第七十九話:実に久しい!
『えー、棄権でなんだか盛り下がってしまいましたが……イベント自体はまだまだ続きます。皆さん気を落とされずに~』
『続いてはAブロック一位通過の【集う勇者】とBブロック一位通過の【王の騎士団】!』
『第二試合、頑張ってくださ~い!』
『応援してます』
MCとアイドルの進行が続いた所で、俺たちの番となって来た。
……予想よりも、凄まじく早くな。
「……精いっぱい、盛り上がる試合にしてみます」
「おう、その意気だアイン! 頑張って来いよ!」
俺はアインの背中をバシッ、と叩く。
……直後に、ランコがアインの背中をさすり出した。
「アインくん、気負わなくたっていいよ。
私たちも必ず勝つから、アインくんはアインくんのプレイをすればいい。
ゲームなんだから、楽しむのが一番だよ」
「……そうですね、ランコさん。
でも、今の僕は勝つことを、ただそれだけを目指して戦いたいです。
だって……あなたが応援してくれるんだから」
「アインくん……うん、わかった、私も精いっぱい応援するよ。
君が勝てるように、特大の応援をねっ!」
……ここにブラックコーヒーがあったら迷わず飲み干したい。
ブラックコーヒー大嫌いだけど、一口だって飲めないけど、今なら迷いなく1リットルくらい飲み干せる気がする。
この小中学生共の甘いイチャつきを見てると、苦いものが欲しくなる。
「……仲が良いのは結構ですが、浮かれないでくださいね」
「そうッスよ、彼女いない歴=年齢の俺たちのことを考えてくださいッス」
ハルの注意を受けて二人は『はーい』と気の抜けた返事をする。
……ユージン、お前はなんで俺まで巻き込んだ言い方をする。
自分だけがボッチじゃないとでも言いたいんだろうか。
生憎だが、俺だってその気になれば彼女の一人や二人くらい作れなくはない……とは思うぞ、多分そんな気がする。
顔は悪くない(とは思う)し、運動部だし、家庭的だし、成績も悪くはない(つもり)だし。
「……フフ、王の騎士団が相手でも相変わらずだなお前たちは。
アインよ、奥の手も何もかも曝け出すつもりで戦って来い。
お前の相手、アルトリアは王の騎士団の中でもトップレベルのプレイヤー、即ち全プレイヤーの中でもトップクラスと言っても過言ではない。
故に、刺し違える覚悟で挑め」
「わかりました、僕の全てをぶつけてきます! もう黒星は作りません! この日のための秘奥義も用意して来ましたからね!」
アインは最後にそう言ってから観客席を走って抜け、控室を通って行く。
……秘奥義、一体何を用意してきたというんだろうか。
『さぁお待たせいたしました、選手入場です! 本戦第二試合、先鋒戦! 【集う勇者】の【アイン】VS【王の騎士団】の【アルトリア】!』
選手紹介と共に、アインとアルトリアが出て来た。
アルトリア……王の騎士団との会議で、書記を務めてた人だよな。
あんまり喋ったことはないが……結構美人な人だったな。
ゲーム内だからそこはまぁ、当然かもしれないけど。
「……丁度、相手も出て来たみたいッスね」
「アルトリア……確か、アーサーって名前の女性名詞でしたっけ。
……となると、リアルでのアーサーさんとの関係が気になりますね。
前にダンジョンに行った時は聞けませんでしたし」
「ただの兄妹だ、アルトリアが妹でアーサーが兄のな」
……先輩がなんで知ってるかは追求しないでおこう。
で、アルトリア……前に見た書記の時の姿とは全く違うな。
あの時は青と白をメインにしたドレス姿……だったが、今は違う騎士を思わせる銀色の鎧姿だ。
一応、青いマントが背中に纏わされていて、銀色とマッチしたカッコいい姿だ。
兜も騎士らしいソレになっていて、顔を隠してはないが、多分パーツをずらせば隠せる奴だろう。
「……一応、腰に帯びてる剣って【エクスカリバー】とかじゃないですよね先輩」
「あぁ、エクスカリバーはアーサーが持つ武器だからな。
アルトリアが持っている剣は【カリバーン】、エクスカリバーの親戚のようなものだな。
偽の剣だとか歴史書には書かれているが……SBOでは立派な剣だ」
……と、なるとアルトリアはあの凄まじい出力は出せないって事か。
アインも良かったな、あんなチートみたいな威力を出す相手と戦ったらキツいだろ。
第二回イベントで見たアレは……正直真正面から受けられる気がしないしな。
「……さぁ、全力で挑みかかるが良い、小僧。
私は見ての通り、騎士として全身全霊の戦いを望んでいる」
「言われなくたって、見せて欲しくないものも見せる覚悟で戦いますよ!」
アルトリアは腰に帯びる剣を抜き放ってから構え、両手で握りながら宣言した。
アインも背負っている双鉞を抜いて構え、アルトリアの言葉に応えた。
『……それでは、試合、開始ぃーっ!』
「最初っから全力で行くぞ! 狂化!」
「来い!」
アインは試合開始と共に双鉞で打ちかかり、二本の鉞を同時に叩きつけた。
アルトリアはそれを両手で握る剣一本で受け止め、早速鍔競り合いとなっていた。
「……ほう、これがホウセンとも打ち合ったパワーか……! 今まで狂戦士と剣を交えたことは幾度とあったが、お前のような者は随分と久しい!」
「チッ!」
アルトリアが競り合っている状態から剣を横薙ぎに払うと、アインはバックステップ。
そして、体をくるりとターンさせたと思うと、赤いオーラを纏ったアインは双鉞をクロスさせた。
「バーサーク……スマッシュ!」
「加速」
アインとアルトリアの姿が同時にブレたと思うと――
数瞬だけガガガガガッ、と言う激しい金属音が鳴り響く。
それがまたフッ、と消えたと思うと別の場所で金属音が鳴り響く。
二人は打ち合いと高速移動を同時にしていた。
……アインの奴、この日のために用意してきた秘策ってのはコイツのことか?
