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第九十話:闇の大聖堂

「さぁてと……揃ったな、皆」


 集う勇者メンバー十二人。ギルドマスターの俺からつい昨日加入したメンバーまでの全員が勢ぞろいで、高層ビルのようなサイズのダンジョン――【闇の大聖堂カセドラル】と言う場所の前で準備運動をしていた。


「ダンジョンを大人数で挑むってのも、MMOゲーの醍醐味だよな」


「そうですね……って言うかフツーそういうものですし、少数攻略なんてしないし出来ないですよ、フツーなら」


「確かに。今まで出来てたのが不思議ですよね」


 ハルとアインはハハハと笑いながら言うが、それが出来るのはお前らのおかげだろうに。

 普通じゃしないようなことが出来るのも、この二人がいるおかげだと俺はしみじみ思っている。

 いやまぁ、攻撃力なら俺も先輩もかなり高いけれど、対モンスターにおいてのアインの頼もしさは集う勇者随一だったからな。


「まぁそうやって大人数でやるのはわかるんだけど、連携とか大丈夫なの? 流石に今日初めて組むって人と完璧に連携できる自信ないよ、あたし」


「確かに、あたしもそこが心配だなー」


 シェリアと鈴音の二人が心配そうに呟くが、そこは問題ない。

 プレイスタイルは既に周知してるし、無理さえしなけりゃいい。


「まぁ、無理に突出しないで、皆が皆に合わせて控えめな動きをすればいいんじゃないッスかね。

俺はフレンドリーファイアにならないのを重視して動くッスよ」


「攻撃も同時に行わず、順番に行く形にすれば仲間を巻き込むこともないだろう」


 ユージンとイチカはそこんとこわかってるみたいだ。

 まぁそもそも、十二人同時に動くって事もないよな、広さにもよるけど。

 陣形的に順番にスキルを打ち込んで下がる、って戦法を取ればいいだろうし。


「知らないダンジョンだけど……大丈夫かな」


「先行してる皆が道開いてくれるし、前衛もアンタ一人じゃないし不安そうな顔しないしない。

むしろ私たちは出番あるかどうか怪しいくらいだって思いなよ」


 不安そうなムーン、何とかなるでしょって顔なスター。

 新戦力の魔法使いだからバリバリ働いて貰うかもなぁ、スターには。


「フ……私もよく知らんダンジョンだが、問題はないだろう。

カオスとアーサーはソロで踏破したようだからな」


「相も変わらず人外ですね、あの二人……こんなので最強を目指すとか言ってた私が恥ずかしいですよ」


 先輩の仕入れて来た情報に、大きくため息をつくユリカ。

 アイツらソロでもクリアできるなら俺たち十二人で出来ない、ってことはないよな。

 何せ、こっちには先輩とユリカがいるんだし。


「……下調べとかしなくて、大丈夫だったのかな」


「そもそも情報が少ないみたいで、売る側が情報求めてたぜ」


 このダンジョン、闇の大聖堂はつい最近アップデートで実装されたダンジョンだ。

 だから攻略してるのなんて精々トップギルドの王の騎士団や真の魔王くらいで……まだ明らかになってる情報が全然ないせいで、マップデータすらない。

 ので……大体手探りで行くことになる。


「まぁ、取り敢えずパーティは二つに分けたんだ。

片方が全滅したら、もう片方はなるべく安全な場所で留まるように」


 はーい、と十一名の声が同時に聞こえて来た。

 因みにパーティは六人ずつで分けている。

 一つは俺、ランコ、ユリカ、イチカ、ハル、鈴音。

 もう一つは先輩、アイン、ユージン、シェリア、ムーン、スター。

 こんな感じだが……まぁ、ダンジョンに入ったらそこまで関係はない。


「よし……皆行くぞ!」


「おう!」


 ダンジョン侵入の項目からダンジョンに挑む、と言うボタンを押す。

 すると――


「あれ、なんか皆のアバターが光ってないッスか!?」


「なっ……もしかして、これはこういうギミッ──」


 言い終わる前に、ハルのアバターがどこかへと消えた。

 それどころか、俺も視界が暗転して浮遊しているような感覚に陥った。

 エレベーターで降下している時に味わう、微妙に気持ち悪い奴。


「……っ、どこだここ」


 パチッ、と目が覚めると俺は薄暗い場所にポツンと立っていた。

 ……微妙にくせぇ、まるで掃除してない部屋だ。

 っつーか、随分と狭い部屋……まるで囚人の牢屋だな。


「いや牢屋だわ」


 目の前には鉄格子、四隅には蜘蛛の巣や壁のひび割れ……床も割れてる。

 小汚いベッドにゴザみたいな薄っぺらいものが一枚、しかも使い込んだように凄い汚れてるし、洗えよ。


「……マップがない以上、誰も探せないな。もしかして俺一人かー? 寂しいなぁオイ」


「一応、あたしがいるんだけどー」


「ぎょえええっ! 驚かすな馬鹿!」


 鈴音の声に驚いた俺は跳び上がったせいで、牢屋に頭をぶつけてしまった。

 現実だったらすっごい頭痛いことになってただろうな、俺……。

 ……鈴音と俺が二人きり……つまり、あー、なるほどね。

 開幕にランダムに転送されるとかなんだろうか。

 情報を整理したいから、他の誰かとも会話をしたいところだ。


「あ、そうだ……」


「ん? なんか思いついたの?」


「メッセージ機能を使えば、どこにいるかの情報整理が出来る」


「あー、なるほど。

じゃああたしも、シェリアにメッセ送ろっと」


 鈴音と俺はメニュー画面を開き、メッセージ機能をタップ。

 そして……そうだな、ハルにでも送って見るか。


『今、どこにいるとか説明できるか?』


 と、入力してから送信。

 が……直後にブブーッ、という音と共にメッセージは送信失敗。

 ログアウトしてる奴に送った時と同じ音だ。


【カセドラルではメッセージ機能を使用できません】


「……まぁ、そう甘くはないか」


「だねー……」

 

