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セブンスブレイブ・オンライン ~小鬼勇者が特殊装備で強者を食らいます~  作者: 月束曇天
第四章 人気落ちると唐突にやり出すトーナメント編
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第八十話:私と同じ、弱い人

『いやぁ、先鋒戦からすっごい盛り上がったね』


『カリバーン! って剣を振り下ろすところがカッコ良かったですね!』


『わかるわかる、なんかこう、騎士っぽい感じあるよね、みゅーちゃんはどう?』


『なんか、凄い……映画を見てるような感覚でした』


 MCとアイドルが試合での盛り上がりにワイワイと喜ぶ最中。

 俺たちの前には、俯いたアインが立ち尽くしていた。


「あー……その、なんッスか……気にしなくても、いいッスよ? まだ、俺たちの負けが決まったとかじゃないんッスから」


「そうですよ、貴方は奮闘したんです。

そう気を落とさずに、ランコさんたちを応援してあげてください」


 ユージンとハルに声を掛けられても、アインは何も反応しない。

 今までの試合でなら、声をかけられば悔しがりながらも反応はした。

 だが、今はもう反応すらせずに、ただ茫然としているだけだ。


「アインくん……」


 ランコはかける言葉もないのか、言葉に迷っているみたいだった。

 俺も、こんな時にアインにどうやって言葉をかければいいかはわからなかった。

 ……剣道の試合でもああやって落ち込む奴がいなかったわけじゃない。

 ただ、そういう奴は声をかけずに、放っておくほうがソイツ自身のためだったりする。

 なのに……何故か、アインには声をかけなければいけない、と思えてしまう。


「……ごめん、なさい」


「アイン?」


ようやく口を開いたアインに、先輩が首をかしげる。


「僕……あんなに励まして貰って、応援して貰ったのに……結局、一勝もあげられなくて、こんなに負けてばかりで……! 皆さんに、迷惑ばっかりかけて……!」


 少しずつ声を大きくしながら謝るアインの声には、涙や嗚咽が混じっていた。

 ……たかがゲーム、それでも……ここに集まる皆にとっては本気だった。

 VRと言う形のある世界では、ただコマンドを選ぶだけの2Dゲームとは違う。

 この世界では直接人と人が触れ合うことで、現実に近い感覚が得られる。

 だから、アインに抱える悔しさや辛さは、現実のソレと同じくらいとも思える。


「こんな役立たずな僕なんかがいても、皆にまた迷惑をかけるだけです。

仮に優勝できても、僕はそれに貢献したことなんて、一度だってない。

だから……だから、このイベントが終わったら、僕を……僕を、【集う勇者】から――」


「違う!」


 涙混じりに、自分の決意を俺たちに伝えようとした言葉を遮った者が、ここにいた。

 アインの言葉を、全力で否定する声……それは、他でもない、ランコだった。


「アインくんは確かに一勝も出来なかったし、私たちはいつもギリギリだった! でも、大切なのは勝った負けたの結果なんかじゃない! アインくんはいつも全力で戦って、一秒も手を抜かなかった! だから、私たちもそれに応えれるように頑張ろう、って思ったの!」


 涙をボロボロとこぼしながら、ランコはアインの肩を掴んだ。

 顔を上げさせられたアインの顔は、涙やら鼻水でぐちゃぐちゃだった。

 それでも、ランコはアインを抱きしめた。


「だから……私も、本当の本当の本気でやるよ。

アインくんがこうして、私たちに闘志のバトンを繋げてくれた。

……もう、絶対にアインくんが泣くような結果にはしないから」


「……ランコ、さん……!」


 ほんの数秒前まで、凄い勢いで泣いていた二人の涙はいつの間にか止まっていた。

 ……この二人は確かに精神が不安定に見えるけれど……二人で立派な存在になっている。


「……フフ、二人とも慰め合いは終わったようだな。

ではランコよ、ブレイブの因縁を果たし、アインのバトンを次に回してみせろ」


「……はい、私、全力で行ってきます!」


 ランコはそう言ってメニュー画面を操作すると――

 装備をフルチェンジさせて、今までの装備とは全く違う姿になっていた。

 つーか、武器も蜻蛉切から別物に……!


