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セブンスブレイブ・オンライン ~小鬼勇者が特殊装備で強者を食らいます~  作者: 月束曇天
第四章 人気落ちると唐突にやり出すトーナメント編
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第七十三話:俺の速度について来れるのもアンタで

「……お疲れ様です、ランコさん」


「お疲れッス」


 客席に戻って来たランコに、アインとユージンが声をかける。

 だがランコは下を向いて俯き、座ったと思うとパタン、と倒れた。

 ……先輩の膝の上に。畜生羨ましい。


「ごめんね、アインくん……勝ってくる、って約束したのに……私……」


「いいんです……ランコさんが頑張っていた、ってだけで僕は嬉しいんです」


 涙を流しながらも謝るランコに、アインは笑って答えた。

 ……全く、自分が勝てなかった時は落ち込むくせに、他人を慰める時は大人な奴だな。

 年相応なんだか、そうじゃないか本当にわからない。


「そうッスよ、大事なのは勝ち負けだけじゃないッス。

例えランコさんの負けは負けでも……俺たちが、その先に繋ぐッスから!」


「えぇ! アインさんの奮戦のおかげで、まだチャンスはあります。

なら、私とユージンさんで……先輩たちへの道を繋ぎます!」


 グッ、と拳を握るハルと力こぶを作るユージン。

 中堅がこの二人で本当に良かったな。

 三回戦での汚名返上と言うことも兼ねて、頑張って貰うか。


「よし、行ってこい! ハル! 三回戦の時みたいにはならねえように、なっ!」


「ユージン、気を抜かず、込め過ぎず、だ。

お前が持つ速度ならば、大概のプレイヤーには負けん」


 俺はハルの背中を叩き、控室の方へと送り出す。

 先輩はユージンの肩をポン、と叩いてから控室の方へと送り出した。

 ……まぁ、そのせいで先輩の膝に頭を乗せてたランコがステンと床に落ちたんだけど。


『さぁ続いては、中堅戦! 【集う勇者】の【ハル】と【ユージン】VS【真の魔王】の【レオ】と【リュウ】!』


『中堅戦は見てて楽しいバトルが多いので、楽しみです!』


 きゅるんっ、なんてサウンドエフェクトが鳴りそうなポーズを取りながらコメントするアイドル。

 ……うん、俺たちの二回戦についてはなかったことにされてるのか、それとも忘れてるのか。

 まぁ、ぶっちゃけ忘れてて貰った方がいい試合だしな……俺がつまらねえと思ったんだし。


「頼むぞ、ハル……」


「そう硬くなるな、ブレイブ。

いざあの二人が負けても、私たちが勝てば繋ぐことは出来よう」


「……まぁ、そうですけど。

わざわざ二回も同じ相手と戦うのなんてごめんですよ」


 俺はハルとユージンが勝ってくれるように、両手を組んで祈る。

 勿論、神頼みなんて虫のいい話だけど……そうでもして勝ちを得たい。

 やる気満々なアイツらを、勝たせてやってほしい。


「出てきましたね」


「……名前の通りっちゃ名前の通りだけど、ああいう亜人もいるのな」


 出て来たのは、ライオンのような顔をした亜人と、蜥蜴のような顔をした亜人。

 レオ、と言う方はライオンで、リュウ、と言うのは蜥蜴……人よりも獣に寄ったような顔だし、モンスターと言われても頷けそうな度合いだな。

 ……で、レオは武器を持っておらず、上半身裸に下半身は革の腰巻、と武骨な徒手空拳スタイルのようだ。

 一方でリュウは……黒ずくめに紫スカーフ、鎧は身に着けず背中に小太刀を二本と忍者っぽい。


「……どちらも第二回イベントで戦ったことがないプレイヤーだな」


「マジっすか」


「あぁ、恐らく真の魔王の隠し戦力――またはブレイブ、お前同様に急速成長した新人だな」


「どっちにしろ、厄介な相手には変わりないって事ですか」


 こっちには情報がない、でも向こうは俺たちのことを知っていてもおかしくはない。

 なら……ハルとユージンは、最初から出し惜しんでる暇なんてないわけだ。


「ホウセンの野郎がしくじったから、俺たちでフィニッシュが出来ねえのが残念だぜ」


「オロチ殿に出番を譲る、そう考えればまだ納得出来るものよ」


 コキコキ、と首のあたりの骨を鳴らしながら呟くレオと、静かに呟くリュウ。

 ……仲がいいのか悪いのかはわからないが、二人は恐らくスピードと攻撃に特化している。

 となると、矛と盾と、矛と矛の勝負になるわけだ。


「ユージンさん、ここで負の流れを断ち切りますよ」


「わかってるッス、俺だって汚名返上したいッスからね!」


 ハルとユージンは互いに抜刀し、レオたちが構えるのを待つ。

 ……と言ってもレオは無手だし、リュウは二人が抜くよりも前に抜いていたんだが。


『それでは……試合、開始ぃーっ!』


「獣人化!」


「同じく獣人化!」