 鈴音と俺は揃ってため息をつき、大人しくここから出ることにした。

 つーか、HPバーすら見えないせいで安否すらわからないし、困っちまうぜ。

 ……この鉄格子は堅そうだが、殴って見た所破壊不能オブジェクトではないようだ。

 入り口の辺りをガシャガシャと動かしたが、開く気配はない……鍵があるんだな。


「んじゃ……ちっと離れてろ」


「はーい」


 鈴音は俺から三歩半ほど下がった。

 よし……大きく壊す必要があるだろうから――


「フェニックス・ドライブ!」


 フェニックス・ブレードを抜き放ち、不死鳥を象った炎を飛ばす。

 すると、バガァンッ!と爆発するような音と共に鉄格子は砕け散った。

 炎のスキルだったおかげか、溶けた後のようなものまで残っている。


「どれどれ」


 ツン、と触って見たら熱かった。

 そしてHPがちょっとだけ減っていた。


「何やってんの……」


「いや、溶けた鉄に触るのとか見るの初めてだから……好奇心でな」


「いつか大怪我しそうだね、リーダー」


「はっはっは、現実で何度か大怪我してるぜ」


 そう、小学生の頃はボンレスハムみたいなデブの下敷きになって足が折れたな。

 中学生の頃は、加減を間違えた先輩の竹刀で腕が折れて……散々なもんだったな。

 ま、今はそんな怪我とかもなく元気に暮らしているわけだがね。


「うへぇ……あたしは怪我とか無縁だからわかんないけど、大変そう」


「ま、生きてりゃ色々な事があるんだしな……よし、行くか」


 俺は鉄格子の辺りだけじゃなく、部屋全体を軽く調べてから牢屋を出て進み始めた。

 ……鉄格子を壊す前にやれ、って? 鉄格子を壊した直後に部屋の中を調べるって発想になったんだよ、俺はバカだからな。


「さてと」


 牢を出て、少し通路を歩くと早速モンスター発見。

 ……レベルは低めの人間のエネミー、俺のホブでもどうにかなるな。

 格好から見て、看守っぽいな……っつーか看守って書いてあった。


「小鬼召喚」


『ギャギャ』


「行け」


『ギャギャァ!』


『むっ、脱走者か! 覚悟せよ!』


 俺の召喚したホブゴブリンと看守は剣での斬り合いを始めた。

 両者、共に一歩も引かないで斬り合っていたが――

 なんか長くなりそうなので、後ろから看守の首を刎ねた。


「ドロップは……まぁ、微妙だな」


「何が落ちたの?」


「ショボい武器とはした金」


「あちゃー、そりゃ美味しくないね……」


 同情するならGをくれ、回復アイテムとか揃えたせいでホントに無一文なんだぞ俺。

 売れるようなドロップアイテムは全部売っちゃったし、金なし・ワンだぞ俺。


「んじゃ……まぁ、とっとと進みますかね」


「道が一本だから、ぱっぱと行けそうだね!」


 鈴音の言う通り、俺たちのいるこの牢屋のエリアからの出口は一つだけだった。

 ので、周囲に敵がいないかどうかを確認しながら、前へと進む。

 ……牢屋を出ると、まるで中世の貴族でもいるのかと言う豪華な廊下。

 赤いカーペットに輝く大理石……もし持ち替えれたら高く売れそうだな。


「えーと、ここはどこだろうな」


「うーん、わかんない」


 キョロキョロと辺りを見回しても、何も見つからない。

 後ろを振り返ると……牢獄までの道が消えていた。

 あぁ、もう後戻りとか出来ませんよってことね。


「小鬼召喚」


「今度は何?」


「サーチ代わりだ」


 俺はゴブリンを十体ほど呼び出し、周囲に敵がいないか確認する指示を出す。

 ゴブリンたちは各々に走り出し、このフロアのあちこちを走り始めた。

 ……さてと、俺たちは報告待ちとしますかね。


「うーん、暇だね」


