シロコ……」
「すみません、第三王女殿下。配慮が至りませんでした」
「いえ、納得が出来ないというのも分からなくはない。そうサッティア第二王子ともお話をしていたところです。どうもあの方は理不尽な存在だそうですので、考えるだけ無駄だとも仰っていましたよ?」
「うむ。本当に考えても無駄なのだ。君が何とか、と思う気持ちも分かるが、アレに対して対抗心を持っても無駄だ。どうにもならないし、無意味でしかない。我々は既にそれを理解させられた」
「そう、ですか……」
しんみりしているところにイシスが戻ってきましたが、何やら手に持っているようです。
「暇だったんで今の内にと思ってさ、ヌンさんが求めてたスピードローダーを作ってきたよ。これでリボルバーも多少は扱いやすくなるかね?」
「そうですね。スピードローダーがあれば素早く銃弾を装填できますので、乱戦でも楽になります。9ミリパラ○ラムですが、口径はこのままですか?」
「あまり大きくしたくはないな。銃弾のニコイチをするしかないだろう? 普段使いの銃弾の口径を増やすと減る量も増える。正直に言って7.62ミリNAT○弾と、12.7ミリNAT○弾もあるんだ。拳銃弾までもとなったら大変すぎる」
「仕方ないですかね? こちらで無煙火薬も含めて製造できませんか? 成分はニトロセルロース、ニトログリセリン、ニトログアニジンの三つです。最悪はニトロセルロースだけで構いません。<物品作製装置>を見れば作製出来るか分かりますよね?」
「ヌンさんがそう言うなら後で覗いておくかな。それはともかくとして、そろそろ頑固な獅子は理解したか? 呆れるほどに周りが見えていなかったが」
「くっ! 貴様に言われると腹が立つな」
「それは正論だからだ。正しい意見をぶつけられると反論が出来ないから腹が立つ。つまり相手の言っている事が正しいと認めている証拠だ。さて、そんな小さな事はどうでもいい、そろそろ真面目に話し合いを始めよう」
「………」
何か言いたいようでしたが、黙って座りましたね。
まあ、言っても仕方がないと思ったのでしょう。
ちなみにベンヌはお腹がいっぱいになったのか寝ています。
何故かラディが嬉しそうに見ていますが、あれは放っておいて構いませんね。
「さて、話し合いの続きといくんだが………ソノトン島を占領する下見という事は、お前達は何が起きているか知っていたという事か?」
「着々とこちら側のシンパを増やし、我が国に所属を促す工作をしている事は知っている。それでも抵抗する者はいるからな、最後には制圧をせねばならん。その為の下見だ」
「ヌンさん。こいつは大事なところを知っているのか?」
「その大事なところが何処かは分かりませんが、あそこでされていた工作の中身は知りません。それは第三王女も同様です」
「成る程……余計な事は教えない、か。分かりやすい侵略国家のやり口だ。反吐が出る」
「どういう事だ!?」
「ソブトル家は、君達グィズマ王国の手の者によって皆殺しにされたよ。血族が絶えて、家が断絶した。分家が継ぐ事になるだろうけど、二度と宗家の血は戻らない」
「えっと……それは、いったい?」
「ソブトル家にはグィズマ王国の裏部隊の隊長、そいつが家令として入り込んでいた。そして薬と暗示を使われた嫡男は当主と弟妹を殺し、最後は暗示を受けた通りに自殺した。当主の弟も薬と暗示を受けて、フーバー島で山賊として暴れ回っていたしな」
「裏部隊の隊長? そんな者が入り込んでいるなど知らんぞ!」
「お前が知っているかはどうでもいい、そいつを捕縛した後、ここで徹底的に拷問をしたからな。既に吐いたうえ、ヌンさんが記憶を覗き見て得た情報だ。間違いは無い。しかもそいつは、まだ生かしてある」
「な、んだと……」
「そんな事を……?」
「そう、それは我々も確認している。既にソブトル家の血筋は絶えたし、家令をやっていた男は適当な傀儡を用意するつもりだったそうだ。ソブトル家の者が居なくなれば、後は自分が牛耳れるとな。下らぬ個人の欲望もあったが、苛烈すぎる拷問で全てが折れている」
「今はひたすらに怯え続けるだけの生き物になっているぐらいだ。ああなるのは分かるし、アレで心が壊れていないのだから凄いなと思う」
心が壊れて云々という部分で引いているようですが、あんな事をしていたのですから、苛烈な拷問を受けても仕方ないと思いますよ。




