0156・王都を出発
Side:イシス
開拓者ギルドで報酬を貰った俺達は、さっさと店へと移動して追加で大麦を買う。
その量はなんと小金貨1枚分。
店員もビックリしていたが、俺は気にする事なく購入し、更には他の穀物の説明も聞いていく。
しかしカラス麦に似た物もオーツ麦に似た物も無かった。
ついでにハダカムギに似た物も無かったので諦める。
ちなみにあったのは聞いた事も無い雑穀で、だいたいは粥にして食べられるらしい。
俺が元居た星の古い時代でもそうだったと聞くし、やはり古い時代に食べられていたのは基本的に粥なんだろうな。
もちろんパンや米を炊いて食べたりするわけだが、一般的には粥が長い間の食事の一つでもある。
実際に俺が生きていた頃でも粥という食べ物はあるんだしな。
人類と粥は切っても切り離せないんじゃないか?
それはともかくとして、ようやく大量の穀物が手に入ったので色々と出来そうだ。
大麦のパンというのも作れない事はないらしいし、一度<物品作製装置>で作って食べてみないと分からないしな。
それとホップが無いからビールは無理だが、エールを作る事は当然可能だ。
更に言えば<物品作製装置>だと、出来たてでありながら一番美味しい状態で常に出てくる。
そういう酒がようやく作製できるようになった。
ある意味で喜ばしい事だが、バステトかハトホルがハマると面倒な事になるなと思う。
酒に溺れても<生物修復装置>で回復できるからこそ困る。
二匹には飲ませない方がいいだろうか……?
でもなー、それもこれも一度は飲ませてみないと分からないし、気に入らない可能性もある。
ただし牛にビールを飲ませて肉質を上げるなんていう方法があった筈だから、ハトホルは普通に飲みそうな気がしてきた。
ま、それらも含めて一度は飲ませてみるか。
そう考えながら酒屋に来たが、売っているのはエールばかりだ。
こういう時代では保存料みたいな物は開発されていない所為で、酒の保存期間が非常に短い。
すぐに酸っぱくなるか腐ってしまうので、酒屋もエールぐらいしか置いていないんだろう。
一応店員に聞いてみるか。
「ウチはエールの他にワインも置いてるけどねえ………高いよ? なんたってダンジョンの中で手に入るブドウを使って作ってるからね。外に持ち出して栽培に成功したヤツも居るらしいけど、王都じゃ誰も成功してないんだ。何が違うのかは分かってないよ」
おおっと、ワインがあったらしいが店には出てないぞ? と思ったら、高価な商品だから奥にあったらしい。
一瓶で300ルルもするみたいで、しかもその瓶は500ミリリットルのペットボトルくらいの大きさしかしていない。
陶器で出来ているから分厚いだろうし、中には250ミリリットルぐらいしか入っていないんじゃなかろうか?
これで300ルルは高価すぎる。
流石に手が出ないとして諦めたフリをして酒屋を出たが、情報はゲットできた。
どうやらダンジョンにはブドウが手に入る場所があるらしく、そこに行けば幾らでもブドウが手に入りそうだ。
そこで酵母もワインも作れるだろう。
ついでにリンゴもあれば尚良いんだが、それは高望みかな?