「ま、座っていっせーのせ、でもやってようぜ」


「古典的っ!」


「いいだろ、時代を超えて愛されるゲームなんだからよ」


 ……と、VR空間の中で俺たちはアナログなことを始めた。

 二回くらいやったら楽しくなくなったので終わり、壁に寄りかかって寝っ転がった。


『ギャギャ』


「お、戻って来た」


 寝っ転がってホントに寝そうになった時、ゴブリンの一体が戻って来た。

 ……他も続々と戻って来たと思うと道案内するよ、と言わんばかりに歩き出した。

 俺と鈴音は互いを見合わせ、頷いたと共に立ち上がる。


「鈴音、一応戦闘準備はしとけ」


「う、うん」


 俺も腰から小鬼帝の剣・改を抜いて……ゴブリンに導かれるままに歩く。

 すると、そこは大きな大きな観音開きの扉が。

 次の階に上がると思われる大きな階段もあるが、ゴブリンは扉の方を指差している。


「ここを開けろと」


『ギャ』


 ゴブリンは頷いたので、俺は扉をグッ、と押して見るが動かない。

 ……引いてみても動かない、鍵がかかってるのか。


「めんどくせえな……」


「あたしが開けるよ」


「そ、じゃあよろしく」


 さっき俺が牢屋をブチ抜いたからか、今度は鈴音が扉の前に立った。

 鈴音は深く腰を落とし、如何にもな拳法らしい構えをして――

 ダンッ! と扉から五歩ほど離れていた俺にも振動が伝わる程の踏み込み。


「ハァッ!」


 ……まるで、大砲でも放たれたかのような一撃が出た。

 扉には拳の形をした大穴が開き、鍵が木端微塵になっていた。

 壊れた、ってことでいいんだろうか。


「お、開くようになった」


「スゲー……」


 鈴音がげしげし、と扉を蹴るとギィィィ……と開き、中の様子が確認できるようになった。

 ……扉の奥、つまり開いた部屋の中に足を踏み入れると、そこには甲冑があった。


「倉庫、かな」


「見づらいな、暗い」


 俺はそう呟きながら腰からフェニックス・ブレードを抜いて、炎の刀身を生やす。

 うん、松明代わりに丁度いい感じでもあるな、コイツぁ。


「便利だね、その武器」


「ビームソードみたいだから、昔の映画みたいな真似も出来るぜ、星の戦争みたいな」


「それはする必要なくない?」


「意外と楽しいぞ?」


 ……と言っても、やってる内容はランコがマジック・ガンで飛ばす魔法を斬るだけだ。

 アクション映画らしく……こう、アクロバティックに動いてな。


「っていうかそれより……ここってもしかして」


「あぁ、甲冑が置いてあったからなんとなーくわかってたけど」


 俺と鈴音は顔を見合わせ、声を揃えた。


「武具倉庫!」


 炎の刀身で照らされた部屋を見ると、様々な武器があちこちに置いてあった。

 勿論歩く上では邪魔にならない程度に、それも綺麗に。


「持ち出せるかな」


「試すか」


 俺は適当な片手剣を掴み、持ち上げてみる。

 あまり重くない、何の変哲もない剣だが……ストレージにはしまえないな。

 ……それでも、ここに入れるってことは何かしらあるってことか。


「取り敢えず、隅から隅まで探してみるか」


「うん、そうだね……こんな雑な方法で入れた、ってことはきっと何かあるね」


 鈴音も俺と同じ考えのようで、やることは決まっていた。

 二人で部屋の探索を始め、端から色んなものをぺたぺたと触り始めた。


「……うーむ、どれもこれも業物だなぁ」


「そういうのとかわかるのー?」


「いや、適当に言っただけだ」


「ずこっ」


 あ、コイツさっき俺のこと古典的とか言ったのに古典的なコケかたしやがった。

 ずこっって言ったぞ、サウンドエフェクトないからって口で言いやがった。