 試合開始のゴングが鳴ると、レオとリュウはなんと初っ端から獣人化を使いやがった。

 レオは爪が鋭く伸びた毛深い獅子の姿に、リュウは蜥蜴から一転してドラゴンの姿に変身した。

 だが、二人が最初に獣人化を使用したために、ユージンとハルはもう攻撃スキルの詠唱を終えている。


「インパクト・スラスト!」


「ダブル・ウィンド・ソードッス!」


「ノロいんだよ!」


「フン、避けるまでもない攻撃よ」


 ハルが放った攻撃をレオは足を捻るだけで躱し、そのまま返す刀でハルに一撃放つ。

 ガードしていたのでダメージにはなっていないようだが、ハルが少し下がらされた。

 ほんの数センチだけのノックバック……通常攻撃であれなら、スキルだとマズそうだな。

 で、リュウの方はユージンの放った十字の風の刃を受け止めていた。

 ドラゴンの姿になったせいか、防御力まで上がっていると言うのか。


「ユージンさん!」


「わかってるッス!」


 ユージンとハルは即座に交代し、ユージンはレオに、ハルはリュウに向かい合う。

 レオはそれを見てユージンに狙いを定め、リュウはハルに狙いを定めた。


「こりゃ速いとこ決めないとッスね……アンタには悪いッスけど、最速で終わらせるッスよ」


「安心しろ、俺も短期決戦は大得意だからな! すぐに刻んでやるぜ!」


 ユージンは腕をクロスさせ、スキルの詠唱に入っている。

 レオも爪をギャリン、ギャリンと鳴らして構えていた。


「分断とは……一対一で勝つつもりか? 豪胆だな」


「いいえ、別に勝てるとは思ってませんよ。

ただ……本気の時間稼ぎをするだけです!」


 リュウはドラゴンの姿のまま二振りの刀を構えたと思うと、流れるように斬撃を放つ。

 まるで、普通に人が立って歩くかのような、緩やかで自然な動作だ。


「っぐ、結構重いじゃないですか……」


「重い、と言う割に無傷ではないか。

まったく……最初から本気を出したというのに、こうも硬いと困る困る」


 ハルはリュウの攻撃を受けてノックバックこそするが、ダメージはあまり受けていない。

 ……と言っても、盾で受け止めてそれだ、連撃を繰り出す上に重い。

 リュウのその攻撃は、タンクであるハルにとっては厄介だろう。


「俺の速度についてこれるか? 【ジェット・ネイル】!」


「上等ッスよ! 加速! 超速剣!」


 レオとユージンは一瞬姿がブレたと思うと、二人は互いに背を向けた状態で立っていた。

 それも武器を振りぬいた姿勢、つまりは、二人は一瞬で入れ替わるように攻撃を放っていたワケだ。

 ……が、ユージンはレオの攻撃よりも速く斬り込んで、その上で攻撃を避けていたようだ。


「ガァッ……テメェ、中々速いじゃねえか……!」


「いんやぁ……まだまだトップスピードじゃないッスよ! ダブル・ウィンド・ソード! ッス!」


「しゃらくせぇ! ジェット・ネイル!」


 ユージンが放った風の刃をレオは高速移動しながら叩き落とし、ユージンへ肉薄。


「オルァッ!」


「アタック・アヴォイド!」


 ユージンはレオの攻撃をスキルで通り抜けるように躱す。

 そのまま返す一太刀をレオの背中に放ち、更にダメージを与える。


「さっきからチョコチョコと避けやがって……! すばしっこさだけは見事なもんだな!」


「大振りすぎるんッスよ、サバンナの王様は考えることが単純ッスね!」


 ユージンはケラケラと笑いながらレオを指差す。

 完全に煽りに煽りまくってる……ペースを掴んでるのはユージンだな。


「だったら本気でやってやるよ、泣いても知らねえからな! クソガキ!」


「上等ッスよ、ライオン仮面! この疾風怒涛の伊達男・ユージンを泣かせられるなら、やってみるがいいッスよ!」


 ……いつ、そんなのつけたんだ、俺のセンスと同レベルの痛々しい異名は。

 と、ツッコミたくなるが、アインは目を輝かせてるから黙っておこう。

 先輩とランコは若干怪訝な表情だけれど、見なかったことにしよう。


「ふぅ……ユージンさんがレオさえ倒してくれれば……!」


「己と他者の役割を理解している──なるほど、タンクらしいタンクだ!」


「ぐっ!」


「だが、役割を理解しているのならば! この攻撃にも耐えきって見せよ!」


 一方で、リュウが縦横無尽に振るってくる軌道の読めない攻撃に、ハルは防戦一方だ。

 いや、元々ハルの戦闘スタイル上防戦なのは当然なんだが……反撃に転じることも、スキルを使って何らかの妨害をすることも出来ていない。

 サンドバッグのように攻撃を受け続けているだけで、アレじゃあ倒されるのも時間の問題だ。


「【ドラゴン・スケイル・ショット】!」


「遠距離技……って、数がっ!」


 リュウはドラゴンらしい腕を広げたと思うと、そこから自身の鱗を射出した!

 それも、機関銃のような音が合うような、雨あられの如き数!