他の店もウロウロしつつ、武器や防具も見ていく。
なかなかに個性的というか<力の鉄槌>も使っていた木のハンマーなども売っていた。
他にも棍棒や剣に槍もあり、なかなかバラエティに富んでいる。
しかしながら何処を見ても店員に確認してみても、長柄は槍以外に無かった。
なぜか矛や長柄の剣に戟も無い。
戟の前身とも言われる戈と呼ばれる武器さえ無いぞ。
戈は長い柄に横向きの刃が付いている武器で、昔の戦車の乗り手や馬に乗っている者を引っ掛けて引き摺り下ろしたり、ツルハシのように使って敵に突き刺していた武器だ。
そういった武器があると思っていたんだが、何故か槍しかないという奇妙な状態だった。
店員に昔の武器とかに長柄がなかったか聞いたが、店員は聞いた事が無いとの事。
となると、この星では長柄の武器が発展しなかったか、途中のどこかで忘れられて消えていったんだろうと思う。
長柄という敵から距離をとれる武器が何故廃れていったかは分からないけど。
他にも色々と見て回るものの、その殆どは購入する為ではなく見て知る為だ。
そうする事により俺の知識に入ってくるし、同時に<物品作製装置>で作れる物も増えるだろう。
途中もう一度粘土を500ルル分買って、ついに宿へと戻った。
それなりに散財したものの、必要経費というか必要な出費だったのは間違い無い。
宿に戻っても昼前であり、まだまだ時間はある。
どうしたものかと皆で話し合い、結局この宿を引き払って南のダンジョンへ行く事にした。
理由は王軍の訓練場での出来事だ。
今日の夜に刺客を送ってくる可能性があるので、早めに移動しようとなった。
いちいち迎撃するのも面倒だし。
王都は治安が悪いと聞いていたが、スラムなどの危険な場所には行っていないからか、そこまで治安が悪いとは感じなかったな?
まあ、唯の噂だったのかもしれない。
俺達は宿の少年に話し、部屋をキャンセルすると同時にダンジョンのある町について聞いた。
町の名前は<チャルタン>と言い、南への街道を真っ直ぐ行くと着くそうだ。
そこまで遠い訳では無いらしい。
情報を受け取った後は出発し、一路南のダンジョン町まで進んで行く。
もうネズミ肉には飽きたので、わざわざ酒場で食事をしたりなどしない。
王都南の出口から外へと出ると、そのまま真っ直ぐ街道を進んで行く。
もちろん徒歩で進んでおり、急いでいるわけでは無い。
更に言えば草を確保していくので、草刈りをしながら進む事になる。
ハトホルに好きな草を聞きながら刈っているので、食べもしない雑草はあまり刈らないようにしている。
もちろん栄養剤の事を考えたら全て刈っていくのが一番良いのだが、それは面倒臭いんだ。
いちいち止まって草を刈っていたらキリが無い。
王都に行く際にもハトホルが好む草を重点的に刈っているので、今回もという事だ。
ちなみにバステトも協力してくれている。
だいたいは獣人状態の大きな爪を出して刈り、それを【ストレージ】に収納していく形だ。
ああいう感じで。
「ニャッ! ニャッ! ニャァァァ!!!」
バサッ!バサッ!バサッ!
そんな音と共に青く茂った草が倒れていく。
それなりに成長した草だけど、ハトホルや俺達に必要な栄養の元でもある。
刈られる為に生えてきた訳じゃないが、安らかに眠れ。
どんどんと回収していき、終わったら先へと進む。
実は最近、手で触れなくても体の近くにある物は【ストレージ】に回収できるようになった。
なので、いちいち屈む必要がなくなり、回収が非常に楽になっている。
土を柔らかくして根が抜ける状態になると、草や木は【ストレージ】に回収可能になる。
なので手を触れずにどんどん歩きまわって回収すれば、それだけで終わるんだ。
だからバステトが爪を振るっているのは、単なる遊びというか運動でしかない。
色々と暇だったりしたし、ストレスでも溜まってたんだろう。
今は疲れるぐらいまで爪を振り回していても構わない。
それが終わったら進んで行くだけだ。
と思っていたら、途端にやる気が無くなったのか止め、さっさと先に進もうと言い出す。
『もう十分集めたんじゃない? 私も集めた分を渡すから、さっさと先に進みましょうよ。こんな所で無駄な時間を使っても仕方ないわ』
「「「………」」」
俺、ヌン、ハトホルはバステトのストレス解消待ちだったのに、この言い種である。
バステトはマジで猫だなと改めて思う。
本当に気分屋で、自分が待たせていたという意識も無いらしい。
流石は猫と言うしか無いし、それ以外に言い様が無い。
バステトは話が出来ても人に近い姿に変われても、本質は完全に猫だ。