「……なんですか、それ」


「べ、別人みたいッス……!」


 ハルとユージンが目を見開いていると、ランコはフフッ、と笑いながらクルリとターン。

 持っている武器は蜻蛉切から真っ白なランスへと変化。

 防具もハチガネと羽織が加わった上に、背中にもスラスターのようなものがついている。

 ……戦争でもしに行くんだろうか。


「フフ、よい面構えよ……それと、お守り代わりだ……持っていけ」


「……いいんですか?」


「構わん、お前から貰ったものに比べれば、これを貸し与えるのは何とも思わぬ」


 先輩がメニューを操作したと思うと、ランコが驚いていた。

 ……多分、何かアイテムを渡したんだろうけれど、一体何を渡したのか。

 まぁ、それはいいか……


「……行ってこい、たっぷり応援してやるからよ!」


「ぼ、僕もランコさんのこと、ちゃんと応援します!」


「……うん、皆ありがとう。

私、ちゃんと勝つよ、勝って……帰ってくるよ……!」


 ランコはそう言うと、背中を向けて走り出して行った。

 控い室を通り、勢いよく闘技場へと入場した彼女は真ん中で立ち止まる。

 対戦相手……ユリカを睨むように見ながら。


『続いては次鋒戦!【集う勇者】の【ランコ】VS【王の騎士団】の【ユリカ】!』


『女の子同士の対決ですね!楽しみです!』


 選手紹介と一言のコメントが終わると、ランコとユリカは武器を抜いた。

 ユリカは右手に銀色の刀身の剣を、左手にドラゴン素材で出来ている剣を握り、その場に立つだけだ。

 対して、ランコは片手だけで白いランスを持ち、 左手を前に出してもう構えを取っている。


「貴方が、ツルギ……いや、ブレイブ・ワンの妹か。丁度良い相手と当たれて、嬉しいよ」


「……そういうあなたが、兄さんと因縁のあったバカね」


「フッ……バカ、か。

VR世界で得られる力を偽りの力と笑い、私を踏みにじって、充実した現実世界でぬるま湯に浸かっていた彼。

正しさを証明するために、この世界に閉じこもって、力だけを求めた私……確かに、私の方がバカかもね……でも、私はアレとは違うってことを見せてやるわ」


「……なら、示して見なさいよ、私自身に」


『試合、開始ーっ!』


 試合開始の合図が鳴ると、二人はスキルの詠唱に入った……みたいだ。

 ランコは槍を肩の高さまで持ってきて、バチバチと雷を放つ穂先に左手を添える。

 まるで、左手をカタパルトにして、槍を最速で走らせるかのように。

 一方でユリカは剣をクロスさせ、目を閉じて、剣を中心とした風を身に纏うだけ。

 そんな時間が五秒ほど経つと――


「ライトニング・スピア!」


「ダブル・ウィンドソード!」


 穂先を中心に集まった一筋の雷の槍と、十字に放たれた風の刃がぶつかり――

 バァァァン、と派手な爆発を起こして煙を巻き上げた。


「【飛翔】!」


 煙の中で戦えば死角を突かれると判断したか、ユリカはその場から跳び上がった――

 と言うよりも、完全に飛行状態へと移行したようだった。

 あんなスキルは見たことがないし、そもそもSBOに空を移動する手段があったのか。


「エアスラスター、起動……!」


 だが、ランコはユリカのスキルを知っていたのか、装備によって空を飛んでいた。

 背中のスラスターが空気を噴射しているようで、まるでロボットだ。


「へぇ……まさか、そうやって私の飛翔に対応するとは」


「いやいや……普通、飛ぶなんて思わないよ。

ただ、あらゆる可能性を想定してみただけ」


 二人は空中で静止したまま、武器を構えてスキルの詠唱を始め――

 たと思った途端に、同時に動き出した。


「ハァッ!」


「せいッ!」


 ランコが直線的な動きで突き出したランスをユリカは躱しながら右手の剣で斬りつける。

 が、それを体を捻るだけで避け、ユリカの背中を狙ったか、ランスの先端から雷が放たれた。

 ……まさか、魔法を無詠唱で撃てるようなスキルまでセットされてるのか。


「っと! ……威力は微妙だけど、無詠唱で魔法を撃つ武器か……。

マイナーな武器なのに、あなたみたいなのが使うんだ」


「でも、あなたの戦闘スタイルからすれば、微妙な威力でも命取りでしょ!」


「ッ!」


