シープ王国最後の后
后の元婚約者ブルーノ視点です。
シープ王国最後の后として名を残したキャサリン。
彼女は身の丈に合っていない后という立場を懸命に務めた女性だ。
キット子爵家の長女であり、本来であれば私と結婚する女性だった。
私はトック子爵家の次男ブルーノ。
トック子爵家は長男に問題はなく、次男の私は文官になるべく勉強をしていた…。
爵位を継げない私には文官になるか騎士になるかの2択しか残されていないからだ。
そんな折、キット子爵家から婿にならないかと打診があった。
キット子爵家には男児がいない為だ。
同じ爵位であり、トック子爵家としては私が余っていたので丁度良い話であったのだろう。
父は大いに喜び私を顔合わせのお茶会に送り出した。
「ようこそおいで下さいました。私はキット子爵家長女のキャサリンでございます。どうぞ宜しくお願い致します」
挨拶を聞いただけであったが、とても好印象を受けた。
とても可愛らしく、物腰も柔らかで、守ってあげたくなるような女の子であった。
「はじめまして。私はトック子爵家次男のブルーノです。よろしくお願いします」
お茶会はとても和やかな雰囲気で行われた。
少し話していて心配だったのが、キャサリンは余り体が丈夫ではないそうだ。
家から出ることも少ないらしい…。
私も文官を目指して勉強ばかりしていたので、外は余り知りませんと正直に話した。
キャサリンは微笑みながら…。
「では、今度外の話を聞かせて下さいませ」
私も笑顔で…。
「分かりました。私のできる限り外を見て回ってみます」
彼女と話していると文官になるよりも騎士になりたくなってしまう。
そんな自分が可笑しくて私は彼女の魅力に惹かれているのだと思う事にした。
そんな優しいお茶会を何回か通し私がキット家に婿入りする事が決まった。
10歳の頃の話だ。
既に婚約しており何事もなければ私たちは結婚するはずであった。
私たちが学園に入学した時、現国王であり当時は王子であったカリグラが最終学年として在籍していた。
私があの男を許す事は生涯ないだろう。
カリグラは愛する女性を探す為に学園に通っていると自ら豪語する程で、婚約している女性からしたら、とても近寄りたくない存在だった。
本来であれば玉の輿であるのだが、相手がカリグラとあっては…。
貴族の共通認識としてカリグラは最低な男であると烙印を押されていた。
皆がカリグラの卒業を待ちわびている中で最悪な結末を迎えてしまう。
あの男はキャサリンに一目惚れをした…。
【真実の愛】を見付けたと。
王子に突然私の妻になれと言われて頷ける女性はどれ程いるのだろうか?
彼女は子爵家であり王族に嫁ぐことなど想定されていない。
キャサリンはとても勤勉ではあったが王族に求められる水準ではとてもない。
「カリグラ王子様、私には婚約者がおります。それに、王族に嫁げる程の教養を持ち合わせてもいません。家格としても私は望まれないと思われます。私に務まるのは側室になり、部屋に籠っているくらいでしょう」
キャサリンはとても丁寧にお断りをしたつもりであった。
しかし、カリグラは最低な男である…。
「キャサリン、心配はいらないよ。婚約破棄できるように王家から話をするから。教養も必要ない。私は君が側にいてくれるだけでいいのだ。私と結婚して欲しい。私には君しかいないと誓うよ。もちろん正妻だ。側室を取るつもりはない」
カリグラは一方的な思いでキャサリンを追い詰めていった…。
キャサリンから結婚したくないと言えないなど考えてもいないのだろう。
権力を使った脅迫でしかない。
突然王家に呼び出されたキット家に何ができるであろうか…。
「キャサリンは王子である私と結婚する事になった。婿が必要であるのであろう?次女に婚約者はいるのか?」
キット家当主は嫌な予感がするが嘘は吐けない。
「いえ、次女はまだ婚約者がおりません」
王子は問題が解決したと満足そうに笑いながら残酷な命令を告げた。
「婿はキャサリンの婚約者にすれば良いではないか。長女と婚約していた男だ。キット家としても問題ないだろう?」
ここで問題ありますと言えないのが階級社会でありシープ王国だ。
「分かりました。次女とブルーノ殿を婚約させます」
話し合いの次の日にカリグラはキャサリンに告げた
「キャサリンとブルーノの婚約破棄を成立させたから問題はなくなった。私はこれでも優しい男だと自負している。ちゃんとブルーノにも婚約者を用意したよ。君の妹だからキャサリンも安心だろ?」
キャサリンは絶望しただろう…。
何も知らないうちに全て決まってしまったのだから。
「ブルーノ様、ごめんなさい。私は王子様との結婚を回避する事ができません。あなたの人生を振り回した最低な女です…」
泣きながら話す彼女に私は安心させるように優しく語った。
「そうか、僕の婚約者は君の妹になったんだね。安心して。必ず幸せにするから。僕のことは気にせずキャサリンには自分の幸せを探して欲しい。キャサリンと結婚はできなかったけど陰ながら支えるよ」
僕の言葉を聞いて彼女は号泣した…。
こんな不幸で一方的な結婚があるのかと拳を握り締めた。
私は公爵家アルフレッド様と侯爵家クラウス様に結婚までの経緯をお話した。
そして、彼女のサポートをお願いした。
本来であれば身の程知らずな行為であったであろう。
それにも関わらず、2人は親身になって相談に乗ってくれた。
2人は協力してキャサリンに余計な圧力がかからないように、また結婚した後も何とか支えるとも言ってくれた。
キャサリンとカリグラは問題なく結婚した。
執務はアルフレッド様やクラウス様が適切に対処してくれた。
外交に関してはアルフレッド様の夫人であるエリアル様が付き添い助けてくれる程であった。
私はキット家の婿として精一杯頑張った。
キャサリンの妹との関係もとても良好だ。
私はここで幸せを見付けたと思うが、やはり心に棘が刺さっているように思う。
カリグラはキャサリンとの結婚後、とにかく彼女を連れ回した。
どこに行くにも何をするにも彼女を側に置いた。
彼女の体が弱い事を私は知っていたので心配だったのだが、最悪の結末を迎える。
これが【真実の愛】だと?
カリグラが悲しんでいる姿を見て殺意が湧いた。
少し悲しい話になりました。
后はとても優しい女性です。