「ほう、これがバーサーク・スマッシュか。
見るのと味わうのでは大分違うが……かなり、面白い! これだけの格下でありながら、私を楽しませる者と出会うのは、実に久しいな!」
「そう……ですっ、かッ!」
数瞬の移動と攻防が続いたと思うと、闘技場のど真ん中で二人は打ち合いを始める。
っつーか……アルトリアの奴、剣一本でアインの猛攻を受け止めてやがる。
反応速度が尋常じゃあねえ。
「だが、この技も――アカスタムド、もう慣れた」
「な……ッ!」
アルトリアがそう呟いたと思うと、突如アインの双鉞は弾かれた。
宙を待った鉞の片方は地面に突き刺さり、弾かれて右手を挙げたままのアインは固まった。
ゆっくりと首を動かして、鉞の片方が弾かれて刺さった所を見ていた。
「フ……なに、そう驚くな。ただ技に慣れれば、反撃の隙とて簡単に見つけられる。
故に、貴様の技はもう私に通じぬと思え! 【ソード・セイントショット】!」
「ッ――ベルセルク・スマッシュッ!」
アルトリアが半歩分ほど剣が届かない距離で、剣から一筋の光線を放った。
それに対し、右手にしか鉞を持っていないアインは、一撃でそれを叩き落とした。
……バーサーク・スマッシュの上位スキルを使用してまで、だ。
「ほう……初見で、それもこの距離で落として見せたか。
実にシンプルなスキルとは言えど、威力には自信があったのだがな」
「ハハ、僕だって伊達にここまで来たわけじゃないんですよ。
黒星ばっかだったけれど……今度こそ、皆に白い星を持って帰るんだから!」
そう言いながらアインは左手に持っていた方の鉞を投げ捨てる。
更に、籠手の止め具を外したようで、装備状態を解除していた。
……SBOでは防具を直接脱ぐだけで、装備解除状態になるんだよな。
盾や剣は地面に落としたくらいじゃ装備解除にはならないけども。
「な、なんッスかあの籠手……今、地面がビシーッってなったッスよ……!」
アインが止め具を外して落とした籠手は、確かに地面にめり込んだ。
だが、それはあくまでエフェクトにすぎない。
防具にセットすることで、常時効果を発揮させるスキルだ。
「【リミット・ヘビー】ですか……なるほど、これなら」
「リミット・ヘビー? その防具セットスキルなら、今の状況を打破出来るんですか?」
ランコが尋ねると、スキルのことを呟いたハルが頷いた。
リミット・ヘビー……俺もガントレットにつけようか悩んだんだよな。
……予備の籠手がないからやめたけどな。
「リミット・ヘビーは『装備している際に攻撃力がアップ、素早さがダウン』します。
ですが、リミット・ヘビーがセットされた防具を脱げば――」
ハルの説明が終わる前にに、アインの姿がブレた。
次にアインの姿が現れた時にはアルトリアがアインの手刀を受け太刀していた。
……狂化の上位スキルだけが仕掛けじゃないな、これ。
「『装備していた時間の分だけ素早さが二倍』になります」
「そ、そんなに!?」
「えぇ、アインさんはずっとあの籠手をつけていたようですし……恐らく、試合が何時間かかっても、あの状態は解除されないとと思われますよ」
……超加速だってそんなに長くは持たないのに、ズルいスキルだな。
まぁ、だがこれならアルトリアが慣れる前に倒しきることも夢じゃないな。
それに、アインはまだまだ速度も威力も上げる事だって出来るハズだ。
「ほう……これほどまでに、速いとはな……だが、攻撃から先ほどまでの重さは消えた」
「そうですね……だからこそ、最高の技を持って見せます。
貴方に勝つために……溜めてた時間、たっぷりと使います! ベルセルク・スマッシュ……クイック!」
「面白い……【魔力放出】! 超加速!」
アインが更に速度を上げて踏み込むと、アルトリアもそれに応えたかのように白いオーラを放つ。
そして超加速で更にスピードを上げ、アインの両手の手刀と超高速の剣戟をぶつけ合った。
……見てる側のこっちからすると、二人の手だけが高速で動いているようにしか見えない。
