第七十四話:傍迷惑な後輩だ
「いんやぁ~……勝った勝った、勝ちましたよっ、ッス!」
「えぇ、作戦通りに事が上手く運ぶと、良いものですね」
満面の笑みで戻って来たユージンとハル。
アインとランコの二人も、ユージンたちの勝利に頬を緩ませている。
さっきまでの落ち込んでいた姿が嘘みたいだぜ。
「さて、一勝一敗一分か……ここから先は、全て勝利をもぎ取るとしよう、ブレイブ」
「そうですね……俺も、奥の手を隠すことなくぶつけるつもりですよ。
勝ち負け関係なく本戦に進めるって言ったって……やっぱ、大会は本気じゃねえと」
剣道の試合でだって、俺はその一試合一試合を常に全力で挑んでいる。
仮に手を抜いたって勝てるような奴が相手でも、手を抜くのは本気でやってる向こうに失礼だ。
それに、俺のモットーは『常にイメージするのは、全力全快の姿の俺』だからな。
例え疲労困憊で倒れそうな時でも、体力が満タンの時の俺をイメージする。
そうすることで、疲れた体に鞭をビッシバッシと打てるわけだ。
……まぁ、これはどうでもいいか、リアルでの話だし。
『今回の試合も面白かったねー、ニコちゃん』
『はい、なんだかすっごい速い試合でした! ユージンさんがやってた……あの、分身みたいな技が特にカッコ良くて……』
『あ~、アレいいよね、男ならやっぱあんな感じのスキル使いたくなるよね』
「お、ユージンさんのこと話してますよ、よかったですね」
「フゥーッ! 嬉しい事言うじゃないッスか! 本戦でも全力で全快の全速前進! ッス!」
試合の感想を語るMCとアイドルを指差すアインに、ガッツポーズで喜ぶユージン。
……ランコとハルはそれを見てやや微妙な目線を送っているが、ユージンは気づいていない。
で、先輩は瞑想でもしているのか、目を閉じてじっと何か考えているようだ。
傍から見たら寝てるように見えるけど、寝てたらVRでも寝息は立つんだよな。
「……さて、そろそろ私の出番か。
奴と刃を交えるのはこのイベントで三度目だが……まぁ、全勝してきたのだ。
フフ、二度あることは三度ある、それを証明してやろう」
「頼みますよ、N先輩。ここで負けられたら、私たちが繋いだ一勝が意味なくしそうですし」
「そうッスよ、俺たちが決死の想いで繋いだんッスから!」
先輩は目を開いて立ち上がったと思うと、いつもの笑い方をしながら自信満々に言い放つ。
ハルとユージンは先輩の背中を強く押して、グッと拳を握っていた。
……グーで背中殴ったりはしてないけど、ハルならなんかやりそうで怖いな。
「さて、ランコ、ブレイブよ。よく見ておけ……私の戦いを」
「はい!」
「瞬きしねえで見ますよ。なんてたって、SBOの全プレイヤー中、五本の指に入る二人のバトルなんだ」
「フフ……そうか、それで良い。お前たちに届けよう、頼れる背中と言う物をな」
先輩はそう言いながら客席を出て行き、控室へと歩いて行った。
……俺たちは先輩の背中が見えなくなるまで見送り、直ぐに闘技場の方を見る。
MCとアイドルのコメントも終わって、選手紹介に入るタイミングだ。
『さぁ、ここまでは一勝一敗一分! この副将戦でリードできるかが鍵になります! 副将戦! 【集う勇者】の【N・ウィーク】VS【真の魔王】の【オロチ】!』
「オロチ……!」
「当然と言えば当然だけど……やっぱ、驚かされるもんだよな」
闘技場に入場してくるオロチと先輩。
オロチとは直接対峙してもいないのに、謎の威圧感のようなものを感じる。
まるで、オロチは先輩でなく俺を見ているかのようだった。
「……離れてるはずなのに、なんだか震えて来ました」
「私も、なんだかおかしい……」
いや、オロチは俺だけを見てるわけでもないのか。
……ここにいる全員を恐怖へ向けて、圧を放っていたのか。
となると、目の前で対峙している先輩は一体どれほどのプレッシャーがあるんだ。
「相も変わらず人外の顔だな、オロチよ」
「我が名はオロチ……名は体を表すものぞ……」
「フフ、確かに蛇の面をよく真似出来ているな」