 ブツブツと分析をしていたユリカに向けて、ランコはランスを薙ぎ払う。

 今度は先端から熱線が放たれ、闘技場の壁を一周するかのように焼き払った。

 それも、ご丁寧に飛行しながら避けるユリカを追尾して、だ。


「ま、当たらなければどうってことはないけどね!」


 ランコが槍から放つ魔法を掻い潜りながら、ユリカはランコへと迫る。

 だが、ランコは引く気など一切ないのか攻めの姿勢を全く崩さない。


「はぁぁッ!」


「ッ! てぇぁっ!」


 ユリカが袈裟斬りを放つと、ランコはそれをすんでの所で躱す。

 返す刀でランスを叩きつけるが、ユリカはもう片方の剣でそれを受け止める。


「くら……えッ!」


 ランコはスラスターの出力を一気に上げたのか、凄まじい勢いで空気を噴射した。

 片手剣だけで受け止めていたユリカはすぐに両手を使うが、押し返せずに壁へと叩きつけられた。


「がっ……」


「落ちろッ!」


 ランコは間髪入れずに、両足でユリカの腰をしっかりとつかみ、一気に地面へと叩きつける――

 前に、ユリカが飛翔で体制を立て直しながらランコを地面へと投げ飛ばした。

 ランコは苦も無く着地し、ユリカも地に降りて来た。


「ふぅ……まさか空中で私と渡り合えるとはね」


「……そう、でも珍しくないことでしょ? ハッキリ言って、私はあなたと同じで弱いもの」


「……弱い? 私が?」


「さっき打ち合った時に、なんとなくわかったのよ。

あなた……もしかして私と同じような人だったりしてね」


 ランコが何を言っているのか、それはただの観客たちにはわからないだろう。

 いや、なんなら王の騎士団メンバーもわからないはずだ。

 ランコの言っている、『私と同じ』ってのは……このSBOでの話じゃない。

 リアルでの話、それもかなり本人の人格を形成している環境に関わってくる話か。


「……言ってくれるわね。

VR世界での強さを得ることの意味を知らないだけの人が。

私が弱いだなんて……絶対に取り消させやる!」


「とっと来なさいよ。仮想世界に逃げ出した、臆病者!」


「見せてやる……純粋な力が見せる、VR世界での真実を!」


 互いに会話しながらスキルの詠唱を終えると――

 ダンッ、と一歩踏み込んだ。


「流星剣!」


「流星槍!」


 光り輝く星を纏った剣と槍がぶつかり合い――

 競り合うこともなく、二人はすれ違うように交差した。

 しかし、直後にユリカはもう片方の剣を構えてランコに迫った。


「くらえッ! 【ヒューマンズ・スレイ】!」


「ッ……! おおあああッ!」


 ユリカの二つ目のスキルに、ランコはランスを横に構えて受け止める。

 だが、ユリカのスキル……それはスキル名から察するに、効果は――


「プレイヤー、それも人間ヒューマンに対しての特攻か……」


「ぐあっ……!」


 ランコの防御の上から吹っ飛ばし、大きくノックバックさせた。

 間髪入れずにユリカは距離を詰めてランコに斬りかかる。


「これで、終わりだ!」


「まだだ!」


 ランコはユリカの剣を振り下ろす腕を掴み、攻撃をいなす。

 そこからスラスターを起動させ、空中へと飛び立つ。


「空で私に挑む気か! バカが!」


 ユリカも直ぐに飛翔で追いかけ始め、二本の剣を同時に突き出す。

 ランコはそれを打ち払うように弾き、ユリカを蹴っ飛ばした。


「ぐ……しまった、距離が――」


「さぁ、避けられるものなら避けてみなさい!」


 ランコの構えるランスから、大量の拳大程の岩石が発射された。

 機関銃ほどとは言わないが……一発一発の速度は見切るのは難しいだろう。


「んのっ、くっ! このぉっ!」


 ユリカは避けるのは無理と判断したのか、自分に直撃しかねないものを斬って落としている。

 だが、魔法を剣で受けるというのは非常にまずい事だったりする。

 それは、VRでも剣で硬いものを攻撃すれば、耐久値はそれに比例して落ちる。

 故に……ユリカがああして剣で飛来する岩石を斬り続けると言うのは、一つの結果に繋がる。


「ハァッ! ――嘘……!」


 バキリ、と言う音と共にユリカの左手に構えていた剣が、半分ほどの所で折れた。

