0115・森の静けさと原因
Side:ヌン
変ですね?
幾らなんでも何も感じられないという事はあり得ない筈なのですが、音も聞こえなければ魔力反応も無い。
更に気配も感じませんし……いったい何故この森には魔物が居ないのやら。
む……? 成る程、そういう事ですか。
通りで魔物の反応が無かった筈です。
随分と強力な者がここに居たので、他の者が逃げたか食われたかしたのでしょう。
強力と言っても、あくまでもこの星で今まで観測した者達の中では、強い魔力を持っているというだけですが。
とはいえイシスやバステトにとってはちょうど良い相手でしょう。
ここは見ておきますかね。
『イシス、バステト。向こうに強い魔力を持つ何かが居ます。その所為で森に他の魔物の気配が無いのでしょう。二人で戦えば十分に倒せますが、どうします?』
『なら声を出さないように【念話】で会話をするが、急に俺達にやらせようって怪しくないか? 何か理由があるんだろうが、急にどうした?』
『そうよね? 急に私達に任せるとか言い出すって、何かありますよと言っているようなものよ? まあ、隠す気は無いんでしょうけど』
そうですね。
隠す気はありませんが、こうも簡単に見破られるとは思いませんでした。
やはり普段と違う事をすると、すぐに勘付かれるものなのですね。
仕方ありません。
こういう場合はハッキリ言った方がいいでしょう。
『感知もそうですが、あまり私が物事を熟すと二人の為になりませんので、イシスとバステトで戦う事を提案したという訳です。それなりの魔力を感じる相手ですからね』
『それはつまり、俺達ですら殺されかねないのが居るって事か? それなら気合入れて頑張らないと駄目だな。頑張って勝てる相手ならいいが』
『流石にそこまでの相手ではないと思います。それに、どんな相手でも殺される可能性というのは僅かにでもありますからね。そこを勘違いしていると、足下を掬われますよ?』
『まあ、そうね。どんな相手だって自分を殺す可能性はある。だからこそ、殺し合いというのは緊張感を持って戦わなきゃいけないわけだし』
『それは分かってるが、それと俺が言った事は別なんだがなー……』
『とにかく二人で戦ってみて下さい。私はあくまでも相手の魔力から、二人が戦うにはちょうど良い相手だと思っただけです。そこまで思惑があるわけでもありませんよ』
イシスとバステトが私が言った方向へと向かって行きます。
途中で目的の魔物に気付いたのか方向を修正しましたね。
となると完全に捕捉したのでしょうが、動きはまだまだですか。
この際ですから歩き方も含めて、何もかもを教えておいた方が良いですかね?
今なら食料もありますし、結構な事を叩き込むだけの時間もあります。
ダンジョンとやらに行く前に、色々と教えておかないといけません。
このままでは良からぬ連中に絡まれる可能性も高いでしょうし、それを撥ね除けるだけの技術と知識も無いままです。
そうなると権威や権力のある面倒な連中に押し込まれて逃げる羽目になりそうですし、何度も殺されながらの戦いになる可能性も……。
イシスにはそれが<時空の旅人>の戦い方だと言いましたが、流石にそれは最終手段のようなものです。
出来得る限りそのような事が無いように立ち回らなければいけません。
それらも含めて教えますか。
おっと、相手の魔物もこちらに気付いたようですね。
向こうの魔力が放射されてきました。
そしてその事にイシスもバステトも気付いたようです。
放射魔力の感知能力と危機感はあるようで何よりですが、そこで相手の出方を見ないのはマイナスですかね?