先輩とオロチは軽口を叩き合ったと思うと、互いに武器を抜く。
オロチは大鎌を、先輩は腰からたった一振りの刀を。
『それでは……試合、開始ィーッ!』
「行くぞ!」
「来い……! 猛き者よ!」
二人はスキルも使わずに構え、先輩が先手を取って刀を振り下ろした。
オロチはそれを片手だけで受け止め、競り合いになる……と思いきや、先輩はすぐに距離を取る。
……あぁ、そう言えばオロチは攻撃魔法も使えるんだったか。
「サード・ダーク!」
「ライトニング・ブレイド!」
やはりと言うかなんというか、オロチは予想通りに魔法を左手から放った。
先輩は雷を纏わせた刀を振るってそれを相殺し、右手だけで刀を握って構える。
左手を刀身に添えて、カタパルトのようにあてがう。
「【虚空ノ守リ手】」
「【捨肆ノ太刀・無間斬】!」
オロチは真っ黒なバリアのようなものを展開。
先輩は現存する刀の基本スキルの最後の太刀を放つ。
斬り上げ、振り下ろし、薙ぎ払い、袈裟斬り、突き……剣の基本動作を残像が出来るほどの速度で行って、まるでそれは隙間なく攻撃を放っている。
「正に無間ですね……」
「あぁ、でも……アレ、かなりの大技だよな」
十四番目の技……となれば、今まで見せて来た先輩の技とは格が違う。
そんな大技をすぐに使うということは、先輩も本当に本気みたいだ。
「ぬぅ……!」
「チッ……三秒もかかったか!」
「爆ぜよ……!」
オロチは左手から火球を生成すると、鎌に纏わせてから一薙ぎ。
先輩はそれをジャンプで躱し、空中でも技の構えに入っていた。
「斬撃波!」
「ふん」
先輩が空中から放った斬撃波をオロチは鎌だけで弾く。
だが、まだ先輩は空中で別のスキルを詠唱し、着地と同時に放つ。
「【捨弐ノ太刀・無双三段】!」
「ぐお……っ!」
オロチの胴体に三つの刀傷が入り、初めてまともな攻撃がヒットした。
これだけで観客たちからは歓声が上がり、俺たちの心もノってきた。
「いけーっ!」
「畳みかけてくださーい!」
アインとランコの声に応えたか、それとも言われなくたってそうしたか。
先輩は居合の姿勢で刀を構え、グググ……と体制を低くする。
「震天ノ──太刀!」
「破滅ノ斬」
先輩の必殺技である震天ノ太刀と、オロチの破滅ノ斬がぶつかり合った。
先輩は刀を振りぬいた姿勢で空中にいたが、オロチも鎌を振り終えた姿勢だ。
……お互いにダメージはほとんどないようで、スキルは相殺と見ていいか。
「参ノ太刀・剣閃!」
空中で一回転しながら剣閃を飛ばし、オロチは振り向きざまにそれを受け止め、弾く。
だがその数瞬の間に先輩はオロチに肉薄していた。
「速い──!」
「陸ノ太刀・流し斬り!」
「ごはっ!」
近づいて来た先輩に向けて鎌を振り下ろすが、先輩は旋回しながらそれを避け、オロチに横薙ぎを浴びせる。
更にダメージを受けたオロチがよろめくと、足に纏わせた魔崩剣による追撃が放たれる。
「むぅ……我でも滅ぼせぬか、N・ウィークよ……」
「当然だ、貴様に滅ぼされてやる義理はない」
「フ……それでこそ貴様よ、初めて刃を交えた時から感じていた。
貴様を越えられず、我は四番手に甘んじて来た……カオスやアーサーすら滅ぼす、そう決めていた……だが、やはり貴様こそ我が好敵手だ」
オロチは俺やハルたちも知らない、先輩とのSBOでの思い出……らしきことを語った。
……数瞬の沈黙が流れたと思うと――
「そうか……では終わらせよう。お前に、私の好敵手という名は合わん」
「まだ、終わらぬ」
先輩は刀にライトエフェクトを纏わせて、自身にもオーラを纏わせる。
オロチはドス黒いオーラを全身に纏わせて準備を整えたと言わんばかりだ。
「真・破滅ノ斬」
「震天ノ太刀! ……ぐっ、あぁっ……!」
再びオロチと先輩のスキルがぶつかり合うが、今度は先輩が傷を負っていた。
そりゃそうだろう、先輩のスキルはオロチのさっきのスキルと互角だった。
なら、オロチがスキルのランクを上げれば当然の結果だ。
なんて冷静に自分で解析してるけれど、相当危ない状況だ!
