0254・リリエへの説明
Side:イシス
リリエが撃たれたので治療をしてやったまでは良いのだが、ここが何処かという事をしつこく聞いてくる。
納得できないのは分かるが、面倒な事だ。
とはいえ助けなかった方が良かったかと言えば、依頼の失敗にしかならないからなぁ。
仕方ない。
「ここは<時空の狭間>であり、<時空の旅人>の拠点だと思えばいい。そして<時空の旅人>とは俺の事になる」
「<時空の旅人>………。申し訳ありませんが、何の説明にもなっていませんわ」
「残念ながら、それが正しい説明となる。これは俺が面倒臭がっているという事ではなく、正真正銘、ここが<時空の狭間>であるとしか説明できない場所なんだ。ちなみにだが、ここで幾ら過ごしても向こうでは時間が止まっている」
「時間が止まっている……?」
「そうだ。ここにどれだけ居たところで、向こうでは一切時間は経っていない。今もまだ、向こうはリリエが撃たれて倒れた直後。正しくは俺が<時空の狭間>に連れて来た瞬間で止まっている」
「………貴方の妄想か何かですか?」
「そんな事を誰かに言うタイプだと思うか? 残念ながら事実だ。そして<時空の狭間>を使用できるのは<時空の旅人>のみとなる。これも正しく言うなら、出入りの許可を出せるのは<時空の旅人>だけだ」
「少し補足しますと、<時空の旅人>の仲間と認められた場合は、申請する事で<時空の狭間>を利用できます」
「だ、誰ですの!?」
「ヌンだよ。金属を被覆した人形だと説明したが、正確にはゴーレムに宿っているのはヌンの分体であり、こっちが本体のヌンだ」
「本体………。となるとゴーレムに宿っている方が、仮に倒されたとしても……」
「ヌンさん本体に何の痛痒も無いな。何か別の物に憑依し直して、ここに帰ってくるだけになる。ヌンさんはヌンさんだし、そもそも肉体の無い知性体というものだ。だから本体のヌンさんは、そもそも傷つけられない」
「はぁ……そういうものなのですね。それはともかく、もしかしてサッティア巡視官とアックレト巡視官が消えたように見えたのは?」
「そう、ここに連れて来て拷問を行ったからだ。向こうでは一瞬にしか感じなかっただろう? あの二人はここで拷問を受け、ついでに子供の頃の恥ずかしい<おねしょ>まで明るみにされたぞ」
「私は<時空の旅人>をサポートする者ですので、<時空の狭間>に居る存在の記憶を覗いたり、現在の思考や感情を読み取るなど容易いのです。なので好きなだけ暴けるのですよ」
「そ、それはつまり……今、私の事も暴いている、と?」
「当たり前です。私は<時空の旅人>をサポートする者であり、危険かどうかも含めて完全に調べるに決まっているでしょう。心配要りません。貴女が〝オジ専〟である事はここだけの秘密にしておきましょう」
「おじせん?」
「リリエ………お前、オジ専だったのか」
「おじせんって何ですの? そしてその表情はいったい何ですか!? 何か気に入りませんわ!!」
「オジ専っていうのは、オジサンが好みの女性の事だな。要するに結構年上の男性でないと恋愛対象にならない女性の事だ」
「………な、何でその事を………」
「ですから私は<時空の旅人>のサポートとして、記憶を覗けると言っているでしょう。貴女の異性の好みなど簡単に分かるのですよ」
「い、イヤーーーーーーーーーー!!!!」
「ああ、叫びたくなる気持ちも分かるが、諦めろ。ヌンさんの前じゃそうなるのは仕方ない。それがヌンさんだし、そうやって暴かれたから巡視官の二人も大人しいんだよ。だって全部を丸裸にされるからな」
「なんでですの!? 今まで一度たりともバレた事などないというのに!!」
「だーかーらー、ヌンさんは記憶を覗き見るから、その時の感情とかも含めて全て知られるんだよ。だからリリエがオジ専だという事もバレた訳だ。まあ、好みだから悪い事じゃないとは思うけどな」