つーか、もっと言うと速すぎて剣も腕も増殖しているように見えるし、動いているかもわからない。
「フハハハ! 確かに速い、そして硬い! 貴様ほどの戦士ともなれば、全力で食う価値があるな!」
「それは……ご丁寧にどうも!」
「――ッ!」
均衡を崩したかのように、アインの手刀がアルトリアの鎧の肩パーツを吹っ飛ばしていた。
そこに一瞬だけ生まれた隙を見逃さず、追撃の手刀が鎧の胴を切り裂いた。
「ぐ……!」
「これで終わりだ!」
「フ……なるほどな。その技は……アカスタムド、もう慣れた」
鎧を切り裂かれて一歩距離を取るアルトリアに向けて、アインの左拳が迫る。
それを見ても彼女は動じず、肩で拳を受け流した。
……まさか、この短時間の攻防だけでもう慣れてしまったのか。
「なっ、もう……!?」
「【ソード・セイントブラスト】!」
「ぐ……ベルセルク・スマッシュ・オンリー・ワン!」
すれ違うように攻撃を避けたアルトリアが、背中を見せたアインに先ほどよりも太い光線を放つ。
アインは全身に纏っていたオーラを一点に集中させ、アルトリアの光線を吹き飛ばす。
「どうした、その程度か」
「舐めるな! 【アックス・スロー・オブ・ベルセルク】!」
アックス・スロー・オブ・バーサークの上位スキルと思われるスキルを放つ。
だが、アルトリアがニィ、と笑ったのが俺たちにまで伝わってきた。
……アインのスキルが悪手だと言わんばかりに。
「【神速】」
「え」
「貴様の技は……もうヌルすぎる」
「あっ」
超加速の時よりも更に速く動いたアルトリア。
彼女の剣は、アインの投擲した手斧を避けたどころか、アインの左腕を両断していた。
「小僧……貴様は中々に楽しめたぞ。
だが、芸がない、芸がなければ王は楽しめぬ」
「ぐっ……つ、強すぎる……!」
「誉れに思うが良い。王の騎士団団長・アーサーが妹とここまで切り結んだことをな」
アルトリアは右手に握る剣の刀身を輝かせ、眩しい程の光量を剣に溜めていた。
……だが、それを見てもアインは諦めていなかったのか、右腕にオーラを一点に溜めていた。
一発逆転の大技を狙っているのか……!
「諦めて……たまるかよ!」
「そうか……では、ならばこの選定之剣も、全力を引き出す甲斐があると言うもの」
アインの右腕に溜まったオーラは、鋭く尖り……ドリルのような形を作っている。
一方でアルトリアの剣には、アインの持つオーラとは真逆の色……真っ白な光を剣の形にしている。
「ゆくぞ……!」
「よし……来いっ……!」
スキルの詠唱をしながら睨み合っていた二人は、ついに踏み込んだ。
「アインくーんっ!負けるなーーーっ!」
「勝ってくれッスーッ!」
ユージンとランコの応援と共に、アインはダンッ!と一歩を大きく踏み込み――
右手を突き出し、一本のビームのようなものを放った。
「ベルセルク・スマッシュ・オンリー・ワン!」
「受けるがいい……【ホープ・オブ・カリバーン】!」
アルトリアは大上段に構え、両手で握った剣を振り下ろした。
剣からは太い光線が放たれ、アインの放ったビームとぶつかり合った。
「うっ……ぐっ……」
「はああああああッ!」
だが、数瞬の競り合いの後に、アインの伸び切った左腕が押し戻された。
「がああああ……!」
「吹き飛べェッ!」
「うぅぅっ! ぐ……! あああああああ――――ッ!」
剣を地面に叩きつけんばかりに振り下ろしきった。
それはこのスキルを撃ち終わった、と言う意味であると同時に――
アインのスキルを打ち払い、アインのアバターを粉々にしたということだった。
『先鋒戦! 王の騎士団の勝利ーっ!』
プレイヤーネーム:アイン
レベル:60
種族:人間
ステータス
STR:100(+100) AGI:95(+70) DEX:0(+20) VIT:50(+100) INT:0 MND:10(+50)
使用武器:真・双黒竜斧、真・白銀斧
使用防具:真・黒銀の鎧、真・黒銀の兜、真・魔侯爵の服・上、真・魔侯爵の服・下、真・黒鉛のグリーヴ、真・黒銀の籠手、疾風の腕輪