 折れた刀身は地面へと突き刺さり、残った方はユリカが握りしめたままだ。

 あぁ、修理可能なレベルの破損か……これなら、まだユリカも残った方を使えなくはない。

 けれども、直ぐに捨てた方がマシなぐらいのものに成り下がってしまっている。


「よし……まずは一本!」


 だが、ランコはランスの耐久値の持つ限りと言わんばかりに岩石を乱射する。

 しかも、隙を見てはポーションを飲んでMPとSPの補給までしてやがる。

 抜け目ない奴だ……


「このっ……結構高かったのに!」


 ユリカはそんなことを呟いたと思うと、折れた剣をランコに向かって投げつけた。

 それと同時にランコの飛ばす岩石を避け、潜り抜けたと思うと、ランコの頭上から斬りかかる。

 だが、単純な軌道の攻撃になんかにやられるランコなんかじゃあない。

 スラスターを軽く噴射して避け、ユリカの背中を蹴飛ばした。


「ぐ……このっ! 通過点のくせに……!」


「通過点……?」


「アーサーや、ブレイブ・ワンに届くための通過点如きに! 負けてられるか……! VR世界での強さを! 私の全てを、証明しないと……! 私が、やらないと!」


 ユリカは焦燥した様子で、がむしゃらに剣を振るが、ランコは冷静にそれを捌き、体術も含めてユリカを空中で圧倒していた。


「ふざけるな……! あなたは、結局の所……何も見てなんかいない。

現実から目を背けて、ここに逃げてきて……! ここでもまた、目を背けようとする!」


「逃げてなんか、私は逃げてなんか――」


 ランコの言葉を聞いたユリカはたじろいだのか、距離を取り始める。

 ……心なしか、ランコと目を合わせようとしていないな。


「私を! 見ろぉぉぉっ!」


「ッ――避けられっ、きゃぁっ!」


 力任せにランスを叩きつけて来たランコの攻撃を受け、ユリカは壁に追い込まれた。

 ランコはそのままスラスターを吹かせ、ユリカに向けて追撃。


「はあああ!」


「ぐっ、くっ、のっ……!」


「受け取れ! ユリカッ!」


 数合の打ち合いが続いたと思うと、ランコのランスがユリカの剣を押しのけた。

 ユリカの剣にはヒビが入っていて、もう数合打ち合えばまともに使うことすら出来なくなる。


「これでっ!」


 ランコの突きが、ユリカの喉元へと放たれる。

 ユリカにはそれを受け止める術はないし、避けたとしても反撃はない。

 だが――


「超加速……!」


 瞬間的に自身の速度を上昇させたユリカの一撃が、ランコの右腕を肩から斬り飛ばしていた。

 ただ受けるでも避けるでもなく、避けながらの攻撃……VRゲームを何時間も、何十時間もプレイして鍛え上げた、執念のこもったカウンター。

 この一撃でランコのHPも危険遺棄に突入し、もう刀身にヒビが入っていた剣でも、一撃で決着が決まる。

 そう確信していた……と思われるユリカがニッと笑っているのが、俺に伝わって来た。


「フフフ……お疲れ様」


 ユリカにとって屈辱的な言葉を投げかけて来たランコを嗤うように、ユリカは剣を振り下ろした。


「……そっちがね」


「なっ……何ぃ……?」


 ランコが残された左手で、もう一本の武器を振るっていた。

 先輩が今使っている刀よりも前の武器……確か、閃光雷刀と言う刀だ。

 ランコは、その刀でユリカの剣を半ばから折った。


「あなたの負けだよ」


「がっ――」


 静かに、そう告げたランコの刀がユリカの頭に突き刺さった。

 クリティカルの一撃により、ユリカのHPバーは全損し――

 ユリカのアバターは、ポリゴン片となって砕け散った。


『次鋒戦! 集う勇者の勝利ーっ!』

プレイヤーネーム:ランコ

レベル:60

種族:人間


ステータス

STR:43(+70) AGI:43(+100) DEX:43(-10) VIT:42(+100) INT:42 MND:42(+80)


使用武器:真・閃光雷刀、真・閃光雷槍

使用防具:真・虎のハチガネ 真・虎の羽織 真・マジックノースリーブ 真・マジックフォールド 真・怪力の手袋 真・疾風のブーツ 真・エアスラスター


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