「あー!! 何て事!? 今までの私のイメージが!!!」
「こりゃ駄目だな。落ち着くまで少しゆっくりしておくか。ここは<解放調整室>だし、すぐに落ち着くだろ」
俺はリリエが落ち着くまでゆっくりと待つ事にし、その間にヌンさんと色々と相談をしておく。
こっちに金属ヌンさんが戻ってきていないので詳細までは話してなかったんだよ。
なので今の内に説明をしておく。
「成る程。予想して然るべき事が起こったという事ですか。とはいえ大した抵抗ではありませんし、<時空の旅人>なら死ぬ前に回復させられますから、あまり意味がありませんね」
「まあな。そもそも俺は死んだところで無制限に復活し続けるし、最後は必ず敵が負けるんだが……。それを敵さんは知らないから、抵抗はするだろうさ」
「仮に無制限に無限に復活し続けると聞いても、愚か者は諦めない気がしますけどね? それも含めて愚か者ではありませんか?」
「まあ、それは確かにそうだ「ちょっと待って!」と思うけど」
「無制限に無限に復活ってどういう事ですの!?」
「言葉のままだ。俺は<時空の旅人>であり、殺されたら<時空の狭間>に戻される形で復活するんだよ。実際に今までにもあるしな。一度はウサギの魔物に首を噛み千切られて。二度目は呪いのアンデッドに首を切り落とされて死んだし」
「………」
「そもそも<時空の旅人>には寿命もありませんからね。だから<時空の狭間>で好きに過ごせるのです。リリエフル、貴女がここで10年過ごしても、向こうの時間は止まったままなのですよ?」
「ど、どういう事かしら?」
「ここで10年過ごしたら、当然貴女は10歳老化する訳です。ですが向こうは時が止まったままですので、10年前のままとなりますね」
「…………!? は、早く戻らないと! 私だけが歳をとってしまいます! そんな事になるなんて耐えられません!!」
「落ち着け。一日や二日で変わったりなんてする訳がないだろ。それよりも説明は終わったし、今は落ち着いてゆっくりするんだ。そもそも回復したとはいえ、撃たれたんだぞ」
「そうですわね。治ったところ……の割には体が元気なのですが?」
「そりゃ、あの<生物修復装置>は完璧に治すからな。つまり治療が終わったら完全回復している訳だ。傷が治っただけじゃないんだよ」
「とんでもないですけれど、それを利用する気は……」
「あるわけないだろ。どれだけ世の中に欲深い連中が居ると思ってるんだ? そいつらが大挙して使わせろと言ってくるのなんて簡単に予想出来る。そして実力行使に及んできたら、俺は全員殺すぞ? 全てを根絶やしにするまでな」
「<時空の旅人>は幾らでも蘇りますからね、最後には必ず勝つんですよ。しかもここ<時空の狭間>に帰ってくれば、幾らでも休めますし」
「…………反則すぎません?」
「言いたい事は本当によく分かる。が、それが<時空の旅人>の特権だ。ただし<時空の旅人>という仕事から逃げられない証明でもある」
「逃げられない?」
「これほどの物を持たされて、好きに使うだけで何も無いと思うか? やらなきゃいけない事があるんだよ。そして勝手に<時空の旅人>を止める事は出来ないわけだ」
「つまり……無限に蘇る事が出来なければいけない程の事を、貴方はやらされている、と?」
「そうだ」
「………ええ、分かりました。私は何も聞かない事にします。きっと聞いたら碌でもない目に遭う事でしょうから。そもそも無限に蘇るという時点で恐ろしいのです。それが必要な事なんて、想像する事すら嫌ですわ」
「だろうな。その気持ちは痛いほどよく分かる」
俺だって、いつクリーチャーの星に行かされるんだと、不安で仕方がないからな。
そこだけは絶対に行きたくない。