「くっ、流石に、受け切るのは……!」


 ズガガガガガガガ……と、乱射される鱗の猛攻にハルは少しずつ押されてゆく。

 それどころか、盾を構えているのすら怪しい姿勢になってきている。

 そのタイミングで、リュウはハルに近づき、右手の太刀を逆袈裟に構える。


「ディフェンス・ブレイク!」


「やばっ……」


 斬り上げるように放つリュウの防御力貫通攻撃。

 受ければハルのHP量とて、リュウの攻撃力を前には崩れてしまう。

 が。


「なんちゃって・カウンターッ!」


「なっ、ぐぅほぉっ!」


 ハルはスキルによる補正を抜きに、リュウの攻撃を流すように避ける。

 そして、そのまま自身の剣をリュウの腹へと叩きつけた。


「ぐ……まさか、スキルもなしに避けられるとは!」


「……先輩の動きを、近くで見てた甲斐がありました!」


 ……俺が普段からモンスター相手にカウンターを使っているのを見ていたのか。

 相も変わらず、学習意欲の高い姿勢には常々驚かされるぜ。


「チィッ……やるじゃねえか」


「へへっ、俺の速度について来れるのも、アンタで3890人目ッスよ。やるッスねぇ」


 誰が聞いても大嘘とわかるよな台詞を言いながら、ユージンはハルと並ぶ。

 ノックバックしていたハルと位置を合わせるように動いていたのか。

 戦いぶりから見て、かなり強くなってるんだな、ユージン。


「ユージンさん……私に考えがあります」


「なんッスか」


「それは――なんとなくで察してくださると助かります!」


 ハルは無茶苦茶な事を言いながら、剣を納めて盾を両手で構え始めた。

 作戦を伝えられたユージン自身は口をあんぐりと開けていた。

 そりゃまぁ、そんな無茶苦茶なこと言われたら誰だってそうなるよな。


「ヘッ、何の作戦だか知らねえが、実行できなきゃ意味はねえ!」


「ましてや仲間に伝えることも出来ずとは……未熟な者よな!」


 レオとリュウはスキルをチャージして、ハルを一点に狙うようだ。

 ユージンじゃ防御が出来ない分、このやり方はハルたちを倒す上で最も効率的だろう。

 ……まぁ、最初からやれよって話だけどな。


「行くぞ! 【ドラゴン・ファング】!」


「流星盾!」


 リュウは刀をクロスさせたと思うと、両方の刀を同時に突き出し、ハルに向けて突撃。

 ハルは真正面からそれを受け止め、ほんの数瞬の競り合いの後、数歩ほどノックバック。


「流星盾を砕くなんて……! 凄いものですね!」


「なんの、これでもまだまだよ、行け! レオ!」


「おう! くらいやがれ! 【レオ・スマッシュ】!」


 ハルに追い打ちをかけるように、レオは両腕に黄金のオーラを纏わせて踏み込む。

 同時に、リュウはハルの真正面に立っていた所から離脱すべく、横にステップ。


「フ……それを、待ってましたよ! バインド・チェーン!」


「何ぃっ!?」


 ハルは防御の姿勢ではなく、地面に手を当ててスキルを唱えた。

 すると、地面から鎖が出現してリュウをその場に縛り付けた。

 ランコの使ってたスキルと同じだが、あの時と違って鎖の端はハルが握っていた。


「せやぁっ!」


「あっ、ちょ……待っ……」


 ハルはその鎖を両手で引っ張ると、リュウを自分の目の前に引き寄せた。

 それは、ハル目掛けて突っ込んでくる、レオの真正面でもあった。


「あ」


「ぐふ……レオ……止まれよ……馬鹿……」


 レオの渾身の一撃はハルではなくリュウに決まってしまった。

 その攻撃力は絶大だったようで、リュウのHPバーは全損し、ポリゴン片となって砕け散った。


「や、やっちまった……! 畜生、こっからどうすれば――」


「今です! ユージンさん!」


 レオはフレンドリーファイアによる味方のキルに動揺したか、その場で踏みとどまって、隙をさらした。

 だが、ハルたちは勝利を目指すために冷静沈着だったために、最善の一手を打っていた。


「うおおおッ! 決めるッス! 超加速からの……俺の最高速度ッ! 新必殺技! 【暴風乱舞】ッスーッ!」


「な――テメ……」


 ユージンは残像が出来るほど……いや、最早複数人いるようにも見える。

 姿がブレて出来た残像どころか、三人分のユージンのアバターが見えるほどだ。

 その超高速の乱舞を受けたレオは――


「が……ぎ、ぐ……げごごご……」


 サイコロステーキのように切り刻まれ、アバターは砕け散った。

 つまり、HPを全損したってワケだ。


『中堅戦! 集う勇者の勝利ーっ!』

プレイヤーネーム:ハル

レベル:60

種族:人間


ステータス

STR:55(+65) AGI:20(+40) DEX:0 VIT:90(+150) INT:0 MND:90(+150)


使用武器:真・黒金の剣、真・黒金の大盾

使用防具:真・黒金の鎧、真・黒金の冠 真・守りの黒衣 真・鉄壁スカート 真・黒金のグリーヴ 真・黒金の籠手 守りの指輪+3


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