「で、なんか見つけたの?」


「いや、俺は何も見つけられなかった。そっちはなんかあったか?」


「いや全然、折角松明出したのに残念だなー」


「さよか、じゃあ出るか」


 と、俺と鈴音は部屋を出ようとしたら……扉がいつの間にか閉まっていた。

 いやまぁ、鍵の部分がブチ抜かれて穴が開いていることに変わりはないんだけど。


「扉……閉めたっけ」


「いや、一応外からの光も欲しかったから閉めてはいない」


「あたし、なーんかヤな予感がするんだけど」


 鈴音は若干顔を青ざめながら言うと、穴が少し曇った。

 ……いや、曇ったっつーか、これは。


「な、なんか寒くねえか……?」


「や、やっぱり? あたしが薄着だからとか関係ないよね」


「チッ! やっぱり氷使ってるやついるな! フェニックス・ドライブ!」


 フェニックス・ドライブが扉に着弾し、扉にまたもや大穴を開ける。

 ……すると、開いた大穴から一気に冷気が吹き込んできやがった! フェニックスを放った余熱が一瞬で上書きされて、床も壁も凍てつきまくってやがる……!


「こりゃ、歩くのに一苦労だな……!」


「わっ」


 扉の穴から出ながらそう呟くと、鈴音がすてーんとコケた。

 ……大丈夫かコイツ。


「ほら、だいじょ――」


「ッ、あぶないっ!」


「え」


 鈴音に手を差し出すと、急に手を引っ張られた。

 すると、さっきまで俺の頭があった場所を矢が通り過ぎて行った。

 矢は、扉にピシッと突き刺さっている。


『ふむ……やはり我が主は慧眼であったか。

この者らを分断するだけでなく、脱獄まで予知しているとは』


「……助かったぜ鈴音、危うくいきなり終わるとこだった」


「いーよ、でも……次は助けらんないかも」


「構わねえよ、次からはちゃんと自分でどうにかする」


 俺はフェニックス・ブレードを抜き放ち、矢を撃って来た犯人を見る。

 ……輝くような銀色の甲冑、背中には水色のマント、腰には一本の剣。

 だが、持っている武器はあくまで弓、腰には大量の矢と矢筒。


『侵入者よ……我が矢にてそなたらを凍てつかせてくれよう』


「へっ、そう簡単にやられるかよ……!」


『魔力、放出』


「な、なんかまた急に寒くなって来た……!」


 俺がタンカを切っていると、甲冑を着た男……っつーか騎士。

 騎士の体から何かオーラのようなものが放出され、更に寒くなった。


『生かして捕えよと仰せつかった……が、我が魔力を解放した以上――

手足が千切れ、内臓が潰れるほどの怪我は覚悟して貰おう』


 魔力放出……ユリカも持っていたスキルだったっけな。

 アレは確か、装備している武器の属性に応じて効果が変化すると聞いた。

 つまりアイツはこのフロアの状態を作った、氷属性の敵ってところか。


「おもしれーじゃねえか……集う勇者ギルドマスターの力……存分に見せてやるよ。

下がってろ、鈴音」


「あ、わ、わかった……!」


 鈴音を武具庫の近くまで下がらせ、俺は騎士を睨みつける。

 一応、あそこは障害物になり得るものが多い、俺がやられたら逃げる時間稼ぎは出来る。


『では……ゆくぞ』


「来やがれ!」

九十話

プレイヤーネーム:鈴音

レベル:60

種族:人間


ステータス

STR:100(+50) AGI:100(+40) DEX:0(+50) VIT:30(+30) INT:0 MND:25(+20)


使用武器:なし

使用防具:チャイナガールセット・一式 武道家の証

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