いえ、微妙なところですか。
相手の出方を見た方が良い場合もあれば、相手の出方など考えずに一気に倒した方が良い場合もあります。
結局は臨機応変に事に当たるのが一番なのですが、それは対応できる能力がある者に対してのみ言える事ですからね。
そろそろ見えて戦闘が始まるはずですが……。
「グォォ、オブッ!?!!?!」
熊ですか。
咆哮を上げようとした途端に【ヒートバレット】を口に叩きこまれて悶絶していますね。
こうやって機先を制する方法は正しいです。
戦いにおいては自分が主導する形で戦う事が望ましい事ですからね。
相手に主導権を握られていると不利にしかなりません。
相手を罠に嵌める為にワザと主導権を渡す方法もありますが、あまり良い方法ではないのですよ。
あれはあれで高度な駆け引きや、相手を確実に罠に嵌める方法を決めてからするべき事ですし、相手が主導権を持っている以上は絶対が無い方法でもあります。
賭けになる場合も多く、褒められた方法ではありませんからね。
最初の一発が喉にでも当たったのか、あれから咆哮を上げようとはしませんね。
上手くやったのか、それとも偶然か。
とはいえ上手く戦闘をしている以上は考えても意味はありませんね。
「ッ!!」
『……っと、こっちに引き付けるのは成功。バステト、そっちは大丈夫か』
『問題なしよ。足を潰して確実に戦闘能力を削ぐ!』
ええ、それで良いのです。
戦闘において一撃必殺など、本来狙うべき事ではありません。
確実に倒せる手段を持ち、かつ、それが失敗してもリカバリー出来る状態を確立してからやるべき事です。
一撃必殺を狙って失敗し、一転してピンチに陥るなど愚かの極み。
頭が悪いと言われても返す言葉は無いでしょう。
なので確実に敵を始末する為に最優先するのは、敵の戦闘能力を減らす事です。
異常な回復能力を持つ存在は極稀に居ますが、殆どの存在は戦闘中に傷を癒す事など出来ません。
たとえ治療系の魔法がある星でも、一瞬や短時間での治癒などあり得ないのです。
それが出来るのは生物ではなく、その枠を超えた神と呼ばれる連中くらいですからね。
アレらが味方している者を敵にする場合は、僅かな時で回復される事を覚悟しなければいけませんが、この星にはおそらく居ないでしょう。
もし居るのであれば、イシスにあんな指令が下るとは思えませんしね。
居ないからこその何とかしてくれという事でしょう。
それ程までに神にとって当該国は邪魔だという事でもありますが……。
ドスーン……!!
『やれやれ、やっと勝ったぞ。何だよ、この目が六つもある熊は? 初めて見たぞこんなヤツ! ……っていうか、この星にはこんなヤツが居るんだな』
『本当に不思議だけど、何故目が六つもあるのかしら? それに何か意味があるの? 変わってるわねえ……』
『二人とも上手く戦いましたね。傷も受けていませんし、上手くイシスが囮になって戦っていました。その間にバステトが足を攻撃して機動力を奪い、着実に相手が不利になるように追いこんでいく。上手く連携しました』
『そりゃまあ、前の星で<ムンガ>相手の戦闘を二度もやったからな。あいつ呪いとか瘴気を集めて回復しやがるし、傷をつけても意味が無いんだよ。だから俺が囮になって、バステトと一緒に浄化を繰り返すしかなかったわけだ』
『そうそう。<ムンガ>が相手だと、完全な持久戦なのよね。攻撃はせずに浄化だけなんだけど、やってる事はひたすら避けながらの繰り返しなのよ。だからアイツ嫌いなんだけど』
『俺だって嫌いだっての。傷をつけても瞬時に回復ってなんだよ、卑怯だろ! って散々思ったしな』
そういえば瞬時に回復するような相手と既に戦っていたんでしたね。
となると、その辺りの面倒さと厄介さは知っていますか。
その辺りは省いて教えましょう。
実戦経験に勝るものはありません。
それを経験しているのと経験していないのでは、比較が出来ない程の差があります。
なので、そこの厳しさはイシスとバステトが一番よく分かっているでしょう。
血抜きなどが終わったら、きちんと提案した方がいいですね。
ダンジョンのある町に着いてからでもいいですが、二人はどちらを選ぶでのでしょうか?