「あぁっ、だ、大丈夫なんッスかね……!?」
「N先輩もそこまで脆いわけではないので、大丈夫だとは思います。
ですが……攻撃を無暗に受けられるわけではありませんので、結構大変だとも思います」
「結局大丈夫じゃないような気が……」
頭を押さえて顔を青ざめさせるユージンと、よくわからないことを言い始めるハル。
ランコがツッコミを入れるが、二人に届いているかはわからない。
「ハァァァッ!」
「せあっ! ……ぐあっ!」
オロチの鎌の振り下ろしに先輩は受け太刀するが、一秒も経たない競り合いで吹き飛ばされる。
地面を転がる先輩にオロチは魔法を数発放ち、先輩は本当に転がりながらそれを避ける。
「滅べ、N・ウィーク!」
「ぐっ……うわっ!」
先輩が転がって避けた所にオロチ自身が先回りして鎌で先輩の刀を弾き、オロチは腹に蹴りを放つ。
先輩は蹴られながらも刀を拾って体制を立て直すが、形勢は完全に逆転してしまった。
「フンッ!」
「チッ、随分と無茶苦茶にやってくれるな……オロチ!」
「そうか」
何とか攻撃を捌いてはいるが、先輩は防戦一方……どころじゃない。
オロチの鎌が所々カスっていて、彼女のHPバーは減っていく一方だ。
「唯一無双!」
「マズっ――」
オロチが地面に拳を叩きつけると、そこから赤黒い雷が迸った。
それを回避するとは出来ず、先輩は地面からの攻撃を受けてその場に縛り付けられたも同然だった。
俺があの攻撃を受けた時と同じように、動けない状況で、HPを減らされる。
「【蛇竜ノ波動】!」
「がっ……ハ……!」
オロチのスキルをまともに受けた先輩は、壁に叩きつけられた。
……それだけじゃなく、先輩は吹っ飛ばされたときに持っていた刀を落としてしまった。
その場から手を伸ばして届くような距離ではない位置に刀は転がった。
「ま、まずいッス! 刀が手から離れてる状態じゃあ、大ピンチッスーッ!」
「は、早く刀拾ってくださーい!」
大慌てしながらユージンが言うと、アインは客席から身を乗り出さん勢いで叫ぶ。
だが壁に叩きつけられた状態から動かず、オロチが近寄るのを眺めているだけだ。
ランコとハルは互いに手を取り合って不安そうにしているが……俺は至って冷静だ。
「崩壊の時、来たれり……ついに、我の勝ちは訪れる」
「フ……とうとう、成らずか……全く、嫌なものだな……敗北と言うのは。
なぁ、オロチよ」
「どうでもよい、滅びよ……N・ウィーク」
オロチは先輩の言葉もお構いなしに一歩ずつ歩み寄り、鎌を両手で構える。
鎌にはドス黒いオーラが纏わされていて、もうスキルの詠唱は済んでいるようだった。
「悪くない戦いだったな、オロチよ」
「むんッ!」
先輩の言葉を無視したオロチは鎌を振り下ろした。
……誰もが先輩の負けを予見していただろうが、俺は先輩が負けるなんて思っちゃいねえ。
先輩は負けない……ずっと、俺が見ている所では張り切る人なんだから。
現実世界で見て来た、剣道の試合……そこで見た先輩の頼もしい背中。
そのためにも……先輩は、負けちゃダメなんだ、勝ってくれないと、もう先輩じゃあない! 彼女はそれを一番知っているはずだ! だから、そんな彼女自身にそんなことを思って欲しくない!
「せんっ……ぱあああああああああああい! 負けるなァァァッ!」
「フフ……傍迷惑な後輩だ!」
先輩は振り下ろされるオロチの鎌を、なんと片手だけで止めた!
……バフスキルを使って強化したのか!
だが何時までも鎌を受け止めることはなく、先輩は鎌から手を放して跳び上がる。
「さてオロチよ、一つ気付くことはないか?」
「……? ハッ!」
先輩の問いかけにオロチは一瞬首をかしげたが、直ぐにハッとなって先輩を注視した。
俺にはわかっていたが、先輩はわからない奴らにもすぐ答えを見せてくれた。
オロチに先ほど弾かれた刀とは違う、”二本目の刀”を、腰に下げて居合の構えを取っていた。
「落雷ノ一太刀!」
「虚空ノ――グアアアアアアアア!」
雷速……まさに雷が落ちる速度、それを体現したかのような太刀。
その上、先輩のステータスを加味されたスキルは、本物の雷よりも迫力があった。
ズドォォォン、と……人が落下したとは思えない程の音。
そして、焼け焦げた地面の上でオロチを真っ二つにし、刀を振り終えた姿勢の先輩がいる。
スキルを放った後でも、バチバチ……と言うエフェクトを散らす彼女の姿は、正しく俺の憧れた先輩だった。
「……信じて良かったぜ、先輩」
「全く……つくづく、骨の折れるような男よな、オロチ……」
『副将戦! 集う勇者の勝利ーっ!』
ワアアアアアア……と一斉に上がる歓声に、先輩は両手を振って応えた。
後一戦……大将である俺と、敵の大将……カオスとの試合が待ち受けている。
ハルたちと先輩が繋いでくれたこの一戦……無駄になんかしてたまるか。
そう思い、俺は立ち上がって、カオスとの戦いを前に己を奮い立たせる。
プレイヤーネーム:N・ウィーク
レベル:60
種族:人間
ステータス
STR:100(+150) AGI:100(+100) DEX:0(+50) VIT:30(+70) INT:0 MND:25(+75)
使用武器:真・閃光雷刀
使用防具:龍王の羽織 神天の面 神天の着物 神天の籠手 月輪草履 真・力の指輪




